鉄《クロガネ》SEED_1-1

Last-modified: 2008-02-28 (木) 01:29:43

警報が響く。接近されすぎた

 

「くそっ、またか!!」

 

シン・アスカはコクピット内で左右に揺られながら、悔しそうに呻いた。
彼の乗るMSは敵を引き離そうと、スラスターを吹かしつつジグザグに後退するが、中々距離が離せない

 

「三回連続して同じモーションだ」

 

相手の機体のパイロットはそう呟くと、シンの一瞬を突き、モニター内から掻き消える……
直後、機体の左側から激しい衝撃が奔り、シンの機体は横倒しとなり、
倒れたシンの機体の胴体めがけ拳が振り下ろされる。
コクピット内の明かりが消え、モニターがブラックアウトした後オペレーターの無情な報告がする

 

「アスカ機、コクピットに直撃。演習終了、パイロットはシミュレータールームから退出して下さい。」

 

筐体から降りたシンは、深いため息をついた。
初戦から数えて12回連続敗北、いまだ白星はついたことは無い。赤服たる自分がなんというザマだ……
重い足取りでシミュレータールームから出ると、控え室に、見覚えのある顔が二人。レイとルナマリアである。

 

「また酷くやられたようだな。」
「そういうお前は何回目だ?」

 

クールに振舞うレイだが、シンは知っている。
レイもルナマリアも、おそらくここに居る殆どの人間も、自らの演習相手に勝ったためしが無い事を

 

「……俺は一太刀入れた。」
「何よ、肩にかすっただけじゃない。しかもその後すぐに直撃食らってオシマイだったクセに」

 

苦しそうなレイの呟きに対し、ルナマリアがツッコミを入れる。

 

「「「ハァ……」」」

 

どうやら皆同じような物らしい…… 三人は同時にため息をつく。
二人は士官学校の同期であり、卒業後も同じ部隊に配属された親友である。
又、一週間後の新しい配属先も一緒という何か因縁めいた腐れ縁でもある

 

「噂は伊達じゃなかったわね……」

 

三人の紅一点、ルナマリアが悔しそうに呟く。
本来ならば、新しい配属先への調整をしている筈の彼らが何故、今になってこのような演習に参加しているかというと、この演習に参加しているある部隊のためである。

 

――特殊戦闘技術教導隊――

 

半年前、現プラント議長、ギルバート・デュランダルが、機動兵器操縦技術の指導、研究を目的として設立した特殊部隊である。
メンバーは議長直々に各地域から選出した人物で構成されており、年齢、性別、人種も様々な人間が集まっている。
発足当初は、古参のパイロット達からの厳しい批判もあったが、今はその声もなりを潜めていた……。
理由は、彼らの圧倒的な操縦技術である。
彼らの駆る機体は、システム以外はほぼ一般量産機と変わらないはずなのだが、
エースと呼ばれる者でさえ、かなりの苦戦を強いられる程の強さである。

 

『現在、アーモリー・ワンに駐留中の全パイロットは彼らとの模擬戦を行うように。』

 

との議長直々の通達が来たのが、一週間前
彼らの着任直後から腕に覚えのあるパイロットが次々に挑戦したが、
結果は惨敗に次ぐ惨敗、次こそはとリベンジに燃える彼らだが、未だ結果は実ったためしは無い……
士官学校トップの証の赤い制服を着る彼らといえど、まだまだ実戦を経験したことのないヒヨっ子である。
彼らに対し一太刀も当てられないのは当然なのだが……

 

「そういえば、さっきアンタ隊長室に呼び出されてたわよ?」
「ゲッ!!マジかよ……」

 

直接会って話をしたことはなかったが、シンは教導隊隊長であるカイ・キタムラに対して苦手意識を持っていた……
着任当時、彼らとの顔合せの時、シンが思わず『舐めた口』を利いてしまったため彼らの犠牲者第一号となってしまったのである。
しかし、命令は命令である。出頭を拒否するわけにもいかずシンはしぶしぶ隊長室へと向かうのだった……。

 

「シン・アスカ、入ります。」
「おう、入れ。」

 

扉の先には彼らのオフィスがある。シンは緊張しながら扉を開けた
奥のデスクに中年らしき男が座っている。

 

「来たなアスカ、まぁ座れ」

 

男はそう言って、椅子を指し座るよう勧める
シンはガチガチになりなりながら、差し出された席に座った。

 

「まぁ、そう緊張するな。別にお前の演習成績についての話だとかそういう事ではない。
 実は、お前の戦闘パターンに『奴』が興味を持ってな…… 直々にモーションデータを取りたいそうだ。」
「『奴』って……」
「そうだ、

 

『ゼンガー・ゾンボルト』

 

 お前が初戦から負け続けているあの男だ。」

 

カイは口の端を歪める。
シンは自らの想像とは全く違う展開に、驚きっぱなしである。

 

ゼンガー・ゾンボルト…… シンは元よりベテランすら打ち負かすほどの技量をもつ男である。
教導隊の名を短時間でここまで広めたのは、彼らの腕前の他にも彼のその奇特な戦いかたも大きかった。
彼の駆る機体は、片刃の重斬刀とけん制用の武装しか使わないという、独特な戦闘スタイルをとるのだ。

 

「でも俺、来週受領する機体は、換装式の汎用機です。
 教官のモーションは接近戦に特化しているから、効果は薄そうですけど……。」

 

シンは遠慮がちに述べる、が

 

「そうか、お前は例の新設部隊行きだったな……だが、このプラントで、
 あのゼンガーが目を付けたんだ、話だけでも聞いてやれ。」

 

どうやら断ることは不可能らしい、シンはカイに強引に、ゼンガーの待つ格納庫へと連れて行かれるのであった。

 

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