~ジオン公国の光芒~_CSA ◆NXh03Plp3g氏_第30話

Last-modified: 2021-02-12 (金) 14:50:35

「コニール・アルメタ、ジム・クロスウィズ、出るよっ」
 
 ガイドLEDが、格納庫の方から前方へ向かって順次点灯する。リニアカタパルトが作動、ジム・クロスウィズを宇宙(そら)へと打ち出す。
「あ、あたしが"これ"使うことになるとは、思っても見なかったな……」
『仕方がない。シンは精神的にも肉体的にも疲労しすぎているし、エンデューリングジャスティスもまだ修理中だ。
 ミーアとインビシビリティレジェンドはこれを運用できない』
 通信機を通して、レイが言う。ほぼ横に並んで、インパルスIIが飛行している。イントルーダーシルエット。
 2人が母艦としていたのは、マリアではない。マリアとカチュアは、現在入渠中。2人はパオラ搭載になっている。
 そのパオラの、特徴的な艦首のひな壇砲塔が艦体と分離し、戦闘機のような形状を取った。
 
『ミーティア・ハンター』。
 ジオン側もまた、ミーティアの製造を行った。火器周りを見直した以外、ほとんどレプリカに近いものだったが、ジオンMSは量産機ですら核融合エンジンを搭載する為、電力の供給に問題はない。
 ジム・クロスウィズと、インパルスIIの背中に、それぞれミーティア・ハンターが1機ずつ、覆いかぶさってくる。
 サブコンソールのディスプレィに、マルチロックオンシステムのUIが表示された。
「コーディネィター用兵器かと思ってたけど、意外と単純なシステムだな」
 UIの画面を見て、コニールは呟く。
『俺達の第1目標は、艦艇だ』
「解ってるって! 行くよっ!!」
 
 既に、プラント軍艦隊と味方が交戦している。インビシビリティレジェンドと、シホのニュー・ジン・バンシーが先頭に立ち、
 ギャン・カビナンターとアクト・ドムの混成部隊を相手に暴れまわっていた。
 ミーティアの砲撃による閃光が迸り、先頭のローラシア型が一瞬で炎に包まれた。
「ミーティア、だとっ!?」
 トーマス・シティ襲撃部隊を率いるラオ・ミン少将は、旗艦プリンシパリティの艦橋で、驚愕の声を上げた。
 次の瞬間、ミーティア・ハンターの61cm重金属イオンビーム砲が、プリンシパリティの艦橋を斜め上から貫き、艦の下まで貫通した。
 
 
機動戦士ガンダムSEED
 逆襲のシン ~ジオン公国の光芒~
 
 FINAL PHASE
 
 
 後に『新月の決戦』と呼ばれる、L2宙域での会戦は、自体はジオンの勝利に終わったものの、ジオン側の損害も激しく、なお数字上の戦力数ではプラント有利となっていた。
 しかし、ラクス・クライン大統領と、その“最強の剣”キラ・ヤマトの逝去は、プラントに政治的空白をもたらし、経済の悪化に拍車をかけ、国民の士気を低下させた。
 所謂“クライン派”で固められていた軍部は、状況を好転させるべく、ジオン本国トーマス・シティの襲撃を強行。
 7月5日に発生したこの戦闘には、『新月の決戦』で損傷したジオンの大型戦闘艦はマリア、カチュアは修理中で動けず、ミシェイルとパオラは完全な修理は出来ず応急処置のみで迎撃に出撃した。
 
『第二次L1会戦』。しかし、プラント側の政治的要求によって性急に行われた作戦は行き当たりばったりとなり、そこにミーティア・ハンターの登場も加わって、ジオン側の圧勝に終わった。
 
「国破れて山河あり……にしては、ずいぶん俗物的なものが残ってしまいましたね」
 
 ハインリッヒ・ラインハルトは、政府専用シャトルの中で、離れていくアプリリウス・シティーの姿を見ながら、そう呟いた。
「ヘルベルトに続いて、弟も逝ってしまいましたか……すみません。貴方はナチュラルだったでしょうに……
 プラントのために死んでもらう形になってしまいました」
 シャトルは一路、地球へと向かう。
 
 ラクス・クラインの逝去の後、プラントの政治は事実上ストップしていた。混乱と暴走を続ける軍部を他所に、ラクスの元で補佐官を勤めていたハインリッヒは政治的権力の掌握に成功。
 第二次L1会戦での敗北によって軍部のクライン派も発言力を失った。
 
 7月7日、ハインリッヒ・ラインハルト臨時大統領代行による政権は、ジオン公国に対し、講和を前提とした期限付きの停戦を打診。
 
 7月11日、停戦発効。
 ジオン、プラントを初めとする主要交戦国の代表は南極、東オングル島に集い、講和条約の模索に入った。
 
 
 この条約において、ジオンがプラントに突き付けた主な要求は以下の通り。
 
 ジオン公国の独立の承認。
 
 アーモリー・シティの正式な割譲。
 
 高雄と、それ以外の内のユニウス条約時点より後にプラントが得た地上拠点からの撤退。
 
 各国間の戦時賠償とは別に、オーブ連合首長国への不法な経済介入に対して同国に8000万アースダラーの賠償金支払い。
 
 ZAFTその他の政治閥による私兵組織の保有の禁止。
 
 その他各軍備縮小要求。
 
 
 これら要求を呑む事は、プラントにとってこの戦争における完全な敗北を意味したが、国内の混乱に対処しながら戦争を継続する事はもはや不可能となっており、プラントはこれらをほぼそのまま受諾した。
 
 8月11日、南極条約締結。ジオン独立戦争は、その勝利によって幕を下ろす結果となった
 
 
「終わったな……」
 
 南極講和会議から帰還したカガリ・ユラ・アスハは、オノゴロ島の、海岸の慰霊碑の前にいた。
 連れるのはただ1人、レナ・セイラン。
 カガリはズボンのポケットを手で探り、何かを握って取り出した。
「…………よろしいのですか?」
 レナは、意外そうな表情で訊ねた。
「青二才の、一時の気の迷いだった。それさえなければ、ユウナを死なせないですんだかもしれない。
 そう思うと、とても手元には置いておけない」
 そう言うと、カガリは、それを岸壁の下の海へ向かって放り投げた。
 指輪は陽の光に煌きながら、波間へと飲まれて消えていった。
 
 2人は階段を上がり、旧市街地跡の、モニュメントのある公園を歩く。
「レナは、これからどうするんだ?」
 カガリは、友人に話しかけるような口調で、レナに訊いた。
 レナの歩みが止まる。カガリはさらに数歩、前へ出てから止まった。
 キチッ
 撃鉄の起こされる音。
「代表も意外と甘いようで……」
「そうでもない」
 カガリは振り返り、肩をすくめて、苦笑した。
「最初からこうなるって、予想はしてたさ」
 苦笑交じりに言い、カガリは、直立したままレナを見る。
 レナの指が、引き金にかかる。
 カガリは、さすがに笑顔で立っている事はできず、反射的に身を竦める。
 
 タンッ
 
 乾いた、拳銃の発砲音。
 
「ぐっ!」
「!?」
 悲鳴を上げたのはカガリではなかった。悲鳴はカガリの背後から聞こえてきた。カガリは驚いて振り返る。
 
 そこには、紅い髪を長く伸ばした、まだ顔にあどけなさの残る女性。
「お前は!?」
 カガリは目を円くした。
 紅い髪の女は、レナの拳銃で右肩を撃ち抜かれていた。そして、その右手には、ナイフ。
 それも、軍用の大型戦闘ナイフだ。
「貴女のせいで、アスランさんがーっ!!」
 紅い髪の女はナイフを左手に持ち替えると、振り上げながらカガリに向かって襲い掛かろうとした。
 レナの拳銃が、続けざまに2回、発砲される。
 女の胸は、その髪と同じほどの鮮やかな赤に染まり、その場に倒れた。
 
「…………」
「代表、いえ、カガリ・ユラ・アスハ、貴女にはまだしてもらわなければならないことがあります。
 ここで死なれては困る」
 紅い髪の女────メイリン・ホークの亡骸から顔を上げ、カガリは、淡々と言うレナの顔を見た。
「この先は、生きる方が戦いです、カガリ様」
 レナはそう言って、目を細めた。
 
 
 8月15日、南極条約により、旧東アジア共和国は中華共和国と国号を変更。
 同日、日本再統一、国号を日本国とした。
 
 8月18日、戦勝の浮かれ気分も醒めない中、ジオン公国はアーモリー・シティの編入に伴う政治形態の変更を国内に発布した。
 開発独裁とも言えるジオン・アルテイシア・ダイクン大公による親政を廃し、新たに最高立法府、最高行政府、最高司法院を設置して憲法の制定と行政府長及び立法府議会の普通選挙の実施を行うとするものである。
 
 
 8月26日、アーモリー1。
 旧官庁街の一角が取り壊され、コンクリート製の慰霊碑が建設されている最中だった。
 武装を取り外され、インターフェイスを溶接で封印し、白く塗装され、肩にMNA(Materials for Non-military Affairs = 非軍事用資材)と書かれたネモ・ヴィステージが、高さ15mの慰霊碑の鉄筋を組み上げている。
 屋外の除染はほぼ終わり、プラントや大西洋連邦から借り上げ(体のいい徴発)の物も動員した、
大型カーゴ延べ300隻により、環境水入れ替え作業もほぼ終わっている。
 しかし、主に一般家庭だった建物を中心に、未だ安全ではない空間も存在し、各所にトレーラーの移動医療施設が展開している。
 
 慰霊碑は、アーモリー・シティの犠牲者だけではなく、この戦争での死者全てを鎮魂するメッセージが添えられている。
 
「…………」
 その建設途中の慰霊碑を、シンは遠目に眺めていた。
 表情は、ニュートラル。感情を感じさせず、ただ、慰霊碑を見つめるために、目を少し細めている。
「シン?」
 アルテイシアはシンの顔を、不安げに覗き込む。仮面は付けていない。
「……自分は何者なのか、か…………」
 シンはそう呟いた。
「ゴーギャン? それとも、アレクサンダー大王かしら?」
 アルテイシアは、素の表情で訊ねる。
「キラだよ」
「…………それか」
 短く言うシンに、アルテイシアは呟くように返す。
「あいつ、結局は1人の人間になりたかったんじゃないのかな。英雄でも、最高の存在でもない、
 ただ普通の他人のように、悩んだり、苦しんだり、苦労したりする1人の人間にさ」
 シンがそう言うと、アルテイシアはやや顔を俯きがちにした。
「…………あの日まではそうだったのよ。彼も」
「あの日?」
 シンはアルテイシアのほうを見て、聞き返す。
「ヘリオポリスがZAFTに襲撃されて、キラがストライクに乗り込んだ日」
「…………」
「確かに、他人とは別格の存在っぽいところはあって、なんでもそつなくこなすところはあったけど、
 でも、誰もそれ以上には見なかった。あくまで人間の枠の中にいた。それが、あの日を境に、変わってしまった」
 アルテイシア──フレイは独白のように言いながら、だんだんと面持ちを沈痛にさせていく。
 
「今更になったけど、議長のデスティニープランの意味がやっとわかったよ」
 シンの言葉に、フレイは軽く驚いたような表情になって、顔を上げる。
「適職が、自身の生活が保障されるなら、誰もコーディネィトをしようとは思わなくなる。
 新たなコーディネィターが生まれる要素がなくなる」
「加えて」
 フレイは正面を見て、呟くように続ける。
「職業需要の調整から、プラントはナチュラルの移民を大量に受け入れざるを得なくなるわ。
 ナチュラルとコーディネィターの垣根はなし崩しになくなる」
 シンは、軽く驚いたように、フレイの顔を覗き込む。
「研究畑の人間が考えそうな、建前理論だけどね。現在いるコーディネィターの問題を、軟着陸させるには、1つの手段だったでしょうね」
「コーディネィターは新種なんかじゃない」
 ZAFT時代、シンがずっと悩まされてきたジレンマだった。シンは生来のプラント人ではない。
 禁止されているはずのコーディネィターが、看過され続けてきた最大の理由は、宇宙開発の為、過酷な宇宙空間での生活に耐える為だった。
 だが、プラントが完成し、宇宙空間での生活がそれ以前に比べて負担の軽いものになると、地上はコーディネィターを拒絶してプラントに押し込めた。
 宇宙空間での兵士、モビルスーツの開発も、最初はプラントの方が先行した。だが、まもなくナチュラルでも扱えるMSが登場した。
 メサイア戦役ではまだ僅かに残っていた性能上の優位性も、ネモ・ヴィステージの登場で完全に覆された。
 コーディネィターは一過性の存在である。そして────
「コーディネィターは、もうその役目を終えた」
 シンは低い声で、しかし、はっきりとそう言った。
「そうは言い切れない面もあるけどね。遺伝に由来する病気とか、奇形児とかの出産率は抑えられるわ。それに、大西洋連邦にはいまだに存在する有色人種への白色人種の差別、肌の色を自在に変えられるのなら、それは成立しなくなる」
 フレイは、苦笑しながらシンを見る。
「…………」
 シンは驚いたように、目を円くする。
「そもそも、コーディネィト技術はそうした問題の解決のために研究されてきたものなのに、
 いつの間にか別の方向に向かいすぎてしまった。頭ごなしに否定したブルーコスモスも同罪。
 そもそもの問題はナチュラルとコーディネィターという区分なのよ。
 遺伝子配列そのものが変わるわけじゃあるまいし、別種の生き物なんかじゃないのよ。
 これがあるから、ナチュラルにはブルーコスモス思想が安易に蔓延して、
 コーディネィターはさらに優秀なコーディネィターを作ろうとして、両極端に走っちゃったわけ」
 
「…………俺達は、これからどこへ向かえばいいんだろう」
 シンは、視線をフレイから慰霊碑のほうに戻し、呟くように言う。
「軟着陸させる必要があるでしょうね。デスティニープランとはまた別の形で、コーディネィターをナチュラルに返す必要がある」
「“アルテイシア”は、それをするつもりなのか?」
 シンは再び、フレイのほうを向く。
「それまでウチの国が残っていればね。今できる事は、その準備段階よ」
「準備段階?」
 シンは、理解できないというように、首をかしげた。
 
 
 9月12日、ガルナハン。
 その日、長きにわたってかの地の象徴とされた火力発電施設は、吹き上げる白煙を止める時が来た。
 
 南極条約締結と同時に、ジオン公国は軍事機密としてきたミズノ式常温核融合励起型熱核融合炉のノウハウを、超小型化技術に関する一部を除いて開放した。
 そして、ガルナハンの復興を目的として、直接の出資によって民生用ミズノ式炉第一号が、重水分離施設、重水生産施設と共に建設され、この日、営業運転を開始したのである。
 エイプリル・フール・クライシス以降、地球を悩ませてきた慢性的かつ深刻なエネルギー不足は、順次解消されていくことになった。
 またヘリウム3を使用しない、地上で確保できるエネルギー源の確保により、プラントやジオンに頼らない産業構造の構築が可能になった。
 さらに、環境兵器であるニュートロンジャマーはその意味を1つ失った。
 
 
 9月26日。
 ジオン公国はジャンク屋組合に対し、南極条約発効に伴う、ヤキン・ドゥーエ戦役時に制定されたジャンク屋組合の成立を認める国家間協定の一斉破棄、個人単位を逸脱する武装、大規模兵器の所有の禁止、保護を必要とする場合には主権国家に対してしかるべき手続きを経てそれを求める事、回収した工業生産品、もしくはその遺棄品・廃材の国境を越えた持ち出しの禁止などを、速やかに履行するよう通告した。
 南極会議において主権国家に類する権利を認められなかったジャンク屋組合は当日中に拒否の姿勢を提示。
 これに対しジオン及び同盟国はジャンク屋組合の“討伐”を開始した。
 ギガフロートは太平洋上において鎮圧された後、日本近海に回航され解体された。ジャンクαも同様に解体され、資材はプラントの復興用として充てられた。
 この戦いにおいて、ジャンク屋組合の戦闘員ロウ・ギュールは奮戦し戦果を上げたが、150ガーベラを折られ日本軍の捕虜にされた。
 日本軍がZGAT-209ED/J『ジム』用に開発したシールドの前に折れたという。
 大規模な戦闘は10月3日に終結し、投降あるいは死去しなかったジャンク屋組合の残党は大西洋連邦に逃げ込んだといわれている。
 
 
 12月23日。
「ひとつだけはっきりさせなければならない事がある。
 それは、我々氏族は、いや、氏族を名乗っている者達は、この地の支配者であるべきではないということだ」
 
 この爆弾発言を上げたのは、カガリ・ユラ・アスハ代表その人である。
 オーブにおける氏族階級の特権の否定、首長制の廃止、共和制への移行が唱えられた。
 これに対し、有力氏族は反抗してクーデターを画策。
 12月25日、後に『オーブ12月クーデター』と呼ばれる氏族階級、有力資本家、軍部によるクーデター発生。
 だが、アスハを支持する市民側のカウンタークーデターにより、代表官邸の占拠すらままならず失敗に終わる。
 
 C.E.80年1月1日、国号をオーブ連邦共和国に変更、
 旧来の支配階級の有効期限を7月1日と定め、選挙による代表者の選定が行われることになった。
 
 ロンド・ミナ・サハクはオーブ12月クーデター勃発と共に消息を絶つ。以降、彼女の記録は断片的なもののみ残される。
 
 
 いつかのオーブ、オノゴロ島。
「マユ……父さん、母さん、全部終わったよ……」
 海岸の慰霊碑の前、シンは花束を供えながら、そう呟いた。
「でも、正直解らない、俺は、このままでいいのかな」
 シンの目尻から、涙が滲む。零れる。
「俺は結局、吹き飛ばしてしまった、この為に……多くの人を……花を……」
「勝者の罪よね」
 背後でした声に、シンは反射的に振り返る。
「アルテイシア……」
「権利とか義務とかじゃない、罪。勝者の罪は誰も裁かないし、更に罪を重ねていくしかできない」
 アルテイシアはシンの隣に立ち、慰霊碑に短く祈りを捧げる。
「シンは幸せかもね。それを意識できるんだから」
 アルテイシア──フレイは苦笑する。
「いいのかな、俺……この先……」
「私が言える事はこれだけ」
 シンが困惑の表情で言うと、フレイはシンの手を握って引き寄せる。
「死ぬなら、私がこの座を追われてからにしなさいっ」
「…………」
 シンは絶句した。
 
 
 組織として長続きはしないと思われていたジオン公国だが、当事者たちの意にも反して長きに渡って、
所謂ダイクン朝の治世は続いてしまう。
 急進的勢力によるテロが頻発した時期もあった物の、これらが支持を得て大規模化することがなかった。
 
 人類は疲れすぎていた。
 
 事後処理も含めれば、C.E.70年の血のバレンタインから南極条約体制の確立に至るまでを含め『10年戦争』と呼ばれる、長きに渡る混乱の時代は、老若男女人種を問わず、休眠とも言える平和を欲していた。
 現状でジオンには、体制を覆す意思が育たなかったのである。
 経済状態の安定は、むしろ新たな人口流入を呼ぶほどであった。アーモリー・シティの再入植も順調に進む。
 
 もちろん、しばらくの後に、人類は業として逃れられない愚行を繰り返すのだが、それはまた別の物語である。
 
 
 ジオン・アルテイシア・ダイクン──フレイ・アルスター
 公婿としてシン・アスカを迎える。
 立憲君主議会制以降後は、『君臨すれども統治せず』 の姿勢に入り、純粋な意味での“アドバイザー”以上の政治介入は控える。
 一男二女に恵まれる。40歳ごろから顔面のケガを由来とする慢性的な偏頭痛に悩まされるようになり、
 43歳にして長子ステラ・アスカ・ダイクンを後継に退位した。
 
 シン・アスカ
 C.E.80年にジオン公国軍少将を拝命。それ以降自らモビルスーツの操縦をとることはなくなった。
 アルテイシアの公婿として迎えられる。第2世代コーディネィターであったが
 相手がナチュラルということもあり、上から長女ステラ、次女マユ、長男キラに恵まれる。
 
 コニール・アルメタ
 本人かなり悩むも、戦後、ガルナハンには戻らずジオン公国軍人として残る。
 そのMS格闘戦技術の高さは、従前にそう呼ばれたムウ・ラ・フラガの後を襲って
 “最強のナチュラル”と呼ばれる。レイ・ザ・バレルと結婚。一女を出産するも生涯職業軍人。
 
 レイ・ザ・バレル
 戦後はジオン公国軍MS教練隊教官となり、第一線を退いた。親友シンより1年早く結婚。
 妻コニール・バレルとの間に一女をもうける。享年67歳で逝去、死因は“老衰”。
 この時代にしては決して長くはないが、テロメアから推測できる絶対寿命の倍以上を生きたとされ、
 人類が未だ神の手を逃れ得ていないことを示した。
 
 クレハ・バレル
 戦後もしばらくの間第一線に留まったが、後に軍を退く。その後しばらく隠遁生活を送った後、
 作詞作曲家として再び世に姿を見せた。評価は平凡ながら固定のファンもついた。
 しかし、『スーパーコーディネィターの遺伝子は残すべきではない』という信念により、生涯独身を通す。
 
 イザーク・ジュール
 シンとは対照的に、将官昇進を拒み一線でMSの操縦桿を握り続ける。
 結婚はシンより遅く、シホとエザリアの2人にサンドイッチにされ、強引に誓約書にサインさせられたという伝説が残る。
 
 シホ・ハーネンフース
 エザリア・ジュールと共謀しイザーク・ジュールに押しかけ女房。
 自らもMSの操縦桿を握り続けるも、一男を出産、それを機にモビルスーツを降りる。
 第一線にこだわる夫を追い抜いて准将に昇進。アビー・ウィンザーの後を襲って宇宙軍艦隊司令長官に収まる。
 
 エザリア・ジュール
 立憲君主議会制への移行時、周囲に請われるも一度政界を去る。
 この間に拒む息子を結婚に追いやる。周囲の推薦を断りきれない形で第2代最高行政府長に立候補、選出される。
 
 アビー・ウィンザー
 戦後の軍の組織改編により艦長職から離れ、初代宇宙軍艦隊司令長官となる。
 その後要職を歴任。最終的にはジオン公国軍参謀総長、初の大将を拝命する。
 
 ジョージ・グラディス
 終戦後は軍を退役。
 その後、ジオンの有志によって始められた“デュランダル政権下でのZAFT戦没者に対する名誉回復運動”に参加する。
 その運動家たちによって行われた月・メサイアでの遺体発掘作業に従事、その過程で母・タリアの亡骸と再会する。
 
 ハインリッヒ・ラインハルト
 プラント臨時大統領代行として、完全公選大統領制への移行の道筋をつける。
 自らは次代の大統領の下で行政長を勤めた後、政界を去った。
 
 カガリ・ヒビキ
 オーブ連邦共和国初代大統領に政権を渡した後、アスハ家としての存在を否定しヒビキ姓を名乗る。
 アカツキを初めとしてアスハ家の私財の殆どを国庫に“返納”。
 国が補償した年金も生活必要分以上は受け取らず、オーブの島のひとつで半自給の隠遁生活を送る。
 
 レナ・セイラン
 氏族の影響を残してはならないと一度は政界を退いたが、初代大統領下での経済復興が停滞したのを見て、
 第2代オーブ連邦共和国大統領に出馬、選出される。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 ドクン、ドクン、ドクン、ドクン…………
 
「キラ・ヤマト? ああ、あの子ですか。あの子は所詮試作品に過ぎませんよ。
 スーパーコーディネィターが実現可能かの試作品です。最高のコーディネィターへの一段階に過ぎません」
 
 試験管やフラスコ、電子顕微鏡やコンピューターのディスプレィが並ぶ研究室の中。彼は悦に入って言葉を続ける。
 
「最高のコーディネィターを作るというなら、その素材から最高のものを選ばなければ意味がないでしょう?
 たとえば、そう……SEEDを持つスーパーコーディネィターをも倒す男、彼の遺伝子なんてどうでしょう?」
 
 コンピューターを操作し、何らかの情報を見ていた彼は、そこまで言うと、会話の相手を振り返った。
 
 その顔に浮かぶのは、────狂気。
 
「ねぇ、同志マルキオ?」
 
 
  Fin…………?