魔法少女リリカルなのはA's SEED_SEEDaS_01話

Last-modified: 2008-03-18 (火) 18:36:19

【魔法少女リリカルリリカルなのはA’sSEED】

 
 

C.E.71 アラスカ近辺に現存する島の一つで今、巨大な対する色の装甲を持った白と赤の機体が、激しい戦闘を行っていた。

 

幾度と無く交わる刃。高速で移動しているため――――何よりビームサーベルによる斬撃戦のため、交わったとしてもビーム同士が反発してしまうが――――交差するように何度も刃を互いの盾に打ち合う。

 

「キラァァァァッッッ!!!」

 

「ぐぅぅぅぅぅっっ!」

 

しかし次の瞬間には、お互いが自分の得物を相手のシールドに打ち付けたまま、空中で押し合う。
パワー的には互角。しかしストライクは先程のデュエルによる砲撃でビームライフルを失っているため、総合的にはイージスの方が上回っている。更に接近戦を必然的に行わなくてはならないため、両の手と足にビームサーベルがあるイージスが若干有利ではある。

 

「お前がニコルを――――」

 

何を思ったのか、アスランは打ち合っている体制のまま後方へと下がる。それに乗じてキラもストライクをイージスから退かせた。

 

「――――ニコルを殺したぁぁぁッッ!!!!」

 

後方へと自機を下がらせると、アスランはコックピットの中で叫んだ。自分を守って死んでいった友のため、例え相手が昔の親友であっても、アスランには殺す覚悟が出来ていた。
次瞬、イージスがMA形態へと変形し、中央にあるスキュラをストライクへと放つ。しかし、ストライクはそれを読んでいたのか、その収束された赤い砲を軽々とかわした。
だが、そのストライクのコックピットへと突然通信が入る。

 

『キラッ!』

 

スカイグラスパー2号機――――トールからだ。機体に搭載されているビーム砲を撃ちながら突き進んでくる。未だ出撃回数1回の素人が、それも支援用の戦闘機1機で戦場に飛び出してきたのだ。これにはキラも止めずにはいられなかった。

 

「トール!駄目だ!来るなッ!!」

 

しかし、キラの静止も空しくトールはすでにイージスへと標準を定め、ミサイルを放っていた。イージスは放たれたミサイルを、地上から飛び上がることで避け、地面にミサイルを激突させ爆破させる。最も、PS装甲を持つイージスには衝撃を与える以外、何ら効果のないものではあるのだが。

 

刹那、イージスは飛び上がると同時にスカイグラスパーへとシールドを投げた。幾らシールドと言えどもMSのものが飛んでくるのだ。戦闘機は一撃で大破するだろう。
案の定、アスランの行動は正しかった。放ったシールドは見事に空中で回転しながらスカイグラスパーのコックピットへと直撃し、爆発させた。

 

「あぁ・・・。トールゥゥゥゥッッッ!!!」

 

叫びも唯コックピットに木霊するだけで、トールの死は決定的であった。コックピットにシールドが直撃したのだ。もうパイロットが生きている可能性は無い。

 

キラの頭の中が真っ白になる。友の死を未だ認めようとはしていないのだろう。しかし、それはトールの恋人であったミリアリアも同じ。キラはいま起こった状況を必死に頭の中で整理していた。
空は荒れ、雨や雷が轟音となって地上へと降りしきる。だが、キラには今そんな音は耳に入らなかった。頭の中がいっぱいで、整理がつくまでしばしの時間がかかった。それは10秒かもしれないし、1分かもしれない。そんな時の流れの中、キラはようやく整理がついたのか、ゆっくりとモニターに移るイージスを見た。しかし、その瞳には光はなく、ただ瞳の淵に涙が溜まっているだけであった。

 

しばしの沈黙の後、再度ストライクとイージスは動き出す。そのコックピットには、復讐に駆られた者しかいない。

 

「アスラァァァァンッッッ!!!」

 

ストライクは切りかかってくるイージスへとシールドを向け、それを防ぐ。と同時にそれを力任せに弾き返し、イージスの左腕を根元から切り裂いた。

 

「ぐぅぅぅっっ!!」

 

左腕を切り落とされながらも、アスランは空中で機体の体制を立て直す。しかし、次の瞬間にはイージスの頭部へと、ストライクの蹴りが放たれていた。

 

再度、飛ばされながらも体制を立て直し、地を蹴り後方へと飛ぶ。

 

「俺が――――お前を討つッッ!!!!」

 

瞬間、アスランの中で何かが弾けた。視界がクリアになり、キラと同じ様に瞳から光を無くす。既にアスランには、エネルギー残量の危険を知らせるアラートの音さえも入っていなかった。

 

イージスは両足のビームサーベルを展開させ、そのまま左足のビームサーベルで切りかかる。ストライクの左腕がシールドごと切り裂かれ、次の瞬間にはイージスの頭部が突き刺され爆発した。即座にイージスのコックピットではメインモニターからサブモニターへと切り替わる。
先程の応酬とでも言わんばかりに、イージスはストライクのコックピットを狙って切りかかった。それをストライクは紙一重でかわすことに成功するが、代わりにハッチが切り裂かれ、コックピットの中がむき出しの状態になってしまう。それでも構わずに、キラはイージスへと叫ぶ。

 

「アァァスゥラァァァァァァンッッッッ!!!!」

 

「キラァァァァァァァァァッッッッ!!!!」

 

キラの怒号も虚しく、イージスは再度MA形態へと変形しストライクに残りの手足を組み付かせた。これにキラは驚愕する。ゼロ距離で高出力のスキュラを放たれてしまえば、こちらの命が終わりだ。

 

「ッ!?」

 

だが、キラの予測は外れる。先にイージスのパワーが切れてしまったのだ。アスランは先程から鳴っているアラートにようやく気づき、舌打ちするがすでに遅い。
しかたなく、最後の手段として残しておいた自爆コードを入力する。次にコックピットを開こうとするが、開かない。恐らく戦闘中に故障箇所が出たのだろう。

 

「クソォッッッ!!!」

 

アスランはコックピットで嘆く。ニコルの敵を討つと言っておきながらも、その敵と一緒に死んでしまう自分を悔いていた。

 

その中、二人は短いはずの時間がやけに遅く感じられた。だが、それを最後にキラとアスランは暖かい光の中へと消えていった。

 
 
 
 
 

***

 
 
 
 
 
 
 

八神はやて宅。6月3日。

 

この日は八神はやての誕生日の前日であった。本来ならこの年の子であれば、素直に喜んでいるはずであろう。しかし、この少女は違う。幼い頃に両親を亡くし、更に難儀な事に足が不自由なのだ。
そんな彼女は今、車椅子を自分の手で操作しながら、リビングにある電話へと近づいていた。目的は簡単だ。留守電メッセージがあるかどうかを調べるためである。
はやては、無表情のまま電話へと近づくとボタンを一つ押す。案の定、メッセージが一件あった。

 

『もしもし、海鳴大学病院の石田です。そうだ、明日ははやてちゃんのお誕生日よね?明日
の検診の後、食事でもどうかなぁっと思ってお電話しました。明日、病院に来る前にでも、お返事くれたらうれしいな。よろしくね』

 

比較的長い、主治医である石田先生のメッセージの後、電話から発せられるメッセージの終了を知らせる無機質な声を、はやては表情を崩さずに聞いたかと思うと、一瞬だが微笑んだ。
他に家族がいないはやてには、親しく接してくれる石田先生だけが心の支えであった。それを自分自身で分かっているのかいないのかは別だが、はやては石田先生には家族に近い感情を秘めているのも事実であった。

 

そう思ったのも束の間。はやてはいつもの様に車椅子を反転させ、自分の部屋へと戻っていった。

 
 

部屋に着くと、はやては直ぐに車椅子からベッドへと慎重に移る。万が一こけたりすれば、足の悪いはやてではベッドの上にはそう簡単には登れないからだ。
はやてはベッドへと移り終えると、いつもの様に体を倒し、隣に置いてある照明をつけた。

 
 
 

薄暗い部屋の中、ベッドの隣に置いてある照明の明かりだけを頼りに、はやては一冊の本を読んでいた。よく通っている図書館から借りてきた本であり、未だ読み終わってなかったからだ。
しかし、はやてはふと時計を確認する。時間は深夜12時前。ようやく自分がこんな時間になるまで本に夢中になっている事に気づいたのか、ようやく自覚の言葉を漏らす。

 

「あっ、もう12時・・・?」

 

時計がただ正確に秒を刻む音だけが響く自室の中で、はやてはまた本へと視線を移していた。なにもする事がないというのも確かであるし、今夜中に読んで、また明日にでも別の本を借りようと思っていたからだ。

 

だが、突然背後から〝暗い〟光が放たれ始めた。はやては直ぐにそれに気づき、後ろへゆっくりと振り返る。その先には、光を放ち続けている一冊の鎖をかけられた本があった。
しばらくはやてはそれを見つめていたが、不意にその本がこちらへと急速に近づいた様な錯覚を覚えると同時に、その本へと吸い込まれる様な、揺さぶられる様な感覚に襲われる。すると、その本は置いてあった机から宙へと浮き、こちらに浮遊しながら近づく。
次の瞬間には、本は鎖を引き千切り、凄まじい勢いでページを捲り始めた。

 

『DieVersiegelungwirdfreigelassen.(封印を解除します)』

 

そう聞こえたかと思うと本は自身を閉じ、はやての目の前へと降りてきた。
それに対しベッドの上ではあるが後ずさり、本を見つめていた。

 

『Anfang(起動)』

 

はやては、ただそれに怯えることしかできなかった。

 
 
 

第一話【始まりの時は突然に】

 
 
 

12月1日午前6時35分、海鳴市櫻台。

 

まだ夜も明けて間もない早朝から、高町なのはは魔法による特訓に励んでいた。今日もいつも通りすんなりとメニューはクリアでき、すでに仕上げであるディバインシューターを使った練習へと入っていた。

 

「じゃあ、今朝の練習の仕上げ、シュートコントロールやってみるね」

 

『Allright(わかりました)』

 

なのはは、言うと再び前を向き目を瞑る。そして、数瞬おいた後、口を開く。

 

「リリカルマジカル!」

 

同時になのはの足元に桜色の魔方陣が現れ、それに合わせてなのはは前へと手を翳す。

 

「福音たる輝き、この手に来たれ。導きの元、鳴り響け・・・!」

 

次瞬、なのはは手に持っていた空き缶を宙へと高く放り上げた。
続けて額の前へと手を翳しながら言葉を紡ぐ。

 

「ディバインシューター―――――シューット!!」

 

空へと向けて翳した人差し指の先から、桜色の小さな球体が現れ、不規則だが意思を持った様な動きで空き缶を追い、弾く。
すると、なのはは球体へと力を込める様に息を漏らす。

 

「コントロール・・・」

 

再び、球体は空き缶目掛けて進み、それを幾度も弾く。

 

『18、19、20、21』

 

「アクセル・・・!」

 

球体が空き缶を弾いた回数を、レイジングハートの無機質な声がカウントする声を聞きながらも、なのはは更に空き缶を天高く弾いていく。その途中になのはは再度力む様に唸る。
すると、先程よりも球体――――ディバインシューターの速度が増し、どんどん空き缶を弾く回数を伸ばしていく。

 

『64、68、70、73』

 

カウントは段々と増えていき、そして――――。

 

『――――100』

 

ようやく終わりを迎えた。その声に一瞬なのはは歓喜の声を漏らすが、直ぐにいつもの締めへと入る。要するに、ディバインシューターを操りゴミ入れへと入れるのだ。
一直線に降下してきた空き缶へとディバインシューターを当て、文字通り弾き飛ばす。

 

しかし、一直線に飛んでいったそれは、今日は不覚にもゴミ箱には入らずじまいで終わりを迎えた。それを見たなのはは、先程とは打って変わって悔しそうな声を漏らし、レイジングハートを首にかけると、地に落ちた空き缶へと近づいていく。

 

「あ~ぁ。失敗しちゃったな~」

 

そんな言葉を漏らしながらも、なのはは満足気な表情で空き缶へと手を伸ばし、それを掴むとゴミ箱へと近づいて捨てる。

 

「まぁ、いっか。いつも入るっていう訳じゃないし」

 

いつもの他愛ない独り言を喋りながら、ふと気になりゴミ箱の向こうを見た瞬間、なのはは目を疑った。

 

「ひ・・・、人・・・が、たおれてる?」

 

普段はこんな朝早くからはなのは以外人がいないこの場所で、草むらの中で血を流し、意識を失って倒れている二人の少年を見つけ、なのはは驚愕する。
一人は茶色の髪に青い宇宙服の様な格好をした少年。もう一人は藍色の髪に赤い宇宙服の様な格好をした少年だ。地上で、しかもこんな所でその様な格好をしているのに、なのはは一瞬疑問を抱くが、直ぐに頭を切り替え、助けを呼ぶために街へと下りた。

 

少年達の首には、銃の形と盾の形をしたペンダントが付いたネックレスが、それぞれかかっていた。

 
 
 
 
 
 
 

***

 
 
 
 
 
 

「う・・・、ん・・・?」

 

茶色い髪の少年――――キラ・ヤマトは隣にある窓から降り注ぐ眩しい日の光が気になり、目を覚ました。目への日差しを避けるために手を翳したまま、カーテンを閉め眩しさを和らげる。同時に、病室らしい部屋の風景に疑問を抱く。自分は先程まで親友であるアスラン・ザラと激闘――――いや、死闘を繰り広げていたはずだ。自分も、アスランも相手を殺す気で戦っていた。キラもアスランも友達を殺された。その敵を撃つための戦いだった。

 

そう思った瞬間、キラは言い様の無い悲しみと苦しみに襲われた。友達を殺されたいえ、親友同士で殺しあったのだ。その代償は大きく、そしてひたすら苦痛であった。
だが、キラもアスランもお互い殺す気で戦い合ったはずなのに、それでも敵は撃てずに相打ちで終わっていた。キラはイージスの爆発に巻き込まれ、アスランもハッチが故障したために外に出られずにイージスの爆発に巻き込まれて死んだ。その筈なのに、未だ自分は生きている。ただそれだけが苦痛であった。
しかし、暫く苦しんでいるとドアが開く様な重い音と共に茶色い髪の少女がこちらに駆けてくるのが目に入った。

 

「大丈夫ですか!?どこか痛むんですか!?」

 

その少女は未だ苦しむキラに駆け寄ると、病人着であるキラの肩に手を沿え、問う。
少女が自分を心配してくれているというのに、キラはその苦しみに耐えれずにいた。何回死闘の事を思い浮かべない様にしても、直ぐに思い浮かんでくる。その連鎖に耐え切れなかったのだ。

 

ただ洪水の様に流れ出てくる涙で視界がぼやけるだけだった。

 
 
 

暫くたって、大分落ち着いたのかキラは隣に座っている少女に疑問を問う。

 

「あの・・・、ここ・・・は?」

 

「ん?病院だけど?海鳴大学病院」

 

「ウミ・・・ナリ?」

 

聞いた事の無い単語に少々頭を抱えキラは考え込むが、何かを思いついたかのように隣にいる少女は突然キラへと近づき、年相応の無邪気さが残る表情のまま口を開いた。

 

「あなた達、怪我とかいっぱいして倒れてたんだよ?…あ!そうだ!言い忘れてたけど、わたしの名前は高町なのは!なのはって呼び捨てで良いよ!」

 

「あ・・・、うん。僕はキラ。キラ・ヤマト」

 

話の途中に簡単な自己紹介を済ませると、まず第一に〝達〟という言葉に対して妙に疑問に駆られた。達と言うからには、キラ以外にまだ倒れていた人はいたという事だ。再度少女――――なのはへと自分の思っている事を訊ねてみる。

 

「じゃあ、質問させてもらうけど、その達っていうのは何なのかな?えっと・・・、僕の他に誰か倒れてた人はいたっていうことなの?」

 

「うん。キラ君・・・でいいよね?――――キラ君の横に青っぽい髪をした人が倒れてた。でも大丈夫だよ!その人の所にはフェイトちゃんがいるから」

 

青っぽい髪、と少女がいうからには、それは恐らく親友であるアスラン・ザラなのだろう。親友が死んでいない事に一瞬安堵するが、また思考が過ぎる。
それに、この少女の言う“フェイト〟という子は恐らくこの子の友達なのだろう。キラは頭の中で今のこの状況を整理した後、またもなのはに対して問う。

 

「じゃあ、ここはオーブかどこかの国なのかな?僕はどれくらい眠ってたのかな?」

 

「おーぶ・・・?えっと、わたしは、そのおーぶっていう所がどういうのかは知らないけど、キラ君なら1週間くらいずっと寝てたよ」

 

「えっ!?それにオーブを知らない!?――――じゃあ!アークエンジェルはどうなったの!?」

 

「あうあうあう・・・?キラ君が何言ってるのかは分からないけど、・・・えっとね、この世界におーぶなんて国はないし、そのあーくえんじぇるっていうのも知らないよ?たぶんキラ君は、時空の歪か何かに巻き込まれてここに来たんだと思う」

 

この世界?三度目の疑問に試行錯誤の中、頭を再度整理する。すると、必然的にでた結論は、この世界はC.Eではなく、それに加え自分はあの戦闘の後この世界に飛ばされてきたという事だ。そんな非現実的な状況に、整理したとはいえ依然混乱している思考がパニックになりそうだった。

 
 
 
 
 

「ぐぅ・・・、ここ・・・は・・・?」

 

キラと同じく、それぞれ割り当てられた病室のベッドの上で目を覚ますアスラン。起き上がると同時に体中を激痛が襲うが、見たところ体中に包帯が巻かれている様子なので、当たり前なのだろう。それもそうだ。アスランはキラと死闘を繰り広げ、最後にはエネルギーが切れたイージスを自爆させ、そのコックピットで生涯を終わらせる筈だったのだから。今ここにこうして生きている方が奇跡だった。

 

「じっとしていないと駄目だよ?あなたは怪我をしているんだから」

 

突然横から声をかけられアスランは驚くが、その少女の物静かだが年相応の笑顔に対し、アスランは直ぐに取り乱した呼吸を整えると隣の少女へと言葉を返す。

 

「え…?あぁ・・・、ありがとう・・・。それにしても君は誰だい?どうして俺なんかと同じ部屋に?」

 

「ん・・・、えっと・・・、私はフェイト・テスタロッサ。フェイトでいいよ。私がここにいるのは、なのは――――あなた達の事を助けた私の友達に、あなたの事を見ておいて欲しいって頼まれたから・・・かな?」

 

「そうか・・・、すまない・・・。その子が俺を助けてくれたんだね。後でお礼をしておかなきゃな。それと、君も…ありがとう。俺はアスラン。アスラン・ザラだ。呼び方は・・・好きにしてくれていいよ」

 

少々顔を苦痛に歪めながら、尚も話しかけてくるアスランの姿にフェイトはいつも通り少し遠慮がちで、物静かな口調で言葉を交わす。

 

「う、うん。でも、私にまでお礼する必要ないよ。私は頼まれただけだから。それと、呼び方だけど・・・アスランでいい・・・かな?」

 

「あぁ。俺もその方が気が楽でいい。昔から敬語を使われるのはあまり好きじゃなくてね・・・」

 

「そっか・・・。あっ、それと、私の友達――――なのはって言うんだけど、なのはは今友達の所にいるけど、何か伝えてほしい事とある?」

 

「え・・・、友・・・だ…ち…?」

 

先程からフェイトの言葉の中に時折混じる”達〟という言葉が気になってはいたが、やはり自分だけではなく、恐らく――――キラも倒れていたのだろう。それにしても何故二人が友達だと?それがアスランには疑問に思えてならない。その疑問を、ふとフェイトに訊ねる。

 

「友達…って…?俺の他に誰かいたのか!?」

 

血相を変え、まるで鬼の表情の様な顔でフェイトの肩を掴みながら聞く。フェイトはさすがに少し怯えた様子を見せながらも、その問いに答えるために口を開いた。

 

「う…、うん。アスランの他に後一人…。茶色い髪の人だった」

 

「え…!?」

 

茶色い髪――――頭の中で考えて思い当たるのは、殺しあった相手。生きていた中で誰よりも殺したい。そう思った親友。キラ・ヤマトしかいない。
殺した筈のキラが生きていた。その事実に、アスランは驚愕するしかなかった。

 

「そんな…。アイツは俺がこの手で殺したはずなのに…。どうして…!?」

 

「殺した…?…えっと…何の事…」

 

人を殺す。その行為は管理局員にとっては――――例外もいるが――――禁忌に程近いものである。その言葉は、フェイトにとっても例外ではなかった。故に驚かずにはいられない。

 

「アスラン、その…えっと…、殺すって…、その人を?どうやって…?」

 

さすがに聞くのも気が引けたが、その行為はどの国、どの世界でも殆どが法律やルールによって禁止されている。まして、その行為自体を行った者は罪悪人としてキツイ処罰を受けなければならない。そのため、アスランにも聞き出す必要がある、フェイトはそう考えたのだ。さすがに、心地よくなさそうな顔をしながらもアスランも答えを返す。

 

「…君に話していいかどうか分からないが…。口走ってしまった分、俺が悪い。だが先に聞きたい事がある。さっきから気になっていたんだが、いいかい?」

 

「え?あ、うん。私が分かる範囲なら」

 

「そうか。ありがとう…」

 

一瞬、先程よりも大人びた雰囲気を醸し出したフェイトに、アスランは少し違和感を感じてしまうが、すぐに頭を切り替え問い出す。

 

「ここは一体どこの国の病院だ?プラント?それともオーブ?」

 

「ぷらんと…?おーぶ?…えっと、この世界にそんな国はないよ?ここは日本の海鳴大学病院っていう所」

 

「えぇ!?」

 

「…あのね、えっと…たぶん信じられないと思うけど、この世界はあなた達がいた世界とは別の世界なの。アスラン…あなたは、なんらかの拍子でこの世界に飛ばされてきたんだと思う」

 

正直、アスランは驚愕していた。この子の――――フェイトの言っている事がまったく理解できない。よくSF小説等で別の世界に飛ばされるなんて事はよくあるけど、それが実際に存在するなんて到底信じられなかった。しかし、こんな子供がわざわざ嘘をついてまでこの国の事を隠すのはおかしい。だとすれば、恐らく彼女の言っている事は本当なのだろう。だが、それでもアスランの頭の中は混乱していた。

 

「そんな…――――いや、しかし…!もしそれが本当だったとしたら、元の世界に帰る方法はあるのか!?」

 

一度、頭の中で仮定としてその事実を整理した後、再度フェイトに対して問う。アスランには今でも自分のいた世界で戦っている筈の、仲間の事が気がきでならなかった。

 

「ある事にはあるんだけど…」

 

「本当か!?なら方法を教えてくれ!俺は今すぐにでも元の世界に戻らないと――――ぐっ!」

 

少々興奮しすぎたのか、アスランの体に激痛が走る。しかし尚、アスランはフェイトに食い下がっていた。

 

「アスラン、安静にしてなきゃ駄目だよ。それとね…、確かに方法はある事はあるんだけど…、「その世界がいったいどこにあるのか」、「その世界は今どんな状況なのか」とかいう事が分からないと、下手に戻したらアスラン。あなたを殺す事になってしまうかもしれない。だから、暫く待って。いつか必ず分かる日が来るから」

 

「あ、あぁ。分かった…」

 

フェイトのその真剣な眼差しをした瞳に、アスランは無理やりにでも思考を固めながら言葉を返す。その言葉に満足したのか、フェイトは再びアスランに向けて笑みを見せていた。

 
 
 
 
 

「じゃあお友達の人とフェイトちゃんを呼んで来るね」

 

そう言いながらなのはは椅子から立ち上がりドアへと歩みだす。
先程から話し合った結果、なのはが――――強引にだが――――アスランと仲直りさせようという話を持ち出し、それを今から実行するところなのだ。

 

「うん…。おねがい…」

 

「まかせて!――――あっ!?」

 

ドアを開ける直前、なのはに誰かがぶつかる。それはフェイトの大きさではない。とするとそれは、必然的に――――。

 

「――――アスランっ!?」

 

「…キィィラァァァァッッ…!!!!」

 

キラの叫びが部屋に木霊した。同時にアスランが松葉杖を放り投げ、ベッドの上にいるキラへと肉薄する。やはりアスランには自分の感情を抑え切れなかった。いくら相手が親友だったとしても、それでもその親友に戦友を殺された事に対して、憎しみが込みあがってきて耐え切れなかったのだ。

 

「ッ!?」

 

衝撃。直後、キラは頬に赤い跡を作りながら吹き飛び、床へと転がる。更にその上へと乗っかかり、襟首を掴むと拳を振りかぶる。

 

「お前がニコルを…、ニコルを殺したァァァァァッッッ!!!!」

 

その言葉にキラは目を見開く。自分では「殺したくない」等と言っておきながら、自らの手で人を殺した。その自覚がまた頭の中を駆け巡る。そして振り下ろされるそれが、キラの顔を捕えようとした瞬間――――

 

「――――やめてッ!!」

 

病室にフェイトの声が響いていた。その声で我に返ったなのははアスランを止めに入り、アスランは先程酷使して痛む体を立ち上がらせ、部屋の隅へと歩いていく。キラはアスランの事を依然見つめていた。

 

「…すまない…、少々興奮してしまった…。悪かった…」

 

そう言いながら、アスランは壁へと背中をもたれさせて頭を抱える。キラはと言うと、なのはに起き上がるのを手伝ってもらいながらも、アスランの事を見つめて離さなかった。

 

「アスラン…どうしたの?さっきのあなたなら、こんな事をする様には見えなかったのに…」

 

アスランに近寄り、椅子に座る様に促しながら話しかけるフェイト。それに対してアスランはフェイトを椅子に無理やり座らせ、未だ自分は壁へと寄りかかったままだ。その時、キラが唐突に口を開いた。

 

「アスラン…生きてたんだ…。良かった…」

 

「ッ!!」

 

また怒りが全身を駆け巡り、キラを睨みつけるアスラン。しかし、キラはそれを気にしていないのか、話を続ける。

 

「君はあの時僕を殺そうとした。でもそれは僕が君の友達を殺したから…」

 

再度蘇るあの死闘の際の記憶。キラにとっては苦痛以外の何物でもなかったが、あえてそれを言葉にしてアスランへと、そして二人の少女へと語りかける。

 

「でも、僕も君を殺そうとした。君が僕の友達をころしたから…」

 

「キラ君…」

 

「だからだよ…。あんな事になっちゃったのは…」

 

キラの頬を、自然と涙が伝う。それを見かねたなのはが言葉を漏らしたが、キラは言葉を紡ぐ。その内容は自分達の戦いについての事や、世界の事だった。キラ以外の全員がその話の途中、質問以外は終始、言葉を口に出す事はなかった。

 
 
 
 

語られた真実。驚愕する二人にとって、その者たちと出会えた事は偶然にも、運命を変える事となる。しかし、またも現れる時空の歪に飲み込まれし者達。その者達の姿は、アスランのかつての友と同じであった。

 

次回、「現れし友」

 

友との結束を、その手に誓え!デュエル!!