鎮魂歌_第29話

Last-modified: 2007-12-02 (日) 09:52:21

なのはの周囲に浮かぶのは10を超えるリンカーコア。レイダーの動力として使用されていたものだ。
色とりどりの輝きは、殺された者たちの涙か何かのように静かな光。

「これで全部です」
『OK すぐに配置を計算するからなのはちゃんは艦長と一緒に結界を』
「はい……」

エイミィの声に頷けば、なのはがリンディへと遠慮がちに目を向けた。

「さ、始めましょうか」
「……あの」
「? どうしたの?」
「……ごめんな 「なのはさん」

怒られるのを覚悟していたなのはの言葉をさえぎるリンディは、厳しい表情だ。足元に爽やかな緑の魔法陣を敷きながら、なのはの肩に手をやる。

「今は戦闘中よ。それにね」
「……」
「言うなら、私じゃなくてアリサさんにね」
「はい……」

なのはも魔法陣を展開。目が力強くなる。

2人がいるのはアースラとデストロイを結んだ中点といった所か。デストロイ付近では今なお激しい戦いが続いている。クロノとフェイトがペアとなってカラミティとフォビドゥンの足をとめており、さらにデストロイにより近い位置ではアルフ、キラ、クルーゼがフリーダムとジャスティスをひっかきまわしている。
はやてとトライアの邪魔をさせないためと、そしてなのはをリンディの元に配置するためだ。
もう、はやてとトライアの決戦に慎重なクロノも意見をはさまない。
分かってきたのだ。これは闇の書と光の卵の戦いであるという事を。因縁を。

さて、クロノの案を受けて即座になのははレイダーに用いられていたリンカーコアを手に戦線を離脱した。
そしてアースラの防御が間に合うであろう地点で待機するリンディと合流。
全ては、デストロイを貫くためである。
クロノが閃いたデストロイを貫く矛はスターライトブレイカーだ。
集束型砲撃魔法は、難しい。
これは他人の魔力のみならず、自分の魔力さえ回収しやすい形で散布しておかなければロクに収束できないからだ。
だがここにあるのはリンカーコア。光の卵に結晶化され、未だ自ら魔力素を取り込んで細く魔力を放出するこれを利用しない手はない。

「結界、大丈夫です」
「うん、エイミィ、各リンカーコアの波長の分析は?」
『出来てます。レイジングハートに送信するデータに沿って、艦長の羽からそれぞれ決まった距離で展開してください』

リンカーコア一つ一つには違う魔力光がある。
つまりそれは、リンカーコアごとに違う魔力波長を有する事なのだが、これを全てアースラで解析。
そして、アースラからそれぞれのリンカーコアと同種の魔力をリンディへと送り込み、羽を通して放出してやる。
後は、レイジングハートが受け取ったデータのままにリンカーコアをリンディの近場に配置すると、2つの魔力は増幅し合うのだ。
それを逃さぬように張った結界の中、どんどん魔力密度は濃くなっていく。
圧迫される感覚の中、なのはがレイジングハートを構えた。
他人の魔力が集めにくいと言っても、息苦しいまでに閉じ込められた魔力を収束するとなれば簡単だ。
鮮やかな光が交錯するそこは、まるで現世とは違うどこかのよう。

「スピリチュアルガーデン展開」
「……キレイ」
「不謹慎かもしれないけど、私もそう思うわ」

死んでいった者たちのリンカーコアを使わせてもらったこの魔力のプールには、スピリチュアルガーデンという名はなかなか相応しいとなのはは思う。
さて、そんなスピリチュアルガーデンの内部だが、実は魔法というものは魔力密度の濃さに伴い扱いが難しくなる。
なので、リンディがなのはの様子を見て、アースラがレイジングハートのサポート。これで魔力の運営も滞らないだろう。
デストロイを見据えて、なのはが喉を鳴らす。
準備はできた。後はチャージを終了させるのと、もう一つ。
誰かがデストロイの超大型リフレクターシールドを破ってくれるのを待つだけだ。
闇の書の闇が何重にも防御シールドを張っていたのを考えれば、デストロイは一枚だけ。
そう考えると、少しだけ楽だった。

「さてと、エイミィ」
『なんでしょう、艦長?』
「なのはさんが、アリサさんに一言伝えたいそうよ」
「ふえ!?」
『了解。アリサちゃん、これ、マイク。うん、もう繋がってるよ』
「あの、あの……」

慌てるなのはだが、通信の向こうにある気配にエイミィとは違う誰かを捉えて意を決する。

「……アリサちゃん」
『なのは…』
「あの……ごめんね」
『ごめんって、何がよ』

思いの外、強い語調になのはが驚く。
流石に素人がこんな戦場の空気に触れて、大丈夫なはずがないと思い込んでいた。

「だ、だって、わたしたちのせいで……こんなに恐い思いを……」
『恐くないわよ!』
「ふえ?!」
『言っとくけどね、リンディさんに駄目って言われたのに来ちゃったあたしが悪いんであって、別になのはやフェイトたちの事を悪く思ってないわよ!』
「え、え…」
『クリスマスですずかと2人っきりだった時の方が、よっぽど恐かったんだから!』
「……」
『今は、なのはやキラさんたちが……いてくれるもの』
「アリサちゃん……」
『だから、ちゃっちゃとあのでっかいのぶっ飛ばして、さっさと帰って来なさいよね!』
「うん!」

そうやって、一方的にまくしたてられて通話が終わる。
親友を護るために、なのはのやる気が俄然上昇していく。今ならば、撃ち貫けぬものなんて無いと思えるくらい。

「……レイジングハート、やるよ!」
『All right, my master!』

通信を切ってすぐ、ぽろぽろとアリサが涙をこぼして震えだす。
カチカチと鳴る歯を必死で食いしばるアリサを、そっとエイミィが抱きしめてやった。

「よしよし、良く頑張ったね」
「……恐い……恐いよぉ……なのは…」

抱きしめられるその胸にしがみつきながら、アリサはただ親友たちの無事を祈る。
どうか、誰もが無事で。

「あれは……」

遠目から見ても良く分った。かなり強い魔力が練り上げられては、桜色の染まっている空間がある。
一寸だけ目をそらした途端、八神はやてからシュツルムファルケンが飛んできた。狙いは鋭いが、明らかに不慣れだ。
銘は同じレヴァンティン。古代ベルカの誰かが使っていた杖型のそれでトライアが矢を防げば、仮面から覗く口元が苦々しく歪む。

「高町なのはがデストロイへ砲撃……そんな所かな?」
「今頃気づいてももう遅いで!! すぐこのでっかいのぶっとばすから覚悟し!」

まだ、遅くはない。
戦場の誰か一人の立ち回り一つで失敗も成功もするような計画だ。
そもそも、狙いであるはやてがトライアと一騎打ちをしている時点で光の卵側とては垂涎の事態である。

トライアは持久力がない。全力を出せば恐らくこの戦場で彼を超える出力はデストロイを含めて誰もいまいのにも関わらず、その不安だけが彼の枷となる。
単純にはやてを殺すのならば、そう難しくはないが、それで他の誰かに捕まるほど消耗してしまうのはゴメンだ。
ここは体力の持つ範囲ではやてを攻める。それがトライアという男の思考だ。
だが、ここまで当て付けになのはの収束を見せつけられて焦燥がないはずがなかった。
デストロイの腕とミサイル、さらにフリーダムとジャスティスが最もはやてとトライアに近い。
が、キラ、アルフ、クルーゼという3人にミサイルを撃ち落とされ腕の妨害もされ、さらにはフリーダムとジャスティスの足止めまでされているのだ。
カラミティ、フォビドゥンに至っては、遠巻きでクロノとフェイトを抜けないでいる。

誰かが誰かを抜ければ、この戦局は簡単に転ぶ。
今、トライアはどのMSでも自由に動ける一機が欲しかった。そうすればはやてを攻めるなり、なのはを止めるなりできる。
今、クルーゼはどのMSでも自由に動けないようにしたかった。そうすれば、はやてかフェイトを自由にできる。この2人のうちどちらかであれば、確実にデストロイのリフレクターシールドを破壊できる。

「お前さえ殺せば終わりなんだ……お前さえ……」
「こっちのセリフや!!」

鋼の軛がうねりを上げてトライアに飛んだ。三本。トライアがレヴァンティンを構えて防御陣を張る。それぞれに対応した三枚。シールドタイプだ。

「そこや! ブラッディダガー!」
「クッ……!」

いくつもの直線を経て、血色が五本、トライアの背を穿とうと走った。
禍々しい軌跡を目に捉えたトライアが炎の揺らめきに身を包めば、その姿が瞬時に隠れる。鋼の軛がシールドを貫く手ごたえをはやては感じたが、トライアへ届いた気配はない。ブラッディダガーもだ。
白色と血色が炎の中でぶつかる感触。
ボッと、はやての上方で炎が燃える音がすれば即座に飛びのいた。すぐそばを極炎が通り抜ける。
トライアの砲撃。

「く……」
「はぁ……は…ぁ」

2人の息が上がって行く。

10枚の蒼い翼を広げ、速度に緩急をつける。ライフルを撃つ。
そんな動作でフリーダムを攻めながら、キラは何とも奇妙な気分だった。
眼の前の人ほどの大きさのフリーダムは、自分とほとんど同じような動きをするからだ。
まるで鏡映しと戦っている気分ではあるのだが、アルフとクルーゼと肩を並べ、ジャスティスも混じって戦っているからか気負いまではしない。
やはりこれを作ったトライアは、あの大戦で自分の戦いを見ていたからこのフリーダムを作ったのだろうか?
そう考えているとフリーダムの上方から光の槍が幾つも落ちてくる。
時間と角度をずらしながら撃ちだされるフォトンランサーは狙いがやや甘い。フリーダムが翼を広げて離脱する隙があった。その行く手を、アルフが立ちふさがる。

「うおりゃああ!!」

元気のいい鉄拳。
泳ぐようにそれをかわすフリーダムが、すれ違いざまにアルフに斬りかかる。ビームサーベルが届く前に、キラが自身のサーベルをかみ合わせてアルフを助けた。そのまま通り抜けるフリーダムの背に、アルフのフォトンランサーとキラのライフルが照準をするが、ジャスティスが降りてくる。
2人の頭を狙ったブーメランに、即座に飛びのくアルフとキラ。
だがブーメランを受け止めるよりも早くアルフを狙ってジャスティスが背部のブースターユニットを射出。

「うわ!? なんだいこりゃ?!」

チェーンバインドで束縛を試みるが、機敏な動きでブースターユニット、ファトゥム00はこれを回避。
あまつさえビームキャノンをアルフへ撃ちだしながら突っ込んでくる。

「うわあああ!!」
「アルフさん!?」

轢かれるように吹っ飛ばされるアルフを、彼女のチェーンバインドの一本をキラが掴んで強引に態勢を整えさせる。
そんなキラの背に斬りかかるジャスティスだが、デストロイの対処をしていたクルーゼが鞭でビームサーベルを持つ腕を絡め取る。
腕に巻きつく鞭にジャスティスの足が止まった。そこに、フォトンスフィアを即座に配置。

「フォトンランサー! ドラグーンシフ……む!?」

下方から、フォトンスフィアを射抜く一斉射撃。フリーダムのフルバーストにフォトンスフィアを破壊しつくされ、鞭を振りほどかれてクルーゼがたたらを踏む。二機がクルーゼへ直進。

「クルーゼさん!」

キラの背の翼が広がる。ユニットがまだ戻らぬジャスティスには追いついた。
二本のビームサーベルを連結させた形状で斬りかかるジャスティスをひきつけるが、フリーダムは止まらない。
二刀のビームサーベルが的確にクルーゼの急所目がけて振り回される。
もともと接近戦を考慮していないプレシアの杖である。ざくり、ざくりとクルーゼのバイアジャケットが刻まれていく。
さらにはデストロイをひきつけ、ミサイルを落とす役をクルーゼが離れたせいではやての負担が大きくなっていた。このままではまずい。

「クルーゼ!!」

フリーダムの背後から、フォトンランサーをばら撒きながらアルフが帰ってくる。ブースターユニットが帰って機動力を取り戻したジャスティスにキラが四苦八苦しているが、先にクルーゼと考えたのだろう。フリーダムにバリアブレイクを乗せた拳を叩きつけようとして、盾に阻まれた。

「あわせろ、アルフ君!」
「よっしゃ!!」

フォトンスフィアを2人同時に展開。即席だが合計50を超えてくれたフォトンランサーの雨がフリーダムの装甲各部を叩きに叩く。どうにかフォトンランサーの嵐を抜けるフリーダムを追わずに、クルーゼはデストロイの腕をひきつけ、ミサイルを落とすためにすぐに飛んだ。デストロイの横やりで、はやてが目に見えて不利になっているのだ。
アルフのそばにキラが戻れば、フリーダムとジャスティスも並んで距離とタイミングを計って2人と対峙。

『あとひと押し……やい、クルーゼ、何か考えはないのかい?』
『……あるには、あるな。今しがたのフォトンランサーの乱射で、私も収束砲が撃てる。なのは君には、及ばんだろうがね』
『すぐにできるかい?』
『手が空かない』
『あたしが耐えます!』

はやてが思念通話に割って入ってくる。

『クルーゼさん、デストロイの攻撃を邪魔する手を止めて下さい。全部、あたしが少しだけ堪えます!』
『で、できるのかい、はやて?』
『大丈夫やよ、アルフさん』
『……はやてちゃんを、信じましょう、クルーゼさん』
『……いいだろう』

すぐに全員が動いた。
クルーゼがミサイルとデストロイの腕から離れ、アルフと共にフォトンランサーを乱射した位置を陣取る。クルーゼを護るようにキラが配置につき、アルフははやてへの道を閉ざすようにフリーダムとジャスティスの前に立つ。
ジャスティスはアルフが止めたが、フリーダムがはやてに走った。
そのはやてを中心に、異変。
はやてから闇が滲み出てくるのだ。飲み込んだ全てに純魔力の高圧力を加える広域魔法。
デアボリックエミッション。破壊の結界は徐々にその半径を広げていく。
ミサイルが闇に触れた途端、爆散。フリーダムも足を止め、デストロイの腕のビームも通らなくなる。
だがトライアの動きは違った。逃げている。いやただ逃げているわけじゃない。クルーゼを狙っている。

「そう何人も、させるものか!!」

無茶な火力に無理な砲撃。ジャスティスにさえ命中しそうな際どい砲撃から、キラは身を呈してクルーゼを護る。

「間に合いますか、クルーゼさん!?」
「いや、間に合わない」

平然とそう言い放ち、クルーゼがデストロイへ向けていたプレシアの杖をトライア変更。
暴れ狂うの雷を収束していた魔法陣が、稲光とともに弾けた。

「プロヴィデンス!!」

耳に痛い、しかし澄んだ音で轟雷がトライアへと降った。
かばうように、フリーダム。
盾さえも貫いて、フリーダムの装甲を破砕。神の怒りと見紛うほど完璧な破壊がフリーダムへと落ちた。
爆発。
その中から現れるリンカーコアをわしづかみにするトライアの手は屈辱に震えている。

「クソ!!! レヴァンティン!! 最大出力!!」

リンカーコアをほどいて魔力に転用する後ろで、はやてが走った。

「うそっこユニゾン!! ヴィータ!!」

雄々しく、アルフの守護の元に駆けた。
その手にはグラーフアイゼン。
シュベルトクロイツが燃えるような真紅に輝く。

「轟天爆砕!!」

いくつものカートリッジがロードされる中、振りかぶるグラーフアイゼン・ギガントフォルムがデストロイに見合った巨大になって行く。

「僕は勝つんだ!! 今度こそ!!」

超常の炎熱がレヴァンティンに宿った。
狙いは一人。
なのはだ。
デストロイのリフレクターが破れたとして、砲台さえ潰せば――

「させ!! ない!!」

キラの背の10の翼がほどけていく。
伸びるのは、真っ赤な鳥の翼。

「ギガント!! シュラーク!!」

デストロイに鉄槌が下る。
デストロイを護る盾が砕けた。

「核を凌げ!! レヴァンティン!!」
『ETERNAL BLAZE』
「フリーダム!! 護って!!」
『BRAVE PHOENIX』

不死鳥の翼が、絶対的な炎の砲撃とぶつかる。
拮抗。
一瞬だ。
不死鳥の翼が破れた。
森羅万象を滅ぼす炎が、なのはに走る。
キラが止めた時間を使い、ギリギリの所でリンディが割って入った。
シールド。
爆炎。
リンディとなのはは、

「リンディさ 「今は前を見て!!」

生きていた。
3つの桜色の球。全て、スターライトブレイカーの種だ。
レイジングハートが振りかぶられた。

「スターライト!!」

スピリチュアルガーデンがほどけていく。
リンディのダメージが酷い。両手の火傷は、炭化さえしている。

「ブレイカー!!」

レイジングハートが振り下ろされた。
極大の魔力が3つ、戦場を突き抜けた。
3つのスターライトブレイカーの焦点はデストロイ。
その内の2つの進路に、デストロイの腕が割り込む。
デストロイと同種のリフレクターシールド。
一本が、デストロイに通る。デストロイの装甲が派手に削れていった。ボディがえぐれ、機械の中身が遠目から見えてくる。
デストロイの腕がどちらも爆裂。
だが二本のスターライトブレイカーは、防がれた。

「まだ!!」
『A.C.S Stand by』

レイジングハートからストライクフレームが突出。
デストロイの砲門が輝く。
ドライツェーン。
街さえ焼く閃光がなのはに向けられた。
はやて飛んだ。それに合わせて、カラミティが、ジャスティスが、フォビドゥンが動く。

「なのはちゃん!!」

ドライツェーン、発射。
進路にははやて。
そして、クルーゼ。

「うおおおおおおおお!!!」

なのはをかばうはやて。
そして、はやてをかばうように、クルーゼ。
プレシアの杖が、膨大すぎる光を受け止めた。
ビシリと、嫌な音。

「クルーゼさん!!」

はやてがすぐにクルーゼの防壁に加担。
10秒を超える照射に、プレシアの杖にひびがはいる。
20秒。
耐え抜いた。
クルーゼの体が消滅しかねない威力だったが、耐え抜いた。
だがクルーゼも力を使い果たしたかのように崩れた。

「クルーゼさん!!」

クルーゼの体をはやてが抱けば、プレシアの杖が、砕けた。
八つの蒼い光が、紫の宝玉から飛び出すのとジャスティス、フォビドゥン、カラミティがはやてに襲い掛かったのはほとんど同時。

「はやてちゃん!!」
「あれは! ジュエルシード!?」

あ。
そう、声に出そうとした時、はやてはどうしようもない死の気配を感じた。
不思議と、恐怖はなく。夢でも見てる気分だった。
すぐそこに、フォビドゥンの大きな鎌。
狙いは首だ。

(あ、死んでまう)

シュベルトクロイツから3つの光が飛び出すと、プレシアの杖から解き放たれた8つの光が交わる。
3つのリンカーコアと3つのジュエルシードが触れあうと、まるで花開くように、閃光。
中から飛び出すのは、3人だ。
甲高い音を立てて、フォビドゥンの鎌が止まった。
阻む物は、鉄槌。

「あ」
「てめぇ……」

受け止めたのは、紅の鉄騎。
その後ろ姿に、はやてが涙すし、蒼き狼と烈火の将の背中に嗚咽を漏らす。

「ああああああ!!」
「はやてに何しやがる!!」

鉄槌が閃く。
フォビドゥンの頭部が砕けた。
カラミティが鋼の軛に貫かれる。
ジャスティスがレヴァンティンに斬り伏せられる。

「行け! なのは!!」
「往け! 高町!!」

シグナムと、ザフィーラの声を聞いて、なのはが頷く。
力強く。

「行くよ、レイジングハート!!」
『Yes my master』
「リリカルステップ!」

なのはが宙を踏むような仕草。
かかとを中心に、桃色の波紋が広がった。
タン、タン、とリズムを取れば、飛んだ。速い。
直線の先は、デストロイ。

「バルディッシュ、なのはに合わせて!」
「Yes sir」
「イノセントスターター、セット!」

フェイトの足に宿るのは金色。
紫電を踏んで、飛び出した。疾い。
なのはと並ぶ。
再度展開されたデストロイの防壁が、2人の構えるストライクフレームとバルディッシュザンバーが触れる寸前で砕けた。

『『Break Impulse』』
「行け!! 2人とも!」

道を開くのは、クロノ。
目指すのはスタライトブレイカーの一本が通ったダメージ部位。
辿りつけば、2人がデバイスを構える。
なのはの魔力がバルディッシュザンバーに流れ込む。

「全力全開!」

さらにフェイトが自身の魔力を上乗せしてバルディッシュを振るえば、その斬撃にデストロイの傷が広がる。

「疾風迅雷!」

そのダメージ部位へと、フェイトの威力放射。
それに重なる、なのはの砲撃。

「「ブラスト!!」」

今、

「「シュート!!」」

デストロイが崩れた。

「どいつもこいつも……!!」

再度、レヴァンティンを構えた。
その矛先は、はやて。
もはや、トライアに何も残っていない。
ほとんどが自棄で、そして乾坤一擲の一発だ。

「死ね……死ねよ!!」

先ほどに勝るとも劣らぬ炎熱がレヴァンティンに宿る。
それに立ちふさがるのは、キラ。
はやてと、そして彼女の直線上にはアースラがあるのだから。

「死ね……お前も……みんな!! 全員死ねええええ!!」

死ぬ覚悟は、もうできていた。

――私はずっと自分の命ばかりだった。戦争を終わらせる鍵なんて、考えればどういう物か分かったはずなのに……冷静で、他の誰かの為の、そうね、例えば死ぬ勇気があの時の私にあれば、きっと核は撃たれなかった

今なら、分る気がする。そう思いながら、キラの脳裏には、種子のイメージ。重なって、幼いエルとフレイの顔が思い浮かんだ。そして、アリサ。結局、いろんな局面でキラは船を護ると言う最後にたどりつくようだ。
種子が砕けた。
破れた翼が、再び伸びていく。
真っ蒼な、不死鳥。

「行こう、フリーダム」
『OK Kira』
「『BRAVE PHOENIX」』
「『ETERNAL BLAZE」』

炎と、不死鳥が再びぶつかる。今度は、全身を向けて不死鳥が炎に突っ込んだ。

「はははははははははははは!!」

さっき、砕けたもろい鳥だ。
今度も、今度こそ。
狂った笑いがトライアから、零れた。
その笑いが止まったのは、炎を割いキラが飛翔してきたから。
火傷もある。ダメージもある。
それでも、キラは止まらない。

「おおおおおおおお!!」

不死鳥の残骸とも言える魔力が手に宿ってくる。
強く、強く握りしめて、サーベルの形に整えた。
専心の一刀は、とても奇麗にトライアの体を振り抜けた。

『BLADE PHOENIX』

トライアの体が2つに分かれ、宙に溶けて消えた。
残ったのは、光の卵。
その周囲に無数に展開されるのは、転送魔法陣だ。

「しまった!?」
「逃がさんよ」

だが、その魔法陣に割り込んで光の卵を掴んだ者が一人。
クルーゼだ。

「もう終われ、光の卵」

さらさらと、クルーゼの体が光にほどけていく。
光の卵が作ったクルーゼの体だ。接する今なら、分解もできるのだろう。

「クルーゼさん…!!」

フッと、キラの体から何かが抜けていく気がした。
いや、抜けた。
だって、キラが目にしたのは、赤い髪。幽かな残滓を残して、キラから飛び出した誰かはその手をクルーゼの手に重ねた。クルーゼの分解が、遅くなる。

「いいのかね? 彼についてあげていないで」
――とっくに、私なんて必要ないわ
「そうか……」

誰かはそう答えた。
何かが抜けた拍子に、キラが漂いはじめる。飛翔魔法が効かない。
と、言うより、魔法が使えない。
それをシグナムが受け止めた。
周りを見ると、みんないる。
クルーゼと、赤い髪の誰かは視線を一つにしてはやてを見た。

「君が、終わらせるんだ」
「……はい」

シュベルトクロイツが高く掲げられた。
決意の光がその瞳にあった。

「クルーゼさん」
「……そんな顔をするな。そもそも我々は、死人だ。今までが不自然だった。そうだろう?」
「……」

クルーゼの隣。一緒に光の卵を抑えつけている誰かが、微笑んだ気がした。

「クルーゼさん……フレイ……」
「……」
「……また……また!」
「……ああ」

キラの言葉にクルーゼが、笑った。
もう、下半身は光に溶けて、ない。それでもクルーゼとその隣のフレイは穏やかなものだった。
はやてが、魔法陣を伴って高らかに詠う。
闇がシュベルトクロイツに集い、純白の光となる。その魔力の輝きが、今のキラにはひどく眩しい。

「光の卵……夜天の書が生み出してしまったものは悲しみばっかりやった。せやから、その使命は分かる。痛いほどに」

ギュッと、シュベルトクロイツを握りしめる力が強くなる。
クルーゼの姿が、どんどん消えていく。

「けど……もう、終わりや。夜天の業も、光の使命も……これまでの悲しい歴史も、これで終わらせる! あたしが、闇も光も背負って終わらせる! これまでに死んでいった人たちのためにも!!」

ベルカの魔法陣と、ミッドチルダの魔法陣が力強く回る。
闇と光を混ぜた光が3つ、ベルカの魔法陣に宿る。

「響け!! 失われた者たちへの鎮魂歌!!」

またね。
そう、涼やかな声がキラには聞こえた気がした。
もう一度だけ、フレイ、と呟いた声はきっと誰にも聞こえなかっただろう。

「ラグナロク!!」

滅びの閃光が光の卵を貫いた。その奔流の中で、クルーゼの口元は優しげなもの。
満ち溢れていく光にキラが目を閉じ、そして次に開いた時には、何もなかった。
ただ、静寂。
それが、戦いの終わり。