「映画出演の依頼?」
プリベンターメンバーが全員驚いたのも無理はない。
軍事施設の解体や要人の護衛等を生業とするものにとって、素顔を公にするのは得策ではないと思ったからだ。
「初めはそう思ったんだけど、アクションもので、格闘シーンならお手の物でしょ?」
レディ=アン直々の指令である。
「五飛はカンフーやっているからいいけど、俺たちは工作活動はしても、パイロットしかやってないし、演劇なんて学んでないぜ? アクションものなら他のスタントマンや、CGでやれるだろう」
「そういいたいけど、なにせこっちの財政が逼迫してるのよ。誰かさんのおかげで」
デュオの反論をレディが制する。
彼女の言葉を受けて、プリベンターのジト目はある男に集中した。
そう、我らがパトリック=コーラサワー氏である。
世界政府の議事堂前にグラハムとともに大穴をぶち明けた修理費、一人青春走りのあげく貨物船に救助されたその救助御礼、モラリアの幼稚園の庭にトラトラトラして大穴をぶちあけた賠償費、そして長期入院先の看護士のノイローゼに対する長期休養補償費等、数え上げればきりがないほど出費がかさんでいた。
「しょうがねえだろう。世界政府なんだったらその費用ぐらい予備費くらいですむだろう。」
「その原因をつくったのは、あなたでしょう!!それとも、少しでも政府にお返ししようという気持ちはないの!!?」
コーラサワーは不貞腐れたようにいったが、レディ=アンの一喝に会い、その迫力にコーラサワーは言葉を飲み込んだ。
「それと、もう一つ理由があるの。 あえて映画出演することで、プリベンターの広報もできるってわけ。 世界政府にも出演料の一部が入るし、我々もギャラが入るから、一石二鳥じゃない?」
レディ=アンの説得に渋々隊員たちは承諾した。
「で、どんなアクション映画なんです?」
「これよ」
レディはサリィに台本を渡した。
《ネバー・セイ・ネバー・ダイ》とタイトルをつけられた映画は、世界や宇宙を股にかけ、工作活動、諜報活動を行う主人公と、美しきヒロインの恋物語、敵組織クリムゾン・スコーピオンとの死闘、そして、派手な格闘シーンが三本柱をなす、ま、ぶっちゃけていえば、00○シリーズの焼き直しといわれても文句はいえないストーリーである。
「おお、俺が主人公のような映画じゃねえか」
「黙りたまえ、これは私のためにかかれたようなものだ。君ではギャグにしてしまうだろう」
「う、うるせぇ!!黙っているのはテメェの方だ!!この乙女座野郎!!」
コーラサワーとグラハム=エーカー。
限りなく自己中な二人が、俺こそ主人公といわんばかりに睨み合うが、ヒルデの必殺フライパン・アタックが二人に炸裂し、何とかその場を収める。
レディ以下プリベンターメンバーは呆れ返って言葉もでない。
「主人公は、ちゃんと他にいるわ。私たちがやるのは格闘シーンとアクションシーンのパートよ。
五飛、コーラサワー。あなたたちは特に重要なアクションシーンを任されているから。
五飛は主人公とともに倉庫でカンフーで敵を倒す役。コーラサワーは、爆発する中を主人公をバイクで追走して、最後に大爆発で飛ばされる役よ」
「ふむ、悪くはないな」
「ちぇ、ヴィラン(悪役)かよ……まあ、いいか。昆布茶ばかりすすっているのもなんだし、久々にスペシャルな俺様を見せるのも悪くはないか」
後の5人は、敵の宇宙ステーションでの戦闘シーンで主人公をサポートする役を与えられていた。
* * *
――撮影当日――
まずは、プロデューサー、監督、主人公、ヒロイン役の皆さんにご挨拶と握手のシーンを広報用に撮影し、早速五飛は撮影に入った。
まずは、台本でイメージしたアクションを披露。それから改良する点を撮影監督、主人公役や敵役をやる俳優たちと打ち合わせ。
息が合わないと本当に怪我をするから皆真剣である。
そして、リハーサルを何回かやって、本番。
「アクション!!」
カチンコがなると、主人公役とともに倉庫へ入る五飛。
突然、倉庫の荷物の上から襲いかかるクリムゾン・スコーピオンの手先。
主人公は普通に殴ったり、蹴ったりする役だが、五飛は、カンフーの達人という役だから、カンフーの技を駆使して敵を倒す。
旋風脚、鳳凰脚、裏拳等を駆使して、あっというまにのびた敵の山が築かれ、最後に主人公と勝利のアクション・ポーズ。
2回ほどでOKが出た。
「本当に映画に出るのは初めてなんですか?もう何回もやっておられると思いました」
「いいシーンが撮れたよ。有難う」
「よかったよ。また一緒にやりたいね」
監督や俳優たちから褒められ、五飛も満足げである。
「少しはストレス解消になったな」
そして、我らがコーラサワーさんの出番である。
なんと、台詞入りである。
「アクション!!」
カチンコがなると、ヘルメットの中でつぶやく。
「ギッタン、ギッタンにしてやっからよーーー!!」
「カット!!」
監督からOKがでて、クライマックスのバイク追走シーン。
主人公役のスタントマンがバイクで先行し、コーラサワーが追走してその後爆発させるというもの。
ロケで出番を待つ間は、昆布茶と草加せんべいをいただくという身についた習性がなんともシュールな空間を提供していた。
そして、本番スタート。
危険性が大きいので、1テイクで撮り終えようと監督は指示。
先行するバイクに、コーラサワーのバイクが追走して、爆発が起こる。
それを、巧みにかわすコーラサワー。
なに、モラリアで誘導ミサイルから逃げ切ったことを思えば、児戯に等しいものである。
しかし、そこに大きな落とし穴が待ち受けていた。
大爆発で吹っ飛ぶシーンで、予想より遥かに大きな爆発が起こってしまったのだ。
バイクごと吹き飛ばされたコーラサワー。
「何じゃそりゃあああああーーーーー!!」
の叫びとともに、火薬が貯蔵してある小屋へトラトラトラ。
ズッガーン!!!!!
あわてて伏せるスタッフおよび高みの見物にきていたプリベンターメンバー。
「な、なんだ!!あんな爆発想定していないぞ!?」
「すいません、どうやら爆薬の量を一桁多く入れてしまったようです」
「な、なんだってーーーー!!!」
青ざめる監督&助監督を他所に、プロデューサーは早くも賠償費の計算を立て始めた。
控えていた消防車が消火活動にあたっている。
「やつも、さすがにここまでか」
「いや、いままでの悪運の強さからまた戻ってくるさ」
いつものこととはいえ、酷いことを言うヒイロとトロワ。
そのとき、五飛の携帯がなった。
「うん、うん、そうか。わかった」
「どうしたんだ?」
デュオの問いかけに対して五飛は
「あいつ、悪運と体だけは強いな。無駄に。向こうの森に爆風で吹っ飛ばされて、木の枝にひっかかって喚いているとサリィから電話がはいった。今から救助に行く。トロワはスタッフの皆に『奴は無事だから安心してくれ』と伝えてくれ」
「あいよ」
救助に向かう4人。
さて、コーラサワーの悪運と体はいつまで続くか。
それは神のみぞ知るということだろう。