魔動戦記ガンダムRF_15話

Last-modified: 2011-08-13 (土) 23:00:25

第十五話「よみがえる翼 ~僕の名前を呼んで~(後篇)」

 
 

ミネルバとアークエンジェルが時の方舟と死闘を繰り広げていた頃、オーブにある病院でアルフ(おとなフォーム)とキャロとフリードは目を覚まさないシンの看病をしていた。
「みなさんは大丈夫なんでしょうか……。」
「アタシらが心配してもなにもならないさ、今はやるべき事をやろう。」
そしてアルフは呼吸器が取れないようにシンのパジャマのボタンを取り、彼の体を拭いてあげる。
「ありゃま、こいつ生意気に鍛えているんだねぇ。」
「そりゃそうですよ、だってシンさんは軍人なんですから……。」
「軍人か……まだ十五ぐらいのガキンチョじゃないか、すずかやアリサ達みたいに学校で友達と楽しく過ごす生き方だって出来ただろうに……。」
その時、アルフは何かに気付いて部屋に掛けてあったカレンダーを見る。
「そっか、もうすぐ9月1日か……シンもフェイトも16歳になるんだねぇ。」
「え?そうなんですか?初めて聞きました……。」
「ああ、七年前の誕生日会は楽しかったねぇ。」
アルフはシンとフェイトとの思い出をキャロとフリードに話してあげた。
「フェイトさん……そんな事があったんですね。シンさんとの思い出はよく聞かされていましたけど……フェイトさんがクローンだったなんて初めて知りました。」
「うん、だからシンはフェイトに自分の誕生日をあげたんだ、でも……でもっ……!」
するとアルフは突如蹲り、声を殺して泣き始めた。
「折角の……折角の誕生日を病室のベッドや檻の中で迎えるなんて……いくらなんでもあんまりじゃないか……!」
「アルフさん……。」
キャロはアルフを慰めるように彼女の肩をポンポンと叩いた。

 

その時、アルフ達のいる病室のドアからコンコンとノック音が鳴り響いた。
「ん……?こんな時に誰だろう?」
「カガリさんでしょうか?入っていいですよー?」
するとキャロの呼びかけと共に病室のドアが開かれる、そしてアルフは入り口に立つその人物の姿を見て、思わず口をあんぐりと開ける。
「あ……アンタは!!?」

 
 

その頃、謎の少年にとある図書館に連れてこられたキラは、地面にばら撒いた白い画用紙に絵を描いて行く彼をただただ眺めていた。
「ふんふんふーん♪」
「ねえ君、一体何を描いているの?」
「ん?これはねー♪」
少年は赤い髪の少女と黒い髪の少年、そして白髪の少年が描かれた画用紙を見せる。
「ボクの友達!へへへー、うまいでしょ?」
「うん、そうだね……。」
キラはふと、画用紙に描かれている黒い髪の男の子がノワールだということに気付く。
「君は……ノワール君と友達なの?」
「うん♪ノワールは普段はおちゃらけてるけど、ホントは彼のご主人様と一緒でカッコイイんだー♪隣の赤い子はお世話が大好きで、将来は保母さんになりたいって言ってたー♪あとねあとね!そこの白い子はご主人様と一緒に星の海に行きたいんだって。」
「将来……か、君は何になりたいの?」
「僕?僕は……。」
その時、少年はすごく悲しそうな表情でキラの顔を見る。
「僕は……ただ自由に空を飛びたい、大切な人と一緒に……。」

 
 

そのころ、時の方舟の襲撃を受けたマハムール基地のザフト軍は苦戦を強いられていた。
『第五小隊!第八小隊!ともに撤退していきます!!』
『だ、駄目です!防衛線を維持できません!』
「くそ……!あのモビルアーマー……なんて強さだ!!」
指令室で友軍の劣勢を報告されながら、マハムール基地の司令官のラドルとカガリは顔をしかめていた。
「ミネルバとアークエンジェルはまだか!!?このままでは制圧されるぞ!!?」
「ミネルバはこちらに向かっていますが、アークエンジェルは破損が激しいようで、こちらに来るのが遅れるそうです!」
「くそっ……キラ……!」
そしてオペレーターはある情報を受け取り、ラドルに報告した。
「と……時の方舟の白兵隊らしき部隊が基地内に潜入した模様です!」
「なんだと……!!?迎撃を急がせろ!!!」
マハムール基地内では、突如潜入してきた時の方舟の部隊を基地のザフト兵達が迎撃していた。
「くそっ!!なんなんだよあの女どもは!!?」
物陰に隠れていたザフト兵の一人がアサルトライフルの弾を装填しながら悪態をつく。
『目標発見、排除します。』
一方時の方舟の部隊……顔にバイザーを付けた大柄の女性達は、丸腰のまま物陰に隠れていたザフト兵達に迫っていた。
「今だ!!撃てー!!!」
ザフト兵達は一斉にアサルトライフルの銃口をバイザー兵達に向け、一斉に引き金を引く、だが放たれた銃弾はバイザー兵の超人的な動きで回避され、そのままザフト兵達は接近してきた彼女達に次々と殴り倒されてしまう。
「ぐはっ……!」
『目標沈黙……作戦を続行します』
バイザー兵達は機械的な声でしゃべりながら基地の奥へ行こうとする、が……。
「紫電一閃!!」
「うおりゃー!!!」
突如壁を破壊して現われたヴィータとシグナムによって大半が倒されてしまう。
『……!!』
生き残ったバイザー兵は腕をガトリングガンに変形させ、銃弾をシグナムとヴィータに向けて放つ。
「させん!!でええええい!!!」
しかしそれは突如現れたザフィーラ(おとなフォーム)によって防がれる。
「すまん!ザフィーラ!」
「おらぁ!!全員ふっとびやがれぇぇぇ!!!!」
そのスキにヴィータはグラーフアイゼンを砲丸投げのように振り回しながら、バイザー兵を次々と吹き飛ばしていった。
「ヴィータ!!熱くなるな!!」
「うるせー!!!こいつらのせいではやてや皆がひでー目に逢わされてんだぞ!!!全員ぶっ飛ばしてやる!!!」
そう言ってヴィータは残ったバイザー兵を次々と薙ぎ払っていった。
「まったく、アイツは……。」
「しかしシグナム、この女共……。」
ふと、ザフィーラは足もとに転がっていたバイザー兵達を見る。兵達は黒い液体になって次々と消滅していった。
「なるほど……これが“マリアージュ”か、スウェンの情報通りだな。」
「ああ、確かにこれは厄介だ、それに……気分がよくない……。」

 

「うわああああ!!!?」
その時、バイザー兵……マリアージュと戦っていたヴィータは突如何者かに吹き飛ばされてしまう。
「ヴィータ!!?」
「何者だ!!?」
シグナムとザフィーラはヴィータが吹き飛ばされた方角を見る。
「………!!?」
「な、なんだと!!?」
そして、その方角から歩いてきた人物を見て、思わず目を見開いて驚く。
「テスタ……ロッサ!!?」
「…………。」
そこにはバリアジャケットに身を包み、サイズフォームに変形させたバルディッシュを携えたフェイトがいた。
「ふぇ、フェイト!!」
「おのれ……!私の時と同じように……!!」
「!!来るぞ!!」
ザフィーラの警告と同時に、シグナムはレヴァンティンでフェイトの攻撃を受けた。
「目を覚ませテスタロッサ!!そんなお前と決着なんて付けたくないのだ!!」
「はあああ!!!」
だがフェイトはシグナムの声も聞かず、ザフィーラやヴィータにまで攻撃してきた。
「戦うしかないぞ!シグナム!!」
「くそっ……!殺さないように手加減できる相手じゃねえぞ!!?」
「だがやるしかない……!行くぞ!!」
そしてシグナム達は一斉にフェイトに襲いかかった……。

 

その頃医務室のほうでは、戦闘が起こっている地点から負傷したガルナハンの兵を遠ざける為、なのは、シャマル、リイン姉妹、アギト、そしてラクスが彼等を運びながら狭い通路を歩いていた。
「うううう……。」
「しっかり、もう大丈夫ですから……。」
「おら!きりきり歩け!!」
「アギトちゃん、そんなに乱暴にしたら駄目だよ?」
その時どこからともなくマリアージュの部隊が現れ、なのは達を取り囲んだ。
「いけない!囲まれちゃった!?」
『捕獲目標“ラクス・クライン”を発見……周囲を排除しつつ捕獲します。』
「この人達……ラクスさんを!?」
なのはは隣にいたラクスの表情をうかがう。ラクスはマリアージュの部隊を厳しい表情で見据えていた。
「ここは私が食い止める!お前達は先に行け!」
するとリインフォースⅠが一歩前に出てマリアージュの部隊に向かって行った。
「リインフォースさん!!」
「私達は先に行きましょう!彼女なら大丈夫…………!!?」
その時、シャマルはマリアージュの一人がラクスに向けて銃口を向けている事に気付く。
「ラクスさん!危ない!」
「!!!」
そして辺りにパァンと銃声が響く……しかしそれはマリアージュからラクスへ放たれたものではなく、物陰からそのマリアージュに向けて放たれた者だった。
「大丈夫か!?なのはさん!!」
「コニール……ちゃん?」
物陰からマリアージュを拳銃で狙撃したコニールは、その拳銃でなのは達の撤退を援護した。
「コニールさん逃げて!!ここは危ないですよー!」
「あんた達が危ないのに放っておけるかよ!!逃げたりしたらヴィータにバカにされそうだしな!!」
「コニールちゃん……。」
だがマリアージュ達の襲撃はやまず、なのは達は防戦一方だった。
「いくですよアギトちゃん!!」
「おう!リイン!!」
リインⅡとアギトはお互い合図をした後、氷と炎の魔法を逢わせて前方にいたマリアージュ達を薙ぎ払った。
「よし……!なのはちゃんとラクスさん、そして私はこの人達を連れて先に行ってるわ!皆はここをお願い!!」
「はいです!!」
「よっしゃ!!」
そしてなのは、シャマル、ラクスは負傷兵達を連れてその場から去っていった。
「おらおら!!喰らえぇー!!」
コニールは次々と拳銃を使ってマリアージュ達を撃ち抜いて行く。そんな彼女の様子を見て、マリアージュの一人が彼女に向かって手のひらを掲げる。
「あ……あれ!?体が……!!?」
するとコニールは自分の意思に反して持っていた拳銃の銃口を自分のこめかみに押し付けた。
「う、うわわわわ!?何だこれ!?」
「野郎!変な術使ってやがる!」
「あ!多分あれっぽいです!」
リインⅡとアギトはコニールに術を掛けているマリアージュを見つけ、彼女に二人掛かりで体当たりを敢行する。
「うわっ!?はあっ……!?う、動ける?」
するとコニールは術から解放され、滝のような汗をかきながら膝をついた。
「おーい!?大丈夫かー!?」
「無理しないで撤退してください!ここはリイン達に任せるです!」
「う、うん、わかっ……!?二人とも後ろ!!」
「「へっ?」」
その時、リインⅡとアギトは後ろから襲いかかって来たマリアージュにぎゅっっと手で掴まれてしまった。
「むぎゃー!!?」
「り、リインはレモンじゃないですー!!」
「リイン!アギト!」
リインフォースⅠは二人を助けに向かおうとするが、数体のマリアージュに遮られてしまう。
「おのれ……!もっと広い所ならスターライトブレイカーで一掃できるのだが……!!」
そうしている間にも、リインⅡとアギトを握っているマリアージュの握力が強くなっていく。
「ち、ちくしょう……!」
「く、苦しい……はやてちゃん……!」
二人の意識は握り潰されそうになっていることにより消えかかっていた。だがその時……。
『テヤンデーイ!!!』
「「「「!!!?」」」」
突如ピンクハロがリインⅡとアギトを握っているマリアージュに体当たりを敢行し、二人を圧迫地獄から解放した。
「ゲホゲホゲホッ!!……ぴ、ピンクさん!!?(リインⅡのピンクハロの呼び名)」
「ピンク丸!!?(アギトのピンクハロの呼び名)なんでこんなところに!?」
『障害は……排除。』
するとリイン達を捕まえていたマリアージュの右手が剣に変形し、そのままそれを振り降ろしピンクハロを地面に叩き落としてしまった。
「ピンクさーん!!」
「て、てめえ!なんてひどいことを!!」
リインⅡとアギトはピンクハロが叩き落とされた場所をみる、するとピンクハロの体はピシピシと割れ目が入り、そのままパカッと真っ二つに割れてしまった。
「ピンクさ……!!?」
「え?は?」
リインⅡとアギトは、機械の部品が出てくるはずのピンクハロの中身を見て思わず口をあんぐりと開ける、なぜならピンクハロの中身から出てきたのは……。
「いたたー……あー!ボクのボディー!!?」
体長が30cm程しかないピンクのボーイッシュな髪をした少女だった、彼女はバラバラになったピンクハロに気付きショックを受けていた。
「え?ピンクさん!?!?!?!?!?」
「なんでピンク丸の中からユニゾンデバイスが?」
「このぉー!よくもラクスがボクにくれた変装用ボディーを壊してくれたな!!後そこのちっちゃいの二人!ボクはピンクさんでもピンク丸でもない!!」
「ちっちゃ……!!?」
「な、なにもんだお前!!?」
その時、数体のマリアージュがその少女に向かって襲いかかって来た。
「もう許さないぞー!!このユニゾンデバイス“ミーティア”が相手してやる!!」
そしてミーティアと名乗った少女は目の前に魔法陣を展開し、マリアージュの部隊に狙いを定める。
「“ミーティア・フルバースト”!!!くらえー!!」
すると魔法陣から七色の光線が放たれ、数十体のマリアージュを次々と撃ち抜いて行った。
「す、すごい……マリアージュが全滅です……。」
「なんなんだあいつ……?」
「なっはっはっ!ボクにかかればこんなやつら……!!」
その時、ミーティアの攻撃で基地の天井が崩れ、ピンポン玉程度の大きさの破片がミーティアの脳天に直撃した。
「うぎゅ!!?」
ミーティアは鈍い音とともに地面に落下した。
「うわ~!?大丈夫ですか~!?」
その様子を見てリインⅡとアギトは慌ててミーティアの元に駆け寄る。
「はぅぅ……。」
「よかった、生きているですー。」
「何なんだよコイツ?いきなり出てきて……。」
「ラクス・クラインならなにか知っているのだろうか?」
そこに周りのマリアージュを片付けたリインフォースⅠがリインⅡの元にやってきた。
「お姉ちゃん、とりあえずこの子も一緒に連れてってあげましょう。」
「ついでになのは達と合流して……ラクスに事情聞こうぜ。」
「ああ……コニール!お前も一緒に来い!」
「う、うん……!」
そしてリインフォースⅠ達は気絶したミーティアを抱えてなのは達の後を追いかけていった……。

 

その頃基地の外では、時の方舟のモビルアーマー“グロムリン”らがザフトの部隊相手に引き続き暴れていた。
「くそっ……!これは酷い……!」
『基地に配置されていたMSが殆ど破壊されているようですね。』
『早く出撃しようぜ!!もうすぐルナとスウェンも来るってよ!』
その時、ガルナハン基地攻略の後方支援をしていたミネルバ隊が戦場に到着した。
『アスラン!レイ!ハイネ!出撃してあのモビルアーマーを破壊するのよ!!』
『モビルスーツ発進、どうぞ!』
「アスラン・ザラ、セイバー、発進する!」
『レイ・ザ・バレル、発進します。』
そしてアスランのセイバー、レイの白いブレイズザクファントムがミネルバから出撃し、
『ハイネ・ヴェステンフルス!ザク、出るぞ!!』
ハイネの搭乗機、オレンジ色のブレイズザクファントムが続いて出撃する。
『よし!俺達はマハムール基地の友軍の援護にまわるぞ!』
「『了解!』」
アスランとレイはフェイスであるハイネの指示に従い、グロムリンに攻撃を仕掛けた。
『一斉に行くぞ!』
手始めにアスラン達はグロムリンに向かってビームライフルのビームを放つ。だがそれはグロムリンに搭載されたビームコートによって歪曲して逸れていった。
「フォビトゥンのゲシュマイディッヒ・パンツァー!?」
『成程。ビーム対策はバッチリってわけか!』
その時、グロムリンからワイヤーに繋がったビットが幾つも射出され、そのビットから何十発ものビームがアスラン達に向かって発射される。
「うわっ!!?」
『あのモビルアーマー……ドラグーンのようなものまで搭載しているのですか。』
『厄介だな……アスラン!セイバーでアイツを撹乱しろ!俺とレイはミサイル攻撃でアイツのブースターと足の破壊を試みる!』
「わかった……!」
そしてアスランはセイバーをモビルアーマー形態に変形させ、グロムリンの周りを飛び始めた。
「もうこれ以上誰も傷つけさせない……!お前達時の方舟にこれ以上好き勝手させてたまるか!!」

 

そんなアスラン達の戦いを、負傷兵達をシェルターの中に移動させ終えたなのは達が窓から見ていた。
「ミネルバが到着したみたいですわね。」
「うん、これで攻撃の手が緩めばいいんですけど……。」
「なのはちゃん!ラクスさん!私達も入りましょう!」
そう言ってシャマルがシェルターの中に入ろうとしたその時、突如扉の上からシャッターが下りなのは達の行く手を遮った。
「え!!?何!!?」
「まさか……。」
すると轟音と共になのは達の近くの壁が破壊され、そこから数体のバイザーを付けた大男が現れた。
「グオオオオオオオオオ!!!!!!!」
「きゃ!!?」
「え!何!?マリアージュって女性型以外もあるの!!?」
そうこう言っているうちにその大男はシャマルを片手で掴み、そのまま壁に投げつけた。
「かはっ……!!?」
「シャマルさん!!」
シャマルはそのまま地面に伏せて昏倒してしまった。
「なんてパワーなの……!?」
そして大男はラクスにじりじりと迫り、彼女を壁際まで追い詰めた。
「あ……いや……!」
「ラクスさん!!このおおおお!!!!」
なのはは近くに置いてあった空き缶が入ったゴミ箱を持ちあげ、それで大男を殴る、しかし……。
「グルァッ……!」
大男は睨みつけるようになのはの方を向き、彼女を掴みあげた。
「うあっ……!」
そしてそのまま大男はなのはを壁に押し付けた。
「ラクスさ……今の……うちに……。」
「なっ……なのはさん!!」
なのはは押し付けられながら振り絞るようにラクスに逃げるよう促す。
だがラクスはそんな光景を目の当たりにし口をパクパクさせていた。
(こ、このまま逃げればなのはさんとシャマルさんが……!)
その時、ラクスの頭の中に電流が流れるような感覚が襲った。
(どうしよう……このままじゃあの時みたいに……!)

 

“ラクス、これからも私達……友達よね?”

 

(また……また失っちゃう……!)
ラクスは頭に付けていた髪飾りを外し、それを強く握りしめる。
「エター……ナル……!」

 

「グルァ?」
「えっ……?」
大男によって壁に押し付けられ、意識が遠のいていたなのはは、ラクスから強い光が放たれている事に気付いた。
「うーん……へっ?」
そして辛うじて目をさましたシャマルも。ラクスの様子に気付いた。
「これは……魔力反応!!?」
そして光が収まると、そこには西陣織のようなバリアジャケットに身を包んだラクスが立っていた。
「ラクス……さん!?」
「どうして貴女が……バリアジャケットを!!?」
ラクスはなのはとシャマルの呼びかけを無視し、その大男に言い放った。
「なのはさんを……放してください。」
ラクスは右の人差指を大男に向ける、すると“ボンッ”という音と共に大男の顔が爆発した。
「グルアアァァァ!!!」
「きゃっ!?……ゲホッ!ガホッ……!?」
大男から解放されたなのはは、バリアジャケット姿のラクスを見て信じられないといった表情になる。
「ラクスさん……!」
「なのはさん、後で事情は説明いたしますわ。このお方を退けた後に……。」
その時、大男の背後の破壊された壁から機械の管のようなものが巻きついてきた。
「ゴ、ゴァ!!?」
『ハァァァァ……ロォォォォ……。』
そして大男はそのまま壁の中に引きずられていった。
「ゴァァァァァァ…………。」

 

「なのはさん……大丈夫ですか?」
すべてが終わり、ラクスはなのはとシャマルの元に駆け寄って治癒魔法をかける。
「治癒魔法まで……!?なんでラクスさん、魔法を……その髪飾りはもしかしてデバイス……?」
「……ごめんなさい、今まで黙っていて……これには訳があるんですの。」
「シャマル!高町!無事か!!?」
「ラクスさーん!ピンクさんの中から……!」
その時、マリアージュの攻撃を食い止めていたリインフォース達が戻って来た。
「あれ!?なんで姫さんがバリアジャケット着てんの!!?」
「あら?その子……ユニゾンデバイス?」
その場にいた者達は状況がよく掴めず、頭に?マークを浮かべていた。
「ラクスぅ……ごめんね、ばれちゃった。」
「しょうがありませんわ、クロノさんにも、スウェンさんにもばれていますもの……皆さんにもいずれ話すつもりでしたから……。」

 

その時、基地中に轟音が鳴り響き、その場にいた者達は思わずよろめいた。
「な、何ですかー!!?」
「これ……中からだぞ!」
「まさかシグナム達か!?」

 

その頃、侵入してきたフェイトと戦っていたシグナムとヴィータとザフィーラは三体一という状況を利用して彼女を追い詰めていた。
「こんのぉー!!」
ヴィータの大振りの攻撃はスピードがあるフェイトに当たる事はなかった、だがヴィータはそんな事に構うことなく、次々とグラーフアイゼンをフェイトに向けて振り回した。
「ヴィータ!援護する!」
そしてヴィータの攻撃によって動きが鈍くなっているフェイトに、ザフィーラの拳が繰り出される。
「甘い……。」
だがそれすらもフェイトは軽く捌いていた。
「さすがだな……。」
「関心している場合かよ!シグナム!さっさとしろ!」
「わかっている……!」
その時、ヴィータとザフィーラの間を掻い潜ってレヴァンティン・ボーゲンフォルムから放たれた魔力の矢が、見事フェイトの喉に命中する。
「かっ……!?」
フェイトはそのままバルディッシュを落とし、壁に凭れかかる様に倒れた。
「テスタロッサ……!すまない、こんなだまし討ちみたいな事をして……。」
「んなこと後で言え!」
「フェイト!!しっかりしろ!」
ヴィータとザフィーラは倒れていたフェイトを抱え上げる。すると彼女はうっすらと目を開けた。
「うっ……?私は……?」
「フェイト!よかった……!もう大丈夫なんだな!」
「う、うん……ありがとう、ヴィータちゃん。」
「おう!どうやら大丈夫そう………?」
ヴィータはその時、フェイトの言葉に妙な違和感を感じた。
「二人とも!!そいつから離れろ!!」
するとシグナムがヴィータとザフィーラを押しのけ、フェイトに切りかかった。
すると辺りに剣と剣が交差したような金属音が鳴り響いた。
『…………へえ、僕が彼女にとりついているのによく気が付きましたねぇ。』
フェイトは一度瞬きをする、すると彼女の深紅の瞳がエメラルドグリーンの色に変わる。
「私は一度、お前等に取りつかれているからな、なんとなくだが……さっきお前がヴィータの事をちゃん付けで呼んでいたのを見て確信が持てた、本物のテスタロッサは私達ヴォルケンリッターや友人達には基本呼び捨てなのだ。」
『やれやれ、調査不足ですか……。』
「なんだアイツの力……フラフープ?」
ヴィータはフェイトが三つのエメラルドグリーンの光の輪を纏い、シグナムの攻撃を防いでいる事に驚く。
「その魔法は確かオーブで見た……確かスターゲイザーとかいったな、テスタロッサはどうした!?何故シグナム達と同じように洗脳しない!?」
『いやあ、こちらの技術も未熟な点が多すぎましてね……彼女、前回の戦いの後に心を壊してしまったんですよ。なので彼女は今、僕が“操縦”しています。』
「なにぃ……!!?」
そしてフェイトにとりついたスターゲイザーは光の輪を展開したまま立ち上がり、着ていたバリアジャケットを白いソニックフォームに変化させる。
『逃げるなら今のうちですよ?この“ヴォワチュール・リュミエール”は切れ味抜群です♪』
「へっ!なめんじゃ……!」
その時、辺りに轟音が鳴り響き、シグナム達がいた基地が大きく揺れた。
「うわっ!」
「な、なんだ!?外からだぞ!!?」
(ちっ……どうやら前線に出すのが早かったか……まあいい。)
するとスターゲイザーは沢山ある光の輪のうちの一つをを天井に向かって射出し、天井を破壊してそこから外へ飛び立っていった。
「ま……待て!!」
「追いかけるぞ!ヴィータ!」
「ああ、絶対フェイトを助けるぞ!」
そしてスターゲイザーを追いかけるようにシグナム、ヴィータ、ザフィーラも穴が開いた天井から外へ飛び出していった……。

 

その頃、図書館で謎の少年と一緒に過ごしていたキラは、彼と共にゆったりとした時間を過ごしていた。
「あの……僕、そろそろ皆を助けに行かないと……。」
「それは駄目。」
「どうして!?早く行かないと皆が……!」
「貴方が行くと今より沢山の人が死ぬ、君の存在は争いを生み出すんだ。」
「そんなの……!そんなの解らないじゃないか!!僕は皆を守りたい!もう……もう前みたいには……!」
そんなキラの態度に、少年はハァと溜息をつく。
「貴方にそのつもりはなくても、貴方がその考えで力を使う限り世界は破滅する、僕は貴方にこれ以上罪を重ねてほしくないんだよ、あの人の約束もあるし……。」
「それでも……!それでも僕は……!」
「うーん困ったなー、ここまで強情だなんて……しょうがない。」
そう言いながら少年はキラに近付き、彼の額に手を掲げる。
「え……?何を……?」
「ちょっと強引な手を使わせてもらうね。」
その瞬間、キラ達を取り巻く世界は光に包まれた……。

 

「キラ……キラ。」
「う……んん……?」
キラは眠っていたところを何者かに起こされ、その人物の顔を見る。
「え……!?君は!?」
「君はって……なんだよ、寝ぼけてんのか?友達の顔忘れんなよ。」
「えっ……!いや……その……。」
キラは自分を起こした少年の顔を見て目を大きく見開いた、そこに……私服姿のミリアリアがやって来た。
「何してんのよキラ、それに……“トール”、もうすぐ次の講義が始まるわよ?」
「おう!わりいわりい!」
「ミリィ……?その格好は……それに講義……?」
そしてキラは一度辺りを見回す、そして彼はここかどこなのかようやく気が付いた。
「ここは……ヘリオポリス!?」

 

ミリアリアとトールに連れられてとあるラボにやって来たキラは、そこでまたしても久々の出会いを果たす。
「ようサイ!カズイ!課題捗ってるか?」
「そういう君はどうなんだよ?またキラのを写すのか?」
「だめよトール?この前それでカトー教授に怒られたじゃない?」
「う……解っているよ。」
和気藹々と話すトール達を、キラは少し距離を置いて見ていた。
(なんで二年前に死んだはずのトールが……?なによりヘリオポリスはもう破壊されて……。)
「どうしたのキラ?さっきから貴方変よ?」
「うわっ!?な……なんでもないよ!」
キラは突如ミリアリアに顔をのぞきこまれて怯むが、すぐに取り繕う。
(これは一体どういう事なんだろう?これも魔法なのかな……?)
キラはあれこれ思案しながら、とりあえず今の状況に身を任せることにした……。

 

そして夕方、キラはミリアリア達四人と家路に着く途中、またしてもあり得ない再会を果たす。
「あれ……?サイ!もう講義は終わったの?」
エレカー乗り場の前で談笑していた女の子三人組のうちの一人……赤い長髪をポニーテールにしてまとめた高飛車そうな女の子がキラ達に話しかけてくる。
(あの子は……!!)
「あら、フレイじゃない?貴女も帰るの?」
「うん、この子達とは帰り道が違うからここから一人でね。」
するとトールが、隣にいたサイの肩を掴む。
「おいサイ、婚約者がお帰りだぞ、男としてここは送ってあげるべきじゃないか?」
「う、うん……わかったよ……。」
「ははは……お熱いね。」
「うらやましいの?カズィも頑張れば彼女出来るわよ。」
「そ……そんなんじゃないよー。」
その瞬間、ミリアリア達はドッと笑いあう、それに釣られてキラも笑った。

 

自宅に帰ると、そこではキラの両親のカリダとハルマが出迎えた。
「おかえりなさいキラ、もうすぐ夕ご飯できるわよ?」
「ん?どうした?そんなキツネにつままれた顔して……?」
「う……ううん、なんでもないよ……。」
(僕の家がちゃんとある……一体どうなっているんだ……?)
キラは自分の部屋に移動し、置いてあったテレビの電源を入れる。テレビではプラントと地球の高官達がコロニーで会談している様子が映し出されていた。
「戦争は……していないのか……。」
「そう、この世界はアスラン・ザラのお母さんも生きているし、ラウ・ル・クルーゼも存在していないんだ。」
「!!」
突如背後から声が聞こえ、キラは慌てて振り向く。そこにはあの少年が部屋のベッドの上で寝転がっていた。
「君は……どうしてこんな事をするんだ!?僕が争いを生み出すからか!?僕はそんなつもりは……!」
「やっぱり貴方は何もわかっていないんだね、ますますここから出すわけにはいかないね。」
「ちょ、ちょっと!?」
そう言ってキラは少年を掴もうとするが、彼は煙のように消え去った。
『もうちょっとこの世界を楽しもうよ、戦いなんて忘れてさ。』
「そんな……。」
そして部屋に一人取り残されたキラは、頭を抱えてあれこれ思案を巡らせていた。
「何も解っていない……?一体どういう事?仲間の為に戦うことがそんなにいけないことなの……!?」

 

その頃、外に出てスターゲイザーがとりついたフェイトを追いかけに基地の外にでたシグナムとヴィータとザフィーラは、近くで暴れているグロムリンを見て度肝を抜かれる。
「すっげー!MSが動いている所なんて初めてみたー!」
「喜んでいる場合じゃないぞヴィータ!」
その時、ヴィータ達目がけてエメラルドグリーン色の光の輪が猛スピードで飛んできた。
「うわっ!危なっ!」
「あれが奴の魔法か……!」
シグナム達は光の輪が飛んできた方角にいたスターゲイザーを睨みつける。
『魔法……ね、そういう風に言われるのはとても不愉快なんだよねえ。これには“ヴォワチュール・リュミエール”っていう立派な名前があるんですよ?』
「ぼあ?ぼぇ……ええい言いにくい!!今すぐお前をフェイトの中から叩き出してやる!」
そう言ってヴィータはグラーフアイゼンでスターゲイザーに殴りかかった。
『ははは、まるで闘牛の如くですね。さしずめ僕は……。』
そしてグラーフアイゼンがスターゲイザーの脳天に直撃しようとした刹那、彼はその場から一瞬で消え去りグラーフアイゼンは空を切った。
『闘牛士ですかね、赤いのはそっちですが。』
「なっ……!?」
その時、ヴィータは横から現れたスターゲイザーの突進攻撃を受けてそのまま基地まで吹き飛ばされてしまった。
「ヴィータ!!」
「おのれ!!」
シグナムはヴィータが吹き飛ばされたことにより一瞬逆上し、スターゲイザーに切りかかった。
『いやあ、遅い遅い♪』
「んな!?」
しかしシグナムは一瞬で後ろに回り込まれ、そのままスターゲイザーに抱きつかれ両腕を封じられた。
「なっ……!?貴様!?」
『へえ……結構イイ体していますね……ウチのペチャパイお嬢様とは大違いですねぇ。』
「は、放せ!」
だがスターゲイザーは言う事を聞かず、フェイトの姿のままシグナムの右耳に息を吹きかけた。
「ひゃあ!?」
『あっはっはっ!おっかなそうな風貌の割には乙女チックな悲鳴ですねぇ?ライバルにエロいことされていつも以上に感じているのですか?』
「き……貴様……!」
シグナムはフェイトの体がおもちゃのように扱われている怒りと、自分が今辱めを受けている屈辱により顔を赤くしていた。
「貴様!俺を忘れるな!!」
その時、タイミングを見計らってザフィーラがチェーンバインドを放つ。
『はいはーい、空蝉の術の空蝉役お願いしまーす♪』
しかしその場にはもうスターゲイザーはおらず、チェーンバインドはシグナムのみに捲きついてしまった。
「うわっ!?」
「し、シグナム!?すまん!」
『いやあ、まさかここまで弱いとは……正直驚きですよ♪』
スターゲイザーはいつの間にかシグナム達よりはるかに高い高度で彼女達を見降ろしていた。
「くそっ……!なんだアイツの動きは!?転移したのか?」
『貴方達がどれだけ強かろうと僕の“ヴォワチュール・リュミエール”に追いつくことはできないですよ、なにせコレはその気になれば宇宙最速のスピードが出せるのですから。』
「宇宙最速だと……!?本気で言ってるのか!?」
「はったりには……聞こえんか。」
そしてスターゲイザーは足もとに魔法陣を展開する。
「貴様!?逃げるのか!?」
『いえいえ、ちょっと貴方達に教えて差し上げたいことがございまして……。』
スターゲイザーはそう言うと、こことは大分離れた所でアスラン達と戦っているグロムリンを指さす。
『あのモビルアーマーは……七年前のとある世界で手に入れたロストロギアを使っています。貴方達もよく知っている……というか一部だった物をね。』
「……!?お前!?一体何を……!?」
スターゲイザーはシグナム達の様子に構うことなく話を続けた。
『オーブで出したあれは……言わばグロムリンを量産するための試験運用でしょうかね。あれがあったから今こうして成果を上げている……。』
そして次の言葉を聞いた時、シグナムとザフィーラの顔色が変わる。
『まったく、貴方達闇の書の騎士と……あそこでパイロットをしている貴方達の“主”にはとても感謝していますよ。』
「「!!!!!!!!」」
その言葉を理解したシグナムは、自身の限界を超えた反射的な動きでスターゲイザーに飛びかかった。
「この……外道があああ!!!!!!」
しかしシグナムの怒りの一撃は、対象が何処かへ転移したことにより空を切った。
(さあ……見せてくださいよ、誇り高き騎士と、仕える主との……“殺し合い”をね。ん?)
その時、スターゲイザーはある事に気付いた。
(そういえばバルディッシュを基地に落としてきてしまいましたね……ま、いっか。)

 

その頃、グロムリンと戦っていたアスラン達は連携攻撃によって戦いを優位に進めていた。
『アスラン!俺とレイのザクのエネルギーはない……お前は!?』
「かろうじてアムフォルタスが一発撃てるぐらいは……。」
『我々の攻撃でシールドが弱まっています!今ならビーム砲も通る筈です!』
「わかった……!」
ハイネとレイから確認をとったアスランはモビルアーマー形態だったセイバーをもとのMS形態にもどし、背中に装備していたアムフォルタスプラズマ集束ビームを両脇に抱え、銃口を煙を吹き出しているグロムリンに向けた。
「これで……終わりだ!」
そして銃口から膨大なエネルギーが放たれようとしたその時、
「ちょっとまてええええええ!!!」
突如ヴィータがセイバーの脳天を背後からグラーフアイゼンで殴った。
「うわああああ!!!!?なんか俺の扱いひどくないか!!?」
制御が効かなくなったセイバーはそのまま地面へ墜落していった。
『ヴィータ……!?お前なにやってんだよ!!?』
「すまないハイネ!だがちょっと待ってくれ!!!」
その時ハイネとレイのコックピットにシグナムから通信が入る。
『シグナムさん?借りた通信機を使っているのですか……それで待てとはいったい?』
「レイか……アレを破壊するのはちょっと待ってくれ!あれには……あれには我が主が乗っているんだ!!」

 

その頃キラは謎の少年に連れてこられた“優しい世界”で、戸惑いながらも友人達とまったりとした時間を過ごしていた。
「そういやさー、キラもフレイの事好きなんだよなー?」
「ぶっ!!?」
昼食の最中、キラは昔のフレイに対する恋心をトールに蒸し返され、飲んでいたお茶を盛大に吹き出した。
「うわぁ、汚いよキラ……はいティッシュ。」
「あ、ありがとうカズィ……トール、フレイにはサイが居るんだ、そんな泥棒みたいな真似したくないんだよ。」
「へー、あっさり引いちゃうんだ……ちょっと期待外れ。」
「みんな、キラをいじめちゃダメだよ。」
そんな他愛のない話をしながら、キラは先ほど少年に言われた言葉を思い出しながら考え事をしていた。
(仲間の為に戦うのがそんなにいけない事なのかな……?前の戦争の時だって、アークエンジェルに乗っていた皆を助けるために戦ったのに……。)
答えが出ず、思考の渦に飲まれていたキラは自然と険しい表情になっていた。その時……。
「なあキラ。」
突如隣にいたトールがキラに話しかけてきた。
「ん……?どうしたのトール?」
「この後時間あるか?ちょっと相談したいことがあるんだ。」
「相談したい事?」
「なあにトール?キラの課題を写させてもらおうとしちゃだめよ?」
「ははは、そんなんじゃねえよ。」

 

数時間後、キラは待ち合わせ場所である公園にやってきた。
「おまたせトール、一体どうしたの?相談って何?」
「いや……あのさ……。」
トールはなぜか目を泳がせながら喋るのをためらっていた、そして……。
「最近のミリィ……元気そうか?」
「……?何言ってるの?君、ミリィと毎日逢ってるじゃないか。」
「いや、そうじゃない……最近あいつ、アークエンジェルにまた乗り始めたろ?」
「トール……!?」
キラはその時、今はもうこの世にいない、幻の存在であるはずのトールが今現在の自分とミリアリアの状況を知っているということに気付く。
「トール!君は……!」
「ああ……俺はもう死んでいるんだよな……それであの絵本を見て、今やかつてのキラ達の状態は知っている……その……大変だったな……。」
「う、うん……。」
あまりにもあり得ない状況が続き、キラの頭の中は完全にぐちゃぐちゃになっていた。
「キラは……今でも戦っているんだな、ていうかあのラクスさんと恋人同士ってのが驚きだよな。」
「うん、ラクスは僕の大切な人だよ。」
「大切な人……か……。」
その時、トールはキラに向かって頭を深く下げた。
「トール!?一体何しているの!?」
するとトールはばつの悪そうな顔をキラに向ける。
「いや、一応謝ろうと思って……俺が死んだ時の事を……俺が出しゃばったせいで、キラに重荷を背負わせちゃって……。」
「な、何を言っているの!?僕は……君を守れなかったのに……。」
「そ、それだよ!キラ、お前……皆の為にとか言って“自分”の事、全然考えていないじゃないか!」
「自分の……こと?」

 

二人は一旦近くにあったベンチに腰掛け、話の続きを再開した。
「あの時のアークエンジェルはお前と少佐しか守れる奴が居なかったよな……。」
「うん……。」
「フレイの親父さんのこともあったし……お前あの時、精神的にきつそうだったからな、俺もなにか力になりたくてスカイグラスパーのパイロットに志願したんだけど……まさかすぐ死んじゃうなんてなー、ははは、参ったよ。」
「か、軽いね……。」
「でもその後の状況を見る限り……キラお前、なんでもかんでも一人で皆を守ろうとしてたよな、誰も傷つけないようにって、争いをなくそうって……。」
「う、うん……。」
「キラ、なんかお前……自分が戦う理由を他人に任せすぎてないか?」
「えっ……!?」
トールのその真剣な言葉に、キラは頭を強く殴られたような感覚に襲われた。
「いや、キラが言いたい事は解るんだ、戦いがない世界は素晴らしいし、それを実現しようとしているラクスさんに味方するのはいいことだと思う……でもお前、もし彼女が仮に間違ったことをしたら……お前は止める事ができるのか?」
「な、何いってるんだよトール!彼女がそんな間違いを起こすわけ……。」

 

『貴方が行くと……今より沢山の人が死ぬ、君の存在は……争いを生み出すんだ。』

 

「あ………!」
その時、キラの頭にあの少年の言葉が蘇っていた。
「お前強いから……使い方間違えると大変なことになる、しかもそれが間違いだって気付けないとさらにタチが悪いよな、本当は周りに間違いを正す奴がいればいいんだけど……。」
そしてトールはベンチから立ち上がり、キラの瞳をしっかりと見据えて言い放った。
「俺は……ミリィにも、キラにも、皆にも幸せになってほしいと思っているんだ……でもお前、自分自身の戦う理由を見つけないと……お前自身がどうしたいのかわからないと、あの絵本と同じ結果になっちまうぞ!」
「僕……自身……。」
「ホントはお前自身がそれに気付かなくちゃいけなかったんだろうけど……なんか焦っていたみたいで……見ていられなくなったんだ、こういった時にしかお前と話す機会がないからな。」
トールの言葉を受け、キラは頭の中で思考を巡らせていた。
(僕が……どうしたいか……か。)
キラはふと、スウェンの顔が浮かびあがっていた。
(スウェンさんは家族の為に戦っているけど……その他に何か夢があるとか言ってたな、僕には……自分の意思が足りないってことなのかな……?)
「あ、あの……。」
その時、彼等の元にあの少年がキラとトールの元にやってくる。
「まさか幻術魔法の一部である貴方が彼を諭すなんてちょっと予想外だった……。」
「お前達ユニゾンデバイスが使う夢の幻術魔法は……時に死んだ人間の魂も呼ぶことがあるらしいぜ?だからこうして俺はキラと久しぶりに話す事ができたんだ。」
トールはそう言って少年に近付き、彼の頭を撫でた。
「ありがとうな、キラに逢わせてくれて……もう行くよ。」
するとトールの体が少しずつ光の粒子になって消えていった。
「トール!」
「へへへ……キラ、お前はこれからもっとつらい目に逢うだろうけど……全部自分でやろうとするなよ、そん時はさ……ミリィ達やシンやスウェンって奴等や、ここにいるお前の“一番の味方”に少しでもいいから頼れ、そうすりゃお前は大丈夫だから……。」
そして、トールの体は粒子となって完全になくなり……。
『ついでに……ミリィに“幸せになれよ”って伝えておいてくれ。』
完全にこの世界から消え去っていった。

 

「…………。」
「…………。」
トールが居なくなった公園で、キラと少年は互いを見つめあっていた。
「僕が言った言葉……理解できた?」
「うん……僕が何のために戦えばいいのか、彼のお陰で少しわかった気がするんだ……ありがとう。」
「ん……。」
少年はキラにお礼を言われ気恥ずかしそうに俯く。
「それで……ここから出るにはどうするの?」
「高い魔力攻撃を使ってこの幻術魔法を打ち砕けばいいんだけど……その……。」
「魔法の基礎はシャマルさん達に教えてもらっている。あとは……君の名前を呼ぶだけだね。」
「う、うん……でも……。」
少し不安そうな少年を、キラは優しく撫でてあげた。
「なんとなくだけど……ノワール君とあの絵本を見て、君の事が少しわかったんだ、その……ちょっと信じられないけど……。」
少年はハッと顔を上げ、キラの瞳を見据えながらぽつりぽつりと話し始めた。
「……僕は……“僕達”はこの体を貰ったあとずっと、ずっと“メビウスの輪”の中で貴方達と再び巡り合える事を願っていた、でも僕達のしたことが二つの物語を崩壊に導いてしまったのは紛れもない事実、だから貴方はこのまま夢の中で優しい時を過ごすことができる、それでも……。」

 

僕の名前を……呼んでくれますか?

 

「……スウェンさんならきっとこう言うだろうね、“夢は夢でしかない”って、僕には守りたい世界がある、ラクスやカガリやアスラン、ミリィ達やシン君達が生きているあの世界を……。」
キラは少年に手を差し出す、すると彼等の足もとに巨大な青い魔法陣が展開された。

 

一緒に行こう、“フリーダム”

 

そして二人の取り巻く世界が、青い羽根で覆われていった。

 
 

その頃シグナムとヴィータとザフィーラは、グロムリンに乗っているであろうはやてに対して必死に呼び掛けていた。
「主!目を覚ましてください!!」
「もうやめろよはやて!!こんなことしたら皆……!」
その時、グロムリンの割れた装甲の中から幾つもの触手が射出され、それはシグナム達に捲きついた。
「ぐぁ……!はやてぇ……!」
「やはり高町のように操られているのか、このままでは……!」
そう言っている間にも、シグナム達を捉えている触手の締め付けは強くなっていた。
「ぐぅぅぅ……!」
「おの……れぇ……!」

 

「スターライトブレイカー!」
その時何処からかスターライトブレイカーの光が放たれ、シグナム達を捉えている触手を薙ぎ払った。
「ヴィータちゃーん!みんなー!大丈夫ですかー!?」
「リイン……それに皆……?」
そしてシグナム達の元にシャマルとリイン姉妹とアギトがやってきた。
「お前等なにやってんだよ!!ここはザフトの奴等に任せとけよ!」
「そうはいかねえんだよ!あれには……あれにははやてが乗っているんだ!!」
「えっ!?」
「なんですって……!?」
その時、グロムリンの破損していた部分が生物的な皮膚で覆われていき、頭上には紫色の巨大な女の像が生えてきた。

 

アアアアアアアアアァァァァァァ…………

 

「あれは……闇の書の防衛プログラム!!?」
「まさかあれのコアに防衛プログラムとマイスターはやてを!!?」
その時、シャマルが持っていた通信機にハイネから通信が入る。
『おい!アイツ等自己修復したぞ!?このまま長期戦に持ち込まれたら……!』
「わかっている!!少し!少しだけ私達に時間をくれ!」
『あ!おい!くるぞ!』
するとグロムリンの中心にエネルギーが集束され、それはマハムール基地に向かって放たれようとしていた。
「このままじゃ基地が!」
「くっ……!」
そしてエネルギーはそのまま巨大なビーム砲となってシグナム達ごと基地飲みこもうとしていた。その時、
『させるかー!!!』
突如シグナム達の前に一機のMSが現れ、ビーム砲からシグナム達を守った。
「これは……ストライクE!?」
「スウェン!!」
ビーム砲の直撃をシールドで受けたIWSP装備のストライクEはそのままゆっくりと地上に着陸していった。
「セットアップ」
『ノワールのスーパーイリュージョン脱出ショー!!とりゃー!!』
するとストライクEのコックピットからノワールとユニゾンしたスウェンが飛び出し、シグナム達の元にやってきた。
「スウェンさん!」
「旦那!遅かったじゃねえか!」
「すまない、補給に手間取ってな……ルナマリアも来ている。」
その時、ルナの乗ったコアスプレンダーが飛来し、レッグ、チェスト、フォースシルエットと合体していった。
『スウェンさん!大丈夫ですか!?』
「ああ、おまえはミネルバ隊と合流してあれの動きを止めてくれ、あとは俺達でなんとかする。」
『了解!』
そしてルナの乗るフォースインパルスはグロムリンに向かっていった。
「スウェン、あのモビルアーマーにははやてが……!」
「お前たちの様子を見ればわかる、シグナムの時やカーペンタリアの時もそうだったしな……。」
「どうするの?このままじゃはやてちゃんが……。」
するとスウェンは落ち着いた様子で、みんなに集まるよう手まねきした。
「俺に考えがある、すこし耳を貸してくれ。」

 

数分後、作戦会議を終えたスウェン達は改めてグロムリンに向き合う。
「よし……いいなみんな、絶対に……。」
「はやてを助けだすぞ!」
「ああ、わかっている……このレヴァンティンに誓って!」
そしてスウェンは持っていた通信機でハイネに連絡をとる。
「作戦はさっき伝えた通りだ、やってくれるか?」
『了解した……が、大丈夫なのか?あんな馬鹿デカイモビルアーマーに生身で挑むなんて……。』
「確率は低いだろうな、だがあそこには俺達の大切な人が乗っている、絶対に助け出すさ。」
『アンタ……クールな奴だと思ってたけど、結構アツいじゃねえか、わかった!足止めは俺達ザフトに任せろ!』
そしてハイネの指揮のもと、基地に残っていたMSがグロムリンに向かって並び立った。
『さあ行くぞお前らぁー!ザフトの意地!見せてやるぞぉー!!』
『『『『『おおー!!!!』』』』』
ハイネの号令と共に、MS隊が一斉に射撃武器をグロムリンに放つ。

 

アアアアアアアアアァァァァァァ…………

 

するとグロムリンは悲鳴を上げながら、巨大なビームをあたりをなぎ払うようにして放った。
『くっ……!一旦退避だ!あとはレイとルナに任せろ!』
そして撤退していくザフトのMSを掻い潜るように、ルナのインパルスとレイのザクファントムがグロムリンに突進していった。
『彼らを乗せたなルナマリア、できるだけあのモビルアーマーに接近するぞ。』
『わかったわ!』
アアアアアアアアアァァァァァァ…………
グロムリンはルナとレイを近づけまいと無数の触手を彼らに向かって放つ。
「遅い!!」
その時レイの額に電流のようなものが走り、近づいてきた触手はすべてビーム突撃銃で撃ち落とした。
『ナイスレイ!!このまま突っ込むわよー!』
その隙にインパルスはブースターを最大出力で吹かし、そのままグロムリンのボディーにとりついた。
『私はレイの手伝いをしてくる!あとは頼んだわよ!』
するとインパルスのコックピットハッチが開き、そこから……。
「おう!まかせとけ!」
「リイン頑張るです!」
「わたしもだ!」
ヴィータとリイン姉妹が現れ、生物のような皮膚に覆われたグロムリンのボディーに降り立った。
「リイン!ユニゾンだ!」
「はいです!」
リインⅡは元気に返事をした後、ヴィータの中に入っていく。するとヴィータの髪の毛がバニラアイスのような色になり、バリアジャケットは赤から白に変化した。
「うおおおお!砕けやがれぇー!!!!!!!」
「主……!今お助けします!」
そしてユニゾンしたヴィータと、リインフォースはそのままグロムリンの上で暴れまわった。そこに……レイの乗るザクファントムがヴィータ達のもとに降り立ち、コックピットを開いた。
「おれができるのはここまでです、あとは頼みましたよ。」
「わかった。」
そしてザクファントムのコックピットからシグナムとザフィーラとアギトが出てくる。
「ウオオオオオオオオン!!!」
ザフィーラは大型の狼に変身し、グロムリンの装甲を次々と食いちぎっていった。
『まずは装甲を壊して、この中にいるはやてを探し出すんだ。』
『大体の位置は把握しているッス!あとははやて姉さんを視認できれば……!』

 

(ん……ここはどこや……?)
スウェンとヴォルケンリッターが外で戦っていた頃、はやてはグロムリンのコックピット替わりの溶媒液入りのカプセルの中で目を覚ました。
(そっか、うち……捕まってわけわからんモンに乗せられているんやったな……。どないしよ、うちのせいで沢山の人を傷付けてしもうたな……。)

 

はやて……はやてー……!

 

(ん……?)
はやてはその時、どこか聞きなれた声がしたと思いあたりをキョロキョロと見回す。
そして彼女はモニターを見つけ、そこに自分がよく知っている人物達が映っていることに気付く。
(ヴィー……タ?それに……みんなまで……!?)

 

一方スウェン達はボロボロになりながらもグロムリンに攻撃を繰り返した。
「紫電一閃!」
「ギガントぉ……シュラーク!!」
「ウオオオオオ!!!」
だが彼らが与えたダメージはすぐさま闇の書の能力で回復していった。
「ちっくしょー!次から次へと回復しやがってー!!うざってー!!」
「口を動かす暇があったら手を動かせ。」
「わーってるよこんちくしょー!!」
その時、突如生えてきた触手から放たれた一筋のビーム砲がヴィータの右肩を打ち抜いた。
「うわあああ!!」
「ヴィータ!リイン!」
リインフォースとアギトは慌ててヴィータのもとに駆け寄ろうとするが、彼女に手で制される。
「アタシは大丈夫だ……!お前らはさっさと攻撃をつづけろ!」
「で、でもおまえ血が……!」
アギトは心配そうに血が大量にあふれ出すヴィータの右肩を見る。
「こんなの……こんなの痛くねえ!はやてはもっと辛いんだ!」
『リイン……絶対にはやてちゃんを助けます……!こんなところでくじけてなんていられない!』
「ヴィータ……。」
「リイン……。」

 

(みんな……もうやめて!)
「え……?」
そんな時、ヴィータ達の頭の中にはやての念話が聞こえてきた。
「はやて……?はやてなのか!?」
『どこですかはやてちゃん!今リイン達が助けるです!もうちょっとがまんしてください!』
(なにゆうとるん!皆ボロボロやないか!!ウチはほっといてここから逃げて!)
「なりません主……我々は貴女を助けるためならば、例えこの命が尽きようとも……」
(やめて!うちそこまでして助けてもらいとうない!みんな……うちのせいで傷だらけやん……!)
「はやて……。」
念話を通じてでも、はやてが泣いている事は皆解っていた、それでも戦う手を休めたりはしなかった。そしてリインフォースが戦いながら、ぽつりぽつりとはやてに語りかける。
「主、私が……我々が今こうしてこの場で立っていられるのも、7年前貴女が我々を家族として受け入れてくれたからなのです。その貴女が今窮地に立たされているのに、指をくわえて見ているなんてことは、我々ヴォルケンリッターの誇りが許さないのです。」
そしてヴィータとユニゾンしているリインⅡも戦いながらはやてに語りかける。
『リイン……はやてちゃんに生み出してもらって、とても嬉しかったです。皆に囲まれて、お友達もたくさんできて……生まれてきてよかったって、心の底から言えるです、だからリイン……はやてちゃんに恩返しがしたいです!』
「おう!それにさ……全部終わったらはやてに話したい事が一杯あるんだ!死ぬつもりなんてさらさらねえぞ!」
(で、でもどうするん?このままじゃ皆……!)
「大丈夫です我が主、主の位置はほぼ掴めました。」
「念話引き延ばして正解だったな!」
(え……?)

 

「ようやく……ようやく私の出番ね。」
グロムリンとは遠く離れた場所で、シャマルは指に付けていたデバイス、クラールヴィントに一度キスをする、すると彼女の目の前に鏡のようなもの……シャマルの特殊魔法“旅の鏡”が発動する。
「はやてちゃん、すこしつらいだろうけど我慢してね。」
そう言ってシャマルはその鏡のようなものに自分の右手を突っ込んだ。

 

(あ……!?)
その頃、グロムリンのカプセルの中にいたはやての胸から、リンカーコアを掴んだシャマルの右手が現れた。

 

オオオオオオォォォォォォォ…………。

 

その瞬間、グロムリンのボディは朽ち果てるようにボロボロに崩れ去っていった。その光景を遠くから見ていたハイネとルナとレイは茫然としていた。
「すげえ……!やっぱりスウェンの言うとおりだったのか……!」
『奴等のモビルアーマーは、乗り手の魔力を使って稼働している、なら魔力の源を断てば……。』
『自動修復やシールド機能を無効化できるってわけね。』

 

「よし……最後の仕上げだ!」
そう言ってシグナム達はグロムリンから離れていった。
(最後の……仕上げ?)
「ええ、主……もうすぐ黒馬に乗った王子様がそちらに向かいます。」
(へ?)

 

その時、スウェンの乗ったストライクEが猛スピードでグロムリンに向かっていた。
「目標確認、これよりはやて救出ミッションを敢行する。」
「アニキまるで軍人みたいッス~!」
そしてスウェンはストライクEのアンカーランチャーを使って、はやてが居る辺りの装甲をはがす。
「はやて!!」
そのままグロムリンにストライクを取りつかせたスウェンは、コックピットから降り破壊した装甲の間を掻い潜ってはやての元にやってきた。
(あ、アナタは一体……?)
「ちょっと待っていろ。」
スウェンはカプセルの隣にあった端末を操作する、するとカプセルは溶媒液を大量に流しながらハッチを開け放った。
「げほげほ!!な、なにが起きたんや?」
するとカプセルの中から滑るようにシュベルトクロイツを首に掛けた真っ裸のはやてが出てきた。
「大丈夫かはやて?」
「は、はい、あの……なんでウチの名前を?どっかで逢いましたっけ?」
「ふっ……7年ぶりだからな、忘れるのも無理ないか。」
「お久しぶりッス~♪はやて姉さん♪」
「え……!?ノワール!?」
その瞬間はやては自分を助けに来た男が何者か理解する。
「まさかあんた……スウェンかいな!?」
「ああ……久しぶりだなはやて、大きくなったな……。」
「う、うん……。」
スウェンはそのまま真っ裸のはやてをお姫様抱っこし、ストライクEの方へ向かって行った。
「とにかく詳しい話は後だ、ここから脱出するぞ。」
「その前に何か着せないと駄目ッスね。」
「へっ……!?」
はやてはその時初めて、自分が何も身につけてない真っ裸の状態で、それをスウェンに見られている事に気付く。
「ううう……七年ぶりの再会なのにこんな状態かいな、切ないな……。」
「?何が切ないんだ?」
「アニキ乙女心が解ってないッスね~♪」

 

そしてスウェン達がストライクEに乗って飛び立ったのと同時に、グロムリンは砂のお城のようにザラザラと崩れていった。
『ようスウェン!お姫様は救い出せたか?』
「ハイネ……御覧の通りだ。」
スウェンは通信を入れてきたハイネに見えやすいように、自分の上着を着せたはやてを見せてあげた。
「ど……どうも。」
『おお!やったじゃねえか!こっちはもう今すぐ動かせるMSが一機もない状態だよ、でも周辺に敵はいないし、ヴォルケンズの奴等もこっちで保護した、これで全部終わりだ。』
「そうか……。」
「スウェン、ノワール、一体なにがどうなってるん?このロボットは一体……?」
「そうだな、どこから話せばいいのか……。」

 

その時、突如ストライクEは何者かの銃撃を受け左腕部分を破壊された。
「………っ!?」
「ひにぃえええええ!!?」
「きゃあ!?」
スウェンはすぐさま銃弾が飛んできた方角をみる、そこには一機のイフリートがギガランチャーを構えて飛翔していた。
『やれやれ、グロムリンが破壊されるとはね……、でも八神はやては返してもらうよ、その子はコアとして役立つからね。』
「カシェル……!!!」
カシェルのイフリートは動きの鈍いストライクEに次々と銃撃を加える。
「な、なんやねんあのロボット……!?」
(まずい……!はやては今生身の状態だ……!いつものように動かしていたらGで押しつぶされてしまう……!)

 

『どうやらグッドタイミングみたいだね。』
そう言ってカシェルはスレイヤーウイップを使ってストライクEを捉えた。
「くっ……!?」
『このまま電流を流せば、ノーマルスーツを着ていない八神はやては確実に死ぬ、それがいやだったら僕等と共に来るんだ。』
「俺をシグナム達みたいに洗脳するのか?」
『まあ、そんなところだね。』
「やっべー!絶対絶命ッス!」
「スウェン……。」
スウェンは頭の中で打開策を練るが、いい案が浮かぶ事はなかった。
(こうなったらはやてだけでも脱出装置で……!)
そう、スウェンが覚悟を決めたその時だった。
「させないよ。」
突如天空から五本のビームが降り注ぎ、ストライクEを捉えていたスレイヤーウイップが引き裂かれた。
「っ!!」
『新手だと!?セカンドシリーズか!?』
カシェルは慌ててビーム砲が放たれた方角をみる、そしてそこで……信じられないものを見た。
『フリー……ダム!?キラ・ヤマト……!!?』
「キラ!?」

 

彼らの視線の先には、フリーダムの翼を人間サイズにしたものを背中につけたパイロットスーツ姿のキラがいた。
「もう一撃やれるね?“フリーダム”」
『はい♪マイスターキラ。』
するとキラの目の前に円形の魔法陣が現れる。キラはそれを使ってカシェルのイフリートに狙いを定める。
『ハイマット・フルバースト……!』
「シュート!」
するとキラの背中の翼が砲台モードに変形し、そこから四本のビームが放たれ、イフリートの右足を、両腕を、頭を破壊した。
『な……なんだよこれ!?なんでキラ・ヤマトが魔法を……!?』
カシェルは必死に操縦桿を操作し、ダメージのないブースターを使ってその場から去っていった。
「あの魔導士は一体……?」
「キラ・ヤマト……。」
「え?スウェンのお知り合い?」
何が起こったかわからず、混乱しているスウェン達を尻目に、ノワールはカメラに映るキラを見て嬉しそうに微笑む。
(なるほど、やっぱりお前も一緒に戦うことにしたんだな。フリーダム……。)

 

そして短いようで長かった戦いが終わり、アークエンジェルとミネルバはオーブへ帰って行った……。

 

その頃、シンが入院しているオーブの病院では、リンディがシンのお見舞いの為に果物を持ってシンの病室の前まで来ていた。
「うーん、シン君って果物は何が好きだったかしら……?」
そう言ってドアノブに手を掛けようとした時、リンディは中から楽しそうな声がしている事に気付く。
「あら?アルフかしら……?」
そしてリンディはシンの病室のドアを開け放つ、するとそこには……。
「うわぁー、アルフふかふかー♪」
「ふへー、アンタ中々撫でるのがうまいじゃないかー、今にも……寝て……しまいそう……。」
「あれ?ホントに寝ちゃいました。」
アルフ(こいぬフォーム)とキャロが、見ず知らずの10歳ぐらいの女の子と戯れていた。
「キャロさん?その子は一……?貴女のお友達かしら?」
「リンディさん!あの、この人は……。」
「リンディさん!?」
少女はリンディの姿を見るや否や、眠ってしまったアルフをキャロに預け、彼女の元に駆け寄った。
「あ、あのあの!リンディさんのことは兄からよく聞かされていました!お会いできて光栄です!」
「兄……?もしかして貴女、シン君の……?」
「はい!シン・アスカの妹の、マユ・アスカです!」

 

それから数分後、リンディはマユから話を聞いていた。
「じゃあマユちゃん……お兄ちゃんのお見舞いをしにわざわざプラントからオーブに来たの!?」
「はい♪兄が重傷を負ったのなら、妹として心配するのは当然です!」
「で、でもご両親は?それに学校もあるでしょう?」
「学校?ああズル休みしちゃいました!家には書置き残して私だけで来ました!」
「お……お兄さんに似て無茶する子ねアナタ……。」
リンディはマユの無茶な行動力に呆れ返っていた。

 

「……お兄ちゃん、まだ目を覚まさないんですね……。」
マユはベッドで横になっているシンの頬を優しく撫でてあげた。
「ホント……もうすぐ誕生日だってのに、ねぼすけだよねぇ。」
「キュクルー……。」
フリードは暗い顔をして椅子に座っているマユの膝の上に乗っかった。
「慰めてくれるの?ありがとうフリード。」
マユはそう言ってフリードの頭を優しく撫でた。
「ごめんなさい……あの時私がちゃんとしてたら、シンさんはこんな目にあわなくて済んだのに……。」
「キャロのせいじゃないよ、誰も悪くない、そう、誰も……。」
そしてマユは寝ているシンの枕元に近づき、彼の耳元でささやいた。
「お兄ちゃん……いいかげん起きなよ?みんなお兄ちゃんのこと、心配しているんだからね……。」
マユはそのまま、シンの頬に口付けした。その光景を見て、キャロとアルフは顔を真っ赤にする。
(うわぁ……仲良しにも程があるだろ……。)
(マユさんてば、本当にシンさんのことが大好きなんですね。)
「キュクル!?」
その時、フリードは何かに気付いたのか、シンとマユの頭上をグルグルと飛び回り始めた。
「どうしたのフリード?」
「キャ、キャロちゃん!お兄ちゃんの手が!」
そしてマユは、意識を失っているはずのシンの右手が、わずかに動いていることに気付いた。
「し、シン君!?」
「シン!!」
リンディとアルフもその事に気付き、眠っている彼に声をかける。
「シン君!私がわかる!?」
「起きろシン!みんな心配してるんだぞ!」
「シンさん!」
「お兄ちゃん!」
すると閉じていたシンの目蓋がゆっくりと開かれ、彼の赤い瞳はマユ達を見据えた。
「リンディさん……?それにアルフ……キャロ……フリード……マユまで……俺は一体……?」

 

その瞬間、病室は喜びの歓声に包まれた。