~プロローグ ヤキンの亡霊~

Last-modified: 2016-01-18 (月) 23:49:31

ゴミ溜の宇宙(うみ)で
~プロローグ ヤキンの亡霊~

 

「何かをやってるのだけは確定ですよ、艦長。――誰も帰ってこないのがその証拠です」
「お言葉だがね、中隊長、ここまで既に艦船9隻、MAに至っては40機以上の被害が出て
おるのだぞ。この期に及んでさらに有人の強行偵察をかける必要性が……」
 “プラント”を名乗るコロニー群が既に目視で数える事が出来る距離。地球連合の巡洋艦が
メビウスを周囲に展開させながら進む。

 

 プラントの防衛軍である“ザフト”が絶対防衛線とする資源衛星を改装した要塞衛星
『ヤキン・ドゥーエ』と『ボアズ』を線で結んだライン。情報収集、哨戒、偵察、どう名前をつけようが
この近縁での諜報活動は、ここ数ヶ月、上手くいったためしがない。
 巨大な構造物を造っている。と言う未確認情報はあるものの、それがは果たしてコロニー
なのか、超巨大戦艦なのか。地球連合軍はその手がかりすらつかめずにいるのである。
 そして新たに情報収集の任を負ったその巡洋艦は、ザフトが自国内と定めた宙域に
今まさに入ろうとしている。

 

「それ以上は士気に関わります、艦長。――ところで中隊長。亡霊、どう思われます?」
 彼らより以前、這々の体で逃げ延びた強行偵察隊の生き残りがそう言う報告書を提出して
いる。曰く、ザフト内部で亡霊と呼ばれる機体、若しくは部隊が任務の妨害をしたのだ、と。
「ザフトの部隊が誰何を発したのを傍受したと報告書にはあるが、そんな暇があればとっとと
情報収集をすればいいのだ。とにかく何を作って居るのか、確認出来ねば対策も出来ん」
「はぁ、それはそうなのでありますが……。約三百でザフト勢力圏、絶対制宙圏まで七百」
 艦長。主機停止、以降ガスで推進。灯火管制。彼の声と共にブリッジがくらくなる。
「“G”が出てくるというわけでもあるまい。各センサー、見落としは無しだぞ!?」

 

「ザフトのモノと思われる通信複数傍受、――はっ、中隊長に回します!」
 ゆがんだ詰め襟姿と、ノイズで判別のつかないパイロットスーツが中隊長の椅子の前、
小さなディスプレイの中に映し出される。
『……前方のMS隊に告ぐ。友軍信……ていない。所属と隊長名……たし。繰り返す……』
『またヤキンの亡霊がでや……連合の船……入りこんだ可能性があるぞ、全……ションレッド』
 ヤキンの亡霊。作戦失敗の逃げ口上ではなかったか……。中隊長と呼ばれた男は呟く。
「亡霊の扱いに関してザフト内部でも混乱がみられます。亡霊とはいったい?」
「いずれこちらの存在が露呈した、気にしても仕方なかろう。エンジン始動、全センサーは
出力全開、目視の人数も増やせ。不自然な点を見逃すな! 本艦全隊戦闘態勢発令!
対MS戦よぉい、全砲門開け! メビウスは全機戦闘展開! 艦長、五分で退却宜しく!!」

 

「索敵班です! 中隊長、グリーンセンターに大規模な空間の歪みを目視のみで確認。超弩級
のミラージュコロイドの可能性、大きさはコロニークラスであると思われますが詳細不明!」
「だいたいで良い、位置は? よし、今回はそれで十分だ、艦長、至急回頭しつつ……」
「メビウス全機、反応消失! ――!? NJ反応急速増大! レーダー、潰されました!」
 立ち上がり指示を出しかけた中隊長の正面。風になびく骸骨旗を繊細なタッチで肩に
書き込まれた漆黒のシグーがマシンガンを構えているのが見えた。
「MS! ――バカな、懐に飛び込こんまれただと! いつの間に……」

 

「ヤキンの亡霊か……。何処の部隊なんだろうな、傭兵というわけでもあるまいに」
「ジェネシス建造が順調で結構じゃないか。多分詮索なんかしない方が良いんだよ」

 

予告

 

 ラクス・クライン暗殺に失敗したデイビッド・ウィルソン。プラントに見捨てられ、行く当てのない
 彼は壊れた戦艦と破損したMS、そして100余名の少女達を連れデブリ帯へと逃げ込む。
 一方、アークエンジェル追撃を題目に強大な戦力を手に入れた反ブルーコスモス筆頭の
 連合将校は自身の野望の為、『ヤキンの亡霊』が持つ情報とネットワークに目をつける。

 

ゴミ溜の宇宙(うみ)で
 次回第一話 『為すべき事』

 

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