魔動戦記ガンダムRF_16話

Last-modified: 2011-08-13 (土) 23:01:03

ガルナハンとマハムールでの激戦から一週間後、キラとスウェンとラクスはそれぞれの“相棒”と共にシンの病室にお見舞いにやって来ていた。
「シンさん……よかったですわ、もう目を覚まさないのかと……。」
「はは……心配かけてすいません。」
「ホント、ウチの愚兄が心配をおかけして大変申し訳ございませんラクス様……。」
シンの傍らにいたマユはプラントの歌姫であるラクスを前にして少し緊張していた。
「マユさん、そんなに畏まらなくてもよいのですよ?様付けなんて……。」
「は、はい……。」
「しかし驚いたぞ、マハムールから帰ってきたらお前がもう起きていたから……。」
「いやあ、驚いたのはこっちですよ、だって……。」
そう言ってシンは隣の空きベッドに視線を移す、そこには……。

 

「ほっ!やっ!はっ!」
「おお!うまいッスねアギト~♪」
「こら~!ボクの元ボディを玉乗りに使うな~!」
「Zzz……。」
ノワールとアギト、そしてフリーダムとミーティアが遊んでいた。

 

「かわいいねー♪まるで絵本の世界みたいー♪」
「スウェンは居るわ、なのはもはやてもヴィータもシグナムももう助け出されているわ、キラさんとラクスさんは魔導師になってるわ、知らないユニデバが増えているわでもうなにがなんだか……。」
「僕もちょっと把握できてないんだ、フリーダムの事はともかく、ラクスの事……。」
「……。」
ラクスは自分を見てきたキラから思わず目をそらす。
「ラクス・クライン……もういいんじゃないか?話してあげても……。」
「その……わたくしは……。」
「ラクス。」
「うっ……!」
ラクスはキラの真剣な眼差しを見て思わず顔を赤らめる。
「き、キラ……フリーダムさんに会ってからなんというか……凛々しくなりましたわ……//////」
「僕はこれからノーと言える男になると決めたんだ。」
「はぅ……//////わかりました……すべてお話しますぅ……//////」
(キラさん……なんだかしばらく見ないうちに性格変わったな……。)
(出会い一つで人はこうも変わるんだな。)

 

その時、シン達がいる病室のドアがコンコンと音を立ててノックされる。
「あ、どうぞー。」
シンの言葉と共にドアが開かれると、そこにはなのはとはやて、そしてリイン姉妹がいた。
「やほー♪シンくーん♪」
「お見舞いに来たですー♪あ、なにしているですかノワール?」
「おや?キラさんにラクスさん、こんにちはー。」
キラとラクスに挨拶をした後、はやてはお見舞い用のフルーツが入った籠をシンのベッドの横に置く。そしてリインフォースがシンに話しかけてくる。
「右手の調子はどうだ?シン?」
「ああ……すこぶる良好だよ、日常生活を送るにはだけどな……。」
シンは繋がれた痕がある自分の右腕を見つめる。その様子を見てはやてが話しかけてきた。
「それ……フェイトちゃんに切られたんやってな……あの……その……。」
「俺は気にしていない、それにやったのはフェイトの意思じゃないしな……。」
「そうだよ、そう仕向けたのは時の方舟……いや、アリシア。」
なのははその名前を口にした途端、鬼のように表情を怒りに歪ませた。
「くやしいなぁ……私がちゃんと戦えれば、フェイトちゃんを助け出してシン君の仇を討つのに……。」
「ホンマやな、復讐かなんか知らんけど、プレシア・テスタロッサは一方的にフェイトちゃんを捨てたんやで?それにシン君はプレシアを助けようと……。」
「主。」
なのはとはやてはその時リインフォースに言われ、シン達の様子に気付かず感情的に話していた事に気付いた。
「ご、ごめんシン君、ウチらつい……。」
「いや、別にいいんだ、それに……もとはと言えば俺があの時プレシアさんを救えていれば……。」
「お兄ちゃん!」
マユはウジウジしているシンの右頬を思いっきり引っ張った。
「いふぇふぇふぇふぇ!!?」
「もう!なんでそうなんでもかんでもしょいこんじゃうの!?マユ怒るよ!」
「もう怒ってるやん……。」
「にゃはは……よくシン君から聞かされていたけど、ホントに元気な子だね、マユちゃん……。」
「はい♪私も兄からなのはさん達の事よく聞かされていました♪すごく憧れていたんですよ~!“管理局の白い魔王”の武勇伝に!」
「ヘ~……シン君、私の事そんな風に伝えていたんだ……。」
そう言ってなのははシンの左頬を引っ張った。
「ほげえぇぇぇぇぇ!!!!」
「二人とも……その辺にしとけ。」
スウェンの仲裁により抓り地獄から解放されたシンは、改めてキラとラクスを見る。
「いてて……そういえばすっかり忘れていましたけど、二人ともどうしてユニゾンデバイスを連れているんですか?」
「そうだね……じゃあまずは僕から……。」
そしてキラはフリーダムと出会ったいきさつを皆に話した、ただ一つ……この世界の結末(?)を記した絵本を読んだことは除いて。
「成程、しかしフリーダムか……なんでMSのフリーダムと同じ名前なんでしょうね?しかもユニゾンした姿がMSのフリーダムみたいだし……。」
「それを言うならノワールだってそうだ。アイツはまだなにか隠している……まあ本人が話してくれるまで、何も聞かないつもりだがな。」
「そうですか……。」
その時、フリーダムがはやての元に近付き、彼女の上着の袖を引っ張った。
「ん?どないしたん?」
「あの中にあるリンゴ食べていい?」
フリーダムはモノ欲しそうに籠の中に入ったお見舞い用の果物を見ていた。
「俺は構わないよ。」
「そうか……んじゃウチが切ったる、リインフォース、果物ナイフどこやったっけ?」
「ええっと、たしかこの棚に……。」
はやては座っていた椅子から立ち上がり、リインフォースから果物ナイフを受け取りリンゴの皮むきを始めた。
「…………。」
そんなはやての様子を、スウェンは優しく見守っていた。
「?どないしたんスウェン?ウチになにか付いてる?」
「いや……はやて、もう歩けるようになったんだなって……。」
「ああ、そう言えばお前、主の足が完治したこと知らなかったんだったな。」
「おお!そういやそうだ!なんか違和感あったと思ったらそれか!」
シンもああといった感じで手をポンと叩く。
「なはは……なんか改めて言われると、ちょっと照れ臭いわ。」
はやては顔を真っ赤にしながら、スウェンから顔をそらす。そんな彼女の様子を見て、ラクスは隣にいたなのはに小声で声を掛ける。
(あらあら、まるで恋に恋する乙女のようですわ。)
(ええ、はやてちゃんにとってスウェンさんは特別な人ですから……。)

 

そしてはやてによって切り分けられたリンゴがその場にいた全員に行き渡った。
「じゃあ次はラクスの番だね、その……ミーティアちゃんだっけ?その子は一体……。」
「……。」
キラに名指しされたミーティアは、リンゴをちびちび食べながら俯いていた
「ええとですね……スウェンさんとクロノさんにはお話したのですが……この子はどうやら管理局の試作デバイスなのだそうです……。」
そしてラクスは6年前のミーティアとの出会いや、自分の身に降りかかった出来事をシン達に説明した。
「ふうん……ノワールやレイジングハートを参考にしたデバイスか……。」
「そんじゃこのピンクッ娘はオイラの妹になるんスね。」
「ピンクいうな!!」ぽかっ
「イタッ!」
「駄目ですよピンクちゃん、お兄様をいじめては……。」
「もう!ラクスまでそう言う!ボクはミーティアだった何回言えばわかるんだよ!!」
そう言ってプンプン怒るミーティア、そんな彼女を見てキラはある事に気付く。
「ミーティアか……フリーダムとジャスティスの追加武装と同じ名前だね。」
「ええ、兵器開発の際にわたくしが命名させていただきましたの。」
「ボクと使う技が似ているんだよね、MSのミーティアは。」
「成程……それでラクスさんはそのミーティアちゃんとエターナルに出会って、プラントで起こったテロリストが起こした事件に立ち向かったわけですか……まるで私とユーノ君が出会った時みたい。」
そう言ってなのはは昔を懐かしむように窓の外を見た。
「でも……プラントでそんな事件が起きていたなんて初めて知ったよ?」
「あまりにも不可思議な事件だったから都市伝説化したようです……あまりにも信じがたい話ですもの、人や物が突如化け物になるなんて……。」
「ジュエルシードのレプリカを使ったテロ行為、か……。」
「…………。」
シンとスウェンは何やら考え事をしながらリンゴを食べていた。そしてマユが手を挙げてラクスに質問する。
「はーい!質問です!」
「いかがしました?マユさん?」
「ラクスさんの話によると……その6年前の事件にルナマリアさんって人も関わっているんですよね?でもこの前会った時には……魔法なんて全然知らない風でしたよ?」
「うん、それは僕も思った、どうしてなのラクス?」
「「…………。」」
ラクスと事情を知っているスウェンは、キラ達の質問にすこし顔をしかめる。
「ルナが魔導師か……アイツの魔力反応がずば抜けて高かったのは昔使っていたからなのか。」
「ええ、ですが彼女は……その記憶を持ってはいません、何故なら彼女はプラントを救うために、ティーダさんやわたくしの思い出を捧げたのですから……。」
そしてラクスは7年前の出来事を皆に話した……。

 

数十分後、ラクスの話が終わり一同は解散しようとしていた。
「じゃあシン君、スウェンさん、私達リンディさんに用事あるからもういくね。」
「そっか……わざわざありがとう。」
「うん、それじゃあ……いくでリイン。」
「あ、はーい、それじゃまたですー。あ!マハムールで回収されたバルディッシュはシャーリーさんがアースラで調整中です、よかったら今度会いに行ってくださーい。」
そう言ってなのはとはやてとリイン姉妹は病室から出ていった……。
「キラ、わたくし達もそろそろ……。」
「あ、ちょっと待ってくれないかい?少しマユちゃんに話があるんだ。」
「へ?私にですか?」
そしてキラはマユの前に立ち、彼女に対して深く頭を下げた。
「キラさん……。」
「え!?ちょっと!?何を!?」
「僕は君に謝らなきゃいけない、二年前のオーブで……君に大けがをさせたフリーダムのパイロットは僕なのだから……。」
「あ……。」
マユはキラに言われて初めて、彼があの時のフリーダムに乗っていたパイロットだということに気付いた。
「君のお兄さんにも怒られたよ……謝ってすむ問題じゃないのは解っているけど……でも……。」
「……。」
マユは何も言わず、頭を下げているキラの両手を持った。
「マユ……ちゃん……?」
「これでもう仲直りです、いつまでも過去を引きずっているほど……私は暇じゃないです。」
「で、でも僕は……!」
「もしキラさんが……自分の罪を悔いる事をしないおバカだったら許しませんけど……貴方はしっかり悔いている、それならもう私は貴方を許します、でもこれからは気を付けてくださいよ?」
「う……うん!ありがとうマユちゃん……。」
そんな二人の様子を、シンとスウェンとラクスは優しく見守っていた。
「よく出来た妹さんですわね……。」
「いやあ、自慢の妹ですよ。」
「なんでお前が威張っているんだ?」

 

その頃、どこかにある時の方舟のアジトでは……カシェルとスターゲイザー(略してゲイザー)、そしてアリシアが研究室のような場所で話し合っていた。
「どーすんのよ!?まさかグロムリンと八神はやてを失うなんて……!アンタ達ほんとなにやってんのよ!?」
アリシアは少々ヒステリックにカシェル達を責めていた。
(自分だって補欠でインパルスに乗ったルナマリアとかいうパイロットに苦渋を舐めさせられたくせに……。)
「アリシア様落ち着いてください……あのモビルアーマーとパイロットは試作の捨て駒、奪われたからと言って我々になんら痛手にはなりません。」
「それでも私達は無様に負けたのよ……!!?あの人が知ったらなんて思われるか……!」
「いやあ、あの人はそんなことで怒らないと思いますけど……。」
だがゲイザーの話も聞かず、アリシアは爪を噛んで悔しがっていた。
「とにかくムカつく……!とくにインパルスとガイアのパイロット!今度あったらギッタンギッタンにしてやる……!」
「聞いてねえな……ところで……。」
カシェルはふと、隣にいたゲイザーの格好を見て溜息をつく。
「お前……いつまでそいつにとりついているんだ?」
ゲイザーはマハムール・ガルナハンの戦いからずっとフェイトの体にとりついていた。
「いやあ、この体は魔力が高くていいんですよ~!それに女性は色々と面白いですしねー♪あ、エロいことはしていませんよ?」
「そんな事だれも聞いてねえ……。」
「ま、そのうちこの体は使い物にならなくなりますがね……変えの体があればいいんですけど……。」
「チッ……。」
ゲイザーの言葉を聞いて、カシェルは不快そうに舌打ちする。一方のゲイザーはそんな彼の様子を見て小さく微笑む。
「まあいいわ……せいぜいボロ雑巾になるまで使い込みなさい。ところでこれからどうするの?10月1日の作戦開始までまだ結構あるわよ?」
「そこんところどうなんだ?首領からなんか指令はあるのか?」
「ああそうそう!そういえばこんな指令を受けていました!」
そう言ってゲイザーは一枚の指令所をアリシアとカシェルに見せた。
「そう言うのは早く見せろよ……なになに?」
「『これから二週間後にオーブを攻めろ』?こりゃまた無茶なことを言うわね……。」
「いえ、実はお二人にはその前にやっていただきたい仕事があるのですよ。」
「「?」」

 

それから一週間後、豪華な装飾が施された王座がある部屋で、ゲイザーは王座に座るイクスに謁見していた。
「ご機嫌はいかがですか?冥王イクス・ヴェリア様?」
「すこぶるよいですよ、アナタのお顔を見るまではですが……。」
「おや、手厳しい……そんなお顔をしているとかわいいお顔が台無しですよ?」
イクスはとても不快そうな顔でゲイザーを睨みつけていた。
「いつまで……いつまでこの世界の人達を私の能力を使って苦しめるつもりですか?一体あなた達の目的は……!?」
「最初に言ったではないですか、貴女を王として君臨させると。」
「“この世界の”ですか?それとも……。」
「………。」
部屋に重苦しい空気が流れる。だがそんな空気を切り裂く人物が現れた。
「王女さまー、あそぼー。」
「ほら雫、走っちゃ危ないわよー。」
「全く、元気一杯ねすずかの姪ッ子は……。」
すずかとアリサ、そして雫がイクスとゲイザーのいる部屋に入って来たのだ。
「いやいや、イクス様のお相手、いつも御苦労さまです♪」
「アンタ……いつまでフェイトにとりついてんのよ!?はやくその子から出ていきなさい!」
「やれやれ、出会いがしらにそれですか……。」
そんなゲイザー達の様子を気にすることなく、雫はイクスと一緒に絵本を読みだす。
「シズク、今日はどんな本を読み聞かせてくれるのですか?」
「んーっとねー、今日は眠り姫を持ってきたのー。」

 

「いやあ、我が王が心を開いてくれるのは貴女方だけですねえ。」
「話を逸らすんじゃないわよ……!早くその子から出ていきなさい!」
「おお、怖い怖い……。」
「アリサちゃん、この人に何を言っても無駄だよ。」
怒るアリサを、すずかが冷静に嗜める。
「ふふん、そこの紫髪の方はこの状況でも冷静でいらっしゃる、それとも……何か手があるとでも?」
「そんなんじゃありません……でも貴方達はなのはちゃんやはやてちゃん、シグナムさんにヴィータちゃんをシン君達に奪われている……きっとフェイトちゃんも彼が助けてくれます。」
「へえ……信用しているんですね。」
「友達ですから。」
そんな時、アリサは辺りを見回した後、ゲイザーに質問する。
「そういやあのアリシアとかいう性悪女とクソ生意気なカシェルとかいうガキはどこ行ったの?」
「アリシア様とカシェル様は少々野暮用がございまして……只今外出中でございます。」
「ふうん……まあいいわ、雫ー、イクスー、桃子さん達がケーキ焼いたからシホ達と一緒に食べましょー。」
「わーい!ケーキだー!」
「ふふふ、嬉しそうですねシズク……。」
そしてイクス達はゲイザーをその場に置いて部屋から出ていった。
「やれやれ、私は誘われませんでしたか……嫌われ者は辛いですねえ。」

 

その頃、オーブのとある繁華街……そこでカシェルは普段付けていた仮面を外し、眼鏡に黒い学生服という格好で歩いていた。
(『オーブに潜入し地形を把握して一週間後の総攻撃にそなえろ。』だと……?あの人は無茶ばかりいうなあ……しかも部下じゃなく俺とアリシアに指令するなんて……。)
そんな事を考えながらカシェルは深く溜息をつく。
(それにしても……。)
カシェルはすれ違う人々の、一人一人の顔を見ながら深く考え込む。

 

「きゃはははは♪まじでー?」
「そうなんだよー♪

 

(この国の奴等は……ホント平和だよな、セイランが俺達に誘拐されたってのに……。)
カシェルはビルの巨大スクリーンに映っていたカガリの演説を見る。
(あのお姫様が優秀なのか……それともそれを支える部下が優秀なのか……。)

 

そしてカシェルは再び歩き出し大きな公園にやって来た。彼はそこで一組の家族を見つける。
「お父さーん♪お母さーん♪」
「お姉ちゃん待ってー。」
「こらこら、走ると危ないぞ?」
「うふふふ。」

 

(家族……か……。)
カシェルはその家族を見て、少し寂しいという感情に囚われる。
(幸せ者だよな……世界には親の顔も知らない奴もいるってのに……。)
カシェルはその時、自分がその一家に嫉妬している事に気付いた。
(何考えているんだよ俺は……。そんな世界を変える為に、俺みたいな奴を出さないために、あの人の力になるって決めたのに……。)
そしてカシェルはそのままその場から去っていった。

 

その頃、オーブ軍基地では……一人のザフト軍の軍服を着た金髪の女性が、これから配属されるミネルバに向かっていた。
「はあ、今日からあのミネルバに配属か……緊張します。」
その時、女性の背後に人影が現れ、彼女の首に当て見する。
「はぅ!?」
「はーい♪ちょっと寝ていてねー♪」
女性はそのままトイレまで引きずられ、身ぐるみをすべて剥がされた。
「ふうん……アビー・ウインザーっていうんだこの子……ま、どうでもいいんだけどね。」
その人影……アリシアはアビーの服と身分証を奪うと、変身魔法でアビーに変身した。
「さーってと、ゲイザーの話によると……確かオーブ軍の基地のどこかに“黄金のMS”が隠されているのよね……。ホントなのかしら……?」
アリシアは首領からオーブのどこかにある黄金のMSを奪う指令を受けていた。そして彼女は気絶したアビーを用具室に押し込むと、早速基地の中を捜索し始めた。
「うーん、とはいっても……基地のどこかって言ってもどこを探せばいいのかわからないじゃない、とにかく適当にぶらついてみるか……。」

 

そしてアリシアはミネルバのMS格納庫にやって来た。
「えーっと、確かここはMS格納庫だったわね……ん?」
すると彼女はふと、コアスプレンダーの前にいる赤毛の少女を見つける。
「あいつは確か……?」

 

「ルナー!そろそろ休めよー!」
「うーん!もうちょっとしたらねー!」
ルナは作業ズボンにTシャツといった姿でコアスプレンダーの整備を行っていた。

 

「ルナマリア・ホーク……!ふふふふふ……!まさかこんな所で会うとはね!」
物陰でルナの様子を見ていたアリシアは不敵に笑っていた。
「さて、煮え湯を飲まされた相手を見つけたからには……なんか仕返ししたいわよね。ん?」
その時、ルナは作業を終えてシャワールームに向かっていた。
「ふー!汗かいちゃったわ。」
「どうやらシャワールームに行くみたいね……そうだ!」
アリシアは頭に電球マークを浮かべながらルナの後をつけていった……。

 

数十分後……ミネルバにあるシャワールームで汗と油を流したルナは脱衣所で体を拭いていた。
「ふうー、すっきりした……さてと。」
そしてルナは籠に入れていた自分の衣服を掴む、が……。
「あ、あれ?」

 

数分後、部屋でデータ整理をしていたメイリンの元にルナがやって来た。
「メイリ~ン(泣)」
「ん?どうしたのお姉ちゃん……うわ!?」
メイリンはルナの格好を見て驚く、何故なら彼女は上が緑で下が白のプ○グスーツに、赤縁眼鏡にヘアバンドといった格好だったのだ。
「脱衣所に置いてあった制服がこれにすり替えられていたの~!」
「えー!?それ大変じゃない!艦長に報告しなきゃ……!」

 

そんな彼女達のやりとりを、壁に紙コップを付けて聞いていたアリシアは心の中で高笑いしていた。
(くっくっくっ……!ざまあないわね!私に舐めた事するからそうなるのよ!さて……取り替えたこの制服はネットオークションにでも出すかな。)
そしてアリシアは本来の任務に戻って行った……。

 

その頃、オーブの街中を歩きまわっていたカシェルは建物の位置や住民の避難経路を頭の中で整理していた。
(建物を盾として利用することは出来るかもしれないけど……それだと住民に被害が及ぶな、やっぱり基地を直接攻めるか……でもそれだと俺等の軍に被害が及ぶだろうしな……。)
ふと、カシェルは自分の腹に空腹感を感じていた。
「どっかで飯でも食べるかな……。」
そう言って辺りを見回すカシェル、その時彼は三人ほどのオーブの軍服を着た若者に絡まれている少女を見つけた。
「ねえねえ君!俺達とお茶しないかい?」
「ごめんなさい、お兄ちゃんに知っている男の人と知らない男の人とはお茶しちゃダメって言われているんです。」
「そう連れないこというなよ~?この人はワイド・ラビ・ナガタって言ってね、オーブの中でも有名な氏族の御曹司なんだよ~?」
「おいおい、俺の事ペラペラしゃべんなよ、見せびらかしているみたいだろ~?」

 

「えー?なんだこのベッタベタな展開……。」
その様子を苦笑いしながら見ていたカシェルは、関わりたくない一心でその場から去ろうとしていた。
(俺には関係ないな、どっかのヒーロー気取りがさっさと助けるだろ……。)
その時、彼は少女達のやりとりを見ていた通行人の内緒話を耳にする。
「うわあ、あの人ナガタ家の人じゃないか……。」
「もしあの女の子を助けたら、どんな仕返しが返ってくるか……。」
(助けないつもりか……。)

 

その時、言い寄ってくる少年達を鬱陶しいと思った少女が、彼等に向かってきつい一言を浴びせる。
「あの……ナガタってオーブの下級氏族だって聞きましたよ?まあ手駒を使って嫌がる女の子に言い寄るような人が御曹司ならしょうがないですよね。」
「……!てめぇ……!」

 

(バカだなあの女……相手を刺激してどうすんだよ……。)

 

「ちょっとこい……きつくお灸をすえる必要があるな。」
「いや!触らないでよ!」

 

(…………。)
自然と、カシェルの足は少女達の元に向かっていた。

 

「ほら!さっさと来い!」
「嫌だって言ってるでしょ!!」
「軍人さーん、ちょっといいですかー?」
「ああん!?なんだぁ!?」
若者達は声がした方を向く。
ガスッ!
「ごげっ!?」
すると若者の一人の顔面に空き缶が直撃した。
「て、てめえ!!」
「次、中身入り行きますねー。」
カシェルは先ほど自販機で購入した中身入り缶ジュースをもう一人の若者に投げつけた。
ドスッ!
「うがっ!」
缶ジュースは若者の顔面に突き刺さるように命中した。
「どうする?まだジュースはあるけど?」
「お……憶えてやがれ!!」
最後に残った若者は、気絶していた仲間二人を連れてその場から去っていった……。
「まったく、捨て台詞までお約束か……。」
「あ、あの!ありがとうございました!」
するとそこに、若者達に絡まれていた女の子がカシェルにお礼を言いに来た。
「別に……アイツ等が鬱陶しかっただけだし……。」
「ふふ、クールな人なんですね……、よかったら私にお礼をさせてください。」
「そんなの別に……。」グゥ~
その時、カシェルのお腹の虫が鳴いた。
「うっ……!//////」
「もしかしてお腹減っているんですか?よかったら奢りますよ?」
「い、いや……!」
ふと、カシェルは辺りの通行人から小さな笑い声が聞こえているのに気付く。
「くっ……!わかったよ!どこにいきゃいいんだ!?」
「えっと、じゃああそこの喫茶店にいきませんか?」
そしてカシェルはその少女に連れられて喫茶店に入って行った……。

 

一方その頃オーブ軍基地に変装して潜入したアリシアは、黄金のMSの手がかりを求めて基地の中を探索していた。
「うーん……どこかにデータベースとかがあれば調べることができるのに……。」
その時、彼女は床に転がっていた小さなケースを歩いていたはずみで蹴ってしまった。
「ん?何これ?」
アリシアはそのケースを拾い上げ中身を見てみる、その中には何種類かのカプセルが入っていた。
「これ、ピルケースかしら……?誰かの落し物?」
とりあえずアリシアはピルケースをポケットに入れると、基地の探索を再開した……。

 

同時刻、オーブ軍基地の食堂……そこでレイは何かを探すように床をキョロキョロと見回していた。そんな彼の様子を見て、その場にいたヨウランとヴィーノが声を掛ける。
「ん?どうしたんだレイ?何か落としたのか?」
「いや……これぐらいの白いピルケースを見なかったか?」
レイは指のジェスチャーでピルケースの大きさを教える。
「んー、見てないなー。」
「風邪でもひいたのか?」
「ま、まあ……そんなところだ。」
そしてレイは食堂にはピルケースはないと判断し、その場から去っていった。
(まずい……!もうすぐ薬の時間だ……!)
レイは焦りからか自然と速足になっていた……。

 

それから数十分後、アリシアは目ぼしい成果を得られずに、休憩室にある自動販売機の前にいた。
「はあ~、さてはあんにゃろう……ガセネタ掴ませたわね!ったく……。」
そう言ってアリシアは自動販売機にお金を入れ、ペットボトルのお茶を買う。そして蓋をあけ中身を一口飲んだ。
「あーあ、こんなことなら留守番しているんだったわ……。」

 

「う……ううう……!」

 

「ん……?」
その時アリシアの耳に少年のうめき声が聞こえてきた。
「なにかしら……?酔っ払いでもいんのかしら?」
そう言ってアリシアはお茶を持ったまま呻き声がした男子トイレへと向かった。そこには……。
「がっ……!ぐううう……!」
レイが胸を押さえて苦しんでいた。
「えっ……!?ちょ!なにこれ……!?」
アリシアは突然の事に少し動揺していた。
「ぐ……が……く、くすり……!」
「な、何よ……!別に敵を助ける義理なんか……!」
そう言って立ち去ろうとするアリシア、しかし彼女はレイの苦しそうな声を聞いて立ち止まってしまう。
「も……もう!」
アリシアはレイの元に駆け寄り、蹲る彼を起こす。
「ほら!私の目の前で苦しむんじゃないわよ……!恨んでもない奴が目の前で死んだら後味悪いじゃない!」
「くす……り……!」
「薬……?」
アリシアはふと、先ほど拾ったピルケースをポケットから出す。
「もしかしたら……!」
そしてピルケースから何粒か錠剤を出し、それをレイにお茶と一緒に飲ませる。
「くっ……ぷはぁ!はぁ……!」
しばらくするとレイの発作は落ちついていた。
「コレアンタのだったの?まったく……手間かけさせんじゃないわよ……!」
そう言って彼女はレイの腕を担ぎ、彼を医務室へと連れて行った……。

 

数分後、レイは医務室に連れてきてくれた変装したアリシアにお礼を言っていた。
「すまない……お陰で助かった、君はザフト軍か?」
「ええ、今度ミネルバに配属になったアリ……アビー・ウインザーよ。」
「…………。(おかしい、彼女とは何度か戦場で会ったような気がする……)」
レイは変装したアリシアに違和感を感じており、彼女の顔をジッと見ていた。
「な、なによ?人の顔ジッと見つめて……もしかして惚れた?」
「それはない。」
「ああん!?きっぱり否定してんじゃないわよ!!」
レイの即答にムカッときたアリシアは思わず声を荒げる。
(なんだこの女?礼儀知らずにも程があるだろう……。)
「ところでさー、なんでアンタあんなところで蹲っていたの?つわり?」
「お前は何を言っているんだ?生まれた時からの持病だ、その薬がなくては日常生活に支障をきたすほどのな。」
「ふーん、そんな体でよく軍人なんてやっているわね。」
「……俺にはそれしか生きる意味がなかったからな。」
「…………。」
アリシアはそのレイの返答を聞いて、少し考え込む。
(それしかないか……こいつも私みたいに復讐云々かしら?)
「どうした?俺の顔に何か付いているのか?」
「ん?なんでもないわよ……。」

 

その時、レイ達がいる医務室にヨウランが慌ただしく入って来た。
「れ、レイ!ここにいたのか!?大変だ!」
「どうしたヨウラン?そんなに慌てて……?」
「さ、さっき女子トイレの用具室に気絶したザフトのオペレーターが身ぐるみ剥がされて押し込められていたんだよ!」
「何……!?」
(げっ!?)
するとヨウラン達の元に、下着姿のアビーを抱えたシグナムとヴィーノがやって来た。
「うーん……。」
「おい!しっかりしろ!」
「大丈夫だ、目立った外傷はな……!?」
シグナムはふと、レイの傍らにいるアビーに変装したアリシアを見る。
「貴様……!魔導士か!?」
「ちぃ!ばれちゃあしょうがないわね……!」
アリシアは着ていた服を脱ぎ捨て、いつものバリアジャケットの姿になる。
「お前は……!?」
「バイバイ♪結構楽しかったわ♪」
「ま……待て!」
アリシアは発光弾を使って辺りの人間の目をくらませ、その場から逃げ去っていった。
「うお!まぶし!!」
「ぐぁ……!くそっ!」
シグナムはアリシアを取り逃がしたと悟ると、近くの壁を力一杯殴りつけた。そんな彼女の様子を見ながら、レイは頭の中で思考を巡らせていた。
(成程、あれが時の方舟……しかし何故敵である俺を助けたんだ……?)

 

オーブ基地が騒がしくなっていた頃、少女に誘われて喫茶店にやって来たカシェルは、そこでコーヒーに口を付けていた。そして一応任務中なので、少女には偽名を名乗った。
「ふーん、アサミ君って言うんだー……私はマユ!よろしくね♪」
その少女……マユは自己紹介しながら注文したチョコレートパフェに口をつけていた。
「ああ……君は何?オーブの人?」
「うーん、元って言ったほうがいいのかなー?二年前までここに住んでいたんだけど、戦争がきっかけでプラントに引っ越したの、今はお兄ちゃんのお見舞いでここに来てたんだ。」
「……お兄さんがいるの?」
「うん!ちょっと鈍くて暴走気味だけど、とっても強くて優しいお兄ちゃんなんだー♪アサミ君は姉妹とかいるの?」
そのマユの質問に、カシェルの表情に暗い影が差す。
「いるようないないような……だな、俺はどっちでもいいんだけど……。」
「……?ふーん、変わった家族構成だねー。」
と、その時……カシェルが注文したチーズケーキが運ばれてきた。
「お待たせしましたー♪」
「ホントに頼んでよかったのか?お金の方は……?」
「大丈夫大丈夫♪お兄ちゃんにお願いしてお小遣いを二万ほど貰っているから♪」
(そんな大金ポンと出すなんて……バカだろコイツの兄貴……。)

 

同時刻、シンの病室……。その時ちょうど、ステラがお見舞いに来ていた。
「へっくし!!」
「シン?風邪?大丈夫?」
「あ、ありがとうステラ、気遣ってくれて……君は優しいなあ。」
そんな彼等の様子を、ヴィータが物陰から見ていた。
(なんだよアイツ!デレデレしやがって……!やっぱ優しくしないと振り向いてくれないのかな……。)

 

「でねー、お父さん失業してからすっかり2ちゃんねらーになっちゃったの!失業保険とお兄ちゃんの仕送りでなんとかなっているんだけどねー。」
「大変なんだなマユも……。」
そんななんて事ない世間話をしながら、カシェルはマユとのどかな時間を過ごしていた。
「ふふ……♪」
「……?なんだよ?俺の顔になんか付いているか?」
「うん?だってアサミ君、さっき会った時は眉間にしわ寄せてばっかりだったけど……笑うとかわいいんだなーって♪」
「なっ……!?男にかわいいとか言うなよ……//////」
数十分後、喫茶店から出たカシェルとマユは互いに別れの挨拶を交わしていた。
「じゃあマユそろそろ行くね、色々とありがとう♪楽しかったよ♪またねー♪」
「うん……じゃあな。」
カシェルは去っていくマユを見送りながら、深く溜息をついた。
「またね……か、会えるかどうかわからないけどな。さて……。」
そしてカシェルはあるところに向かって歩みを進めた……。

 

喫茶店の近くにあるゲームセンター、そこで先ほどマユにナンパしてきた三人組のうちの一人がパンチングマシーンで遊んでいた。
「くそっ……!役に立たねえ奴ばっかりだ!まあいい……俺にはカガリがいるしな!セイランがいない今俺にだってチャンスが……!」
「ちょっといいですか?」
その時、彼の後ろからカシェルが声を掛けてきた。
「んだよ!俺になんか用……てめえは!!?」
「オーブのワイド・ラビ・ナガタさんですね?俺は……。」
カシェルはその少年……ワイドに自分の右手を翳す、するとワイドの腕に黄色のバインドが掛かる。
「うわっ!?この力まさか……!?」
「俺は時の方舟の魔導士です。ワイドさん貴方……オーブのトップに君臨したくはないですか?」

 

それから約一時間後、カシェルとアリシアはアジトにもどり、ゲイザーに任務の報告をしていた。
「なるほど……黄金のMSはありませんでしたか。」
「まったく!ガセネタ掴まされてんじゃないわよ!私もう寝る!」
(うるさい上に役立たずかよ……タチ悪いな。)
「それとカシェル様……その内通者、信用できるのですか?」
「ああ、出世欲の塊みたいな奴だったからな、うまくやってくれるだろ。」
「それはそれは……来週の作戦開始が楽しみですねえ。」
その時、ゲイザーの元にエール達から連絡が入る。
『ゲイザー様!“協力者”の方々が“戦利品”を持ってこちらに到着しました!』
「そうか……丁重に出迎えるんだ。」
「“協力者”……?ゲイザーお前、彼等を使って何していたんだ?」
「いえ、実は首領の極秘指示で、“協力者”の方々に宇宙にあるクライン派のMS工場を襲撃してもらったのですよ。」

 

同時刻、宇宙にあるクライン派兵器開発製造拠点“ファクトリー”、今そこは突然の襲撃により壊滅的な被害を受けていた。そのような中、バルドフェルドの部下、ダコスタは血まみれの体を引きずりながら数人の仲間を連れてオーブ行きのシャトルに乗り込もうとしていた。
「バルドフェルド隊長……申し訳ございません……!」
「しっかりおしいよ……!こうなったら私達でラクス様を守るしかないよ!」
そして破壊された工場の中で、一人の僧侶風の盲目の男が茫然と立ち尽くしていた。
「あ、あの二機が奪われるなんて……!お、終わりだ!世界はもう奴等の……!」

 

その頃カシェルとアリシアは、ゲイザーによってアジトのMS格納庫に案内されていた。そしてそこには、ファクトリーから奪取した二機のMSが格納されていた。
「ちょっとアンタ!コレ……!!?」
「驚いた……まさかクラインがあの二機を再び作り上げていたなんて……!!」
「敵に武装解除を要求しておいて自分達は戦力強化……所詮奴等も欲まみれの下等な人間ということです。まあそのおかげで我々の戦力は段違いに跳ね上がりましたけどね、もうこの二機は貴方達の物ですよ。」
アリシアとカシェルはゲイザーの話を聞きながら、その二機の前に立つ。
「ゲイザー……この二機の名前は?」
「ZGMF-Ⅹ20A“ストライクフリーダム”、そしてZGMF-Ⅹ19A“インフィニットジャスティス”でございます。アリシア様はフリーダムに、カシェル様はジャスティスをお願いいたします。」
「ええ……!」
二人は前大戦の伝説のMSの後継機を前に、気持ちが少しばかり高揚していた。
「これさえあればインパルスにだって……!スウェン・カル・バヤンにだって負けない……!」
「これに乗るからには無様な姿を晒すわけにはいかないな……。」

 

今この時、自由と正義の剣が獅子の国オーブに牙をむこうとしていた……。

 

おまけ

 

その夜の事、オーブにあるカガリの屋敷の私室……そこで彼女は部下達からある報告を受けていた。
「“マーシャン”が予定を早めて地球にやって来ただと?」
『はい、なんでも地球の情勢が気になると言って、今はアキダリアでこのオーブに向かっております。』
「この大変な時に……。」
『いえ、会談等はまだ設けなくていいとあちらから言ってきております、なんでもプライベートな用とかで……。』
「プライベート?ふむ……まあいい、今の状態が落ちついたらこちらから連絡すると伝えてくれ。」
『畏まりました。』
通信を切り、カガリは椅子の上に腰掛ける。
「ふう、次から次へと……問題が山積みだ。」
その時、部屋の電話の呼び鈴が再び鳴り響き、カガリはすぐさま受話器を取った。
「私だ……なんだキサカか、どうしたんだこんな時間に?」
電話の相手はカガリの部下であるキサカからだった。
『カガリ……明日、私の元に来てくれないか?シモンズ主任も待っている。』
「どうしたんだ?そんな改まって……?」
『今の情勢……こちらも戦力アップを図らなければならない、そこで……お前にウズミ様の遺産を預けたいのだ。』
「お父様の……遺産!?」

 

同時刻、オーブ領内の海上……そこに一隻の宇宙船“アキダリア”が航行していた、そしてそのブリッジに二人の男がある事を話合っていた。
「アグニス、“彼等”の話によるとオーブの情勢は落ちついているようですよ?」
「そうか、それでは我々は引き続き時の方舟とその“協力者達”の調査を行う。まったく、今まで集めた情報が正しいのならテラナー(地球人)のなんと愚かなことか……お前もそれでいいな?」
アグニスと呼ばれた水色の長髪をした青年は、後ろで会話を聞いていた女性に声を掛ける。
「ええ……“あの子”も了承するでしょう、それが私達と彼等の約束ですから。」

 

そのアキダリアの寝室では、二人の男女が何やら語らっていた。
「ね、ねえいいの?彼等に逢わなくて……?二年ぶりの再会なんじゃあ……?」
「今はまだ駄目だよ、今会いに行ったらこれまでの事が全部パーになっちゃう。後少し、後少しなんだ。」
「そ、そう……。」
「こら!そんな不安そうな顔しちゃダメ!男の子でしょ?」
「う、うん……。」
「それに今じゃなくても近い内に彼等には会うことになる、あの子達には恨まれるだろうけどね……。」

 

その頃、ミネルバの艦長室では……タリアがエルスマン議長代理からある報告を受けていた。
「新型機ですか……。」
『うむ、戦況も著しくないしな……デュランダル議長が密かに製造を指揮していた二機の新型とハイネ君専用のグフイグナイデッドを送る、だが……。』
「だが……?どうしたのですか?何か問題でも……?」
『うむ、新型のうちの一機……プロヴィデンスの発展機であるレジェンドは完成しているのだが……もう一機のほうが完成が遅れていてな、パーツの状態でそちらに送ることになる、もしかしたら10月1日に間に合わないかもしれない。』
「わかりました……こちらに届きしだい、オーブの技術者と共に組み立てておきます。」
『すまないな……アスラン君にもよろしく。』
そして通信は切られ、タリアはふうっと溜息をついた。
「新型を投入しなければならないほど、事態は深刻になっているのね……時の方舟の本当の目的は一体何なのかしら?」
その時、艦長室に来客を知らせるインターホンが鳴り響いた。
「誰?」
『えっと……時空管理局のキャロ・ル・ルシエです。お茶を持ってきました。』
「わかったわ、入っていいわよ。」
そして艦長室の扉が開かれ、緑茶と茶菓子を乗せたトレイを持ったキャロが入ってきた。
「わざわざありがとうキャロちゃん。」
「いえ、私も皆さんのお役に立ちたいですから……。」
「そう……。」
タリアはそう言って艦長室にある机の引き出しから飴玉を取り出し、それをキャロに手渡す。
「はいこれ、お駄賃。」
「えええ!?わ、悪いですよそんな……。」
「いいのいいの、キャロちゃんにはいつも頑張って貰っているからこれはお礼ね。」
「は、はあ……ありがとうございます。あれ?」
キャロはふと、机の上に飾ってあったタリアとその息子が写った写真立てを見つける。
「ああそれ?私の息子、ちょうどキャロちゃんと同い年ぐらいね。」
「へえ……そうなんですか、利発そうな男の子ですね。」
「うふふ、ありがとう……あの子とキャロちゃんならいいお友達になれそうね。」
「はい、機会があったらお話してみたいです……。」

 

こうしてそれぞれの日常は足早に過ぎ去って行った……。