魔動戦記ガンダムRF_13話

Last-modified: 2011-08-13 (土) 22:59:02

第十三話「よみがえる翼 ~僕の名前を呼んで~(前篇)」

 
 

夜の散歩での出来事から一夜明けて、
アークエンジェルの食堂では、キラとラクスがトリィが拾ってきた青いビー玉のようなデバイスをまじまじと見つめていた。
「なんだろうこれ……?スウェンさん達はデバイスだって言っていたけど……。」
「きれいですわねー。」
「どう見てもビー玉だな。」
「だがそれで魔法が使えるんだよな?」
同席していたアスランとカガリも、そのデバイスを見つめる、そこに……。
「あ……おはようございます。」
なのはとユーノ、そしてザフィーラとシャマルがやって来た。
「あら、みなさんおはようございます。」
「おお、君がなのはか、私はカガリ・ユラ・アスハ、キラの双子の姉だ。」
「え?あ、はい……。(なんで姉弟なのに名字がちがうんだろう……?)」
なのはは戸惑いながらも、挨拶をしてきたカガリにぺこりとお辞儀する。
「あら?そのビー玉……?」
その時、シャマルはキラが持っていたデバイスに気付いた。
「そのデバイス……ノワールに似ているわね。」
「ノワールってあの妖精の?」
「どこがどう似ているんですか?球体と妖精じゃ……。」
「ああ、そうじゃなくてね……。」
そう言ってシャマルは7年前のノワールが生まれたいきさつをキラ達に説明した。
「名前を呼んだら玉が割れて……その中からノワール君が出てきたんですか……。」
「そうなの、あの時は驚いたわねー。」
「だが今はユニゾンデバイスが三体もいる……慣れとは恐ろしいな。」
「そうなんですか……。」
そう言って、キラは持っていた青いデバイスをジッと見つめる。
「じゃあこの子にも……名前があるんでしょうか?」
「恐らくな、だがそのタイプのデバイスは使っている本人にも解らない事が多いんだ、名称が“G”ユニゾンデバイスだということ以外にな……。」
「“G”……?」
「ノワールがそう名乗っていた、本人もよくわかっていないみたいだけどな。」
その時、話を聞いていたカガリがあることに気付く。
「おお!奇遇だな……私が乗っているルージュも“G”と呼ばれているぞ!」
「え?」
その言葉を聞いて、一同は一斉にカガリの方を向く。
「えと……あのアンテナが付いたMSの事ですか?」
「ええ、キラのフリーダムも、アスランのセイバーも、シンさんとルナさんのインパルスもそう呼ばれていますわ。」
「成程、アンテナに二つの目が付いていたら全部Gか……。」
「もしかして……ノワール君となにか関係しているのかも。」
そしてユーノは深く考え込んだ後、カガリにあるお願いをする。
「代表……僕にその“G”のデータを見せてくれませんか?一般公開されているものでいいんです。」
「……わかった、すぐに手配しよう。」
「ユーノ君……?」
なのはは雰囲気が変わったユーノに戸惑う、それはキラも同じだった。
「あの……一体何を?」
「いや……ちょっと僕に心当たりがあるんです。もしかしたら“遺失学”となにか関係があうのかも……。」
「“遺失学”……?」

 

その頃、アークエンジェルのMS格納庫では……。
「すっげー!これがMSか……!」
「かっこいいですー!」
ヴィータとリインⅡがスウェンのストライクEに乗り込んでいた。
「おい、あんまり周りの機材に触るなよ。」
「自爆スイッチ押したらここら辺一帯が吹き飛ぶッス~。」
外で待っていたスウェンとノワールがコックピットの二人に釘を刺す。
「へん!そんなヘマするかよ!」
「でもミサイル一発ぐらいは撃ってみたいです~。」
「おいおい……。」
「まあ、武装は取り外しているし、大丈夫だろ……。」
そう言ってきゃいきゃい騒ぐ二人を見守りながら、スウェンはノワールに話しかける。
「なあノワール、前からお前に聞きたい事があったんだが……。」
「ん?何スか?」
スウェンはストライクEを見上げながら話を続ける。
「こいつは……アークエンジェルのストライクを元に、アクタイオン・プロジェクトに基いて設計されたものだ、そして今……エドが知り合いに頼んで譲ってもらったものを俺が使っている。」
「うん、そうッスよね。」
「それでだな、このストライクには……アンカーランチャーとビームライフルショーティーが備わっている、大きさは違えど、性能はお前が持つ能力と全く一緒だ……。」
「…………。」
スウェンの話を、ノワールはただただ黙って聞いていた。
「もしかしたら……誰かがオレ達のデータを、こいつに流用したのかもしれない、だとしたら……これは由々しき事態だよな。」
「……そうッスね、オイラ達の個人情報が漏れている……これからは気を付けませんと。」
「ああ、ついでにどこのどいつが情報を漏らしたのか調べる必要があるな。」
「「………。」」
二人の間に流れる妙な沈黙、その沈黙を破ったのはヴィータの一言だった。
「おーいスウェン、モニターの操作ってどうやんのー?」
「ああ、ちょっと待ってろ。」
そう言ってスウェンはヴィータ達の元に向かおうとした。
「アニキ。」
そんな彼を、ノワールが一旦呼びとめる。
「……どうした?」
ノワールはとても真剣な表情でスウェンを見ていた。
「オイラの事は……デスティニーのことはいつかちゃんと話します、だからもうちょっとだけ待ってくれッス。」
「…………。」
スウェンは黙って頷いた後、ヴィータの元に向かって行った。

 

一方その頃、ミネルバのルナとメイリンの自室……そこでルナマリアはインパルスのデータを見ながら頭を抱えていた。
「うーん、やっぱインパルスって扱い難しいのよね、特に……。」
ルナはソードインパルスに装備されているエクスリカバーのデータを開いた。
「私こんな大剣扱った事ないのよねー。でも艦長達の期待には答えたいし……。」
「なにぶつくさ言ってるの?」
とそこに、メイリンがノックもせずに部屋に入って来た。
「ノックぐらいしてよ……ちょっとね、インパルスの事で悩んでいたの……。」
そう言ってルナはメイリンに悩みを打ち明けた。
「なるほどねー、お姉ちゃんってナイフの教練しか受けてないもんねー。」
「トマホークとは全然違うし……なにかヒントになるお手本があればなー。」
「あ!そうだ!私に心当たりがあるよ!」

 

それから数分後、ホーク姉妹はアースラの訓練室のオペレーター室にやって来ていた。
「成程……アースラの人達の戦闘をお手本にするのね。」
「そうそう……あ!シャーリー!」
「メイリーン!」
メイリンはアースラのオペレーター、シャーリーの姿をみるや否や、お互い抱き合う。
「あんた……いつの間にアースラのオペレーターと仲良くなったの?」
「うん!シャーリーはミネルバの方に時々遊びにきてね、ヨウランにお弁当作って来たりしてるの。」
「な、なははー//////助けてもらったお礼はしないとー//////」
シャーリーは照れ臭そうに頭を掻く。
「そうだシャーリー、データは……。」
「うん!あるよー、ちゃんと指令に許可をもらったものが……剣士ならフェイトさんとシグナムさんがいいよね。」
そう言ってシャーリーは戦闘データの入った端末をメイリンに渡す。
「これでインパルスの戦闘に役立つね、お姉ちゃん。」
「そうね……。」
ルナはメイリンの持つ端末をジッと見つめる。
(フェイト・テスタロッサか……。)
「ん……?なんだか賑やかだな。」
「お前達は……。」
と、そんな彼女達の元に、シグナムとリインフォースがやってきた。
「あ、こんにちはー。」
「お二人とも、今日も模擬戦ですか?」
「ああ、囚われていた分体がなまってしまってな、リインフォースに付きあって貰おうと思ってな。」
「ところで……二人は何故こんなところにいるのだ?」
「ええっと、実は……。」
ルナはシグナムとリインフォースに訳を説明する、その間に、メイリンとシャーリーは小声で話していた。
(ねえメイリン……ルナさんって結構胸あるよね。)
(うん、シグナムさんとリインフォースさんもね……同じ女としてちょっとへこむよ……。)
(ヨウランさんは大きい方が好きなのかな?)
(それは知らない。)
「成程……つまりお前は私の剣捌きが見たいと。」
「え、ええまあ、そんなところですけど……?」
「ふむ……なら映像よりももっと手っ取り早い方法があるぞ。」
「へっ?」
ルナはシグナムの怪しい頬笑みに、嫌な予感しかしなかった。

 

「なぜ……こんな事に?」
数分後、ルナは何故かザフトの赤服から動きやすい運動服に着替え、訓練室の中で竹刀を持って同じく運動服に着替えたシグナムと対峙していた。
「お前は私の剣捌きを間近で見られる、私はなまった感覚を取り戻せる、一石二鳥の提案だとおもうが?」
シグナムはそう言って持っていた竹刀で素振りを始める。そこに、オペレーションルームからルナマリアに対して通信が入る。
『すまんなルナマリア、ああなったシグナムは誰にも止められん。』
『シグナムさんバトル狂ですからねー。』
『お姉ちゃん!ガンバ!』
「いや、止めなさいよ……まあ竹刀だし、死ぬ事はないか……。」
ルナは改めて竹刀を構えてシグナムと対峙する。
(ふむ、中々よい闘気を放っている……。)
『それでは……開始してください!』
そしてシャーリーの模擬戦開始の合図と共に、ルナとシグナムは激しい鍔競り合いを展開する。
「ほう、中々やるな。」
「ええ、これでもザフトの赤服着ていますから!」
そう言って二人は一旦距離をとる。
(成程、これがコーディネイターか……中々の運動神経だな、それに……。)
シグナムは必死そうなルナの顔を見てにやりと笑う。
「貴様、かなりの技量を持っているな……二年やそこらで習得したものじゃないな、幼い頃から余程いい師についていたのだな。」
「はい?」
そしてルナが呆けているうちに、シグナムは再び彼女に切りかかった。
「こ、この……!」
ルナは迎え撃つように竹刀をシグナムに振り降ろすが……。
「!?消えた!?」
シグナムは一瞬でルナの背後に回り込み、彼女の背中に向かって突きを繰り出す。
「もらったぞ!」
「……!」
その瞬間、ルナは人間とは思えないスピードで振り向き、シグナムの竹刀を右手で掴み、左手に持っていた自分の竹刀の柄をシグナムの腹部に突き立てようとするが、寸前で止める。
「ぬ……!?」
「「「おおお!!?」」」
オペレーションルームでその光景を見ていたメイリン達は思わず感心の声を上げる。
「えっと……チェックメイトですね?」
「あ、ああ……。」
シグナムは少し戸惑いつつも、自信の敗北を認めた。
数分後……訓練室から戻ってきたルナはメイリンに抱きつかれた。
「すごいお姉ちゃん!管理局のエースに勝つなんて!」
「なはは……まあ手加減してもらっただけかも。」
そう言ってルナは照れ臭そうに頭を掻いた。その光景をシグナムとリインフォースは神妙な面持ちで見ていた。
(リインフォース……気付いたか?)
(ああ、あの少女に一瞬だが魔力の高まりを感じた、しかもランクはBに近い……。)
その時、ルナは自分がシグナム達に見られていることに気付く。
「ん?私の顔に何か付いてます?」
「い、いや、なんでもない……。」
そしてシグナムはルナに見えないように微笑んだ。
(コズミックイラ……本当に面白い世界だ。)

 

その頃、中東にある連合軍ガルナハン基地の付近にある村、そこでは連合軍による厳しい圧政が行われていた、村人達はレジスタンスとなって連合軍に反抗したが、武力の差は埋められず成す術なく鎮圧されていった。そして連合軍は村人達にさらなる弾圧をかけていた……。

 

「たく……これっぽッちかよ。」
「しけてんなあ。」
連合軍の兵士達は村の中心に停めてあるジープに村人から奪った食料を次々と積んでいった。その様子を、数人の村人達が怯えた目で物陰から見ていた。
「へへへ……この前の反乱を鎮圧してからここの奴ら、随分と大人しくなったよなー。」
「利口だとおもうぜ?逆らったら殺されるのがようやくわかったらしい。」
その時、一人の兵士が物陰に隠れている褐色の若い女を見つける。
「おい!あそこにとびっきりの上玉がいるぞ!」
「おお!ホントだ……!」
そう言って数人の兵士がその女性に近づいて行った。
「ひっ……!」
すぐさま数人の兵士に取り囲まれ、立ちすくむ女性。
「へへへ……逃げんなよ。」
「死ぬよりはマシだろ……!むしろ天国を見せてやるよ!」
兵士達は数人がかりで女性を押し倒し、彼女を纏っていた衣服を強引に破いた。
「い、いやあ!だれかぁ!!」
あられもない姿を晒され泣き叫ぶ女性を見て、兵士達はへらへら笑いだす。
「おいおい、そんなに騒ぐなよ……興奮するだろ……!」
「ひゃひゃひゃ!泣き叫んだって誰も助けにこねえよ!」
「さて、と。」
そう言って兵士の一人がズボンのベルトをカチャカチャと外し始めた。

 

「弧○斬。」
パグシャッ!
「ギュエ!!?」
その時、ズボンを脱ごうとした兵士は背後から股間を鉄パイプで殴られ、数十センチ宙に浮きながら絞殺された鶏みたいな声をあげた。
「な、なんだ!?」
他の兵士達は一斉に鉄パイプで殴って来た人物を見る。そこには十歳ぐらいの仮面をつけた少年が立っていた。
「ブクブクブク……。」
「ひでえ!マコトのムスコが二つとも……!」
「てめえ!なんてことしやがる!!」
「何って……。」
少年は鉄パイプを持ったまましばらく考え込む。
「しいてゆうなら……去勢かな?汚い野良のせいでこの村に伝染病が流行ったら大変だからな。」
「こ、このガキャア!!!」
そう言って兵士達はその少年に襲いかかった……。

 

パグシャ!!ドグシャ!!!ドグチァ!!!!

 

「御苦労様です、カシェル様。」
数分後、鉄パイプの少年……カシェルをスターゲイザーが迎えた。
「あそこに服を破かれた女の人がいる、なにか羽織るものを。」
「周りの転がっているゴミはどうします?」
「全員去勢は終わった。後は頼む。」
「了解しました、おーい!お前達!」
スターゲイザーは手をパンパンとたたく、するとエール、ソード、ランチャーが現れた。
「「「お呼びでしょうか!?」」」
「作戦はさっき言った通りだよ、手筈通り頼む!」
「えー?あれにとりつくんですかー!?」
「たまには美人にとりつきたいですよー。」
「あんなオカマじゃあ……。」
「いいから。」
「とっとと。」
「いけ。」
カシェルは愚図る三人組の尻を順番ずつ蹴る。
「「「かしこまりましたぁー!!!」」」
そう言って三人組は気絶している兵士達のもとに走って行った。
「さて……ここまでは手筈通りですね。」
「ああ……。」
そう言ってカシェルは持っていた血がにじんだ鉄パイプを投げ捨てた。

 

「な、なんだあいつら……?」
その光景を、村の住人である一人の少女が物陰から見ていた……。

 

それから数日後、マリューやタリア、そしてリンディ達はオーブ軍基地の作戦会議室に集められていた。そしてアリューゼとネオから衝撃的な話を聞かされていた。
「ガルナハンが……時の方舟に占領された!?」
「うむ……。」
アリューゼは端末を操作し、ガルナハンの様子をモニターに映し出した。そこには数機の時の方舟のMSが、ガルナハンの周辺を飛び回っている様子が映し出されていた。
「この情報を教えてくれた基地の人間の話によると……パトロールから戻った兵士達が不思議な力を使って突如暴れだし、さらになだれ込むようにバイザーを付けた兵士に潜入され、あっという間に基地を占領してしまったそうなんだ。」
「もしかしてスウェン君が言っていた融合騎の仕業……?」
そう言ってリンディはスウェンとルネからもたらされた時の方舟の融合騎の情報が入ったメモリを見つめる。
「えと……そのバイザーを付けた兵士っていうのも、やはり例の魔法で作られた物なのだろうか……。」
「恐らく……あまりにも衝撃的で戦意が削がれるかもしれないので他の者達には秘密にしていますが……。」
そう言って話合っていたリンディとカガリはお互い溜息をつく。
「我々は上からガルナハン奪回の指令を受けている、そこで……アークエンジェルとミネルバにも協力してほしいのだ。」
アリューゼの頼みに、カガリとタリアはコクリと頷く。
「では……マハムール基地に向かいましょう、そこで一旦友軍と合流し、作戦を練りますか。」
「よし、じゃあそんな感じで。」

 

そして次の日、アークエンジェルとミネルバはマハムールへ出発するため準備を進めていた……。

 

「キャロちゃーん、バケツ取って~!」
「あ、はーい!」
「キュクルー♪」
アークエンジェルMS格納庫、そこでなのはとキャロとフリードはスウェンのストライクEを磨いていた。
「なのはさーん!降ろしますー!」
リフトの上で作業していたキャロはフリードにバケツを持たせて、下で作業していたなのはの元に行かせた。
「キュクルー。」
「おーらい、おーらい……。」
そう言ってなのははバケツを受け取ろうと一二歩下がる、すると背後にあった水が入ったバケツに足を取られ……。
「にゃあ!!?」
ドンガラガッシャーン!
盛大にすっ転び、バケツの水を被ってしまった。
「わあ~!?なのはさん!大丈夫ですか~!?」
「キュクル~!?」
「にゃはは、大丈夫だよー……へくちっ!!」
「あらあら、びしょびしょですわ。」
「だ、大丈夫なのはちゃん?」
「お前は……鈍くさいのは変わっていないな……。」
「おふう!!水で濡れて下着が……!」
『はろっ!はろっ!』
とそこに、キラ、ラクス、スウェン、ノワール、そしてピンクハロがやってきた。
「あ、えーっと……こんにちはー。」
「こんにちはじゃない、一体何をしていたんだ?」
そこに、キャロがリフトから降りてきた。
「えっと……なのはさんは私達のMS掃除の手伝いをしてくれていたんです。」
「成程、そう言えばキャロちゃん色んな所の手伝いをしているらしいッスねー。」
「俺達のストライクEを洗ってくれていたのか……ありがとうな。」
スウェンはそう言ってびしょ濡れでへたり込んでいたなのはの手を取って立たせてあげた。
「すみません……ひくちっ!」
「あらあら、ずぶ濡れのままでは風邪をひいてしまいますわ……しょうがありません、一緒にお風呂へ行きましょう。」
「ふい……すびばせん……。」
そしてなのははラクスに連れられて行った。
「じゃあオイラは背中流すッス。」
そう言ってノワールは紳士的な表情で1/6スケールのデジカメ片手に二人について行こうとするが……。
『テヤンデーイ!!(怒)』
ガブリッ!
「んにょおおおお!!!!」
上半身丸ごとピンクハロに飲み込まれた。
「ノワール……お前の事は忘れない。」
「あははは、あんまりひどいことしちゃダメだよ?」
その時、キャロがピンクハロを見て感嘆の声を上げる。
「すごいですよね、このロボット……よくできてますねー。」
「ん?よかったらアスランに頼んで新しいの作ってもらうかい?」
「あ!大丈夫です……私にはフリードが居ますから……。」
「キュクル~♪」
フリードは嬉しそうにキャロの周りを飛び回った。
「ははは、そっか……。」

 

「あ!キラじゃない!久しぶりー!」
と、そんな彼等の元に、カメラマン風の格好をしたキラと同い年ぐらいの女性と、不精髭の男、黒髪の男、そしてサングラスを掛けた男がやってきた。
「ミリアリア!?それに……マードックさん!ノイマンさん!チャンドラさんまで!?」
「よう!ひさしぶりだな坊主!」
そう言って不精髭の男……マードックはキラの頭をくしゃくしゃに撫でた。
「キラさん……?この人達は?」
「ええっと……前大戦の時に、アークエンジェルに乗って一緒に戦ってくれた人達だよ。」
「アナタがキャロちゃんに……フリード君ね。」
「おおお……!本物のドラゴンだ……!」
ノイマンはフリードの姿を見て少しばかり驚く。
「ニュース見たよ、大変だったなキラ。」
「ええ、でもマードックさん達が来てくれたって事は……。」
「おうよ!マリュー艦長に頼まれてな!今日から俺達はオーブ軍属になったんだ。」
「こうなると二年前を思い出すな……。」
「ホントはサイにも声を掛けようとしたんだけど、連絡先がわからなくて……。」
「そうなんだ……。」
キラは楽しそうに昔の仲間達との会話に花を咲かせていた。
「楽しそうですね、キラさん……。」
そんな彼らの様子を、キャロは嬉しそうに見ていた。
「ああ、久しぶりの再会なんだ、俺達は邪魔にならないところに行こうか。」
「そうですね、いくよフリード。」
スウェンとキャロは転がっていたバケツを片付けながらその場を去っていった。
「あれ?そういえばノワールはどこに……?」

 

その頃なのはとラクスはというと……。
「は、はわー……!戦艦の中に温泉が……。」
アークエンジェルの中にある大浴場、“天使湯”にやってきていた。
「アークエンジェルが誇る天使湯ですわ、さささ、早速入りましょう。」
ラクスとなのはは裸の体にバスタオルを巻きながらミルク色の湯船に入った。
「はー……いいところですねー。」
「ええ、戦ってばかりでは疲れてしまいます、だからこうして心休めるところを作るべきなのです。」
「休む……場所……。」
なのははそのラクスの言葉に反応する。
「なのはさん、自分で何もかも抱え込んでしまってはいつか潰れてしまいますわ。たまには羽を休めませんと……。」
「にゃはは……ごめんなさい、気を遣わせて……。」
そして浴場に沈黙が流れる、なのはとラクスは湯船に小さな波を起こしながら何か考えていた、そして……。
「いつか……皆で入りたいな。」
なのはがぽつりと言葉を漏らした。
「皆……とはもしや時の方舟に囚われている方々のことでしょうか?」
「はい、小さい頃よく家族みんなでお正月に温泉旅行に行っていたんです。皆で温泉入ったり、卓球したり、お話したり……本当に楽しかったんです……。」
「いいですわね、それ……わたくしもキラ達を誘って本物の温泉に入りたいですわ。」
「えへへ、そうですね……じゃあこの事件が終わったら、海鳴に来てみます?私の故郷なんですけど……とってもいい所なんですよ。」
「まあ、それは楽しみですわ♪じゃあ早くなのはさんの大切な方々を助け出しましょう。そして……こうやってお互い、ゆっくりまったりとおしゃべりしたいですわ……。」
「ええ……。」
「あれー?先客か?」
と、そんな彼女たちの元に、裸にバスタオル一枚をまいたステラと、彼女が持つ洗面器の中に入ったアギトがやって来た。
「あらあらステラさん、アナタもお風呂ですの?」
「うん、訓練してたら汗かいて……そしたらマリューさんがここの事を教えてくれたの。」
「うひゃー!なんだここ!でっけー!」
アギトは湯船の中に飛び込み、すいすいと泳ぎ始めた。
「あらあら、やんちゃな方ですわー。」
「じゃあついでだし……ステラちゃん、背中洗ってあげるね。」
「うん……。」

 

そんな女湯の様子を、天井から覗いている一つの影があった。
(ふう~やっとあのピンクの丸をまいたッス……。)
ピンクハロの攻撃から逃れたノワールであった。
(うほほほーい!シグナム姐さん程じゃないにしろ中々のものをお持ちで……。)
(いやあ、まったくだな。)
(ほえ!!?)
ノワールはいつの間にか隣にいたアリューゼに驚く。
(ちょ!旦那!何してるんスか!?)
(何って……ここは女湯だろう?ならやることは一つであろう?)
(いやあ、その通りちゃあその通りッスけど……。)
(んだろう!!なら一緒に楽しもうじゃないか!)
そして二人は天井から女湯の様子を覗いた。

 

「うわぁ……ラクスさん、きれいな髪してますねー。」
「なのはさんだって美しいのをお持ちですわ。」
「いいなー、ステラも伸ばそうかな?」
「おお!きっと似合うと思うぜー!」

 

(いやあ、美しい……胸あんまりないけど。)
(ホントッス……題名を付けるなら天女の行水ッス……胸あんまないけど。)

 

「さて、と……。」
はらり
その時、なのはは立ちあがった瞬間、体に捲いていたタオルを落としてしまう
「きゃ!」
(ふおおおおおおおおお!!!?)
(キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!)
ノワールとアリューゼはその光景を瞬きせずに凝視していた、だがその時。
「させない!」
突如黄色いモフモフした物体が二人の視界を遮った。
(んだああああ!!一番大事なところがー!)
(何奴!?)
アリューゼの視線の先には、数年ぶりにフェレットに変身したユーノが仁王立ちしていた。
(ユーノのアニキ……何故オイラ達の邪魔を!!?)
(決まっているじゃないか!!魔力を失い!家族を囚われたなのはを守るのは僕しかいないんだ……!!彼女の入浴シーンを覗いた罪!償ってもらうよ!)
そう言ってユーノは魔法陣を目の前に展開する。
(悲壮な決意をしているところ悪いんだが……何かいるぞ。)
アリューゼはユーノの背後にあった影を指さす。
「「ん……?」」
ユーノとノワールはアリューゼが指さした方角を見る。そこには……。
『ハァー……ロォー……。』
ドリルやらマシンガンやらを装備したピンクハロが目をギラギラさせて立ちすくんでいた。
(しまった!見つかったッス!)
『らくすヲケガレタメデミルヤカラハハイジョ……排除……。』
(ええー!?めっちゃ物騒な事言ってるッス!?)
(え!?僕はちがう……!)
その時ピンクハロの口が大きく開き、そこから……。
「こ……これは!?」
『ラクスはボクが守る……!』
そしてユーノとノワールの周りにいくつもの魔法陣が展開された。
『市ねえええええええ!!!』
ちゅどーん!!!
「「うぎゃー!!!」」

 

「あれ?天井からユーノ君の声が聞こえたような……?」
「あう~!シャンプーが目に~!」
「ステラ!大丈夫かー!?」
「落ち着いてくださいまし、今取ってさしあげますわ。」

 

その頃、アークエンジェルブリッジでは……。
「あれ?ハンスブルグ指令?今までどこに?」
「いやあネオ大佐、大きいのっていいよね。」
「え?まあ……それは激しく同意ですが……。」
そしてネオとアリューゼは艦長席に座っているマリューのある部分を凝視していた。
(なんか胸に変な視線を感じるわ……。)

 

それから数日後、準備を終えたアークエンジェルとミネルバの一行はザフト軍のマハムール基地にやって来ていた。
「いやあ、よくぞ来てくださいましたな。」
基地指令室にやってきたカガリ、マリュー、タリア、アーサー、ネオ、アリューゼは、司令官のヨアヒム・ラドルに挨拶を受けていた。
「早速ですが……状況はどうなっていますか?」
「いやあ、それがですね……。」
ラドルはモニターを操作し、マハムール基地のある場所を映し出した、そこには……。
「これは……連合兵?」
倉庫でボロボロの姿で項垂れている連合兵達の姿があった。
「こいつはひどいな……時の方舟がやったのか?」
「いえ……彼等の話によると、基地を追いだされて逃げている途中で、レジスタンスの襲撃にあったそうなんですよ。」
「レジスタンス……!?」
「ガルナハンの連合兵達は長年、付近の村に圧政を強いていたらしく……不満を募らせていた村人たちが、敗残兵である彼等に攻撃を加えたんです、幸い死者は出ていないようなんですが……。」
「ふむ、これは同じ連合軍としては見逃せない事実ですな……大変申し訳ない。」
そう言ってアリューゼはラドルに深く頭を下げた。
「彼等の話によると、まだまだ大勢の連合兵がガルナハンにいる時の方舟に囚われているようなのです。このまま見過ごすわけには……。」
「しかしガルナハン基地ですか……よりにもよってあそこを占拠されるとは……。」
そう言って思い悩むネオを、マリューが気遣って話しかけてくる。
「……?何故ガルナハンがよりにもよってなのですか?」
「いやあ、実は……。」

 

「ローエングリンゲート?なんですかそれ?」
数十分後、マハムール基地のミッションルームに集められたキラ、アスラン、スウェン、ハイネ、ルナ、レイ、スティング、アウル、ステラは、先ほどの会議に参加していたカガリ達から説明を受けていた。
「ああ、ガルナハンを守る砲台だ、あれがあるとMSや戦艦で攻め込んでも一瞬で薙ぎ払われてしまう、しかもアリューゼ大佐の話によると基地付近には大量の対MS用地雷が埋められている。」
「それって……空からも地上からも行けないってことじゃねえか!」
「時の方舟はそんな基地にどうやって潜入して占領したんですか?」
するとカガリ達の代わりにスウェンが答える。
「恐らく……俺がアジア圏で遭遇した融合騎を使ったんだろう。」
「融合騎……?リインやアギトみたいな?」
「ああ、しかもノワール達とは違い、とりついた相手を意のままに操れるようなんだ、恐らくセイラン代表の時と同じ手口だろう。」
「ふむ、向こうも厄介な駒を持っているな……しかしこうなると奴らを追い出すのは骨だな。」
アリューゼの言葉に、ミッションルームにいた全員が沈黙する。その沈黙を破ったのは、突如ラドルに入って来た通信だった。
「私だ、一体どうした?………………何!?レジスタンスが!?」
その瞬間、ミッションルームに緊張が走った。

 

「連合兵をだせー!!!」
「全員ぶっ殺してやる!!」
数分後、ラドルやアリューゼやネオ、そして彼等に付いてきたキラとアスランとスウェン、ハイネが見たもの……それはマハムール基地の門に押し掛ける大勢のレジスタンスの姿だった。
「み、皆さん落ち着いてください!」
門番のザフト兵達は必死にレジスタンス達をなだめるが、彼らの勢いは止まることはなかった。
「さっさと奴ら出さないと……お前ら容赦しねえぞオラ!!」
「こっちはひどい目に遭わされてんだ!引きずりまわして殺された仲間達の墓に首持っていくんだ!」

 

「やれやれ、止まりそうにないねえ。」
「そーとーひどい事していたみたいですね、ガルナハンの奴ら。」
「こう熱烈に歓迎されているとはねー。」
そんな呑気に構えるラドル、アリューゼ、ネオを見て、キラ達は溜息を付く。
「呑気なおっさん達だな……。」
「こんな事、俺が旅していた時はしょっちゅう起きてたぞ。」
「僕達は……世界の事を知らなさすぎたのかもしれませんね。」
「でもどうするんだ?このままじゃ双方怪我人が出るぞ?」
「はあ……しょうがない。」
アリューゼはそう言って懐から拳銃を取り出した。
「へっ!?指令何を!?」
ネオの制止も聞かず、アリューゼは天に向かって拳銃の引き金を引いた。

 

パァー……ン

 

辺りに乾いた発砲音が響き、辺りはしいんと静まり返る。
「皆さま、落ち着いてください。」
そう言ってアリューゼはレジスタンスの前に立ちはだかった。
「あ、アリューゼさん!連合の制服きたまま……!」
ラドルの制止を聞かず、アリューゼは淡々とレジスタンス達に立ち向かった。
「お、お前連合の……!」
「ユーラシア軍大佐のアリューゼ・ハンスブルグと申します。貴方達の事情は存じております。」
「ちょうどいい!まずはお前から八つ裂きに……!」
そしてレジスタンスの一人がアリューゼに襲いかかろうとしたその時、
「!!?…………!!!?」
彼の蒼い瞳を見た瞬間、襲いかかろうとしていたレジスタンスはその場でへたり込んでしまっい、仲間に支えてもらっていた
「お!おい!どうしたんだ!!?」
「あ……いや……。」
そんな様子に構うことなく、アリューゼは話を続けた。
「この度はわが軍の同胞が貴方達に酷いことをしてしまい、大変遺憾に思っております……そこでですね……。」
そしてアリューゼは巧みな話術で、レジスタンスの面々を説き伏せていった。そして……。
「わかった、そういうことなら……。」
レジスタンスはそう言って一人の少女を残して帰って行った。
「お見事ですなあ、アリューゼ大佐。」
一仕事終えたアリューゼを迎えたラドルとネオは、彼に賞賛を送る。
「ははは、彼等も話せば解ってくれるのさ、それにホラ。」
アリューゼはこの場に残ったレジスタンスの少女を連れてきた。
「この通り、協力者もつけてもらっちゃったよ。」
「………。」
その褐色の少女は黙ったままアリューゼに従っていた。

 

そして数時間後、ミッションルームに再び集まったキラ達はアリューゼからこれから行う作戦の説明を受けていた。
「坑道……ですか?」
「ええ、レジスタンスからもらった情報によると、ここら辺一帯には古い坑道がクモの巣のように張り巡らされている……ガルナハン基地の近くにもね。」
「まさかアリューゼ大佐……そこを通って基地に奇襲を掛けるんですか?」
「でもデータを見る限りではMSが通れるほど広くないですよね、ココ……。」
キラの意見に、アリューゼはチッチッチと指を振る。
「確かに普通のMSでは通れないだろう、しかし……。」
「私達の艦に、一機だけその狭い坑道を通ることができるMSがあるわ。」
そう言ってタリアは、席に座っていたルナの顔を見る。
「へっ?私ですか?」
「なるほど……インパルスを分離状態で行かせるのですか。」
「けどよー、それでもかなり高度な操縦技術がいるんじゃねえの?」
「大丈夫かよ、おい……。」
そんなスティングとアウルの言葉にムッとしたルナは……。
「私……やります!やらせてください!」
思わず売り言葉に買い言葉で引き受けてしまった。
「よし、それじゃあさらに具体的な作戦内容を説明するぞ……。」

 

そして数分後、説明を聞き終えてミッションルームから出てきたルナは、深くため息をついた。
「はあー……。」
「随分と大きな溜息だな、まあ頑張れよ。」
「へへへ……せいぜいぶつけんなよ。」
「じゃあねー。」
スティング、アウル、ステラと別れた後、ルナは小さく悪態をついた。
「何よ馬鹿にして……見てなさいよ!」
そしてルナはタリアから渡された坑道のデータを持ってシュミレーションルームに向かった……。

 

その頃、ミネルバに同乗してマハムール基地にやって来ていたなのはとラクス、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、リイン姉妹、そしてアギトは、ザフト兵と共にガルナハン基地から逃げ出した連合兵達の治療を行っていた。
「ううう……!」
「大丈夫ですか?痛い所があったら言ってくださいね?」
「ザフィーラ!こいつ足怪我してんだ!運ぶの手伝ってくれよー。」
「わかった。」

 

「うわっ……こりゃ酷いですね……。」
なのはは医療用具が入った箱を運びながら、水で濡らしたタオルを絞っていたラクスに話しかける。
「ええ、人の憎しみとは恐ろしいものです……。」
「ぎゃあ!や、やめてくれぇ!!」
その時、どこからか怪我をした連合兵の悲鳴が木霊した。
「な、何?」
一同が振り向くと、そこにはアリューゼが連れてきたレジスタンスの少女が、一人の怪我をして動けない連合兵を何度も何度も殴っていた。
「うるさい!この人殺し……!みんなの仇だ!!」
「おいお前!なにやってんだよ!!?」
見かねたヴィータがレジスタンスの少女に飛びかかるが、彼女はまだ暴れていた。
「うるさい!邪魔すんなこのチビ!へんなウサギ持ち歩きやがって!!」
「なっ……!てめぇ!!!」
その言葉にカチンと来たヴィータは、レジスタンスの少女と取っ組み合いの喧嘩を始める。
「こんのぉー!!」
「痛っ!やりやがったな!!」
「ヴィータちゃん!やめてですー!」
「そこだー!噛み付け!!」
「アギト!二人を煽るんじゃない!」
そう言ってシグナムはリインフォース、シャマル、ザフィーラと共に喧嘩するヴィータとレジスタンスの少女を強引に引き剥がした。
「放せ!このー!」
「もう一発ぶん殴んねーと気が済まねえ!!」
「落ち着いてよヴィータちゃん!」
「お前らいいかげんに……!!」

 

バッシャーン!!!

 

その時、なのはとラクスが今だ暴れるヴィータとレジスタンスの少女に向かってバケツの水を思いっきり掛けた。
「ぶわっ!!?」
「きゃあ!!?」
一同は一斉になのはとラクスに視線を集中させ、そして戦慄した。
「二人とも……す こ し あ た ま ひ や そ う か。」
「貴女方がここにおられますと……他の方々に迷惑ですわ。」
一同は二人の腐った魚を見るような目を見て、思わず何度も頷いた。

 

「で?なんであんなことしたですか?」
数分後、なのは、ラクス、リインⅡ、そしてヴィータは落ち着いたレジスタンスの少女……コニールから事情を聞いていた。
「……あいつらは私達の村をめちゃくちゃにした奴らなんだ、あいつらのせいで沢山の仲間が死んで、若い女なんて無理やり……。」
「ひどい……。」
「だからって……身動きできない奴を一方的に殴ったら……お前、あいつらとやっている事変わんねえじゃん!」
「それがなんだってんだ!!やられた事やり返してなにが悪い!!?あいつらの自業自得じゃないか!!」
「んだとぉ!!?」
再び一触即発の雰囲気になるヴィータとコニール、そんな彼女達をラクスが止める。
「そうやって復讐して……何か変わるのですか?居なくなった人が戻ってくるのですか?そんなことではいつまでたっても憎しみの連鎖は止められませんわ。」
「…………!」
ラクスの言葉を聞いて、コニールは一瞬顔をしかめ、そしてラクスを睨んだ。
「お前等……家族を殺されてもまだそんな綺麗ごと言えるのかよ!!?」
「えっ……!!?」
コニールのおもわぬ反論にラクスは驚く。
「家族や友達をヘラヘラ笑いながら撃ち殺した奴らが!!いまでもヌクヌクと生きてんだぞ!!!?それを復讐するのはやめろとか!許してやれとか!我慢しろなんてよく言えるな……!!!殺された私の家族や友達は虫けらなのか!!!?あんな下衆野郎をお前達は庇うのかよ!!!!」
「わ、わたくしはそんなつもりで言ったつもりは……。」
その時、うろたえるラクスの肩を、なのはがポンと叩いた。
「確かに……貴女の言いたい事、とてもよくわかるよ……だって私も、そこにいるヴィータちゃんもリインちゃんも、大切な人を時の方舟の人達に奪われたから……。」
「…………。」
なのはの言葉を、周りの人間は黙って耳を傾けていた。
「でも、だからって……そんな手段じゃ皆不幸になっちゃうよ、人を殺したりしたら、君に一生その罪が被さるんだよ。」
「……じゃあどうすればいいんだよ!!あいつらをぶっ殺す以外に……なにか方法があるってのかよ!!」
「そ、それは……。」
その先は考えていなかったのか、なのはは言葉が見つからずに口篭る。すると……。
「なら……わたくしがなんとかしますわ。」
先ほどから黙っていたラクスが口を開いた。
「なんとかするって……どうするの?」
「ここにはオーブ軍にザフト軍……それにアリューゼ大佐達がいますわ、わたくしがその方達に頼んで、ガルナハンの兵達の罪を調べてもらいます。」
「なるほどなー、内部からの告発か……おまけに外国の軍に知られたらもみ消すこともできないだろうな。」
「わたくしの名に掛けて、彼らにしかるべき処罰を下します……だから、アナタが手を汚す必要はないのです。」
「…………。」
コニールはしばらく俯いていたが、しばらくして顔を上げた。
「わかった……あんた達を信じるよ、でももし私の意にそぐわない結果になったら……。」
「その時は……わたくしに貴女を止める資格はないですわ。」
「よし!じゃあ……仲直りしようね!」
なのははヴィータとコニールの手を取り、彼女達の手を繋げさせた。
「……わるかったな、殴ったりして……。」
「こっちこそ……チビなんて言ってごめんな。」
ヴィータとコニールはお互い照れ臭そうにしながら、謝罪の言葉を交わした。
「ふう~!お二人とも仲直りできてよかったです~♪」
「ええ、これもなのはさんのお陰ですわ。」
「いえいえそんな!ラクスさんだって……!」

 

そのころ、アークエンジェルのMS格納庫では……キラがかつての搭乗機であるストライクの前に立っていた。
「また……これに乗ることになるなんて……。」
キラは懐にしまっていた蒼いビー玉の形をしたデバイスを見つめる、そこに……。
「キラさん。」
ノワールが一人でキラに話し掛けてきた。
「……?どうしたのノワール君?君が一人でいるなんて珍しいね。」
「ちょっと散歩ッス、ところで……。」
ノワールはキラが持っていたビー玉型デバイスを見る。
「それ……絶対落としちゃダメッスよ?そいつはキラさんを守ってくれるものッスから。」
「え?そうなのかい?」
ノワールは、とても真剣な面持ちでキラに語りかけた。
「キラさん……もし、もしどうしようもない大ピンチに見舞われたら……そいつの“名前”を呼んであげてくださいね。」
「“名前”?これに名前があるのかい?」
「ええ、それはキラ・ヤマトがよく知っている“名前”ッス……まあ今は理解できないでしょうけどね。」
「…………?」
キラはノワールの言葉に首を傾げながらも、再び蒼いビー玉型のデバイスを見る。
(“名前”……か、一体君はどんな名前なの?)

 
 

そしてそれぞれの思いが絡み合いながら、ガルナハン基地攻略の作戦開始時刻は刻一刻と迫っていた……。