艦内点景◆炎のX好き氏 01

Last-modified: 2016-03-05 (土) 06:03:18

艦内点景
 
 
(甘くも苦い青春編)
今、ガロードは幸せの絶頂にいた
やっとで取り戻したティファと2人きりの時間を過ごせるのだ(勿論、艦内食堂等、他クルーの目がある場所でだが、そんな"些細な事"今や2人には気にならない)

「ガロード…」
うつむいた少女がはにかんだ表情で一瞬だけ上目使いになり、綻んだ唇に今、見た少年の名をのせる
白く滑らかだが、それゆえ普段は硬い印象を与える頬が微かに上気して、それが本当は少女の柔肌である事を主張する

「うん。…ティファ」
その一言にこもった万感の思いを、全て受け止める様に肯定して、自身も愛しい少女の名を口にする
2人の手が微妙に動き、指先のみが一瞬、微かに触れ合う
「ガロード」
「ティファ」
…青春の甘酸っぱさ全開である

今、ルナマリアは不幸の絶頂にいた
「ガロードとティファって娘、何をやっているのよ。とっとと"ピーッ"して"ピーッ"すりゃいいのに!幸せになるのお手軽すぎ!イライラする!」
…嫉妬である

『姉ーちゃんも、文句があるなら見なきゃいいのに』
今、キッドは不幸の絶頂にいた
言うまでも無く、ガロード達の覗き(同じ艦内食堂の中で見ているだけだが)をルナマリアに無理矢理つき合わされてるためである
『なんでオレをつき合わせるんだよ』
キッドは心中で毒づく。ませてはいても、女というのは醜聞を漁りそれについての文句を聞かせるイケニエが必要な不可解な生物だと、まだキッドは理解してはいなかった
『姉ーちゃん、そんなんだから、男できねーんだよ』
「キッド君。今、何か生意気な事、考えなかった?」
ルナマリアの殺気が一瞬でターゲットをキッドに切り換える
「や、やだなぁ。そんなことないよぉ。やさしいルナマリアお姉ちゎん」
さすがキッド
間髪入れず甘えた声でごまかす。恐怖のため微妙に棒読みだったが
「ふん。まぁいいわ」
ルナマリアは再び視線を2人に戻す
『オレ、将来まともな恋愛できないな…』
ガロード達とルナマリアを順に観たキッドは人生に疲れた大人みたいに、苦いため息をついた。
 
 
 
(ステラ・ルーシュ編)

「うぇーい!」
今日もMSデッキにステラの元気な挨拶(?)が響く
「オゥッ」、「来たか」、「嬢チャン」
あちこちから彼女に声がかけられる
実のところステラ・ルーシュはメカマン達の人気者である
毎日のMS整備点検ルーチンを今一つ面倒くさがるガロードやシン、思いつきでムチャを言うルナマリア等に比べ、自機ガイアの点検を彼等と共にテキパキとこなす(エクステンデットとして訓練された彼女はそういう所、ソツがない)彼女が、メカ好きのメカマン達に悪印象を与えようハズもない

「うぇーい!」全系統異常無し
ステラの陽気な雄叫びがあがる
『あたしがシンを守るんだ。頼むね…ガイア』ステラはそっと愛機に心で語りかけた。
 
 
 
(天命編)

アスラン・ザラはテクス医師の元に相談に来ていた
「まずはコーヒーでもどうかね?艦長」
「あ、はい」
カップを手にするアスランの口元に苦笑が浮かぶ
「コーヒーは苦手だったかね?」
「あ…いえ、ただコーヒー好きの知人を思い出して…」
勿論、虎のことだ
最近は噂がエスカレートして腕にコーヒーメーカーが仕込まれ、気配だけで命中させる(何をだ?)やら、さらに改造率が上がり血管にコーヒーが疾しり、ブルマンを入れると3倍にパワーアップする(だから何がだ?)やら、言われている
猛将として名高いのに、その戦歴より、コーヒー好きの方が有名な、ある意味の豪傑だ
アスランも以前、君のコーヒーの好みは"あーだこーだ"とガブ飲みさせられた事がある
その時、コーヒーには何と多くの豆の種類や、いれ方があるのか!と、ア然となったものだ

「それは是非とも、一度お会いしたいものだ」それを聞いたテクスは、言葉とは裏腹に笑いを堪えている
「しかし、羨ましい事だ」
「?」
AW世界はコロニー落としで農業が壊滅状態だ。なかなか嗜好品まで手が回らない
ある種の木の根を使った代用コーヒーですら入手は難しい
「ハハッそんな顔するな。艦長」
テクスの話でアスランは、ガロード達が"こちらは"いい世界だ、と何度も口にしたのを思い出していた
それが表情に出ていたらしい

「で、今日は何の相談かな?」
危うく忘れるところだった

「髪」
もう広く知れ渡っていることだ。開き直ったアスランの言葉は短い

「天命(てんめい)を待つ」
テクスの言葉も、また非情なほど簡潔だ

…結局、アスランは髪に関する幾つかのうん蓄と当たり障りのないアドバイスを聞いて医務室を後にした
MSデッキに来ていたアスランはテクスの言葉を思い出す『天命…か』
見上げるとそこには光輝く(アァ…)テンメイアカツキが雄々しく屹立していた

同時刻、ラクス軍では噂の真偽を確かめようと、うっかり口を滑らせた乗組員が、虎の義手の仕込みコーヒーメーカーの餌食にならんとしていた。(アァ…)