~ロックオン・ストラトス、フリーターになる~

Last-modified: 2014-03-05 (水) 20:56:39

~ロックオン・ストラトス、フリーターになる~


「仕事もないし、ボーズだったら今日はおかず無し、か。米は後3日分はあるが、さて……。
なんか、すっかり馴染んでしまっているが。……良いのか? オレは。これで」

 夕方。岸壁に腰掛けたロックオンは、言葉とは裏腹にのんびりと竿のリールを巻く。
上がってきた仕掛けにはふやけたゴカイが数匹付いたままである。

「よぉ、須藤君。また仕事にあぶれたのか……。キミみたいなマジメな奴が食卓のために
魚釣りか。ヤナ世の中だねぇ。――ありゃあ、しかもボーズ、か。ツイてねぇなぁ」

 見た目で損してるよな。まぁホントにガイジンではあるんだが。彼のバケツをのぞき込んだ
中年男性はそう言うと隣に腰を下ろす。

「大型レイバーの免許も有るのになぁ。景気は悪か無いんだが、なんつーか、……ツイてねぇなぁ」

「仕方がないでしょう、正規の免許を持った外人労働者がレイバーで事件を起こす。今月だけで
もう3件目です。オレが社長でも日本語を喋れようが、ガイジン雇うのはごめん被るとこですよ。
――公務員なんでしょ? 帰化申請はどうやったら通りますかね?」



 プトレマイオスの格納庫。デュナメスのGNドライブの臨界実験をしていた。……はずだった。

 気がつくと彼は何故か海底に機体ごと沈んでいた。通信、反応、全て途絶。湾のような所で
あったので、状況把握の為ハロに機体を任せて上陸し、日本語で書かれているらしい新聞を
拾い上げ、その日付をみて驚く。

「1900年代だというのか、一体此所は……」

 その後1900年代後半の日本の東京で有る事がわかった。半端にネットワークが発達していたのは
彼にとっては好都合この上なく、デュナメスとハロを使ってあっさりと戸籍と銀行口座、
現金を手にする。何故か言葉が通じる以上、帰国子女で帰化申請待ちの外国人作業員。
設定はそうしておいた。ならば見た目も、昼間からぶらぶらしていても、おかしくはないからだ。

 ロクオ・須藤。今の彼の名前。我ながらセンスのカケラもない。【装脚型建設機械・特殊 《但し
重量・脚数の制限無し》】。そう書かれた安っぽい免許証を見ながらそう思う。

「俺ぁそう言う部署じゃないからねぇ。力にゃなれんが、何でも最近は漢字の読み書きを重視する
傾向にあるそうだよ。――潮目が悪いな。今日は釣らんで帰るかぁ。夕食、せいぜいがんばれよ」


「何故だ……? ――まぁいい。原因は探ってくれ。この先、何があるか判らないからな」

 絶対にバレないであろう状況はともあれ、違法に手にしたのに違いはない。そう思って
使う現金はなるべく少なくしているロックオンである。結果、彼の食卓には掌程の魚が一匹のみ。

「それとステルスモードは解除するなよ。ガンダムは今、此所に有ってはならないものだ。
絶対に見つかるな? 以上だ」

『リョーカイ、リョーカイ』

 腕時計に偽装した通信機。ハロがよこした通信によれば、戦闘や高速移動でない以上、
半永久的に持つはずのデュナメスのエネルギー。それが何故か目減りしているらしい。

「まぁ、ガス欠になったところで、困りゃしないんだけどさ……」

 ガンダムマイスター。俺は、そうだったよな。確か……。彼は、安アパートの天井の木目を
見上げながら寝転んだ。


「やっとラーメンが喰える、か。……ここまで遠かったなぁ」

「普通に言葉が喋れて、免許もあるし腕も良い。――盗み癖でもあるんじゃないのか?」

 夕暮れのラーメン屋。ロックオンの隣に腰掛け、「大盛りとライスだ」とだみ声で注文を飛ばす
のは、今日現場で知り合ったがっしりした体つきの初老の労働者。

「そんな訳無いでしょ! ――レイバーのオペにこだわり過ぎてるから、でしょうね。まぁだからと
言って肉体労働向きなわけでなし」

 何故此所にいるのかすら判らないが、元の世界へ帰る希望もまだ持っているのだ。
あまりうまくいって正規の社員になどになってしまってはそれはそれで困る彼である。

「俺が現役の内はバビロンプロジェクトで喰えるだろうがな。おまえさん、年食ったときのこととか、
考えた方が良いぜ?」

「……帰化申請が通れば、ね」

 申請していないものが通る訳がない。それに老後の事など考える事もない。現状ならば
銀行口座の残高の桁を四つや五つ、増やす事など造作もないのだ。

「明日からどうすんだ?」

「一週間は喰うのに困らないし、その後はまた岸壁で魚を釣って生き延びますよ」

 余計な正義心など捨てて今日にでも残高を増やそうか……。等とつい考えてしまう。
全銀行の口座を制圧する事など、一瞬で出来る彼である。


「ヤッパリ此所にいたかぁ。どうだ調子は?」

「後藤さん。……公務員、て警察だったんですか!?」

 いつもの中年男性が相変わらずロックオンの脇のバケツに目をやる。但し、今日の彼は
オレンジの制服で胸に階級章が付いていた。後ろには乗ってきたと思しき小さなパトカーもある。

 言わなかったっけ? 別に内緒にしてたつもりは無いけど。後藤は警視庁の名刺を差し出す。

「今日は大漁だねぇ。――公務員にゃ違いないよ。少なくとも君の敵じゃあないと思うが?」

「そりゃそうです。俺は悪い事なんかしてません。で、昼間から仕事をさぼって魚釣り、ですか?」

「2,3日、おかずには困らなそうだし、釣り、止めた方が良いぞ? テロの犯行予定を掴んだ」

 目の前にそびえる巨大な堤防、その上に立つ未だ鉄骨が組まれただけの高い建築物。
それを見つめながら彼、後藤警部補は続ける。

「この辺かなりヤバいのよ。顔見た奴全員に言っといてくれ。おまえさんは外出も控えとけよ?」

「何故ですか?」

「ガイジンでレイバー乗りだからだ。犯行にレイバーが複数台使われるのは確定。なまじ腕が
良いからな。いらん嫌疑をかけられたくないだろ? 留置所で飯を食いたいってんなら別だが」

 話をする二人のすぐ後。白と黒に塗り分けられ警視庁と書かれた装甲車のような車が止まる。

「遊馬、居た! 隊長、何でこんなトコにいるんです! 会議、今日じゃないですかぁ!!」

 良く通る若い女性の声が響く。

「午後からでしょ? 未だ昼休みだもの。別に良いじゃない、海を見に来ても」

「そう言う問題じゃないですっ! 会議の前にお昼食べながら打ち合わせがしたいって、
今朝、南雲隊長が言ってたじゃないですか、もうカンカンですよ! 課長も来てるんですから!」

 後藤がその車と喋っている間ロックオンはそっと釣り道具のケースに手を伸ばす。
爪の先ほどの小型盗聴器。この世界ならば妨害はおろか検知さえ出来ないはずだ。

「課長はともかくしのぶサンが怖いなぁ。そもそも爆弾テロなんて特車2課、関係ないでしょーが。
――須藤君伝えたよ? 公安も出張ってくる。奴ら、たちが悪いから目を付けられるなよ?」

 装甲車に追い立てられるように小さなパトカーは走り去った。

 ロックオンの盗聴器を床下に付けたまま。


《ロックオン、エネルギー残3.7パーセント》

「くそ、何でこんなに減った? せめて一発撃てなきゃ意味がない。パイロットスーツでまかなう、
コクピット生命維持装置はカット。ステルスモードからジャミングモードに移行、頭だけ上に出す」

『リョーカイ、モード移行、頭部浮上カンリョウ。モニター回復』

 何故、貴重な残り少ないエネルギーを、この世界では日常茶飯事の破壊工作の阻止に
使おうと言うのか。自分でもよくわからない。

【突入はしのぶサンの隊だ。ウチは逃げてきた奴をとっつかまえる。何たって敵は爆弾魔。
よってライアットガンもリボルバーも発砲禁止。使うのは電磁警棒のみ。良いな?】

【お言葉ですが隊長、飛び道具無しでどうやって凶悪な敵を止めるのでありますかぁ!】

【太田ぁ。建設機械がショットガンを標準装備してるかぁ? あくまで逮捕が目的だ。あえて
爆弾魔と一緒に誘爆したいと言うなら止めないが、俺から1キロ以上離れてやってくれ】

 肩の赤い回転灯を回した”パトレイバー”。すでにかなり以前からモニターで捕まえている。
二手に分かれたそれは総数4台。テロリスト達が用意したレイバーに数では負けるが、レイバー
同士の格闘戦になれば対レイバー戦専用のイングラムと専門の教育を受けたであろうパイロット。
数に問題はないと言う判断なのだろう。

 そして付近の道路という道路には無数のパトカーが待機している。いくらレイバーであっても
この包囲網を突破するのは容易ではない。どうやら破壊工作の後、逃げるつもりはないようだ。

【ついでにここらは出来上がった施設も多い。余計な被害も出すなよ? 今期これ以上何か
やったら、いい加減俺のボーナスにも直接被害が出る。わかったな?】

 相手がティエレンやイナクトでさえ、数で押してくればいくらガンダムでも追い込まれる事は
ある。それとも圧倒的な兵器でも所有して居るのか。

 後藤警部補率いる”第二小隊”の無線が筒抜けになっている。どうやらあの小型のパトカー、
それ自体を指揮車の様に使っているらしい。

【爆弾はタワー内数カ所、そしてあのてっぺんにいるレイバーの握ってるアレが起爆装置だと。
だからといってだ、――泉ぃ。先走るなよ? 起爆装置、アレ一個の保証なんか無いんだからな】

 指示もいつも通り飄々と。しかし一言で部隊が引き締まる。後藤という男、なかなか侮れない。

【も、モチロンですっ。あたりまえじゃないですか。な、なにいってるんですかー、たいちょおー】

 電波の発信と受信、ロックオンはそれを示した図から要らないものを取り除いていく。発信源は
タワーの天辺、そして受信先はタワー内外に数カ所。どうやって掴んだのか、情報は正確だ。
わざわざレイバーでないと押せない大きさの起爆ボタン。受信機の先に爆発物があるかどうか
まではわからない。どこまで本気なモノか。

「ハロ、あのリモコンの構造解析、出来るか?」

《リョーカイ、ショーショーオマチヲ》

 サブモニターに四角い箱とその中の基盤や配線が透視図で表示される。

「この角の配線と基盤か……。なんてぇこった。誤差1cmで撃ち抜けってのかよ、2kmも先から。
残りの粒子がもう……。ハロ、30秒後。上体だけでも水面に出して射撃姿勢で機体固定。
超精密射撃モード移行、ライフルの絞り直径1cmで2.3km先を狙撃するとして何秒持つ?」

《ツーセコンドデパワーオフ》

「はン、上等。……デュナメス、ジャミングモード維持のまま、射撃位置へ浮上っ、介入開始!
――ロックオン・ストラトス、狙い撃つぜぇっ!」

「ん? 今なんか、……UFO? ――んにゃ、なんでない。始めたぞぉ。全員その場で待機」

『……完全に包囲されている、武器を捨てて投稿しろ!』

『主導権議ってんのはこっちだ! 先ずは自然破壊の象徴、大堤防のどてっぱらに穴を開けて
やる。嫌でもこちらの要求を飲まざるを得な、――あり? ありゃ? おい、どうなって……』

『第一小隊、全機突入!!』

「泉、太田! 左に回り込め! 入り口でがんばってるレイバーを制圧、熊耳も行け! 篠原、
レイバーの機種の特定! ――爆発物処理班、特車二課後藤だ、爆弾の種類割り出したか!?

「ガンダム、テロリストを制す。か……。個人的にはもう少し派手な方が好みなんだが……」

 これじゃ、オレがやったかどうか、わかんねぇじゃねぇか。静かに沈んでいくデュナメスの
徐々にくらくなるコクピットの中、ロックオンは唇に笑いをはりつけて呟く。

 そして、彼自身も少しずつ意識を失っていった。


 目が覚めると白い天井と間接照明。そして消毒薬の匂い。トレミーの医務室、そのベッドに
寝ているらしい。

「目が、覚めたか。――死ぬとは言っていなかったが、目覚めないのかと思っていた」

 水の底に沈んだはずの彼の目の前、無表情という表情を顔にはりつけたエクシアの
ガンダムマイスター、刹那・F・セイエイが座っている。

「勝手に殺すなよ……。どのくらい寝てた?」

 4時間だ。身じろぎもせず答える。

「生命維持装置を切って居たそうだな……。何を考えているのかは俺にはわからない。
だが、ロックオン・ストラトス。おまえも選ばれたガンダムマイスターだ。勝手に死ぬ事は
もはや許されない。そのことは忘れるな」

 いつも通りの通り一遍、四角四面の言葉。それが彼なりの心配の表現なのだと気付く。

「おまえに言われるまでもないさ……。心配をかけたようだな、悪かった」

 なんの事だ? そう言いながら刹那が立ち上がる。

「後で部屋に来いだそうだ。スメラギ・李・ノリエガから起きたら伝えろと言われた。伝えたぞ?」

 スメラギの伝言を自分への言い訳にして此処にいてくれたのだろう。刹那は自分が思うほど
冷たくも非人情でもない。表現の仕方を知らないだけだ。

「わかった。すぐに行くよ」

 振り向きもせず、返事もせずに刹那が出ていく。病室はロックオン一人。

「――やれやれ、スメラギ女史になんて言い訳すれば。……おまえ、居たのか?」

 机の上、水差しの隣で身じろぎもせずにハロが収まっている。呼びかけに対して
目の部分がチカチカ光る。壊れては居ないようだ。それにしても普段なら意識が戻ると同時に
大騒ぎしそうなものだが。と思いながらハロに手を伸ばす、といきなり口を開く。その口の中。

「コレは――、マジかよ……」

「マジダゼ、マジダゼ。……ロックオン、ソゲキメイチュウ。リモコンノソウサフノウヲカクニン」

 ハロの口から取り出したカード、それには。

【警視庁 警備部特科車両二課 第二小隊長  警部補 後藤 喜一】

 と書かれていた。

「ははは……、俺の自殺未遂は、後藤さんの役には立った訳だ。――行くぞ、ハロ!」 



fin

 
 

 
 
  • 最近のスパロボやってたらパトレイバーの世界にはダイ・ガードもありそうな気がしてきたw