赤い翼のデモンベイン10

Last-modified: 2013-12-22 (日) 20:10:48

果たして───







 ソレは健在だった。

 無傷ではいられず、コクピット周辺だけが残る鉄くずに変わったが、生きていた。

 鉄くずに変わっても誰もソレが死んだとは思えなかった。

 瘴気が、妖気が、狂気が消えていなかった。



 コードが触手のように伸びる!

 それは悪夢だ、延びたコードは身動きのとれないモビルスーツの残骸を引き寄せ、メキメキと喰らい始めた。

 中のパイロットが生きているいないに構わず、手当たり次第にむさぼる。

 運悪く機体から逃げ切れなかったパイロットは、囚われ機械に喰われ、絶叫を上げながら異形と成り果て、死すらも与えられない。

 瞬く間に100メートル近い、巨大な蠢く鉄塊が誕生した。



「愉しかったなあ、本当に愉しかった。

 こんなに愉しいことはそうそうめぐり合えない。

 なんて幸運だろうねえ、命を賭けて竜の動きを止め、

 勇者は竜と刺し違える。ああ、これぞロマンだ!」

 巨大な鉄塊の上から、瞳から光を失ったデモンベインを愉快そうに眺める。



「おや、ベルデュラボー君、どうしたのかな?

 もしかして、力尽きて死んじゃったのかな。

 残念だなあ、あんなにカッコよかったのにねえ。

 あの螺旋の中にいた頃の君に見せてあげたかったよ。

 まったく、よくぞこの僕の前に現れてくれたと感謝したいくらいだ。

 君は最高の道化だったよ、ベルデュラボー君」



「さてと、この劇もそろそろ終幕だ。

 ようやく次の劇が始められる。

 次の世界はもっと面白いものが見られるといいねえ」

 そういって邪神はきりりと時計を───







 ───戻せなかった。



「あれ、おかしいなあ。

 もしかして、まだあきらめていない輩がいるのかな」



 その言葉に呼応するように、ストライクが砲を鉄塊に向けている。

「そうだ、僕達はあきらめない。

 武器がなくても、敵わなくても、たとえ死するとも。

 僕達はあきらめやしない!」

「なんだ君かキラ君、もういいよ。今回の最優秀助演男優は君だった。

 きっと次は主役になれるよう僕も頑張るよ……

 だから……もういいんだ」

 そう混沌が告げた瞬間。

 鉄塊から閃光が奔り、ストライクの頭を吹き飛ばした。

 一瞬にして頭部を失ったストライクだったが、キラは無謀にもコクピットハッチを開け、肉眼で敵を捕捉した。



 キラは吼えた。

「まだだ、まだ終わらない、終われない。

 約束したんだ、フレイと、マリュー艦長と。

 勝って還るって。デュエルのパイロットを殴らなきゃいけないんだ。

 道を誤った罪を償わなきゃいけないんだ。

 僕にはまだやるべきことが残ってるんだ!」



「勇ましいねえ、キラ君。でもしつこいのも考え物だよ。

 いい加減邪魔になっちゃたからもう消えていいよ」

 鉄塊が割れ、中から巨大なガンダムが姿を現す。

 まさに破壊の権化のようなその巨体。

 背中には、甲羅のようなバックパックに馬鹿げた大きさの砲身が装備され、

 巨大な砲門を口に一つ、胸部に三つ備え付けられ、腕は浮遊している。

 その周りにはストライクフリーダムの時に飛ばした、移動砲台が飛び交っている。

「予想外なことばかり起きたけど、いい勉強になったよ。

 この宙域にいる全ての人間を滅ぼして、また始めるとしよう。

 さあ生まれ変わった玩具よ、存分に”破壊”しちゃってよ」

 フルバーストすら生ぬるく感じられるソレの全方位攻撃。

 生き残り達が殲滅されていく。絶望が宇宙を多い尽くす。

 キラは激しくも不正確なビームを必死に回避しながら、『我、埋葬にあたわず』を連射する。

 だが、いかなる技術か、半透明の結界のようなものが現れると、全てを弾き返す。

 そうして、ストライクは再び灰色の無為な人形へ成り下がった。



 漆黒に包まれたコクピット、キラは己が無力に涙を流していた。 

 キラはもう祈ることしかできない中、ふとベルデュラボーと初めて知り合った時に教えてもらった、おまじないを思い出した。

 彼は言った、それは光射す世界に涙を救う、正義のおまじないだと言った。

 それは何万分の一、何億分の一回だけ奇蹟を起こせる、魔法のおまじないだと。

 キラはその勇ましいおまじないを呟いた。



「憎悪の空より来たりて───

 

 正しき怒りを胸に───



 我等は魔を断つ剣を執る───



 汝、無垢なる刃───デモンベイン」



つづく





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