魔動戦記ガンダムRF_11.5話後編

Last-modified: 2011-08-13 (土) 22:57:06

遺伝子によって生み出されたコーディネイターと、自然に生まれたナチュラル。共に人間でありながら、お互い戦いあう両者によってコズミックイラは大きく二分されていた。
そんな戦いと憎しみの渦巻く世界であっても、自分の道を信じ、ひたすら生き抜く者達がいた。
ある者は、モノを生み出すジャンク屋であった。
ある者は、力なき者の剣となる傭兵であった。
ある者は、自由のない世界で人々を導く政治家であった。
ある者は、人々に真実を伝えるジャーナリストであった。
ある者は、故郷の為に奮走するマーシャンと呼ばれる者であった。
そしてある者は……“力とはなんなのか?”“自分は何のために戦うのか?”そうして思い悩む若い戦士であった。
人々はそんな彼らの物語を、“SEEDの物語”の本筋とは違う、“王道ではない”という意味を込めて“Astrayの物語”と呼んでいた。
この物語はそんな彼らが、ある少女と星を見上げる者に出会ったことにより、本来関わるはずがなかった“SEEDの物語”の登場人物と深く関わっていく物語である……。

 

スウェンがザフト軍基地にやってくる一週間前、夜の連合軍基地周辺をある汚い身なりの少女が彷徨っていた。
「急がなきゃ……これを……管理局に……。」
少女は端末を手になにかを呟きながら歩いていたが、力尽きたのかそのまま前のめりに倒れてしまった。
「う…………おとうさ………………。」
そして少女は意識を失う直前、ある巨大な二機のMSが目に入った。
「へ……び……?」

 

「劾!こんなところに女の子が倒れているぜ!」
その一機の内のMSのパイロット、美形な顔に傷が入った男、イライジャ・キールは乗っていたザクから降り、その少女の元に駆け寄る。
「…………。」
「おいお前!大丈夫か!?」
イライジャは倒れている少女の体を揺さぶる、彼女は息をしているものの、気絶しているのか返事をすることはなかった。するともう一機のMSがイライジャに指示を送る。
『イライジャ、一度その子を連れて帰るぞ。』
「わかっている……ん?」
その時イライジャは、少女の手になにかの端末が握られていることに気付く。
「何だこれ……?どうしてこの子がこんなものを……?」

 

その数時間後、拠点である連合軍基地に戻ってきたイライジャ達は仲間達に事情を説明して、少女を医務室に寝かせていた。
「どうやら疲労が溜まっていたみたいね、熱がちょっとあるみたいだけどぐっすりと眠っているわ。」
「そっかー、よかったー。」
少女の様子を見ていたイライジャ達の仲間、ロレッタ・アジャーの報告を受けて、その場にいたメンバーはほっとした表情になる。そしてロレッタの娘の風花がイライジャ達に質問してくる。
「ねえ劾、イライジャ、あの子何者なのかな?ゲリラにしてもここら辺に来るとは思えないし……。」
「さあ?迷子かなんかじゃね?こんなの持っていたけどな。」
そう言ってイライジャは少女が持っていた端末を皆に見せる。
「……。」
「あら?なにかしらこのメモリ……?」
「大事そうに持っていたからな……、もしかしたら相当重要な情報が入っているのかもしれねえな。」
「ふむ……とにかく、あの嬢ちゃんが起きるまで覗かんほうがいいな。」
そう言って彼らの仲間の内の一人、リード・ウェラーはウイスキーの栓を開ける。
「あー!リードまたお酒飲んでるー!」
「うるせーかざっぱな。俺はこれがなきゃやってらんねーんだよ。」
「もう……。」
その時、彼らのいる部屋に連合の制服を着た白髪の青年が入ってきた。
「協力者サーペントテールの皆さん、150秒後にミッションルームに来てください。」
「ソキウス?一体どうしたんだ?」
「いえ……実はオーブのミナ様から通信が来ているのです。」
「ロンド・ミナ・サハクが……?」

 

数分後、サーペントテールの面々はミッションルームでミナと呼ばれる女性の通信を受けていた。
『久しぶりだな、サーペントテール、劾叢雲。』
「オーブの影の軍神が俺達にどのようなご用件だ?」
リードはウイスキーをグビリと飲みながらミナに質問する。
『貴様等は……先日のオーブの時の方舟の事件を知っているな?』
「ああ……。」
「そういえばセイランの人達も捕まっちゃったんだよね……大丈夫なのかな?」
『あのボンボン共のことはどうだっていい……とはいかんか、我等も必死で奴らの行方と正体は調べてはいるんだがな……いかんせん奴らは解らないことが多すぎる。自らを魔法使いと呼んでいるしな。』
「あの時のニュース映像みたけどびっくりしたぜ、もうファンタジーだったな。」
そしてミナは本題に入る。
『そこでだな……お前達に我等の手伝いをしてほしいのだ。』
「手伝いって……俺達に時の方舟と戦えってのか?」
『昔弟がとった杵柄というやつでな、連合にも協力してもらえるよう裏から口添えしたのだ。ミネルバも協力してくれている。だが奴らの戦力は未知数だ……準備できるものはなるべくしておきたいのだ。』
「……。」
サーペントテールのリーダー格である叢雲劾はミナの依頼にしばらく考え、そして答えを出す。
「……しばらく待ってくれ、まずはここの仕事を片付けてからだ。」
『なるほど……一度依頼された任務は最後までこなすというのだな。さすがは最強の傭兵だな。』
「ふ……。」
『わかった、この件は保留にしておこう、だが……待っているぞ。』
「ああ。」
そしてミナが映っているモニターが切られる。
「よかったのか劾?結構な額の仕事になっただろうに……。」
「奴はそんなに弱い女じゃない、まあ……いずれ受けるつもりだがな。」

 

そんな劾の様子を見て、風花とイライジャはこそこそ話を始める。
(ねえイライジャ……劾とミナさんってなんかあやしいよね。)
(お前は……そういうの好きだよなー、まあ確かにあいつらはなんというか……。)
「俺がどうしたって?」
「「ひゃい!!?」」
突然話しかけてきた劾に驚く風花とイライジャ。
「わ……私あの子の様子見てくるねー!!」
「あ!俺も俺も!」
そう言って二人はミッションルームから出て行った。
「元気ねー、あの二人。」
「まあ若いしな。」
「…………。」
「協力者劾、あの子とは……?」
「ああ、実はな……。」

 

『ルネ……!ルネ……!』
『お父さん……!』
『お前はここから脱出し……奴らの情報を管理局に伝えるのだ……!』
『お父さんはどうするんですか!?一緒に逃げましょう!』
『私は……奴らを止める!奴らの目指す世界は私の目指す世界とは違うのだ……!』
『い、いやです!私も残ります!』
『我儘を言うんじゃないルネ!お前は自分がやるべきことをやるのだ!』
『お……お父さん!お父さん……!!』

 

「お父さん!」
「うお!?」
「きゃあ!?」
少女の様子を見に来た風花とイライジャは、突然目を覚ました彼女に驚きひっくり返ってしまう。
「え……!?ここは……!?」
少女はベッドの上で辺りをキョロキョロと見まわす。
「ここは東アジア地区の連合の基地だよ、私は風花・アジャー、アナタの名前は?」
風花はなるべく少女に警戒心を持たれないよう、やさしい口調で彼女の名前を尋ねる、だが少女はベッドから降りて部屋を出ようとする。
「ちょ……!どこいくんだよ!」
「は……放してください!私は……私はオーブに……うっ……!」
すると少女は突如目眩に襲われ、その場で膝をついた。
「だ、駄目よアナタ!まだ熱があるのよ!」
「くぅ……私は……急いでこれをとど……け……!?」
そのとき少女は自分の服を弄り、あるものを探していた。
「な……ない!?メモリがない!?あ……あれがないと……!」
「メモリって……これのことか?」
そう言ってイライジャはポケットの中から少女が持っていたメモリを取り出す。
「……!!返してください!!」
少女はそれを奪おうとするが、イライジャに軽くあしらわれてしまう。
「まてよ……!一体これはなんなんだ?君はオーブに一体何の用なんだ?」
「あ……アナタ達には関係ないことです!ここが連合の基地だというならなおさら……!」
「わかったよ!とにかく落ち着け!」
イライジャは少女を抱え、彼女をベッドに寝かせる。
「くっ……!」
「わかった、俺達はあのメモリの中は見ないし、君の正体も詮索しない!だからちょっと落ち着け!このままじゃ死ぬぞ!?」
「……わかりました。」
少女はイライジャの言葉に大人しく従う。
「まったく……風花、俺は劾達に報告に行く、彼女を見ててやってくれ。」
「うん、わかった。」
そう言ってイライジャはその場を風花に任せ、病室を出る、するとすぐさま劾と鉢合わせになる。
「劾……。」
「…………お前にしては上出来だな。」
「へっ、いつまでもお前に頼り切りってわけにはいかないからな。」
こうして少女はサーペントテールの面々に保護され、具合のよくない体をゆっくりと治すことになった。

 

そして一週間後……。
イライジャは基地の格納庫で、自分の機体に乗り込み調整を行っていた。
「んー、やっぱ劾みたいにいかねーな……ん?」
ふと、イライジャはモニターに格納庫にいる風花とロレッタとあの少女が映りこんでいることに気付いた。
「あいつ……見学か?」
数十分後、調整を終えたイライジャは彼女達の元に駆け寄る。
「よう!体はもういいのかい?」
「あ、イライジャ!」
「……どうも。」
少女は無愛想ながらもイライジャに一礼する。
「あはは……随分とまあ嫌われたな。」
「だめだよルネちゃん、この人はルネちゃんを見つけてくれた人なんだから……。」
「そうなんですか?」
「ルネ……?」
イライジャは風花が少女をルネと呼んでいたことに首を傾げる。
「ああ、この子ルネって言うんだって、お母さんが聞いたの。」
「話してみると中々素直よ、この子~♪」
(この人には敵いません……。)
「へー、そうなんだ。」

 

ふと、ルネは置いてあったMSに目を向ける。
「風花さん達は……傭兵なんですね。」
「そ!私達はサーペントテール!この世界のありとあらゆる戦場を駆けまわる傭兵なんだよ♪」
風花が誇らしそうに名乗る、だがルネは何か考え込んでいた。
「やっぱり……この世界でも私の国みたいなことが繰り返されているんですね……。」
「…………?」
そのルネの暗い表情を、イライジャは見逃さなかった。
「どうした?もしかして故郷のことでも思い出したか?」
「…………。」
イライジャの言葉にルネはしばらく黙りこみ、そして口を開いた。
「私の生まれた国も……毎日毎日戦争ばっかりでした、銃を抱えて眠ることも日常茶飯事でしたし……。」
「「「………。」」」
ルネの話を、イライジャ達は真剣な表情で聞いていた。
「結局……人間はどこに行っても争いをやめることはできないんですね。」
「お前は随分と戦場のことを知っているんだな。」
そんな彼らの元に、劾がやってきた。
「劾……。」
「あなたは……サーペントテールのリーダーの……。」
ルネは劾の姿を見ると、彼に質問をぶつける。
「アナタ達は……どうして自ら戦場に向かうのですか?いつ命を落としてもおかしくはないのに……。」
すると劾の代わりに風花が答えた。
「うーん……私達は傭兵だから誰にでも雇われる、だから敵味方が状況によってかわるから……何と戦うか、何を守ればいいか違った視線で考えることができるの。」
「まも……る……?」
「俺達には力がある……だから力無き者達の剣になることができる、だから俺達は傭兵になったんだ。」
「…………。」
風花と劾の言葉を聞いて、ルネは一言つぶやく。
「そうした……戦い方もあるんですね。」

 

ズズー……ン

 

その時、遠くから轟音が響いた。
「な、なんだ!?敵襲か!?」
「ゲリラの基地がある方角よ!」
「……!」
その時、ルネは基地の外の様子を見に駆けていった。
「あ!ちょっと!」
そんな彼女の後を風花が追いかける。

 

基地の外に出た彼女達は、遥か上空にジンの頭を付けた丸いモビルアーマーが浮かんでいるところを目撃する。
「な……何!?あのモビルアーマーは……!?」
「時の……方舟……!」
「え?」
すると彼女達を追いかけてきた劾が、ルネに問いかけてきた。
「お前……あのモビルアーマーのこと、何か知っているのか?」
「…………あのモビルアーマーは“イノセントアプサラス”……時の方舟の物です。多分私を探しているんでしょう。」

 

それから数十分後、アプサラスに薙ぎ払われた森の現場検証に来たサーペントテールは、そこでスウェン達に出会うのだった。

 

「じゃあ、君は時の方舟の仲間なのか?」
森で劾達サーペントテールと遭遇したスウェン達は、彼らをゲリラの基地に招きルネから事情を聴いていた。
「はい……私達は彼らにある技術を提供して、この世界とミッドチルダの世界を変えようとしていました。でも……父は……トレディア・グラーゼは彼らのやり方に疑問を持ち、私達が持つ限りの情報をこのメモリに記して、私を彼らの隠れ家から脱出させてくれたんです。」
「…………。」
スウェン達はルネの話を黙って聞いていた、そして同席していたバリーとトロヤが口を開く。
「ということは……あのモビルアーマーは君を始末するための刺客だというのか……。」
「ひでえ!ただそれだけのために森を焼き払ったのか……!」
憤るトロヤ、その時、森の様子を見に行っていたノワールとアギトが戻ってきた。
「ただいまッス~♪」
「!!?」
「うお!?妖精!?」
「ユニゾンデバイス……!?」
劾とイライジャとルネは、初めて見るノワールらユニゾンデバイスに驚く。
「ノワール……様子はどうだった?」
「ええ、アギトと一緒に様子を見てきましたが……動物達に被害はなかったッス。あの砲撃は非殺傷設定が掛った魔力によるものでしょうね。」
「そうか……。」
「ノワール……!?」
その時ルネは、スウェンがノワールと話しているところを見て、あることに気付く。
「貴方はまさか……スウェン・カル・バヤンですか!?」
「「スウェン……?」」
バリーとトロヤは聞いたことのない名前に首を傾げる。
「……俺の本当の名前を知っているのか……。」
「はい……貴方は時の方舟が言っていた“候補者”のうちの一人ですよね?」
「お……おい!ちょっとまてよ!お前ら一体なんの話をしているんだ!?全然付いていけねえよ!」
「できれば俺達にもわかりやすく説明して欲しいのだが……。」
劾達の質問攻めに、スウェンはやれやれといった感じで答える。
「いいだろう……アンタ達に俺やこいつらのこと、しっかりと説明してやる。信じてもらえるかどうかわからないがな。」
そしてスウェンはノワール達のこと、魔法のこと、ミッドチルダや異世界のこと、そして自分の正体をすべて劾やバリーに洗いざらい話した。
「これが……俺達が見てきたすべてです。」
「「「「…………。」」」」
その場にいた者達はスウェンの話を聞いて呆けていた。
「い、いや、異世界とか魔法とか言われても……。」
「だが……実際にここに非常識の塊が二匹浮いているしなー。」
「非常識とか言われちゃってるッスね、アギト。」
「おめえも含まれているんだよ!」
「俺は自分の目で見た物を信じる。」
「まあ……俺は魔法のことは以前教えられていたしな、君がそんなウソをいう男には見えん、拳を合わせたときにそう感じていたからな。」
「ありがとう……。」
スウェンは自分の話を信じてくれた劾達に一礼すると、改めてルネと向き合う。
「それで君はこれからどうするんだ?」
「……この場を去ります、私の目的はオーブにいるという管理局の人間にこのメモリを渡す事ですし……。」
「なあ、ちょっと待ってくれ。」
スウェンはルネを手で制すると、彼女にある提案をする。
「俺は……あのアプサラスに乗っていたあの少女と少し話がしたいんだ、それにあんな危険なモビルアーマー、あのままにしておくわけにはいかない。そこで……君に協力してほしいことがあるんだ。」
「私に……協力?」

 

それから一時間後、スウェンはノワールとアギトを乗せて夜の密林地区の上空をIWSPを装着したストライクで飛行していた。
「ノワール…索敵はどうなってる?」
「はいッス!この先にさっきのアプサラスとかいうモビルアーマーの反応がするッス!後……。」
「……やっぱり、お前も感じていたか。」
「はい、あのモビルアーマーから、なんだか懐かしい魔力を感じました。あのモビルアーマーには……。」
「………。」
「なあ、ちょっといいか?」
その時、座席の後ろにいたアギトが二人に話しかけてくる。
「ん?どうかしたのか?」
「いや、その……ノワールに話があってよ……。」
「Oh、もしかして告白ッスか~?」
「そうじゃねえ!あのさ、お前さ……。」
そしてアギトの次の言葉を聞いて、ノワールは表情を凍りつかせる。

 

「お前ってさ……ホントにユニゾンデバイスなの?」

 

「………!」
「?どうしてそう思うんだ?」
「いや、なんかさ……お前の魔力の感じって私達のとはなんか違うんだよ、こう言葉にするのは難しいんだけど……。」
「…………。」
その時スウェンは、ノワールと初めて出会った時のことを思い出していた。

 

『オイラはそんじょそこらのデバイスとはちがう、最新型の“G”ユニゾンデバイスなんだ!』

 

(そういえばそんな事言ってたな……思えば調べれば調べるほど、こいつは普通のユニゾンデバイスとは違うんだよな。リインフォースとはやての場合、うまく合わずにあんな呪いが掛かっていたが……俺達にはそんなこと一切ない。)

 

『この子の名は“ノワール”、貴方の剣の名前です。』

 

(やっぱり“彼女”はノワールの事、何か知っているのか?今度会った時、一度聞いてみるか。)
「ぐすん!ひどいッス!ノワールはノワールッスよ~!」
「嘘泣きは通じねえぞ。」

 

そうこう言っているうちに、スウェン達を乗せたストライクは目的地に到着した。
「…………。」
スウェンは無言のままコックピットを降りる、すると彼の目の前に、金髪の少女……アリシアが現れた。
(彼女がそうなのか……確かにフェイトに似ているな……。)
「こんにちは、スウェン・カル・バヤン、まさかアナタから私の元にやってくるなんてね、何?私の魅力に惹かれて仲間になる気になったの?一度カシェルの誘いを断ったのに?」
「すまんが俺は星一筋で彼女作る気はまだない。」
「へえ?じゃあ何の用?」
「お前を……。」
その時、スウェンの背後の暗闇から二本のワイヤーが飛び出し、それはアリシアの首と胴体に巻きついた。
「お前をさらいに来た。」
「わお!性格に似合わず情熱的なのね!」
「動くなッス!動いたら……首と体がサヨナラするッス!」
スウェンの背後から出てきた大人フォームのノワールは、手からアンカーランチャーを出しながらアリシアに警告する。
「お前は人質としてどれほどの価値があるんだろうな。」
「んふふー。」
アリシアは自分が縛られているにも関わらず、余裕の表情を見せていた。その時……。

 

スパァン!

 

「「!!?」」
突如飛来したブーメラン状の武器にアンカーランチャーを切断され、二人はその武器が飛来した方角を見る。そこには水色の髪をした整った顔立ちの美青年が背中に大剣をしょって歩いて来た。
「大丈夫ですか?アリシア様。」
「平気よ“ソード”。」
「ソード……?」
スウェンは突如現れた美青年を凝視する。
「この子は“ソード”そこのストライクの追加パックである“ソードストライカー”がモデルの量産型ユニゾンデバイスよ。」
「量産型……!?」
するとアリシアの背後から、ソードと同じ顔をした赤の髪をした美青年と、緑の髪をした美青年が現れた。
「なるほど……、そっちはエールとランチャーをモデルにしているのか……。」
「ふふっ!ご名答よスウェン・カル・バヤン!貴方は私達にとって脅威……仲間にならないっていうなら、ここでこの子達に葬ってもらいなさい!」
するとソードは大剣を持ってスウェン達に向かって構える。それに呼応するかのようにランチャーとエールはアリシアを守るように彼女の前に立つ。
「うふふ、2人で来たのは誤算だったわね、仲間を呼ぶ暇もなさそうね。」
「………ふっ。」
自信満々といった様子のアリシアを見て、スウェンは不敵に笑う。
「な、なによ!なにがおかしいの!?」
「いや……俺達は別に、仲間を連れてきていないとは言っていないぞ?」
「いまッス!アギト!」

 

「いよっしゃー!!」
ノワールの合図に呼応したアギトはストライクのコックピットから飛び出し、天高く魔力の籠った魔力弾を投げた。

 

パァーン!

 

するとその魔力弾は花火のように破裂する。すると遠くから何機かのMSが森の間を駆ける音が聞こえてきた。
「これは……!?」
「事前にここの事を連合とゲリラ、そしてザフトの軍に伝えておいた。お前達は袋のネズミだ。」

 

~ザフト軍~
『アレック!本当にあのヤガミとかいう傭兵!信じられるんだろうな!?』
金色のグフイグナイテッドに乗った金髪のブロンド髪の男。ルドルフ・ヴィトゲンシュタインは、隣で並走している白いケルベロスバクゥハウンドに乗ったアレック・ラッドに話しかける。
『ああ……奴はあれでも、これまで様々な戦場を駆けて生き残ってきた歴戦の勇士だ、このような奇襲は私の本意ではないがな……。』
『ふん!まあいい……“華麗なる英雄”と呼ばれた僕の戦い!しっかりと連合とゲリラ、時の方舟とやらに見せてあげようじゃないか!』

 

~ゲリラ軍~
『師匠!ホントに俺達だけで出撃してよかったんですか!?仲間達も呼んだほうが……!』
グリーンフレームに乗ったトロヤはシビリアンアストレイに乗ったバリーに話しかける。
『この暗闇の中、乱戦になれば同士討ちの可能性だってあるんだ、この奇襲はデメリットも含んだ危険なもの……心してかかれよ!』
『は……はい!』

 

~連合軍~
劾が乗ったハイペリオンGと、イライジャが乗ったザクウォーリアは少しずつ花火が上がった地点に近づいていた。その間に、劾は基地で待機しているリードから通信を受けていた。
『劾!もうすぐあれが届く!それまでそのハイペリオンで戦っていてくれ!』
『了解した……。』
『時の方舟か……あんなモビルアーマーに俺達は勝てるのか。』
『イライジャ、俺達が倒れれば剣を持たない者を守るものが無くなってしまう、やるしかないぞ。』
『わ、わかってるよ!』

 

「さあどうする?お前達は囲まれているぞ。」
「ちぃ!裏切り者捕まえにきただけなのにこんなメンドクサイことになるなんて……しょうがない!アプサラス!」
すると上空に魔法陣が展開され、そこからアプサラスと護衛のケンプファー十機が召喚された。
「エール!ソード!ランチャー!後は頼んだわよ!」
「「「かしこまりました。」」」
そしてアリシアの足もとに魔法陣が展開され、彼女はその場から消え去った。
「アニキ……。」
「アプサラスは彼等に任せよう、俺達は……。」
「はぁー!!」
その時、ソードがスウェン達に駆け寄り、剣を振りおろしてきた。
「おっと。」
スウェンはそれをバックステップでかわした。
「行くぞノワール。」
「イエス、マイスタースウェン。」
「「セットアップ!」」
ノワールはスウェンの体の中に入る、するとスウェンの背中から黒い鉄の翼が生え、手には二丁の銃が握られる。
スウェンはそれを使ってソードとエール、そしてランチャーに銃撃を加えるが、彼等が展開した魔力壁によって阻まれた。
「小手先じゃだめか……。」
『なら重い一撃を加えるまでッス!』

 

一方その頃、アプサラスが出現した地点に集結した劾達は、時の方舟の軍勢と激闘を繰り広げていた。
『くらえー!!』
トロヤはグリーンフレームのビームライフルのビーム弾をアプサラスにむけて放つ。
だがそれはアプサラスに装備されたビームコートによって防がれる。
『な……なんだよありゃあ!!?』
『どうやらビーム兵器は効かないようだな。』
『なら僕のスレイヤーウイップを受けたまえ!!』
そう言ってルドルフの乗る金色のグフイグナイテッドはアプサラスに向かって高く跳びあがり、取り付けられたジンの頭をスレイヤーウイップで破壊する。
ドゴォン!
『ぐお!?』
その時、グフの横からケンプファーが飛びつき、二機とも地上に落下していった。
『ルドルフ!』
『まだくるぞ!!』
劾達は次々と砲撃してくるケンプファーにビームライフル等で応戦する。
『こう数が多いと……!』
バコォン!
その時、バリーの乗るシビリアンアストレイが背後からの砲撃により大ダメージを受ける。
『師匠!』
『大丈夫だ……!』
バリーはコックピットから飛び降りる、そこに一機のケンプファーがチェーンマインを振り降ろしてきた。
『師匠~!!』
「はあ!」
だがその攻撃を、バリーは常人とは思えないほどの跳躍でかわし、そのままケンプファーのモノアイにとび蹴りを食らわせる。
『す、すげぇ~!』
「余所見をするなトロヤ!敵はまだいるんだぞ!」
『はい!』
そしてトロヤは向かってきたケンプファーをグリーンフレームの拳で破壊する。
『くるなら来い!俺が全部ブッ飛ばしてやる!』

 

『劾どうする!?こいつら数が多すぎる!あのデカブツにも攻撃がまったく通らないし……!』
『…………。』
その時、劾のハイペリオンにリードから通信が入る。
『またせたな劾!派手に送るぜ!あたるなよ!』
『了解だ。』
その時、上空から一機のMSが飛来し、劾のハイペリオンの前に着地した。
『あれは……ブルーフレーム!』
『イライジャ、乗り移るから援護してくれ。』
『わかった!』
そしてイライジャのザクは劾のMSの盾となるようにケンプファーの軍勢に立ちはだかった。
そして大剣を両腕に装着したMS……ブルーフレームサードに乗り込んだ劾はそのままケンプファーの軍勢に突っ込んでいき、次々とそれらを薙ぎ払っていった。
その光景を見ていたアレックは思わずポツリと言葉をもらす。
『あれが……サーペントテールの叢雲劾か……!』
劾はそのまま空中を飛行しているアプサラスにとびかかり、その大きな機体に大きな傷を付ける。するとアプサラスを纏っていたビームコートが消失する。
『厄介なシールドは破壊した、あとは……。』
すると、アプサラスの機体の中心に大きく取り付けられた銃口に、一筋のビームが撃ち込まれる。

 

戦場からかなり離れた見通しのよい崖、そこからレオンズの乗るシビリアンアストレイDSSDカスタムはアプサラスに向けてビームライフルで狙撃していた。
『上空の支援機からのパワーチャージ、高くつく装備だが……その費用効果は絶大!戦いに勝ったらしっかり回収させてもらうからな、ヤガミ。』

 

中から攻撃されたアプサラスは爆発を起こし、そのまま地上に墜落していった。
『終わった……のか?』
『ケンプファーもすべて破壊した、後はあのモビルアーマーのパイロットを引きずり出して、時の方舟の情報を聞き出すだけだな。』
『これぞ華麗なる英雄の僕のお陰だな!あーはっはっはっ……。』
バシュン!
『ぐおおおお!!?』
その時、ルドルフのグフの右腕が一筋の光の矢によって破壊された。
『なんだ!?MSの反応はもう……!?』
『お、おい!あれ……!!』
一同はイライジャが指さす方角を見る。そこには燃え盛るアプサラスを背景に、大きな弓を構えた女性が宙を浮いていた。
『ひ……人が空を……!』

 

「あれは……!」
一方三体のユニゾンデバイスと戦っていたスウェンも、上の様子に気付いた。
『アニキ!右!』
「!」
スウェンはすぐさま飛び上がり、ランチャーが放った特大光線をかわし、そのままショーティーの銃弾を放つ。
ドガガガガガ!!!!
「ぐぅ!!?」
スウェンの攻撃によりダメージを受けたランチャーはエールに抱えられて転移していった。
「あとはお前だけだ!」
「…………。」
スウェンはソードに向かって銃口を向ける、だがソードはそれを意に反さず、墜落したアプサラスに向かって行った。
「待て!」
スウェンはすぐさま背中の翼を展開して追いかける。
そして、上空でアプサラスに乗っていたパイロットと対峙し、大きく目を見開く。
「お、お前は……!?」
『シグナム……姐さん……!!』
「…………。」

 

スウェン達はその女性……シグナムを見て動揺する。その時ソードがシグナムの背後に現れた。
「フッ。」
「待て!シグナムに何をする気だ!」
ソードはスウェンの制止も聞かず、シグナムを後ろから抱き締める。
「ユニゾン……イン。」
するとソードはシグナムの体の中に入り込んでいった、するとシグナムの左肩にソードストライクと同じマイダースメッサーが装着され、レヴァンティンの握られていない左手にシュベルトゲベールが握られる。
「貴様……!シグナムに何を!?」
『簡単なことだよ、彼女にユニゾンして操らせてもらっているのさ。』
スウェンの質問に、シグナムの中にいるソードは彼女の声で答えた。
「お前……!姐さんの体を……!」
『彼女の体……素晴らしいね、かなりの強さを秘めている……ゾクゾクしてきたよ。』
『野郎!!』
そう言っている間に、ソードシグナムはスウェン達に突撃し、二本の剣を振り降ろす。
ガキィン!
「ぐ……!」」
『重……!!』
ソードシグナムの攻撃をフラガラッハで防ぎ顔をしかめながら、スウェン達は彼女のわき腹に蹴りをお見舞いする。だが……。
『何?そのしょっぱい攻撃?』
「!!?」
ソードシグナムはそのまま前宙し、その勢いでスウェン達の脳天目がけて踵落としをお見舞いする。
「がぁ!」
スウェン達はそのまま地上まで叩き落とされてしまう。

 

『が……劾!どうする!?手伝いに行くか!?』
イライジャはスウェンとシグナムの戦いを見ながら劾に指示を仰ぐ。
『駄目だ……MSじゃ彼まで巻き込んでしまう、白兵で敵う相手でもないしな。』
『そんな……!どうすれば……!』

 

一方地上に墜落したスウェンはダメージを受けた体を必死に起こしていた。
「ぐっ……くそっ!」
『アニキ……大丈夫ッスか……!?』
その時、スウェンの首にソードシグナムから放たれたワイヤー……パンツァーアイゼンが巻きついた。
「ぐぁ……!」
『さあ……処刑の時間だよ。』
そしてスウェンは空高く放り投げられた。ソードシグナムは落下してくる彼を突き刺すためレヴァンティンとシュベルトゲベールを構えた。
「うおおぉ……!」
スウェンは自由の効かない体で必死にもがく、だが二本の剣はどんどんスウェンに近付いていた。
(やられる……!)
スウェンは覚悟を決めて目をギュッと閉じる。

 

「させっかー!!!」
『!!!?』
その時、ソードシグナム目がけて赤い炎が放たれ、彼女は大きく怯んだ。
「うお!」
スウェンは二本の剣の餌食になることなく、そのまま地面に落ちた。
「くぅ……!お、お前は……!?」
スウェン達は自分達を助けてくれた人物を見て驚く。
『アギト!!?なんでここに!?』
『ユニゾンデバイス……!?』
スウェン達を助けたアギトはそのままソードシグナムに向き合う。
「へへへ……旦那には色々と世話になったしな、それに……なんかあの女、気になるんだよ。」
『…………。』
するとスウェンはアギトの元に駆け寄り、彼女に話しかける。
『アギト……オイラ達に力を貸してくれるか?』
「へ?」
「ノワール、一体何を……?」
その時、スウェンの体から出てきたノワールはアギトの手を掴み、そのままスウェンの体の中に引きずり込んだ。
「うおおおお!?」
「おい!?ノワール!?」
するとスウェンの背中の鉄の羽に炎が纏われる。
『PSジャケット展開。』
そしてスウェンの服がパイロットスーツから黒いコートのようなものに纏われる。
『な……なんじゃこりゃ!?』
『アギトの魔力を使ってバリアジャケットみたいなのを形成し、アニキの攻撃に炎属性を付加したッス。』
「なるほどな……。」
『こけおどしを!』
そう言ってソードシグナムはスウェンに斬りかかる。
『フラガラッハ!』
スウェンはそれを炎を纏ったフラガラッハで防いだ。
『レールガン……ファイヤー!!!』
そして変形させた翼から炎を吐きだし、ソードシグナムを遠くまで後退させた。
『くそっ!なんだあれは……!?』
「よし……決めるぞ!ノワール!アギト!」
『はいッス!』
『あいよ!』
スウェンは右手からアンカーランチャーを出す、するとそれは赤い炎に纏われ、蛇のような形を形容していった。
『炎蛇の牙……その身に受けろ!』
「はあああああああ!!!!!」
スウェンはそれをソードシグナムに向けてパンチを繰り出すように打ち出す、すると炎を纏ったアンカーランチャーは噛み付くようにソードシグナムの体を捉える。
『ぐああああ!!!』
そして散々振り回された揚句、ソードシグナムは炎の蛇に噛み付かれたまま地面に叩きつけられた。
「かはっ……!」
「く……ユニゾンが……!覚えていろ!」
そう言ってシグナムの体から出たソードはその場から転移魔法で逃げて行った……。
『待つッス!』
『逃がさねえぞコラ!』
「まて、先にシグナムだ。」

 

スウェンはすぐさま気絶して倒れているシグナムに駆け寄る。
「シグナム……。」
「う…ゲホッ!ゴホッ!」
するとシグナムは口からうねうねしたムカデのような生き物を吐きだした。
『うへえ!グロッ!』
「これがシグナムを操っていたのか……。」
そしてスウェンは変身を解き、シグナムをお姫様抱っこする。
「シグナム、大丈夫か?」
「おーい、起きやがれー。」
アギトは気絶しているシグナムの頬をぺちぺちと叩いた。
「ん……。」
するとシグナムは目を覚まし、スウェン達の顔を見る。
「私は確か任務中に……お前は一体?」
「まったく、俺のことを忘れたのか?」
「オイラッスよ、シグナム姉さん♪」
「え……!?」
シグナムはスウェン達に気づくと、目を大きく見開いた。
「スウェン……なのか!?見間違えたぞ……私は一体……。」
「おめえ操られてたんだからちょっと落ちつけよ。」
「ん?なんだこの赤いのは?」
「ああ……話せば長くなる。でも、とりあえずこれだけは言わせてくれ……。」

 

「久しぶりだなシグナム、また会えて嬉しいよ。」

 

その後、駆け付けたザフトと連合によりアプサラスやケンプファーの残骸、それにシグナムを操っていた生物は回収され、基地に運ばれ詳しく解析されることになった。その直後、それぞれの陣営のトップからこの地区の戦闘を中止するよう命令が下され、この東アジア地区に一時の平穏が訪れることとなった……。

 

次の日の昼、スウェンは連合軍基地のミッションルームにレオンズとサーペントテールの面々、そしてルネッサを呼び出していた。
「我々にどのような用だヤガミ?いや……スウェン・カル・バヤン?」
「レオンズさん……実は俺、貴方に退社届を渡しに来ました。」
そう言ってスウェンはレオンズに退社届を渡す。
「ほう?これはどういうことだ?別に経歴詐称のことは咎めるつもりはないぞ?」
「いえ……実は退職金でサーペントテールを雇いたいと思っているんです。」
そう言ってスウェンは劾にあるデータが入ったメモリを渡す。
「今……俺の仲間が時の方舟の情報を集めているんです。それには今まで集めたデータが入っています、そして……貴方達に俺の仲間達の手伝いをしてほしいんです。」
「仲間?」
「とある事情で仲間の名前や詳細は言えないのですが……少なくとも俺達はこの世界を救いたいと思っています。だから貴方達に協力してほしい、俺が今まで稼いだ金、すべて捧げてもいい。」
「「「「「…………。」」」」」
スウェンの真剣な頼みに、サーペントテールの面々は深く考え込む。そこでスウェンはもうひと押しとある情報を劾達に伝える。
「実は……時の方舟に囚われている人達の中に、俺の知り合いの喫茶店を営んでいる夫婦がいるんです。」
「喫茶店?」
「その夫婦が作るケーキは絶品なんだ、もし今回の依頼がうまくいったら、貴方達に御馳走してもらえるよう俺が頼んでおきます。」
「ケーキ……?そんなにおいしいんですか?」
年相応に甘い物が好きな風花はそのスウェンの提案に食いつく。
「ああ……桃子さんの作ったケーキはうまい、いや……“ギガうま”だな。」
「ギガ……!」
風花の表情を見てフッと笑った劾は、改めてスウェンと向き合う。
「…………わかった、ちょうどサハク家からも依頼を受けている。これだけ誠意を見せられたら断ることなどできないだろう。」

 

「そっか……それでルネ。」
スウェンの話が一段落して、イライジャは隣にいたルネに話しかける。
「なんでしょうか、イライジャさん……?」
「いやな、お前はこれからどうするんだ?管理局っていう組織に渡したいデータは、スウェンが持って行ってくれるらしいし……俺達はもうここを出発しなきゃならない。」
「よかったらさ、ルネも一緒に来る?私は……ルネと一緒がいいな。」
「私は……。」
風花の誘いに、ルネッサはしばらく考え込む、そして……。
「私は……貴方達の戦いを見たいです。だから……付いて行ってもいいですか?」
ルネッサの答えに、風花は表情をぱあっと明るくさせる。
「うん!大歓迎だよ!」
「これからもよろしくな!ルネ!」
「まあ、娘がもう一人増えたいたいね。」
「はっはっはっ!これからはこき使ってやるからな!」
「…………フッ。」
こうしてルネはサーペントテールの一員となり、数日後に時の方舟の調査の協力のため、彼等と共に旅立っていった……。

 

その日の夕方、スウェンとノワールはオーブに向かうため、ザフト軍基地の格納庫に置いてあったストライクに乗り込もうとしていた。
「いや~!とんだ寄り道でしたッスね~!」
「そうでもない……このデータのお陰で、奴らが一体何をしようとしているか、大体わかってきた、それに……。」
スウェンはストライクの足もとで待っていたシグナムを見る。
「スウェン……行くのか?」
「ああ、待たせたな……少し急ぐからな、舌噛むなよ。」
「わかった、それにしても……随分立派な物に乗っているな。」
「……この世界を生き残るには、魔法だけじゃどうにもならないからな。」
そしてスウェン達はコックピットに入る、するとそこには……。
「よう!遅かったじゃねえか旦那!」
「……?アギト?」
アギトが座席の上にチョコンと座っていた。
「何してるんッスか?」
「決まってるだろ~!私も旦那達に付いて行くことにしたんだ!旦那達には森を救ってくれた恩もあるし、それに……。」
そう言ってアギトはシグナムの顔をじっと見る。
「……?私がなにか?」
「いやな、アンタ……なんかほっとけないというか、運命を感じるというか……とにかく!私はあんた達に付いて行くぜ!」
「どうするんだスウェン?こいつはこう言っているが……。」
「まあ……ノワールがもう一匹増えたと思えば……。」
「へへへ♪やったあ♪」
アギトは小さくガッツポーズをとる。そしてスウェン達を乗せたストライクは格納庫の外を出て飛び立とうとしていた。そのとき……。
「あれ?なんか森の方に……。」
「え……?」
一同はノワールが指さした方角を見る、そこには何十匹もの猿達が木の上でストライクに向かって手を振っていた。
「あいつら……!ちょっと開けるぞ!」
そう言ってアギトはコックピットのハッチを開けて、猿達に手を振った。
「またなお前達―!!私がいなくても元気でやれよー!!」
『『『『『『『ウッキー!!!』』』』』』
「うーん、ファンタジーだな……。」
「なんかわからんが感動した。」
そしてスウェン達を乗せたストライクは、多くの波乱が待ち受けるオーブへと飛翔していった。

 

「と、まあ私と旦那の出会いはこんな感じかなー。」
スウェンとの出会いを話し終えたアギトは、改めてステラ達の顔を見る。
「アギトも大変だったんだなー。」
「まさに波乱万丈の人生だな……よく生きてたもんだ。」
「うん……ん?」
その時アギトは、話の途中で眠ってしまったステラを見る。
「くー……。」
「んだよ、ステラ寝ちゃってるぜ。」
その時、シグナムが持っていた毛布を彼女に掛けてあげる。そんな彼女にスティングが礼を言う。
「ああ、どうもすいません。」
「いや、別に構わんさ。」
「むにゅー……みんななかよく……。」
「こいつ……なんの夢みてんのかな?」
アギトはステラの頬をぷにぷにと突きながらひひひと笑う。
「仕方ない、起こすのもかわいそうだし、寝室に運ぼう。この子の部屋はどこだ?」
「あ、はい、今案内します。」
シグナムはステラをお姫様抱っこすると、スティングとアウルと共に彼女の寝室に向かっていった。
「あ!私も行く!久しぶりに一緒に寝ようぜー!」
そんな彼女達をアギトは追いかけていく。
「じゃあアタシは……なのはとシンのお見舞いに行くか……。」
「あ、リインも行くですー。」
そしてヴィータとリインⅡも席を立ち、食堂から立ち去って行った。