舞乙337氏第02話

Last-modified: 2007-12-02 (日) 17:24:18

第二話 天使光臨~争いへの足音~





 航海日誌…某月某日



 レイクイエム付近での大規模戦闘の最中、巨大な光に巻き込まれ我が艦ミネルバはインパルス、レジェンドとともに少数の人員をのせたまま地球にへとたどり着く。

 艦の損傷はあるものも自立飛行に関して問題は無い。

 インパルス、レジェンドに関しても現在修理を急がしている。

 今のところ敵艦、敵MSとともに反応は無く、またメサイアからの通信も途絶、その他地上にある友軍からの通信も途絶している。

 しかしここにきて我々は地上とは別の場所に転移した可能性を踏まえている。まず地形が地球のものとは違うこと。

 また天体に関しても大きく異なっていることが上げられる。

 今回のことか踏まえた上で、現地人の話とあわせて慎重に今後の対策を練らなくてはいけないであろう。

 

 ミネルバ艦長タリア・グラディス



「ねぇーねぇー、この飲み物のお代わりある?」

 甲高い声でお茶のお代わりを求める声。

 もうこれで何度目であろうか?

 乗務員が半ばいやそうな顔でおかわりをもってくる。

 先ほど助けられてから食事をとり、その後からずっとこの有様だ。

 助ける必要があったのかわからない。

 この男はミネルバ付近にとまっていた三台の車のうちの中央にあった護送車にいたものである。

 他の者たちは既に逃げてしまっていて唯一の残ったのが彼だけということになる。

 現在の状況を知るには誰であれ現地人からの情報がほしい。



「…待たせてしまったわね」

 タリアが業務を終え、その部屋にはいったことで乗務員はほっと胸を撫で下ろす。

「かまわないよ。ここまでいい対応をしてくれるんだからね」

 その小柄で白髪の男…縞々のおかしな服を着ているだけであとは自分たちとかわりはない。

 宇宙人というわけではなさそうだ。

 白髪の男は薄気味悪い笑みを浮かべタリアを見る。

「君たち、エアルの住人ではなさそうだね?」

「エアル?」

 聞いたことの無いその単語にタリアはもう一度聞き返す。

「…ここはエアル。移民星でね…仮初の平和によって作り上げられた星だよ」

「私達はここの歴史に介入するつもりはないわ。一刻も早くもとの自分たちの世界に帰りたいだけ」

 白髪の男の言葉にタリアは興味ないという意思をこめ言葉を続ける。

「あーそう。それは残念。君たちのこの強力な科学力をつかえば、エアルを手にすることだって簡単なんだろうけど」

 白髪の男は自分の考えを隠す様子も無く淡々と答える。

「この世界が不安定だということまではわかったわ」

「…もとの世界に帰りたいんでしょ?」

 言葉を遮りゆっくりと視線をタリアにむける男。

 男の視線はタリアの動きを封じる。

 見た目は子供のようだが、大人以上のキレた目をしている。

「方法を知っているの?」

 タリアは動揺を抑えながら冷静に聞く。

「知らないわけじゃない。ただ今ここでというのは無理だね。君たちにも協力してもらう必要があるんだけど?」

「我々はなんとしてでも元の世界に帰る必要があるわ。そのための協力なら惜しまない」

「…オッケー。なら交渉成立だね。僕を裏切らなければ君たちを無事、元の世界に返してあげるよ」

 その白髪の男は立ち上がるとタリアに手を差し伸べる。

 タリアも立ち上がりその男と握手をする。



「私はザフト軍所属ミネルバ艦長タリア・グラディスです」



「…僕はアルタイ大公、ナギ・ダイ・アルタイ。これからよろしくね?艦長さん」



医務室

ベットの上には点滴を受けているルナマリアの姿があった。

つかれきった表情で死んでいるのかも生きているのかもわからない顔で。



「うわぁああ!!!」

「シン!シン!!!」



 爆発炎上するディスティニー。

 自分はそれをただ呆然と見ていることしか出来なかった。



 どうして、どうしてあんなことになってしまったの。



 私が何も出来なかったから?私に力が無かったから?



「入るぞ?」



 その声のほうを振り向く力は今は無い。

 だがレイの声を聞いて少しだけ安心感が沸いたのは間違いではないはずだ。



「…現在の状況を説明する。我々ミネルバは現在地球上に似た惑星に転移した可能性がある。

 我々の当分の行動は元の世界への帰還にあたる。敵艦敵MSは現在のところは確認されていない。

 しばらくの間は戦闘は無いだろうが異世界ということもある。 何かあった場合には備えておけ」



 レイから聞こえてくる言葉はまるでなにかの冗談としか思えないような言葉ばかりであった。



 異世界?転移?いったい何の話をしているのだろう?これは夢?



「…話は以上だ。また何かあったら連絡する」

「…レイ?」

 ルナマリアは振り向かず、消え入りそうな声で問いかける。

「シンは?」

 その問いにレイは少しだけ間を空け

「…ミネルバには戻っていない」

 それだけいて彼は医務室を出て行った。



シン…やっぱり、あなたは…。



私…これからどうすればいいの?



もう、なんにもなくなっちゃったよ…。



メイリン…。



シン…。



 ルナマリアはふたたび目を閉じる。

 なにかもを忘れて、何も見たくなくて。



エアローズ共和国

 ヴィント事変での戦勝国としてガルデローベ奪還作戦ではその中心となった国であり、エアルでは珍しい共和制の国である。

 オトメの保有数もエアルでは1、2を争う国でもあり今度のオトメ削減交渉でも大きな争点となることは間違いは無い。



 そんな大国にも事件が今まさに起きているところであった。



エアリーズ共和国府ヘキサゴン



「…状況は」

 エアリーズ共和国大統領であるユキノ・クリサントは軍隊の将軍たちを前に席に着く。



「イエス、マム。本日未明1時23分に巨大な戦艦を我が軍のレーダーが補足。

 第一次警戒態勢を発令。デルタオトメ隊を召集、監視体制あたらせました」

 立ち上がり報告するのはデルタオトメ隊指揮官ボーマン中将。



「現在はエアリーズ国境のリキシドール山脈にそのまま止まっています。スレイブの部隊とすると艦での攻撃は初めてとなります。

 搭載されている数も未知数かと思われます」

「…陸軍オトメ部隊は既にいつでも出撃可能です。大統領ご命令をお願いします」



 将軍たちがユキノ大統領にサインを求める。

 さきのヴィント事変ではマイスターオトメによる戦闘のみ行われた。 これはガルデローベによる印象操作の成果である。

 戦争ではなくあくまでマイスター同士の舞闘により勝敗を決する。

 オトメの集団での戦争はかつての竜王戦争という深い過去での事件以降、極力避けられてきていたものであるからだ。

 だが…ヴィント事変により、その印象操作にほころびが生まれてきている。

 戦争が目の前で起こり、いつまた起こってもおかしくは無いという事実をつきつけられ、戦力増強という世論も決して少なくは無い。



「…相手を刺激し無差別に攻撃することは許しません」



「大統領!?ですが彼らの戦艦の攻撃性は未知数、市街地に侵入されればそれこそヴィント事変でのヴィントと同じ状況に陥ります」

「そのためのデルタオトメです。ボーマン中将。彼らのとのコンタクトは?」

「もう少しです」



 ボーマン中将率いるデルタオトメ隊は巨大な戦艦が横たわるその岩山のあたりを完全に取り囲んでいた。

 隊長であるチエ・ハラードは今まで見たことのないタイプの戦艦にただただ驚きとそしてどこかしら恐怖を感じている。



「…緊張して冷静な判断を失ってはいけないわよ?チエ・ハラード」

「サラお姉さま…」



 その声に振り返ったチエの前にいたのは5柱のサラ・ギャラガー。

 彼女のオトメのローブとしての特殊能力は姿を隠すこと。 これにより相手に悟られずに接近することが出来るのだ。

「相手の動きは?」

「いえ、ただ乗務員はいるみたいですね」

 チエから渡された双眼鏡で艦首を見るサラ。判別は難しいが動いている影はわかる。

「交渉できる相手かしら」

「さぁ。やってみなきゃわからないでしょうね」

 そんな二人に大きな影が現れる。

 チエとサラはその影の登場に表情をこわばらし顔を見合わせそっと後ろを振り返る。



アークエンジェル



 マリュー・ラミアス艦長率いる乗組員は状況の整理に追われていた。

 地形が違うということ、そして今、現在何者かに監視されているということである。

 うまく姿を隠しているようだが外部カメラでその様子はしっかりととられている。



「…相手はすべて女性です。おかしな格好をしているみたいですけど…」

 カメラを見ながら半ば困り果てた顔をしているミリアリア。



「フフ。なんだかかわいらしい格好じゃありませんか?」

 おかしそうに微笑むラクス。



「あんな格好してアスランやキラに見せるぐらいなら私は死ぬ」

 誰も着ろとはいっていないのに混乱しているカガリ。



 そんな状況とは打って変わって艦内ではなごやかな雰囲気が漂っている。



「みんな!まだ作戦行動中ですよ?」

「俺としてもあのコスチュームはありだったりするかな?」

「少佐!」

 ムウが艦長席の隣から顔を出して笑みを浮かべ話しかける。マリューは頬を赤くして大声で怒鳴る。

 その様子を見てさらに笑うクルーたち。



「とりあえず、どうするんだい?艦長さん?お嬢さんたちを撃てとはいわないだろうね?」

 アンドリュー・バルドフェルドが紅茶を飲みながら外部カメラを操作し、アップにしている。

 昔のテレビの戦隊物の服のようにしか見えない。

 もっている銃のようなものもおもちゃみたいだ。



「余計な刺激を与えて話をややこしくする必要はないでしょう。オープン回線を開いて。キラ君とアスラン君には引き続き第二次戦闘は位置のまま待機」

「了解」

 マリューはモニターをみながらマイクをとりだし、周りに聞こえるようにして現在の状態を説明しようとした。だが…。



『あー!!あー!聞こえる?

 私はエアリーズ、ハルカ・アーミテージ准将よ!!

 勝手に人の領地に土足で入り込んで何様のつもり!言い訳があるならとっとと武装解除して戦艦から降りていらっしゃい!!

 早く降りてこなきゃ、私がただじゃおかなきゃぁあ!』



 ハルカの額にハンマーを落とすサラ。

 大きくため息をつくチエ。



「今のは一体…」



 マリューもまたその光景を呆然とした表情で見ている。

「まぁなんとも仲のよろしい光景で」

「どこをどう見たらそう思うんだ?」

 ラクスのよくわからない解釈にカガリがぼやく。

「とにかく、私達はあまりよく思われてはいないようだね。あと、ここは僕らがいた世界ではないということかな」

 バルドフェルドは大きく息をつき冷静に判断をしている。



『あー、あー、聞こえますか?私はエアリーズ軍デルタオトメ隊のチエ・ハラード大尉です。

 我々はあなた方とのトラブルは望んでいません。代表者にでてきていただき詳細の説明を求めます。

 この要件が飲まれない場合、我々はあなた方を敵対対象とみなさなければならない』



『…そちらの意思はお受け取りしました。今すぐに代表者でそちらにへと向かいます』



 マリューはマイクでそう答えると艦長席を立つ。

「今から代表者で向こうの方と話をしてくるわ。護衛にはムウ、あとはキラ君でいくわ。私がいない間、指揮はお願いしますね?バルドフェルドさん」

「あんまり待たせすぎないようにお願いするよ」

 バルドフェルドは残りの紅茶を喉にとおして笑顔で告げる。





アークエンジェル付近



「…私はアークエンジェル艦長マリュー・ラミアスです。チエ・ハラード大尉はいらっしゃいますか?」



 マリューは岩肌の中、転びそうになりながらなんとかムウとキラとともにたどり着く。

 彼女の前にいたのはやはり変なコスチュームを身にまとう2人の女子。

「私です。簡易的なイスですか、おかけください」

 マリューたちは促されそのまま席に着く。

「まずは説明願いますか?」

「はい…」



 マリューは事の発端等を嘘偽り無く話す。

 無論、こんなSFの話自体、自分たちさえ信じられないのだ。

 きちんと理解できてもらえるかかなり不安はあったものも、説明せよといわれたのだからここはするしかない。

 自分たちの時代で戦争があり、そして宇宙での戦闘のさなか、光に巻き込まれこの時代に飛んできたということ。



「…なるほど。大筋、理解は出来ました。それであなた方の望むことは?」

「我々はこの異世界での無用な接触は避けるべきだと考えています。我々のような異質のものが好奇にさらされるのは眼に見えていますから」

「…ですね。元の世界の帰る方法は?」

「それが、まだ…」

 しばらくの沈黙。

「…我々に少し時間をいただけますか?」

 チエとサラはそういってそこから席を立つ。



 

 残された三人。



「わかってもらえたでしょうか」

 マリューがぼやく。

「なんともねー、世界観も違うみたいだし考え方も違うかもしれない」

「でも、こうして話が出来るんだ。きっとわかってもらえますよ!」

 それぞれ意見を述べるムウとキラ。どちらも正論だろう。

 ここまできて戦闘に巻き込まれるのはごめんだ。ここずっと戦闘続きだったのだ。自分たちは人間だ。

 戦闘ばかりでは気が滅入るのも仕方が無いし、疲労だって当然溜まる。





「…どう考えますか?ボーマン中将」

『今、現在会議で議論中だ。しばらく待て』

「了解です」



 予想通り、会議では大きく二つに分かれてもめている真っ最中であろう。時間がかかるの無理は無い。

 大統領がまとめている様子が目に浮かぶ。



「サラお姉さまはどうお考えになりますか?」

「…次元の乱れがこんな形で出てくるとは正直以外でしたわね」

 次元の乱れ…今回の事件の元凶は間違いなくヴィント事変によって使われた究極兵器ハルモニウム。

 時と次元を超越する兵器の使用がこんな形で世界をつなげてしまうとは。

「私はガルデローベに戻って今後の対策を練ります。うまくいけば学園で解決方法が見つかるかもしれません」

「はい。この状況…もしかしたらさらに悪化するかもしれませんね」



『聞こえるか?サラ!』



 GEM通信…相手はガルデローベ学園長であり5柱の一人ナツキ・クルーガである。

「はい、聞こえます。どうしました?学園長?」

『大変なことが起きた。アルタイが…』

「アルタイ?」

 その緊迫した事態にようやっと目を覚ますハルカ。





アルタイ



 炎上する街、逃げ惑う人々。その上を通る巨大な戦艦。

 街に降り立つ巨大な人型兵器。

 そのMSが握るビームライフルから放たれる光は街を吹き飛ばす。

 艦内からそれを眺めるナギ。



「ただいま。僕の国…アルタイ」







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