統合政府直営のスポーツセンターで、世界ジュニア&カデ・フェンシング選手権が行われていた。
日本で言えば高校生がカデ、大学生がジュニアのカテゴリーに属する。
ウィナー財閥が世界フェンシング協会の公式スポンサーということもあり、プリベンターの面々はカトルの招待でVIPルームでの観戦をすることとなった。
むろん、我らがパトリック=コーラサワーも一緒である。
会場では、明日のフェンシング界を担おうという選手たちが剣を交え、熱い闘いを演じていた。
カトルはウィナー家当主として、あちこち飛び回っている。
コーラさんはというと、貴賓室のビュッフェスタイルの食事をグラハムとともに食い荒らしていた。
「んー。さすがスポンサー用ともなると、味がぜんぜん違う。 どれ、イタリアはキアーナ牛のステーキ……うん、いけるぜ」
「がっつくではない。 こういうビュッフェスタイルは少量ずつ食べるものだけ盛るのがマナーだ」
「そういってるわりには、シーフードグラタンとポテトサラダが山のようになってるじゃねぇかよ」
「貴方達、いい加減にしなさい! カトルや他の方の迷惑になるでしょ!!」
サリィが呆れながら注意する。
(ヒルデが留守番でよかったわ……この光景が彼女の目の前で展開していたら、どれだけのフライパンが飛んでいたかわからないわね……)
サリィはそう思うしかなかった。
* * *
さてそれはさておき、選手権も佳境を迎えている。
カトルもやっと開放され、試合の様子をみようと、双眼鏡を覗き込むと……
「あれ?」
「どうした、カトル」
「ぼ、僕が……色違いの僕がいる……?」
「ちょっと、双眼鏡貸してくれ」
トロワが見たのは、日本選手団の中にいた。
髪と目の色が違うだけのカトルそのものの選手がいたのだ。
「信じられん……しかし、これほど似ているのを見たのは初めてだ」
「世界には3人は自分と同じ顔の人間がいるというからな」
顔色は変わらないが、カトル同様驚いた様子のトロワと、冷静なヒイロ。
「ちょっと、選手名鑑あたります」
カトルが部屋に備え付けてある端末の操作を始める。
それを覗き込むデュオ。
「先祖が戦国大名の血筋をひき、姉が5人いる一人息子って、お前とよく似た家族構成の家族だな?カトル」
「僕のところは姉は29人いますけどね」
「しかも、名前が戦勝(ただかつ)だってよ。 あの顔からは想像もつかない名前だぜ」
その後、その彼が女子選手からいじられているのを見て、カトルは、昔姉たちに着せ替え人形やいじられた
つらい過去を思い出したのか、大きなため息をつき、目を覆った。
「もっと厄介なやつがいたぞ」
双眼鏡を覗き込んでいた五飛が呟く。
そう、あの重度のショタコンセレブ、マリナ=イスマイ-ルが会場にいるのを発見したのである。
「あの子も、あぁ~この子もいいわぁ~こんなに美少年がよりどりみどりなんて、いままでなぜ気づかなかったのかしら。 そのなかでもカトル様そっくりのあの子。 きっと、ご家族にはかわいがられてたんでしょうね……ハァハァ……次のターゲットあの子にしようかしら」
今にもよだれが落ちそうなほどに興奮して、その彼を双眼鏡で覗き込むマリナ。
彼に待ち受ける運命を思い、ため息を深くつく5人。
そして、それと関係なくビュッフェで食い荒らし、ヒルデ譲りのどかちんハンマーでサリィの制裁をうけたコーラサワーとグラハム。
――各々の運命がここでも交錯していた――