00-W_不定期氏_01

Last-modified: 2008-10-23 (木) 19:00:44
 

「ちわー、マイスター運送です。グラハム=エーカーさん宛の宅急便ですが」
「あら、いつもの人と違うわね」

 

 プリペンター本部に毎回来る【マイスター運送】の配達員は、どことなくヒイロと似た雰囲気を持つ小柄な少年なのだが、今回は優男風な長身の青年だった。

 

「ええ、担当地区が変更になりましたので、どうぞこれからもごひいきに」
「お疲れさま」

 

 サリィが受け取ったのは、ダンボール箱だった。
 ヒルデが興味津々といった表情で近づいてくる。

 

「まさか、前みたいに人間が入っているわけじゃないわよね?」
「この大きさや音を聞いてみると、書籍のような気がするけど……差出人は『ビリー=カタギリ』……お友達かしら?」

 

 サリィは箱を揺らしながらそういった。

 

          *          *          *

 

「グラハム、あなたに宅急便よ」
「おお、前に頼んでおいたやつだ。 早速きたか」

 

 グラハムは宛名を確認すると、楽しそうにダンボール箱を開ける。
 箱の中身は、プリペンターの仲間のイラストや同人誌、そしてガンダムのプラモデルであった。

 

「ユニオン時代の同僚のカタギリが日本のイベント《コミ○》に行く予定だと言っていたので、その時にプリペンター関係のものがあったら、購入してくれないかと頼んでおいたのだよ」

 

 元ガンダムパイロットの五人も近づいてきた。
 昔の習慣か、郵便や荷物に爆弾が仕掛けられているかも知れないので、身を隠していたのだ。
 で、肝心の同人誌の内容だが……
 グラハム関係の絵は超美形に書かれており、例えば五人のプリベンダーが騎士姿で、グラハムが騎士団長として、若き女王と謁見する絵とか、車の中で恋人が別れを告げ、泣き崩れる彼女にそっと、コートをかけてやるとか、都会の夜を馬車にのって、女性がはしゃぐ姿をやさしく見つめる図とかが書かれていた。

 

「あなたが美形なのは認めるけど、ちょっと格好良すぎない?」
「ふふ、日本の女性のほうが私の本当の価値をわかっているようだ」
「ちょっと格好良く書かれると、すぐ調子にのるんだから」

 

 サリィもヒルデも彼のナルシスぶりには溜息をついてかぶりを振るしかなかった。

 

「心配ない。君らも他の諸君のものもあるぞ」
「うわ、レディ=アンと私たちがローブデコルテのドレス着てるなんて。でも、綺麗にかいてくれて素敵だわ。」
「レディ以外そんなドレス着る機会なんてないものね」

 

 女性陣はきゃっきゃ、きゃっきゃと喜んでいた。

 

「うん、悪くはない」

 

 五飛がとりあげたのは、池○遼一ばりの劇画タッチで青龍刀を構えている図や、カンフーでマフィアをフルボッコする自身のイラスト。
 外面は平静を装っているが、内心は「俺ってカッコエエエ!!」と欣喜雀躍してることだろう。
 ヒイロは「HIIRO」という文字で描いてあるものを、
 デュオはミュージシャンとして描かれているものを、
 トロワは動物たちと触れ合っているものを、
 カトルはフェンシングのユニホームを着てポーズをとっているものが気に入ったようだ。

 

「ところで、こんなのが届くと、一番大騒ぎする奴が……来たな」

 

 トロワが言い終える間も無く、扉の向こうからドドドドドドドドド…という音が近づいてきた。
 部屋にいる全員が扉から離れるが、音は扉の前で止み、代わりに

 

 ガチャッ

 

 という音と共にごく普通にパトリック=コーラサワーが部屋に入ってきた。
 そう、ごく普通に。

 

「おうお前ら、なにこけてるんだよ」
「あなたがまともに入ってくるなんて想像も出来なかったからよ!!」
「いいじゃねえか。ところで、その荷物はなんだよ?」
「日本のイベントにいったグラハムの元同僚の人が、私たちのイラストや同人誌を送ってくれて、それをみてたのよ」
「また、変わったところに行くもんだな。まあ、俺たちも有名人だし、でてもおかしくないか」
「あとは、君の分だけだ」
「まあ、スペシャルで模擬戦二千回無敗でエースな俺だから、さぞかしスペシャルにかっこいいんだろうな」

 

 自信満々といった表情で、同人誌に目を通すコーラサワー。
 しかし、それは自信過剰というものであろう。
 描いてあるものは、『イヤホオオオゥ!!』とか『なんじゃそりゃああああぁ!!』なものばかりであった。

 

「俺様がこんな風にしか見られてないなんて、嘘だろ……オイ」

 

 珍しく半べそをかいているコーラサワーにグラハムがとどめの一撃を放つ。

 

「あきらめたまえ。君は日本では出落ちキャラとしか認められてないのだよ」
「ウルヘエナルハム野郎!! お前、隠してんじゃないのか?俺様がスペシャルなヤツを!!」
「ふん、そんな事する暇などない。私はガンダムのプラモを愛でたり、自分の描かれているシーンをチェックするので忙しいんだ!!」
「なんとしても、探し当ててやる……あ、あったああああああ!!」

 

 それは、プリマドンナの首筋に熱いキスをするコーラサワーの絵であった。

 

「そう、これなんだよ!!スペシャルで模擬戦二千回無敗でエースな俺様にふさわしいものは!!いやっほおおおおおぅ!!」

 

 事務所内でかけまわって狂喜乱舞するコーラサワー

 

(まあ、なんというか……幸せ脳の極致ね)

 

 溜息をつく全員など目もくれず、狂喜乱舞は深夜まで続いたそうな。
 めでたいのかめでたくないのか、いやこの場合は、コーラサワーさんがおめでたい脳をもっているということは確かだろう。

 
 

 とっぴんぱらりのぷーーーー。

 
 

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