艦内点景◆炎のX好き氏 02

Last-modified: 2016-03-05 (土) 06:04:55

艦内点景2
 
 
艦内点景(メイリン・ホーク編<1>)
メイリン・ホークがテクス医師の元に相談に来ていた。

思いつめた様子でいきなり切り出す。
「艦長を!いえ、アスラン・ザラを一人占めしたいんです」
『…この艦の連中は医者の本分を誤解しているな』テクスは確信する。
そんな心を隠して大真面目な口調で答える。
「フム、心中…という手がある。死んだら取返しがつかん。これで最後まで一緒だったという事実は覆らない。これは、強いぞ」
勿論、冗談だ。
「あ、ホントだ」メイリンがこれ以上ない、というくらいの華やいだ笑顔を浮かべる。
目元には嬉し涙すら滲んでいる。
それに気がつき「てへへ」テクスに可憐な照れ笑いを向ける。

『いい笑顔をする。まるで世界中のみんなに幸せを分けてあげてるみたいな笑顔だ』
胸元を健気な仕種でおさえているのは、そこに恋心、があるからだろう。
「先生。ありがとうございます」

丁寧に頭を下げ、この世界に悩む事など何もない。といった表情のメイリンが、春風のごとく軽やかに医務室を出ていく。

「ああ、良かったな」
テクスも我知らず口元に微笑みを浮かべて、それを見送る。
『あれだけ喜んでもらえば医師冥利につきるというものだ。今日は良い事をした』
ウキウキとした気分で事務処理に戻る。

…テクスが我にかえり、医務室を飛び出すのは、その30秒後のことだった。

幸いとアスラン殺害は未遂で済んだ。
メイリンを抑えるのに10人かかり、軽傷者も4人でた。
その内の1人となったテクスは、自身で包帯を替えながら『この艦の連中はやはり、どうかしている』と、自分の悪趣味な冗談を棚に上げて思った。
傷が全治するのに、2週間かかった。

艦内点景(ガロード・ラン編<1>)
『あ&#12316;や&#12316;ま&#12316;ち&#12316;は&#12316;く&#12316;り&#12316;か&#12316;え&#12316;す&#12316;なぁ&#12316;』

頭の中に響く声に、ガロードは声にならない悲鳴をあげて飛び起きた。
荒い息をつきながら、ここがヤタガラス自室のベットであることを確認する。
「夢か…」悪夢だな、と思う。

「なんだ、ずいぶんビックリしたみたいだな?大丈夫かボウズいや、ガロード」と、カトックのオッサンくさいが、気さくな声が掛かる。
「そりゃ、ビックリもするさ。死んだおっちゃんの…声…」
死んだカトック…
『過ちは繰り返すな』
そう、言い残して…死・ん・だ・はずだぞ!

ガロードは今度こそ、部屋中に轟く、つぶされたカエルのような悲鳴をあげた。

逆にカトックが慌てる。
「待て、待て、待て、落ち着けって、別に生き返ったとかじゃねぇ!ただの幽霊だ!安心しろ!」
「ホッ、なんだ。ただの幽霊か。オレ、てっきりアンタが化けて出たのか、と思ったよ」
…普通、化けて出ることを幽霊という。
「事態が好転してないよー!」三度ガロードは悲鳴をあげた。

…「カトック。DXだよ」
「アァ、懐かしいなぁ。戦友よぉ」
さすがはガロード。あっ、という間に幽霊にも順応し、事態把握に努め始める。
野性動物並の適応力、と評されるAW世界の連中にすら"図太い"と言われる由縁だ。
今はカトックの希望でDXの所に来ていた。
DXもカトックを看取ったのだ。

ガロードは感傷に鼻の奥が少しツンとする。
「俺の方が幽霊になっちゃ、シャレになんねぇけどなぁ。ガハハハハッ」
カトックはDXを"15年目の亡霊"と呼んでいたのだ。
「"過ちは繰り返して"いないんだな?」
カトックはDXを見上げながら、誰言うとなく呟く。
「繰り返さない。そして、これからも」
ガロードがそれにキッパリと答える。
「…すまない、カトック。死んでからも心配かけて」
「いやいや、これは俺の我が儘さ、心残りってヤツだ。お前なら大丈夫って、わかってんのに。大人ってのは、しょうがねぇ」
生前と同じ仕種で肩をすくめる。
「じゃ、死んだ女房と子供のとこ、行ってくるかな」
「カトック…」

今度こそ、永遠にカトックは行ってしまうのだと、分かった。足が無意識に一歩出る。
「やめてくれ、ガロード。お別れならゾンダーエプタで済ましたろ?これ以上はカッコ悪いぜ」
苦笑まじりの笑顔で、カトックは妻子のもとへ旅立った。

…何分もの黙祷の後、ガロードはカトックのさっきの言葉を思い出す。
『どうして幽霊になったか?そりゃ、わからん。だが"こっち"の世界は出易いらしい。お仲間が沢山いるぜ。…そうか、お前には見えないか。良かったな。ガハハハッ』

…沢山…いる?
空調の効いてるはずのMSドックでガロードは寒気をおぼえる。

その頃、ラクス軍では
「…許してくれ…ち、違うんだ&#12316;」
『き&#12316;ら&#12316;の&#12316;う&#12316;わ&#12316;き&#12316;も&#12316;の&#12316;』
「うわ&#12316;っ」

お約束な悪夢にうなされる男がいた…。

艦内点景(フリーデン編<1>)
「キャプテン」
フリーデン副長サラ・タイレルが、ジャミルに書類の束を提出する。
「うむ、ご苦労」
ジャミルは微かな苦笑を滲ませ、それに答えた。
「どうかされましたか?キャプテン」
苦笑のことを言っているのだ。さすがサラは鋭い。
「いや、動かぬ艦でキャプテンと言うのもな…」
陸上戦艦であるフリーデンは宇宙航行用機関を持たない。
気密処理をしてアメノミハシラに繋留しているが、倉庫代わり程度にしか使えない。
「いえっ、キャプテンはキャプテンですから」
サラが生真面目に答える。声に恥じらいの色があるのは、今までそれに気がつかなかったためだろう。
「ありがとう…にしても、ここも寂しくなったな」

ジャミルはブリッジ内を見渡して言う。
"飛ばされた"時点で離散し、現在ブリッジクルーはジャミル、サラの2人しか残っていない。
あぁ、とサラ。
「トニヤがいませんものね」
普段は必ず会話にチャチャを入れてくる元気娘が、いない。
そのせいか、2人の会話が今一つ、ぎこちない。
「彼女1人がいないだけで、ずいぶん寂しくなるものだな。いなくなってはじめて、大切さが分かる」
「そうですね…」答えながら、サラは微かな違和感を感じる。
結局、何かは分からなかったが。

4人目の元ブリッジクルー(腕利き)操舵手シンゴ・モリ。
いなくなっても大切さに気付いてもらえない。そんな男だった…。

一時期、4機のガンダムタイプでひしめいていたフリーデンのMS格納庫は今、ガランとしていた。
その中に軽やかな音楽が流れる。
唯一残されたガンダムX-DVを使ってのジャミルの訓練だ。
予め決められた動作を、音楽にのせてMSで行う。機体感覚を養い、MSを自在に操る訓練だ。
人型とはいえ、重量バランスも違えば、慣性質量も異なるMSを、古代格闘技の演舞のごとく滑らかに動かすとは、さすがはジャミル。
とても15年のブランクがあるとは思えない。
それを見ていた、メカマンが呟く「でも何故、ラジオ体操?」

GX-DVが深呼吸動作を終え、曲がラジオ体操第2に切り替わった。
 
 
前>