運命と最強_番外編

Last-modified: 2008-01-04 (金) 16:52:17

・約一年前:八神家

 クリスマス・・・・・12月は勿論、1年を通して最も有名な日と言っても良い日である。
残念なことに、この日は地球のみ(考えてみれば当然だが)であり、
ミッドチルダは勿論、他の次元世界には存在しない日である。
そのため、ミッドチルダに住んでいるはやて達が、この日を特別視する必要はないのだが、
お祭りごとが大好きなはやてはそんな事を無視し、
ミッドチルダに移住してからも忠実に『クリスマス』を楽しんでした。
「ジングルべ~ル、ジングルべ~ルです~!!」
サンタのコスプレをしたツヴァイがクリスマスソングを口ずさみながら、モミの木に飾り付けを行い、
「おお!!うまそ~・・・・はやてぇ~・・・味見していい?」
テーブルに次々と並べられる料理を、目を輝かせながら見つめるヴィータ(サンタのコスプレ仕様)は
懇願するようにはやてに尋ねるが
「駄目や」
はやて(サンタのコスプレ仕様)はその申し出を一刀両断、次の料理を持ち運ぶため、キッチンに向かう。
「ちぇ~・・・・・」
ヴィータは頬を膨らませ抗議の色を表すが、せっせと料理を運ぶはやての姿を見て、直に手伝いに向かった。
「うん!やっぱり似合うわ!!」
シャマル(サンタのコスプレ仕様)がシグナムとリインフォースの姿(共にサンタのコスプレ仕様)の
姿を見て嬉しそうに感想を述べる。
「う・・・・・ん・・・・・そう・・・・か・・・・」
シグナムは自身の姿を改めて見ながら、顔を赤らめ、歯切れの悪そうに呟き。
「まぁ・・・・・わるくは・・・・ないか・・・」
リインフォースも頬を軽くかき、顔を赤らめながら呟いた。
「シャマル・・・・・私は・・・このような格好(駄目よ!!)」
ザフィーラ(人間形態+サンタのコスプレ)が抗議をするが、全てを言い切る前にシャマルに一刀両断される。
「むぅぅぅぅぅ・・・・・・・」
何か言いたそうにザフィーラは唸るが、観念したのか一度大きく溜息を吐いた。
それと同時に、はやてがキッチンから姿を表し
「これで・・・ラストや~!!!」
元気良く声をあげながら、メインのクリスマスケーキをテーブルの真ん中に置いた。
「「おお~!!!!!」」
様々なデコレーションを施されたケーキを、瞳を輝かせながら見つめるツヴァイとヴィータ。
その姿に満足したのか、はやては両腕を腰に当て「えへん」と胸を張る。
「さ~て、皆席につき~!!!はじめるで~!!」
はやての声に皆は一同に席につき、各自ノンアルコールのシャンパンが入ったグラスを持つ。
「皆持ったな~。それじゃあ、八神家限定のクリスマス、そしてリインフォースの誕生日を祝って・・・・・乾杯や~!!!」
「「「「「「かんぱ~い!!!!!!」」」」」」

 

・数時間後

 

数時間に渡るドンちゃん騒ぎの後、それぞれが生きる屍と化し、リビングに転がっていた。
その中で唯一の生き残りの一人、リインフォースは夜風に当たる為に愛用の黒いロングコートを羽織り、
ベランダから外に出た。
「ふぅ・・・・・」
吐く息も白くなるほどの寒さにも関わらず、夜風に当たる。
リインフォースにとってはこの程度の寒さはむしろ心地よかった。
「もう・・・・・あの日から・・・・・・・10年が経つのか・・・・・」
夜空を見上げながら小さく呟き、あの時の事を思い出す。

 

           『お前は・・・誰を泣かしている・・・答えろ!リインフォース!!』

 

誤った選択を行なおうとした自分を止めてくれた少年

 

 『貴方には、大事な仲間が・・・家族がいます。そんな彼女達がきっと・・・貴方を支えてくれる筈です』

 

自分に新たな生き方を教えてくれた少年

 

 『これからは、嬉しいことや、悲しいこと、楽しいことや、辛いこと、
               そんな気持ちを分かち合ってくれへんか・・・あたし達の『家族』として』

 

自分や守護騎士達を温かく迎えてくれた主

 

「おねぇ~ちゃ~ん」
後ろから聞こえてくるツヴァイの声に我に返り、後ろを向く。
「ああ・・・ツヴァイ・・・・・」
「ここにいたですか・・・・寒いですぅ~!!」
外にリインフォースの姿を見つけたツヴァイ。だが、
外の寒さに堪らずリインフォースのコートのポケットに潜り込んだ。
「寒いのなら、家に入っていればいいのに」
「いやです。今日はおねえちゃんと一緒にいるです!!」
ポケットから顔を出しながら言い放つツヴァイに
「(ふふっ、全く・・・いつも一緒にいるではないか・・・・・)」
内心で呟きながらも、優しくツヴァイの頭をなでる。
「えへへ~・・・・お姉ちゃんの手も、このコートもとってもあったかいです~」
目を細め、満足げに呟く。そしてふと疑問に思ったことを口にした。
「そういえば、このコート・・・・・お姉ちゃんはよく着てますね」
「ああ・・・・・誕生日にもらった・・・・・初めてのプレゼントだからな・・・・」
「そうなんですか。あれ?でも、おねえちゃんはヴィータちゃん達と同じくらいで・・・・あれれ??」
時間的に辻褄が合わないことに、頭を悩ませる。
「ああ・・・・私が・・・・守護騎士として生まれ変わった日だ・・・・・10年前の・・・・この日に」

 

・約10年前

:八神家

「と、いうわけで、今夜はパーティーや!!」

リインフォースの説得から数分後、家路に付いたはやて達は自然とリビングに集まり、思い思いに座る。
早速はやてが入れたお茶を各自しみじみと味わいながら寛いでいる時に発せられた発言に
「パーティー・・・・・・ですか?」
『紫電一閃』と書かれた愛用の湯飲み(Made in シグナム)を持ちながら、
首だけをはやてに向けて尋ねるシグナム。
「おー!アタシは賛成!!!」
ノロイウサギの顔が彼方此方にプリントされたマグカップ(Made in シグナム)
を持ったヴィータが元気良く手を上げる。
「いいですねぇ~。何を作りましょうか?」
ヴィータと同じく賛成の意思を示すシャマル。だが、
「・・・・・・皆を代表して言う・・・・料理は主に任せておけ」
獣形態のザフィーラが間髪入れずに指摘する。その意見に賛同するかの様に、
カナードとヴィータ、シグナムが力強く頷く。
シャマルは即座に発言者のザフィーラに抗議をするが、『聞く耳を持たない』と言いたげに体を丸め、
目を閉じた。
「だが、急にどうしたのだ?・・・ああ、リインフォースのことか?21度・・・・・・これで良いだろう」
エアコンの温度調整をしながら、カナードは納得したように呟いた。
「そうやけど、何より今日はクリスマスやしな!!」
はやての『クリスマス』という言葉に一同は沈黙。そして

              「「「「「クリスマスってなんだ?(ですか?)」」」」」

リインフォース以外のヴォルケンリッターとカナードが、声をそろえてはやてに尋ねた。
一方、リインフォースは
「ああ・・・・美味だ・・・・・至福だ・・・・・」
目に涙を浮かべ、これでもかと言うほど幸せそうな顔をし、お茶をすすっていた。

 

はやてからクリスマスについての説明を聞き終えた一同
「なるほど、様は赤い服を着た怪しげな老人が夜な夜な不法侵入を繰り返し、
無償で子供に玩具を与えると・・・・・裏があるとしか思えんがな」
腕を組みながら、聞いた話を自分なりに解釈し、納得したように軽く相づちを打つカナードに
「そんな・・・・・・・クリスマスのイメージをギガントシュラークする様な発言は止めてんか・・・・・」
顔を引きつらせ、苦笑いをしながら、はやては訂正を求める。 
「そうだぞカナード、訂正しろ」
シグナムもはやて同様に訂正を求める。
「世界中の子供達に渡せるだけのプレゼントを一人で持ち運び、そればかりか、
空飛ぶトナカイを自身の手足の様に操る。サンタクロース・・・・老体とはいえ
とてつもなく屈強な奴と見える・・・・・もしかしたらオーバSランクの上級魔道師やもしれん・・・」
待機フォルムのレヴァンティンを取り出し、『戦ってみたい』というオーラを全身から出しているシグナムに
「このバトルマニア」
「戦闘馬鹿が」
「そんなことだから料理も出来ないのよ」
「烈火の将、相変わらずだな」
「 カナード・・あと2℃程上げてくれんか?やはり寒い」
「シグナム、サンタさんは戦わんで」
シグナムに顔を向け、思い思いの感想(一部突っ込み・一部無関係)を述べた。
「さて、そういうわけやから、早速準備、始めようか?」
軽く手を叩きながら、皆に指示を出し始めるはやてに、皆はそれぞれ返事をし、ソファーから立ち上がった。
リビングの隅で「シャマルにだけは・・・言われたくなかった・・・・」と呟いているシグナムを残して。

 

ちなみに、本来なら『闇の書事件』の実行犯であり、重要参考人でもあるはやて達はこんなパーティーをする余裕は本来は無い。
だが、プレアが見つけ出した修復プログラムには、前回の『闇の書事件』に当時の一部の上層部が関わっていた証拠も入っており。
それらはグレアムの迅速な行動によって公表され、当時の関係者は次々と逮捕されていた。
そのことは、管理局内は勿論、ミッドチルダでも一大ニュースとなり、説明の要求、苦情の電話、マスコミへの緊急記者会見など、
管理局内はクーデターが起きたのではないかと思われるほどに『てんてこ舞い』な状態に陥っていた。
そのため、管理局は『既に確保している実行犯や重要参考人の事情聴取』より『現状の対応』の方に力を注ぐ事を優先し、その結果、はやて達の処遇は現時点ではある意味保留となっていた。

 

「せやけど・・・・カナードもクリスマスを知らんとはなぁ~」
カナードのいた世界も日本やアメリカなどがあるため、
風習も同じ様な物があると思っていたはやては尋ねるが
「ああ・・・・今までの人生のほとんどを研究施設で過ごしていたからな・・・・
そういう行事に関しては良く知らないんだ」
はやての質問に、カナードは自嘲気味に笑いながら答えた。
「・・・・ごめんな・・・・・・無神経に・・・尋ねて・・・・」
以前、カナードの過去を聞いていたはやては、自分が無神経な発言をしたことにシュンとする。
そんなはやての姿に、カナードは微笑みながら頭に手を載せ
「気にするな、知らなかった分、今日は楽しませてもらう。とびきりのご馳走を期待しているぞ」
髪の毛をかき混ぜるようにしながら、頭を撫でた。
「うん、任せとき!!ほんなら、早速買い物を頼もうか?ヴィータ」
「おう!任せとけ!」
ヴィータが拳で自身の胸を叩きながら元気良く返事をする。だが、
「リインフォースと行ってくれるか?一緒に町の案内とかもして来てくれると嬉しいんやけど?」
その言葉を聴いた直後、急に気まずそうな顔をする。そして
「あ・・・ああ!!そういや今日、高町なんとかに呼ばれていたんだ!
ごめんはやて!ちょっと出かけてくるな!!」
そう言い、この場から逃げ出すように、ヴィータは八神家から出て行った。
突然のヴィータの行動に不審感を示すはやて。だが、シグナム達は『またか』と言いたげな顔をし、
リインフォースは悲しげな表情を見せる。その表情を見たカナードは溜息をし、
「しょうがない、俺が行こう。リインフォース。支度をしろ。さすがにその格好ではまずいだろ、服は今はシグナムのを借りれば言い」
あの時と変わらない服装のままのリインフォースに、この格好での外出はさすがに怪しまれると思ったカナードはシグナムの服を借りるように言う。そして
「(お前達は知っているようだな?ヴィータのあの態度の意味を?)」
今度は念話でシグナム達に尋ねた。

 

・海鳴市公園

 

「・・・はあ~・・・・」
雪化粧により、真っ白になった公園に備え付けてあるブランコに乗りながら、
ヴィータは七回目の溜息をついた。
軽くブランコをこぎ楽しもうとするが、直にやめ、八回目の溜息をついた。
「はあ~・・・・自己嫌悪・・・・」
九回目の溜息をつきながら、ヴィータは再びブランコを漕ぎ出す。

ヴィータは、正直リインフォースとどう接して良いのか分からなかった。
覚えている限り、ヴィータがリインフォースと直接出会うのは、今までの経験で数えるほどしかなく、
行動を共にした数などは5回にも満たない。
そして、そのたびにヴィータがリインフォースに取った態度は明らかに酷いものであった。
正直まともに会話をした記憶は無く、罵ったり、無視したり、罵倒したりなど、明らかに彼女を傷つける態度をとった覚えしかなかった。
だが、今になってヴィータはその理由を自分自身で理解していた。自分は、彼女に『嫉妬』していたのだ。
いつも後からのうのうと現れる彼女に、自分達が血反吐をはいて、主に罵られている中で、特別扱いされていた彼女に。
所詮主にとって重要なのは彼女の力であり、自分達はただの駒。
その関係を無意識に理解していたヴィータは、シグナム達以上にリインフォースに辛く当たっていた。
だが、はやて達と共に過ごした今のヴィータになら、昔の自分の考えがとても愚かだった事が直にわかった。
あり過ぎる力から、破壊ばかりに利用された彼女。自身の意思とは関係なく、主を食い尽くすことを止められなかった彼女。
リインフォースは特別な存在などではなかったのだ。私達と同じ様に苦しみ、私達と同じ・・・・はやて達に助けられた騎士だった。
「・・・・・・・どう接すりゃ・・・いいんだよ・・・・・・」
咄嗟に嘘をついて家を飛び出した以上、はやて達には相談しずらい。
どうしたら良い物かと、九回目の溜息をはこうとしたその時
「あれ?ヴィータちゃん?どうしたの?」
聞き覚えがある声がしたため、首を上げる。そこには
「・・・・・・・プレア・・・・・・・」
「こんにちわ」

 

・遊歩道

 

リインフォースと買出しに出かけたカナードは、町を案内しながら買い物をこなし、
今は海が見渡せる歩道のベンチに座り、休憩を取っていた。
座って直にカナードが「すこし待っていろ」とだけ言い、何処かに行ってしまった為、
残されたリインフォースはただボーっと海を眺めていた。
「静かだな・・・・・・本当に・・・・・」
目の前に広がる海を見ながら、自然と呟く。
その言葉を代弁するかのように、海はただ静かに波を立てていた。
数時間前まで、あんな激戦があったことが嘘のように。
「待たせたな」
聞こえた声に直に振り向く。すると、右手に紙袋、左手に缶のお茶を持ったカナードが、
ゆっくりとこちらに近づいてきた。
リインフォースの隣に座り、手に持っていたものを一度ベンチの上に置く。そして、紙袋の方を軽くあさり
「ほら、熱いうちに食べろ」
出来たての鯛焼きを紙袋から取り出しリンフォースに渡す。
「?何だ?これは?」
渡された鯛焼きを物珍しそうに繁々と見つめるリインフォースに
「鯛焼という食べ物だ。熱いうちに食べた方が美味いぞ」
簡単に説明した後、カナードは自分の鯛焼きにかぶりついた。
「食べ物なのか・・・・・・どれ」
その様子を見ていたリインフォースも真似してかぶりつく
「・・・・美味いな・・・・・・この『タイヤキ』という物は」
素直な感想を口に出した後、顔をほころばせながら美味しそうに食べる。
その姿にカナードも自然と顔が緩んだ。

鯛焼きを食べ終えた二人は、冬の海を見ながら買ってきた暖かいお茶をゆっくりと飲んでいた。
互いに特に会話をすることも無く、ゆっくりとお茶を味わう。
半分以上を飲み終えた所で、カナードは何の前触も無くリインフォースに尋ねた。
「聞きたいことがあるんじゃないのか?」
その言葉に驚きつづも、観念したように微笑む。
「・・・よく・・・わかったな・・・」
「なにか聞きたそうな顔をしていたからな、何だ?」
カナードの問いに数秒沈黙した後、リインフォースは話し始めた。
「・・・・私は・・・鉄槌の騎士に・・・・・ヴィータに・・・嫌われているのだろうか・・・・・」
カナードは「何故そう思う?」と言おうとしたが、ギリギリになって言葉を飲み込む。

確かに、最初は買出しを楽しみにしていたヴィータが、リインフォースと行くと知った瞬間に慌てて部屋を出て行ったことを。
「高町に呼ばれた」といったが、間違いないなく嘘だということは、全員が気付いているはずである。
シグナム達からある程度の話は聞いたが、その理由はある程度察しがついていた。
ヴィータはヴォルケンリッターの中でも、体系からして一番目立つ存在である。
それどころか、体系にあわせた様に、考えや思考も正に歳相応の子供であった。
子供というのは、無邪気な反面、残酷な行為も特に心を痛めずに行なう事が出来る。
ヴィータ達を作った人物は、その事を踏まえ、ヴィータに子供の精神と、
アタッカーという役割を与えたのではないかと。
戦争などの戦いにおいては、子供の残虐性はある意味では最高の武器になる。
『罪悪感を感じない』これほど素晴しいスキルは無いからだ。
そして子供という外見だけでも、敵は油断をする。
洗練された兵士ならまだしも、そうでない兵士には効果を発揮する。
だが、ヴィータは子供の精神を持つが故、今までの主や周りからの高圧的な態度に耐えることが出来ず、
そのストレスを戦闘や仲間にぶつけてきた。
この行為は、ヴィータが自身の心を守るために取った行動ではないかと、
カナードはふと考えたことがあった。
だが・・・・むしろあれは・・・『嫌っている』のではなく・・・・・・

自身の中で答えを導き出したカナードは、リインフォースの方に顔を向け
「馬鹿か・・・・・お前は・・・・・」
遠慮なくリインフォースを罵った。
「なっ!!?」
悩み事を相談したのに帰ってきた答えが『馬鹿』という結果に、リインフォースはただ唖然とする。
だが、そんなリインフォースの表情を無視して、カナードは言葉を続ける。
「馬鹿な質問をする奴を馬鹿といって何が悪い?何だ?出かける時にヴィータが嘘を付いてまで拒否した事を引きずっているのか?」
「・・・・・それもある。それに・・・・昔も・・・・・心を開いてくれようとは・・・してくれなかった」
「・・・・はぁ・・・・」
リインフォースの言葉に、わざとらしく溜息を付く。
「なら・・・・・面と向かって聞けば言い。そもそも、
お前はヴィータと面と向かってまともに話したことがあるか?」
無言で頭を振り、否定を表す。
「だから馬鹿といった。それとも、ヴィータはお前にとって、話す時間を取る必要すらないどうでも良い奴なのか?」
挑発するように言い放つカナードに、リインフォースは急に表情を険しくする。
「訂正しろ・・・・カナード・・・・ヴィータは・・・・・大切な・・・・仲間だ・・・どうでも良い奴などでは・・・断じてない!!」
自身を睨みつけながら、周囲を気にせずに大声を出すリンフォースに、
なぜかカナードは安心した表情を見せた。
「スマンな・・・挑発した事は謝る。だが、はっきりと言ったな、自身の思いを。そこまで思う気持ちがあるのなら話してみろ。自分の気持ちを」
カナードの言葉に、冷静さを取り戻したリインフォースは、大声を出した自分を恥じる。
そして今度は優しく微笑みながらカナードを見据え
「カナード・・・・ああ、そうする。話してみる、自分の気持ちを・・・・・・・ありがとう」
自身がやるべき事を呟いた。

 

・海鳴市公園

 

「リインフォースさんと、どう接して良いのか分からない?」
確認するように尋ねるプレアにヴィータは無言で頷く。
公園で事故嫌悪に陥っている時、偶然にもプレアと出会ったヴィータは、自身の悩みを迷わずにプレアに打ち明けた。
今は公園のベンチに座り、プレアが自動販売機で買った紅茶を飲みながら、ヴィータはゆっくりと言葉を吐き出す。
「正直・・・・・嫌われてもしょうがないと思ってるんだ・・・・・会うたびに・・・酷い接し方を・・・・したからな・・・」
言葉を吐き出し終わったヴィータは。曇り空を見上げる。その表情からは、悲しみと諦めの表情がにじみ出ていた。
「リインフォースさんは・・・・ヴィータちゃんのことを・・・『嫌い』って言ったの?」
「いいや・・・でも・・・そうにきまってるさ・・・・」
ヴィータの発言にプレアは沈黙、そして
「自分勝手だね・・・・ヴィータちゃんは・・・・・」
ヴィータを見据え、はっきりと言い放った。
「なっ!?」
内心ではアドバイスなどを期待していたのに、『自分勝手』といわれた事ににカチンと来たヴィータは
早速言い返そうとしたが、はじめて見るプレアの怒った表情に言葉を詰まらせる。
「自分で考えて・・・・相手の気持ちを知らないで結果を出すなんて・・・自分勝手と思うな・・・僕は」
「なっ・・・そんなん・・・・・聞かなくても・・わか(聞かないのに、分かるわけないよ」
どうにか言換えそうとするが、プレアの言葉に遮られる。
その言葉と表情からは『否定を許さない』という思いがにじみ出ていた。
そんなプレアの態度にどうして良いか分からないヴィータは、唇をかみ締めながら俯いた。
その後、プレアも喋る事を止め、沈黙が二人を支配する。
「ねぇ・・・ヴィータちゃん・・・・」
再びヴィータに話しかけるプレア。だが、ヴィータは返事をせずに沈黙を通す。
「ヴィータちゃんが嘘を着いた時、リインフォースさんはどんな顔をしていたか・・・・憶えてるかな?」
相変わらず沈黙を通すが、言葉には耳を傾けていたヴィータは数十分前の出来事を思い出す。
そして初めて気が付いた
「悲しい・・・顔を・・・していた・・・・」
リンフォースが、無表情でもなく、怒るのでもなく、悲しい顔をしていた事に。
「それが、リインフォースさんの気持ちだと思うな」
先ほどとは違い、今度は優しく語りかけるようにヴィータに話すプレア。ヴィータも顔をあげ、プレアを見据えながら話に耳を傾ける。
「リインフォースさんは、ヴィータちゃんと行きたかったんだよ。
嫌いな人と一緒に出かけたいと思うかな?」
「・・・そう・・・だよ・・・・・なのに・・・アタシは・・・・嘘を付いてまで・・・否定して・・・・何やってるんだよ!!」
自分の身勝手さを恥じる様に、腿の上に置いた両上を力強く握り締める。その腕の上に、プレアはそっと自分の手を添えた。
「一つだけ・・・答えて。ヴィータちゃんはリインフォースさんのこと、好き?」
「好きだよ・・・・・シグナムや・・・・シャマルや・・・・ザフィーラや・・・・カナードや・・・はやてと同じくらい好きだよ!!
正直、消滅するって聞いた時は何も出来ない自分が悔しかった!!悲しかった!!だから嬉しい・・・リインフォースがいることが、家族でいることが!!」
自身の思いをプレアに向かって叫ぶヴィータ。
彼女の純粋な思いを聞いたプレアは微笑みながらヴィータに語りかける。
「今の気持ちを、リインフォースさんにも聞かせてあげよう。嫌われてるとか・・・・・どう接して良いのかとか・・・・・そんな考えを捨てて自分の気持ちを・・・自分の思いを・・・・精一杯に・・・・・・」
「・・・・うん!」
自身の気持ちに整理がついたのか、笑顔で返事をしたヴィータは元気よくベンチから立ち上がり、
正面からプレアを見据える。
「サンキュ!プレア。アタシ、話すよ。自分の気持ちを・・・・・リインフォースに!」
そう言い、回れ右をし、公園の入り口に向かって走り出す。だが途中で立ち止まり、再びプレアの方を向く
「プレア~!!言い忘れてたけどなぁ~!!!!」
人目もはばからずに大声を出した後、自身を勇気付けるように数秒間を置く、そして
「お前の事も・・・・・・・大好きだぞ~~~!!!!!!!」
近所にの響き渡るほどのヴィータの発言に、顔を真っ赤にするプレア。
その表情に満足したヴィータは、今度こそ八神家へ向かって走り出した。
自身の顔も真っ赤になっていることに気が付かずに

 

・八神家

 

「だだいま!!!」
挨拶も早々にヴィータは靴を投げ捨てるように脱ぎ捨て、真っ先にリビングに向かう。
すると、丁度カナードとリインフォースが買ってきたものを袋から取り出している最中だった。
「帰ったか。高町との用事は済んだのか」
「ああ!はやて達は?」
「石田の所に行った。丁度良い、買い物を放棄したんだ。整理くらいはやってくれ。俺は部屋で寝てくる」
一方的に言い放ったカナードは、さっさとリビングから出て行った。
リビングの扉が閉まる音が響き、沈黙が辺りを支配する。そして
「リインフォース!!」
突如名前を呼ばれたことに驚きながらも、ゆっくりと顔を向け、リインフォースはヴィータを見据える。
「(言うんだ・・・自分の・・・気持ちを・・・・・)」
内心で呟いたヴィータは、しっかりとリインフォースを見据える。そして、自分の気持ちを叫ぶように言い放った。
「リインフォース・・・・ごめんな・・・嘘付いて・・・・・正直・・・・・どう接して良いかわかんなかったんだ・・・・・
アタシさ・・・沢山酷い事言ったよな・・・・・正直・・・・・嫌われているかも知れないと思ってる・・・・・だけど・・・・・・」
一度言葉を切るヴィータ。そして大きく息を吸い、叫ぶように気持ちを伝えた。
「それでも・・・・・・アタシはリインフォースの事が好きだ!シグナムや、シャマルや、ザフィーラや、カナードや、はやてと同じくらい好きだ!!
嫌われていてもいい!!それでも構わない!!あたしは・・・リインフォースが家族でいることだけで十ぶ」
突如、リインフォースに抱きしめられる。驚いたヴィータは、全てを話すことが出来なかった。
「嫌いなもんか・・・・・お前を嫌いと思ったことなど・・・・・一度も無い!!」
「うん・・・・うん・・・・」
涙を流しながら、互の絆を確かめるように抱きしめあう二人。
それを祝福するかの様に、空から雪が舞い降り始めた。

「まったく・・・・・手間が掛かる・・・・」
両腕を組みながら廊下の壁に寄掛かり、一部始終を聞いていたカナードは微笑みながら呟いた。

 
 

その後、八神家ではクリスマスパーティーが行なわれ、全員がハメを外して騒ぎまくった。
そして数時間後には生きる屍と化したはやて達がリビングに転がっていた。
「・・・・・明日はアースラに出向かなければいけないのに・・・・・ハメを外しすぎだ・・・・」
文句を言いながらも、風をひかない様に皆に毛布をかけていくカナード。
「ふふっ、そう言うな。お前だって楽しんでいただろ?コーヒーだ。置いとくぞ」
「・・・否定はせん・・・・・」
投げ捨てる様に呟いたカナードはソファーに深く腰をかけ、入れたてのコーヒーを喉にゆっくりと流し込む。
リンフォースも真似するかのようにゆっくりとコーヒーを味わう。
「ああ・・・・・そうだ」
何かを思い出したように呟いた後立ち上がり、一度リビングから出ていく。そして直に戻ってくると
「受けとれ。開けて見ろ」
戻ってくる時に持って来た包みをリインフォースに渡した。
受け取った包みを見た後、丁寧に包装を解いていく、すると中には真新しい黒いコートが入っていた。
「これは・・・・私にか・・・どうして・・・」
「誕生日プレゼントだ」
「誕生日プレゼント?・・・・・だが・・・・私の・・・・」
突然のプレゼントと『誕生日』という言葉にどうして良いのか分からず、立ち尽くすリンフォース。
「いや、確かに今日だ」
そんなリインフォースに、カナードはソファーに再び腰をかけ、説明をする。
「今日はお前が・・・・・『闇の書の意志』という管制人格から、はやての守護騎士・・・・・一人の女として生まれ変わった日だ。
まぁ・・・・何だ・・・返品は認めん・・・・・いらないのなら誰かにやるか、すてるかに(馬鹿を言うな」
カナードの言葉を遮ったリインフォースはコートを抱きしめ、顔を埋める。
「いらないわけなど・・・ない・・・・・・ありがとう・・・・・私は・・・幸せだ・・・・・ありがとう・・・・」
声を震わせながら『ありがとう』を繰り返す。
「全く・・・そんな事で泣いてどうする?これからはこんな事が嫌というほど続くのだぞ・・・・・」
呆れながらも、満足げに微笑みながら呟く。そして

 

               「Happy Birthday・Merry Christmas」

 

祝福するように、言葉を送った。

 
 

「そんなことが・・・・・」
リインフォースの話を聞き終えたツヴァイは、納得したように呟く。
確かに自分の姉はこの黒のコートを好んでよく着ていた。
そんな思い出があったことをはじめて知ったツヴァイは、
自分がこのコートに潜り込んでいる事が、急に申し訳なく感じた。
直に出ようとするが、妹の気持ちを感じ取ったのか、
リインフォースは出て行こうとするツヴァイを優しく遮る。
「気にするな・・・・・このコートは大事な物だ。だからこそ・・・・・大事な家族にも使ってもらいたい」
「はい・・ですぅ・・・・」
笑顔で答えたツヴァイは再びポケットに潜り込んだ。
その姿に顔を綻ばせたリインフォースは、再び夜空を見上げる。
「・・・・・・いい加減・・・・・・・帰って来い・・・・・・」
今はここにはいない、コートを送ってくれた少年に対して呟いた。

 
 

・数日後

ツヴァイは夢の中にいた。
見ている夢は八神家での何気ない日常。それぞれがリビングで寛いでいる光景だった。
ただ違うのは、本来ここにはいない人物がいること。
皆が帰りを願っている人・・・・・・会って話して見たい人・・・・・・
その人は自分に気が付き、顔をこちらに向ける

 

                『どうした?ツヴァイ?』

 

      その人は自分を見据え、尋ねてくる・・・・・だから私も・・・・笑顔で答える

 

            「なんでもないですよ・・・・・・カナードさん」

 

ここでツヴァイは今年最初の夢から覚めた。
不思議な事に、この夢を見たのはツヴァイだけではなく、八神家全員が初夢として、この夢を見た。
そしてこの初夢は、数ヵ月後には正夢となる。

 
 

(続編)高い天を行く者から勇敢な者へ