色々と問題はあったが、サリィと五飛は新しいプリベンターのメンバーと会うことが出来た。
これが幸であるか不幸であるか、今の時点で語れる者はいない。
「まったく、遅ぇじゃねえか。ああん?」
サリィと五飛はその年齢に比べて様々な経験をしてきており、当然遭遇した人の数もかなりのものになっている。
したがって、人の性質を見抜く力というものを、それなりに持っている。
で、その二人が弾きだしたこの新人に対する印象はと言えば。
「何じろじろ見てんだよ。俺様は珍獣じゃねーっての! あー!?」
チンピラ。
それも、高校で喧嘩もバイクも中途半端にかまし、大学に進学出来ず会社に就職も出来ず、適当なバイトで食いつなぎ、社会に対してどこまでも斜に構えて物事を正視せず、「俺は凡人とは違う」という根拠のない自信を未だに心の拠り所にしている二十代後半のチンピラ―――だった。
「……まあ、とりあえずよろしくね。私はサリィ・ポォ。そしてこっちは」
「張五飛だ」
自制心をフルに回転させて自己紹介を行う二人。
元より精神が大人なサリィはともかく、五飛のこの態度はかなり人間的に成長した証だといえるだろう。
かつての五飛なら「大きな口をきくなら力を見せろ」と旋風脚のひとつでも繰り出していたに違いない。
「おう、俺はAEUのスペシャルなエース様、模擬戦二千回無敗、パトリック・コーラサワーだ」
「……よろしく。ええと、パトリックと呼んだ方がいい? それとも、コ、コーラサワー?」
あくまで礼儀として、サリィは握手のために手を差し出した。
だが、コーラサワーは握り返そうとしなかった。
「違う」
「え?」
「違うってんだろおおお!」
「な、何が?」
「いいか! もう一回言ってやるから耳の穴かっぽじってよぉく聞け!」
ポーズを決め、大声を張り上げるスペシャルさん。
ちなみに、今彼らがいる場所は空港のレストルームである。
周囲にいる人たちが何だ何だと奇異の視線を三人に向けるが、コーラサワーはまったく気にした風はない。
サリィと五飛は気にしまくりなのだが。
「俺はっ! AEUの! スペシャルな! エース様! 模擬戦! 二千回! 無敗! パァァトリック・コォォラサワァァァだっ!」
「……えーと」
「まさかお前、呼ぶ時はそれをいちいち最初から言えというのか」
「あったりめえだろ!」
溜め息混じりに言葉を紡ぐ五飛に、コーラサワーはビシリと人差し指を突き刺した。
「いいか、俺はすげえんだ。模擬戦で二千回無敗ってことは二千回勝ったってことだ。それがどんなにスペシャルで……」
身振り手振りで自己吹聴をするパトリック・コーラサワー。
一時として台詞が澱まないことを見ると、果たして過去にどれだけ同じことを言ってきたのか。
「おい」
「なあに?」
いつのまにやら、サリィと五飛はがなりまくるコーラサワーから数メートルほど距離を取っている。
まるで、俺たちは無関係だということを主張するかのように。
「うるさいから撲殺していいか?」
「ここじゃダメよ。やるならシベリアの奥地で事故に見せかけないと」
サリィと五飛はコーラサワーと出会った。
これが幸でるか不幸であるか、今の時点で語れる者はいない。多分。