鉄《クロガネ》SEED_3-2

Last-modified: 2008-03-01 (土) 21:32:39

「で、アスランから頼まれた例の書類。まとまったかい?」

 

ユウナは自らが座るデスクの前に立つアル=ヴァン・ランクスに尋ねた。
この長身の偉丈夫はユウナより若干年上だがユウナの口調は友人に対するそれと大差ない。

 

「滞りなく。ここ2年間のテロリズムに関連する全ての事件。解決、未解決問わず全資料を」

 

アル=ヴァンは手にしたディスクを強調しつつ答える。
彼は自らに過された仕事を確実こなすタイプの人間だ。
それが彼の良き点であり彼の改善すべき点でもあるのだが……
彼が問題無し、と言ったからには資料に不備はないということだ。その報告にユウナは満面の笑みを浮かべる。

 

「最高だよアル=ヴァン、全く持ってパーフェクトだ。それで、だ」

 

先ほどまでの明るい表情から一転、緊張した面持ちになる

 

「『彼ら』にこの事は?事態によっては『プラン』のスケジュールを大幅に変えなくてはならなくなるよ?」
「無論、此方の動向を感づかせる様な痕跡は一切残しておりません」
「そうか、それは良かった」

 

またもや緊張感のかけらも無い顔に戻る。その風体は巷に聞く「セイラン家の馬鹿息子」そのものである。
しかしアル=ヴァンはその表情に対しに硬い面を変えぬまま、冷静に質問を口にする

 

「閣下、このままでよろしいのですか?」
「ん?」
「皆を欺くまま欺き、自らをも犠牲にするおつもりですか?」

 

強い意志を秘めたその瞳は真っ直ぐにユウナを見つめている。
アル=ヴァンの脳裏には嘗ての自らの姿が克明に甦っていた。
自らの責務の為に最愛の者を傷付け、その罪に泣き叫ぶ己の心まで無視し、なお忠義を誓った者に身を捧げ続ける。
ユウナの行動を見ていると、その行いは違えども進もうとしている道はかつての自分と同じだ。
即ち、自ら、そして皆を巻き込んだ…… 破滅。
自分はまだ良かった、最愛の人が生きており、そして自らの行いを省みる時間があった。
しかし彼はどうだ? 彼を真の意味で支えてくれる人間は? 彼の孤独を本当の意味で癒せる人間は?
居る、彼には友人も、恋焦がれる人も居る。
しかし、彼はそれすらも歯車に乗せようとしている。自らを置き去りにして……

 

「アル=ヴァン? 質問を質問で返すのは悪いことだけど……」

 

その瞳に根負けしたようにユウナは首を横に振る。

 

「何でしょう」
「君は何故此処まで付いて来てくれるのかい?」

 

普段の笑顔のまま、アル=ヴァンに問う。これは純粋な疑問であった。
そう、彼にはこの計画に付いて来る必要はない、この世界にとってイレギュラーな存在である『彼等』にとってこの世界は当に対岸の火事のようなものである。
それでも彼はこの愚かな二世議員についてきてくれるのだろうか? ユウナは少し疑問を持っていた。
勿論、ユウナは彼を尊敬しているし信頼もしている。
アル=ヴァン・ランクスという人間は義理堅く、鉄の如き強固な意志をもつ男だ。そんな人間が何故自分を支えてくれるのか?
彼には不思議だった
そんなユウナの問いに、その鋼の様な男は珍しく表情を緩めた。

 

「……自分は嘗て、迷いの末自らが所属していた組織を裏切り、自ら忠誠を捧げていたはずの者に刃を向けました」
「前にも聞いたね、確か『騎士団』とかいう組織だっけね…… でもそれは君たちの民を救う為だったんでしょ?」

 

ユウナの言葉に頷きつつ男の独白は続く

 

「しかし、それでも、私は私を信頼した者たちを見捨ててしまいました」

 

そして、その戦の決戦の直後、彼はこの世界に飛ばされた。最愛の女性と共に

 

「何者かも知らぬ我々に、このオーブの人々は暖かく迎えてくれました。
 違う世界とはいえこの国を焼いた一因を作ったというのに……
 だからこそ、誓った義は決して破ってはならぬのです」

 

普段から冷静な姿勢を崩さない男が珍しく声を強めてアル=ヴァンは説く

 

「この国を、そしてこの国の人々を護る為に、私は命を賭けると。そしてその道に最も近いのが」
「僕という事かい?」
「……はい」
「僕って事?」
「…………」

 

男の瞳に揺らぎはない。その姿にユウナはしばし憧憬を抱く。
こんなに真っ直ぐな漢はそうそう居ない、この男並みに実直な人間など世界に探せばあと一人か二人くらいだ。
いや、それは違う、とユウナは自らの批評を否定する。
絶望を知っているからこそこの男は強いのだ。
絶望を知るからこそ人は希望を知る。
この男をここまで強くしたのは果たしてどれ程の絶望だったのか?
そしてこの男を立ち上がらせたのはどのような希望だったのか?
若干の興味を秘めた瞳でアル=ヴァン見つめる。

 

「そうか。ありがとう、アル=ヴァン。
 でも大丈夫、君がこの国に命を賭ける様に、僕もこの国が大好きだから……」

 

その笑顔に少しだけ曇りのある事にアル=ヴァンは気がついたが、あえてその事には触れなかった。
この男の決意を揺らがせることは極力避けたかった。しかし

 

「人の心とは脆いものです…… そのことを胆に銘じて下さい」
「ああ…… 理解しているさ」

 

しかし、計画は既にスタートしている。今更誰の手も借りることなど出来ない……
そう、これはユウナ・ロマ・セイランの全てを賭けた世界に仕掛ける一世一代の茶番劇なのだ

 
 

鉄SEED 地球編 「三者相対ス」 後編

 
 

「ジブラルタルとカーペンタリア以外にもこの『ミネルバ』を修復できる施設があるなんてね……」
「全くです。こんな大きなドック中々ありませんよ。流石は世界に名だたる技術大国って所ですね」

 

タリアとアーサーは収容されたドックの大きさ、そして現地のスタッフの手際の良さに嘆息していた。
入港して数時間たった現在、女神の名を持つその優雅ともいえる船体には多数の人員と数多のクレーンが纏わり、船体表面の所々に存在する損傷部の応急処理を行なっていた。
オーブ首長国連邦、オロノゴ島モロゲンレーテ社艦船ドック、ここでは現在オーブに寄航したミネルヴァの修復及び補給が行なわれていた。
アーモリーワンにて救出されたカガリ・ユラ・アスハ代表を送り届ける為入港した際、せめてもの感謝として簡単な修復作業をさせてくれとの申し出を受けたからだ。
実際、アーモリーワンから此処まで幾多の戦闘、加えて大気圏突入までやってのけたのだ。
船体ダメージは相当なものとなっている。艦を任せられたものとしてもこの申し出は有り難かった。

 

「それにしても、此処までとんでもない道のりでしたね。まだ出航から一ヶ月かそこらなのに、船体は歴戦のソレじゃないですか」
「そうね…… アタシもこんな事になるなんて思いもしなかったわ」

 

感慨深く頷くアーサーに珍しく賛同するタリア。
そう、処女航海で地球に降下するなんて考えもしなかった。

 

「それもオーブですからね、そういえばシンはここ出身でしたね……」

 

アーサーがはたと思い出したようにタリアに尋ねる。

 

「あの子なら上陸許可が下りた時に真っ先に降りたわよ。
 なんだかんだ言って、自分の生まれた場所だから感慨深いんじゃないかしら?」

 

修理はあと数日はかかる、ここらでクルーを休ませておくのは正解だ。
と、タリアは久々に少しだけ肩の荷が下りたような気がした。

 
 

砕けたコンクリート、剥きだしの鉄骨、対比されるかのように真新しい道路。
焼け焦げた家々が手付かずのまま残っている。まるで亡者の世界だとシンは思った。
連合によるオーブ侵攻作戦から二年、都市中心部の復興はかなりの所まで進んではいたが未だ郊外の住宅地の一部は手付かずの状態だ。
シンがいる区画もそうした廃墟の一つとなっている。
ミネルバが収容されているドックから程遠い道をシンは目的地に向かって歩いていた。
その両手には花束が抱えられている。
凄まじい復旧を続ける中心街と違い見捨てられた様なこの場所……
オーブの闇を表すようなこの場所の一角にシンの目指すモノがあった。

 

「この木、この景色…… 間違いない…… ここが、俺の……」

 

元が何であったか判別が出来ないほど破壊された廃墟の目の前でシンは崩れ落ちた。
その瞳からは人知れず涙がとめどなく落ちる。
涙なんてもう流さないと思っていたのに。もう流す涙はないと思ったのに……

 

「とおさん…… かあさん… マユ…… ただいま…」

 

シン・アスカ、実に二年ぶりの帰郷……
しかし、そこに存在するのは悲しみと後悔、無力間と悔しさ、そして物言わぬかつて我が家と呼んだ廃墟だけだった。

 
 

歩く、歩く、どんどん歩く。歩くということは良いことだ。
それだけで人は前へ進むことが出来る。
それだけで人は何かを有意義なものとすることが出来る。
海沿いの道は夕焼けに染まり、茜色に染まったその景色を見るたびに体の内側の『何か』が高揚する気がする。
前にそのことをジョシュアに尋ねてみたら、「それは『心が感動』しているんだ」と答えた。
人にあらざる者に作られた、人にあらざる者の私も感動するということがあるのだろうか?
例え他者に感情というものを与えられたとしても、感情を得たところで体内の組成が変わる訳でもあるまい。

 

「ん?」

 

ふと、心のどこかが渦を巻いている気がする…… この感情は私のものではない。
とすれば答えは一つしかない。

 

「どうしたジョシュア? 感情にぶれが感じられるぞ?」

 

私の前方を歩くジョシュアから歓喜、次いで疑問、最後に迷いの三種の感情が渦巻いている……
いつも冷静なジョシュアにしては珍しい。

 

「そうか? いや、そうだな……」

 

何やら釈然としない答えだ。ジョシュアらしくない。
普段ならこういう時は素直に問題点を指摘してくれるものなのだが……
どうも言葉に窮している節があるようだ。

 

私、ルイーナのメリオルエッセ、グラキエースとジョシュア・ラドクリフは特殊な関係である。
その前に、私について少し話しておこう。
前述の通り私は人間ではない。
この世界とは別の世界に現れた別次元の侵略者「破滅の王」に、突兵として製造された人造人間である。
よって本来私には意識というものが存在しなかった。
「破滅の王」の目的は全ての生命に絶望や苦しみを与える事、その突兵たる我々には感情や意識などは不要だったのだろう……

 

私は奴の命じるまま破壊と殺戮を行なった。
だが、幸か不幸か私は目の前に立つこの男と幾重にも戦い、そして相倒れる事によって意識を共有してしまった。
意識下で繋がりあった私とジョシュアは、彼の仲間たちと共に「破滅の王」の軍勢と戦い、そして勝利した。
戦う為に生まれた生命の筈が感情という想定外の因子を持ってしまった私はそれ以外の選択肢を選ぶことは出来なかったのだ。

 

しかし彼とその仲間達はこうも言った。
戦うこと以外に出来ることがあるならば、その存在の本質は戦うことだけではない、と。
以来、私はジョシュアと共に居る。ジョシュアのいる場所が私の居場所だ。
人の心の力も、優しさも、美しいと呼べることも、幸せという意味も、今、私が此処に存在するのも全てこの男のお陰なのだ。

 

たとえ…… 私の命の残り火が残り僅かだとしても。

 

「ラキ…… 泣いているのか?」

 

面と向けられて初めて気がついた。私の目から止め処なく溢れているのは……

 

 

「見ろジョシュア、私が涙を流しているぞ……」

 

それが何故か無性に可笑しくて、私は乾いた笑いを漏らす。
何という皮肉…… これまで数え切れぬほどの命を消し去った存在が自らの死に怯えるとは……
いや、率直に言おう。私は死ぬのが怖い。
私の中の遺伝子には崩壊のリミットを抑制する因子が欠落している。
王にとって我々は所詮使い捨ての駒であったということなのだろう。
私の誕生から既に二年半を経過した現在、残る命は一年…… あと一年で私の命は尽き果てるのだ。
もう既にその兆候は現れ始めている。

 

……嫌だ

 

「いやだ!! ……死にたくない…… 死にたくなんか…… ない……」
あふれ出る感情は収まりがつかない…… 震える手で自らの両肩をきつく抱きしめる。
そうしなければ心が壊れてしまいそうだった。
まだやりたい事も知りたい事も数多く残っているのに……

 

「ラキ!!」

 

その体を包み込むように心地よい、暖かな体温を感じる

 

「ジョシュア…… 私は…… 私は愚かだ……
 消滅すると解っていながら、いざそれが近付くと…… 怖くてたまらないのだ……」

 

まるで生きていることを確認したいかのようにその胸に頭を埋める。しかし体の震えは一向にとまる気配はない。

 

「すまない…… こんなに苦しませていたのなら、もっと早くに言っておきたかった。
 ラキ、お前を助けることが出来るかも知れないんだ」
「え?……」

 

慰めるように私の顎に手を添えてジョシュアは私の瞳を見つめる。
吸い込まれるような蒼い目だ

 

「ドクターとこの世界の技術があればお前の遺伝子を何とか出来るかも知れないんだ。
 もちろん絶対って訳じゃない。だけどラキが生きられるのならば、俺は……」
「生きたい、生きていたい…… 私は、ジョシュアッ……」

 

まるで縋り付くように、私はジョシュアに抱きかかる。
人に在らざるこの身…… 願うべき存在は心の中にさえ居ないのかもしれない。
けれど、一度だけ願いが叶うならば…… 私は……

 
 

海岸沿いの国道から少し逸れた道に、その慰霊碑は存在する。
石碑には数多くの人名が刻まれ、その周りには多種多様の花が植えられている。

 

「お花がこんなに沢山…… ヤマトさん、ここは一体?」

 

桃色の髪の少女は石碑の前で黙祷を捧げる青年におそるおそる尋ねた。
青年は黙祷を終えると手にした花束を石碑の元に添えると跪いたまま石碑に手を添えた。

「昔、ここに連合軍が攻めて来てね。
 僕はその時オーブに居てね…… 何とかオーブを守ろうと頑張ったんだ」
「皆さんを助けたんですか?」
「ううん、結局、救えなかった」

 

首を横に振りながら自嘲するような口調で青年は続ける。

 

「思えば、あの頃から判っていた筈だったんだ。僕が何を守るべきだったのかを」

 

この拳を超えるほどの力を持った瞬間、人は決断を迫られる。その力で何を行なうのかを……
かつての少年は力をより良い方向へと向けようとした。
世界を破壊と滅亡から救う為にその類まれなる力を使おうとしたのだ。
しかし、今この場所に立ち、青年になった男は思う…… 自らの選択は正しかったのか、と
確かに人類は絶滅の危機から救われただろう、しかし逸れ即ち平和とは言い切れるのか?
現に自らがその目に見てきた世界は如何程の物だったか?
略奪、飢餓、未だ根強きコーディネーターとナチュラルの差別……世界は未だ混沌の極みだ。
とてもお世辞には平和とは言い切れない。

 

(ラクス、僕たちが世界から退場したのは早すぎたのかもしれない……)

 

今は亡き石碑の名に刻まれた魂達は責めも慰めもしない。
死者は何も語らない。唯、黙するのみ。
青年は少女に向き直る。
彼女の姿は昔少しだけ恋をしたあの時の少女に瓜二つだ。
それが少しだけ青年の気持ちを和らげる。
そう、この気持ちは『あの頃』と何も変わってはいなかったのだ。
結局自分は堂々巡りをしていただけの様だ。

 

「決めたよ、ミーア」
「ヤマトさん?」
「やるだけの事はやってみるよ。僕とガンダムで。やって出来ないことは、ないと思うから」
「はぁ…… わたしやカザハラさんも居ますけど?」

 

困惑する少女。そのあどけない仕草に苦笑しつつ忘れたわけじゃないさ、とフォローをいれる。
青年は石碑へと向き直りその黒曜石でできた石版に触れる。冷たい感触が実に染み渡る

 

「……君も花を添えに来たのかい?」
「………………」

 

青年の背後には一人の少年が立っていた。
俯いた影でその表情はうかがい知ることは出来ないが、その身から漂う悲しみと怒りは容易く感ずることが出来た。
少年も青年と同じく石碑の元に花束を置くと、そのまま立ち上がる。

 

「……結局オーブは、戦争で死んだ人たちは置き去りなのかよ、死んだ人間はそこで終わりなのかよ!!」

 

活気付く中心街と廃墟と化した自らの家、戦争の傷跡と復興の象徴、この対比がこの少年の心に暗い影を落としていた。
少年は天に向かって吠えるように叫ぶ

 

「効率が第一ってか!? 立派な石碑を建てたから満足しろってのか!?
 そんな物で納得できるのかよ!! 畜生……」

 

その場にへたり込みながら、それでもなお怒りに満ちた紅い瞳は石碑を睨みながら吐き捨てるように呟く。

 

「いくら綺麗な花を植えたところで、人はまた簡単に吹き飛ばす……」
「なら、僕はまた花を植えるよ。何度吹き飛ばされても、僕は植え続ける」
「え……?」

 

突然口を開いた青年に少年は訝しげ視線を向ける。
青年はその視線を受け流しつつ遠くを見つめるように目を細める。

 

「それが生き残った者の掟、なんじゃないかな?」
「生き残った者の…… 掟」

 

その言葉は何故か少年=シン・アスカの心の奥底にまで響くものだった。
それは彼自身が天涯孤独の身であったからだろうか……
青年はシンの無言を相槌と判断したのか更に話を続ける。

 

「生き残った人は死者に対し、何かをしてやることが出来ない。
 なら、僕達が彼らに対して出来ることってなんだろう?」

 

シンは青年の言葉に矛盾があることに気が付いた。
してやる事が出来ないのならば、出来ることは何も無いではないか?
そんなシンの疑問を見通したのか、青年は悪戯っぽく笑う。
結局の所自己満足なんだけどね、と。

 

「でも、僕達には責任が有るから…… 生き残った人は死んでいった人たちの分まで背負って生きていかなくちゃならない。
 それが何かを成すことだったり、一生懸命生きることだったり、何かを大切にしたりね」

 

シンはその時気付いた。この男も自分と同じように何かを失った人間なのだと……
彼が何を失ったのかは判らない、だが彼もまた大切な『何か』を失っている……
そんな確信にも似た何かをシンはこの青年から感じ取っていた。

 

「吹き飛ばされたことを知っているなら、止めることも、守ることも、「吹き飛ばす方を消し去ることも出来る」
「!?」

 

間に割った声はここに居る誰とも異なる第三者からの声だった。
二人が振り返るとそこには二人の若い男女…… 二十歳そこらのまだ若い青年と青い髪の少女だった。

 

「それは愚かな選択だぞジョシュア、花畑一つを護る為にどれだけの戦力を投入するというのだ?」
「選択の一つって事だよ、あくまで例え話だ」
「む、そうか……」

 

ジョシュアと呼ばれた青年はあまり釈然としない少女の表情に口元を緩めながら、二人の視線に気付き、笑みを見せる。

 

「すまない、中々面白い話をしてると思って……」
「「あ、いや……」こちらこそすみません。こんな場所で」

 

二人は同時に後頭部を掻く仕草をする。
はじめから打ち合わせたように精確な動作に青年は思わず噴出してしまいそうになる。
その様子を見ていたシンと青年は何故か無性に恥ずかしくなってしまい顔を赤らめてしまった
シンの出会った不思議な男達、キラ・ヤマトとジョシュア・ラドクリフ。
まだ名も知らぬこの男達との出会いがシンの『戦う意味』を問うことになるとは…… 彼等自身もまだ知らない

 

コズミック・イラ73、
連合とプラントの前面武力衝突まであと数日と迫った日、様々に混じり合う男達の戦いははここから始まることとなる

 
 

そして……

 
 
 

……キ……キドウシークエンス……かかか、開始、

 
 

ぐりいん
ぐりーん
Green
グリーン
グリーン
グリーン

 

コンプリート 全システム系統オンライン。

 

キドウ完了

 

若干のノイズと共に「それ」は目を覚ました。

 

私は…… 私は……

 

私は…… デュミナス

 

私はかつて『過ち』だったもの……

 
 

この世界に干渉する者が、また一つ

 

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