鉄《クロガネ》SEED_3-1

Last-modified: 2008-06-13 (金) 10:32:07

「ユニウスセブンの残骸は45パーセント処理が完了した。後は都市部に落下しなければ大した被害は出ないだろう」
「それで、本命のユニウスは何処へ行ったのかな?」

 

デュランダルは事後報告書に目を通しながらデスクの前に立つ男に問いかけた。
血沸き肉踊るような戦闘の連続だったに違いないはずの一連の事件が、作成者が余程事務的能力が高かったのか、退屈な読み物に変化してしまっている。

 

「次元と次元の狭間に封印した。此方から引き戻さない限り二度と元の空間には戻りはしないだろう……」
「当分はそのままかね?」
「その方が余計な混乱も無くて済む」

 

赤いマスクの男は首肯する。
デュランダルは書類をデスクに置き背もたれに身を預け、溜息を漏らす。

 

「全く、君たちの世界は本当に何でもありだな……」

 

MSを超える巨大な兵器がぶつかり合い、念動力や重力を応用した兵器が戦場に飛び交う世界……
なるほど、そんな世界なら人類同士が殺しあった時の危険性が良くわかるというわけだ。
事情を知らないタリア達が羨ましく思えてくる。
自らが今後相手にしなければならない敵はその世界からもたらされた技術を操る者達なのだ。

 

「……俺はゼンガーからの報告にあったノアロークなる人物の洗い出しにかかる。
 当面は敵の動きも鎮静化するだろう。表面上はな」

 

XNガイストによる転移を見たからには奴らはこちらが本気で干渉にかかり始めたということを理解しただろう。
今後は全面的にぶつかることとなる。
いや、その為の準備は既に始まっている。

 

「ところで…… いや今の姿では『アポロン』、と言ったほうがいいか。
 君たちから見た彼はどうだったかい?」

 

デュランダルは手元のモニターに、あるデータを表示させた。
それはデュランダルが今後の為に目を付けている人物達に関するデータである。
数十人を超えるそのデータの中からデュランダルはその内のある一人のデータを取り出した。

 

「中々筋はいいようだ。判断力、技術共にこの世界では早々お目にかかれないパイロットだな…… だが」
「戦闘に対して迷いを持っている?」

 

デュランダルは問いに答えるが如く指を鳴らす。

 

「それに二年のブランク…… 日々進歩し続けるこの世界の技術力にどこまで追いつけるか。それが問題だ」

 

アポロンは考え込むようにマスクの口元に当たる部分に手を添えた。

 

「しかし、彼等以外に扱えるとは思えんよ。既に工程は80パーセントを超えている。
 『ビルガー』、『ファルケン』、そして『ラプター』をモノにできるのは彼らしかないと私は踏んでいるのだがね」

 

デュランダルは床を蹴って椅子を窓側に向ける。
窓から見えるのは三体の機動兵器……
外装のされていない白銀の巨人達は刻一刻と自らの主を待ち続けている。

 
 

鉄SEED 地球編 第一話 「三者相対ス」 前編

 
 

大海原を進む灰色と赤に染められた巨大な舟、ZAFT強襲揚陸艦『ミネルバ』は地球に降下を果たしていた。
ユニウスセブンは謎の機動兵器の介入により、忽然と姿を消してしまった。しかしそれで万事が終わったわけではなく、ミネルバは地球に降り注ぐ残骸群を少しでも多く破壊する為大気圏ギリギリまで破砕を続けながら降下した訳である。
現在の任務はアーモリーワンにて救助したオーブ代表カガリ・ユラ・アスハ以下一名をオーブ首長国連邦まで送り届ける為、太平洋上を航行していた。

 

「『ガーリオン』、かぁ……」

 

格納庫内に立つ特異な人型の前で、ヨウランは感心した様に溜息を漏らす。
傍らに立つヴィーノも目を輝かせてこの機体に魅入られている。
全高はMSとさして変わらないが、鋭角的なラインで構成されたそのシルエットは周りのMSとは一線を画している。
明らかに既存の兵器体系とは違う、全く新しいタイプのMSであることは明白である。

 

「こんな機体が開発されてたなんて…… あぁ~俺も入隊してー!!」

 

駄々をこねる様にヴィーノが叫び声を上げる。その光景を見ていたルナマリアは目頭を押さえながら首を振った。

 

「それにしても、シンの機体とか、あたしやレイのザクのウィザードとか、ぶっ飛んでるっていうか何というか……」

 

ルナマリアは格納庫内をぐるりと見渡した。
Gタイプの機動兵器よろしく特殊な兵器の実戦テスト部隊という側面を持つミネルバにとって、
こういった機体の運用は指して問題にはならないとはいえ……

 

「あたし達ホントにこんなのでやっていけるのかしら」

 

ルナマリアは気の滅入るような溜息を吐くと、格納庫にはいって来た人影を見つけたとたんその表情がぱっと明るくなった。

 
 

「あっ、ユウキさん!!」

 

艦長室にて入隊手続きを完了したユウキ・ジェグナンは自機の回りに沸いた人だかりを見た瞬間、予期していたとはいえ挫折感を感じずに入られなかった。
元来余り多くの人間と付き合う事をしていなかったため、ユウは人前に自身を晒すことになれては居ない。
こんな時にアイツが居れば…… とつい無いもの強請りをしてしまう。

 

「……俺の機体が珍しいか?」

 

意を決して近付くと、整備兵らしき少年二人が真っ先にやってきた。

 

「この機体、単体で空戦可能だって聞いたんですけど!?」

 

興奮冷めやらぬように褐色の少年が尋ねる。

 

「ああ、この機体にはテスラ・ドライブが搭載されているからな。この艦にも試作型が搭載されているはずだ」
「お、俺、教導隊に入隊したいんですけど!!」

 

息をつかせる間も無く、隣の少年が興奮した状態で身を乗り出すように叫んだ。

 

「ならば五年間の整備兵経験と各種特殊技能の習得、そして四十三項目の秘匿事項を厳守できると判断されたら。本部から直接辞令がでるだろう」

 

ここで甘いことを言ったところでこの少年の為になるとは思えない。
此処はあえて現実を話しておいた方が彼の為にもなるだろう。
決して鬱陶しかったからではない…… 断じて

 
 

「そろそろオーブにつくな…… オーブ、か」

 

甲板で何と無く海を見つめながらシンは一人呟いた。
その赤い瞳は郷愁と憎悪の入り混じった複雑なものであった。
あの戦闘の後、あの機動兵器に牽引されたままシンはミネルバに着艦した。
直ぐに破砕作業に参加したかったが、インパルスは激戦によりこれ以上の艦外作業は危険と判断されてしまった。
最もシンの体力は限界まで使い果たされていたため、どちらにしろ作業には参加できなかったのだが。
シンが再び気が付いたとき、既に艦は地球への降下を完了していた。
教導隊のメンバーはみな宇宙に残り代理としてにあの機体のパイロット、ユウキ・ジェグナンがミネルバに乗船していた。
その後、ユウキからパイロット達に待機命令が出されたため、シンの場合は特は特に何をすることもなく甲板に出て果てしなく広がる海を眺めていた。

 

「そろそろオーブだな、君にとってはあまり良い思いでが有るところでもないかもしれないが……」

 

シンの背後から声がする。アレックスだ。

 

「そんなことは無いです。あそこには父さんも母さんも、妹も居た。悲しい過去ばかりじゃありません」

 

シンの脳裏には、懐かしかったあの頃の記憶が甦る。まだ幼かった自分達、戦争はどこか別の世界だと思っていた。
それが、あの日……シンは無意識に顔をしかめた。

 

「すまない、嫌なことを思い出させてしまった」
「いいえ、でもあの人に会ってちょっとだけ、ほんのちょっとだけ判った気がします」

 

シンは顔を上げると、前を見続けたまま独り言のように続ける。

 

「何を?」

 

アレックスはシンの隣、甲板の縁にしゃがみこんだ。

 

「償いを続ける人が居るのなら、少しだけ、希望を持ってもいいんじゃないかな…… って。そう思いました」
「その言葉、今度代表に会ったときに言えよ、喜ぶと思う」
「はい……」

 

二人はオーブ領海内に入るまでの間、その場で海を見続けていた。

 
 

「そう、カガリの迎えは僕が直に行くよ。どうせ彼らは僕を大物議員のダメ息子程度にしか思っていないさ。
 ん?ああ、ドクターはロアノークのところか。彼にはそういっておくよ」

 

ユウナ・ロマ・セイランは受話器を置くと肩を解す様に回す。
いささか疲れが溜まっているようだ。
最後にまとまった睡眠を取ったのは何時だったか?

 

「最近疲れている様だが?」

 

オフィスに入ってきたのはスーツ姿の長身の男、外見から察するに二十台中盤くらいか、整った顔立ちの青年である。

 

「やあ、アル=ヴァン、そんなに顔に出ているかい?」

 

アル=ヴァンと呼ばれた男は彼のデスクに書類を置くと腰に手を置くようにしてわざと困った顔をした。

 

「夜遊びは控え目に、と言っても聞かないからな、貴殿は」
「まぁ、程ほどにしておくさ、それよりコレは?」

 

ユウナは手元に置かれた書類をひらひらと揺らす。

 

「そのお相手のからの要望書だ。現在の生産状況、我等の機体の解析情報、資金運用などが主な内容だ」
「やれやれ、耳が痛いね……で、彼女は?」
「彼と手合わせをしている様だ。中々鍛え甲斐があると喜んでいたよ」

 

アル=ヴァンはオフィスの窓から映る一際大きい建物を見つめていた。

 
 

「くそっ、何故勝てない!!」

 

シミュレーターから出るなり、カナードはその筐体に対し蹴りを入れる。

 

「そんな事をしても、勝てるわけが無いわ。八つ当たりをするなら少しでも身の有る八つ当たりをしなさい」

 

傍らにあるもう一つのシミュレーターから、パイロットスーツを着込んだ女性が出てくる。
女性は後ろにまとめた銀髪を振りほどくと、カナードに入ったボトルを投げる。

 

「君戦い方は機体性能に頼りすぎている。そんな戦い方ではキラ・ヤマトには到底勝てはしない……」
「貴様……」

 

カナードは獰猛な獣のように女を睨み付ける。しかし女性の方は全く動じた様子も無く、唯少年の瞳を冷たく受け止めている。

 

「貴様に奴の何がわかるというの……」
「少なくとも!!」

 

女性はカナードの怒声を遮るように声を大きくする

 

「少なくとも……私の知っているキラ・ヤマトという少年は決して己の機体の性能に慢心するようなパイロットじゃなかった……
 少なくとも今のままの貴方の腕では到底彼を圧倒することなど、出来はしないわ」

 

そう、『この世界の』彼がどういった道を歩んでいようと、彼の内に秘めた強さは変わらないだろう。
少なくとも、今現在のこの少年の腕では良くて相打ち、返り討ちが精々であろう…… それほどまで、あの世界での彼は強かった。

 

「少なくとも、敵を嬲るようなマネを金輪際するようならば、私が君を後ろから打ち抜いてあげる。理解した?」

 

声は穏やかだが、其処に込められた怒りは彼の首筋をひやりとさせるには十分であった。
カナードは罵声を一つ残し、その場を後にした。

 
 

「随分と嫌われていますね」

 

背後から声を掛けられる。
その声色には若干の苦笑が込められている。

 

「まぁ、指南役っていうのは嫌われ役だから……」

 

肩をすくめながら、声の主のほうへ振り返る。其処には二十台に差し掛かるか否かの青年と少女の二人組みが立っている。

 

「またカナードと訓練か? クーランジュ」

 

青い髪の少女が口を開く。クーランジュと呼ばれた女性は首を縦に振る。

 

「そうよ。彼、まだまだ半人前だから」

 

カルヴィナ・クーランジュは悪戯っぽい笑みを少女に返す。

 

「半人前? それはおかしいぞクーランジュ。カナードのMS操縦錬度はかなり高いと思うぞ」

 

少女は金色の瞳に丸くする。どうやら彼女の言葉に疑問を感じているようだ。

 

「ラキ、MSを上手く動かすことと、敵機を倒すことは必ずしも一致はしないものだ」
「あなたのダーリンの言うとおりよ。手足を上手に扱えることと、上手く喧嘩することは違うでしょ。
 MSの操縦はもっと複雑だけど、概ねそういう事ね」

 

戦闘OSが発展途上であるこの世界ではTCOS(戦術的動作指向型OS)の様な画期的なシステムは未だ開発途上な状態であるため、その部分に関しては、パイロットのクセや実戦経験により自ら構築してゆくしかない。
カナード・パルスという少年は確かに有能にして才能あふれるパイロットであるが、戦場に出てまだ日が浅い。
幾多の死線を越えてきた歴戦のパイロットでもあるキラ・ヤマトとはこの点で圧倒的な差が開いてしまっている。
ということなのだが、少女はあまり納得がいっていないようだ。

 

「あまり褒められたことでも無いけどな…… そうだ」

 

青年は自虐の笑みを浮かべると気付いた様にカルヴィナに向き直る。

 

「『ドクター』からの言伝です。『ラフト』の修理が概ね完了した。だそうです。例の機能については……」
「あたしの機体を修理パーツに使ったから、まぁ期待はしてなかったわ。それで彼女は?」
「太平洋上でロアノーク大佐と合流するってさっき出発しました」
「子供たちの様子を見に行ったわけね…… 今度奢るわって伝えておいて」

 

青年は首肯すると少女を連れて部屋を出る。

 

「ねぇジョシュア君」

 

呼び止められた青年はカルヴィナに振り向いた

 

「復讐は生きる目標になりうると思う?」
「分かりません。でも、それが生きる為の理由を付けるのなら、それでも良いと思います」

 

青年は唯それだけ言うと、部屋を後にした。
一人残されたカルヴィナはふぅ、と一息つくと

 

「やっぱり二十歳前には見えないわよ、君……」

 

苦笑を浮かべた。

 

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