00-W_土曜日氏_101

Last-modified: 2009-04-29 (水) 22:30:45
 

♪不死身のように コランザム コランザム

 

 ここは宇宙(そら)の果て 流されて 彼
 あぎゃに蹴られて 無傷で還る
 コーラサワー 癒し放って
 コーラサワー 弾ける力
 カティ目指して 心を開く
 不死身の肉体(からだ) 奇跡を乗せて
 バカかエースか 新橋閃光
 不死身のように コランザム コランザム
 不死身のように コランザム コランザム♪
(原曲:疾風ザ○ングル

 
 

「あー、暇だなあ」
「口を開けばそればっかりだな、最近」
「ふあああああ」
「欠伸するな、コラ」
「春だし眠たくもなるだろーが」
「昨日、何時間寝たんだよ」
「八時間」
「十分じゃねーか!」

 

 今日も今日とて、パトリック・コーラサワーとデュオ・マックスウェルの漫才が繰り広げられている。
 いつもと違うのは。

 

「しかし、実際暇だしなー」
「いや、今仕事中だし……」

 

 プリベンター本部ではなく、仕事先で展開されていたことだろうか。

 

   ◆   ◆   ◆

 

 アザディスタンでの一件以降、プリベンターは穏やかな日々を過ごしている。
 アリー・アル・サーシェスの追跡、そしてビリー・カタギリのパソコンにハッキングした相手の調査は、遅々として進んでいない。
 何しろ手掛かりが少な過ぎるので、いかにレディ・アンの捜査網が強力でも、無に近いところから有を弾きだすことは出来はしないのだ。

 

「だいたいな、こんなの仕事って言うのかあ?」
「立派な仕事だろ、警備は」
「でもよ、ハッキリ言ってコレはテロの対象になるとは思えないんだが」
「物好きなテロリストがいるかもしれないだろ」
「どんな奴だよ」
「お前みたいなのな」
「……そうか」
「冗談に納得するのかよ! おい!」

 

 今日、プリベンターは警備の仕事で出張っていた。
 彼らが守るのは、政府直属である『新軌道エレベータ(以下EV)建設委員会』の面々である。
 現在、世界には三本の軌道EVがある。
 ソロモン諸島の『天柱』、南米の『タワー』、アフリカの『ラ・トゥール』であり、それぞれ海抜5万キロメートルの高度で、軌道上を囲むように太陽光発電システムに直結している。
 そして、今日委員会が調査を行っているのは、四本目となる軌道EVの建設予定地の視察なのである。

 

「政府転覆を狙う奴らがまだ残ってるのは確かなんだぞ」
「でもなー、例えばどっか一本でも壊してみろよ、エネルギー問題で地上はてんてこ舞いだぞ」
「そういうことになるな」
「化石燃料がほとんど用無しになった今、そんなことしたら例え政府を潰しても自分たちの首を絞めるだけだろ」

 

 おおコーラサワー賢い、などと思ってはイケナイ。
 この時代に暮らす者なら、これは常識レベルのお話。
 実際にはまだ化石燃料によるエネルギー産出はある程度継続可能なのだが、環境に与える影響等その他諸々を考えると、旧時代化しているというのが現状である。
 ハラペコショタ姫ことマリナ・イスマイールのお国アザディスタンを始めとする中東諸国が、世界に対する発言力を失ったのは、実にこの問題が大きい。
 カトルの実家であるウィナー家も石油の利権で大きく富を伸ばした豪商だが、エネルギー問題過渡期においてその立場を落とさなかったのは、当主が代々目敏いタチで、先々を見据えて色んな手を打っておいたからである。

 

「思いつきやウップン晴らしで軌道EVに傷でもつけたら、それこそ下手すりゃ終身刑だろーがよ」
「だからこそ衝動的なテロリズムは怖いんだろ、ほれ、お偉いさんたちが移動するぞ」

 

 実は、正確には新たに建造計画中のこの軌道EV、『四本目』というわけではない。
 現在建っている三本の、言わば補助的なものとなる予定である。
 軌道EVはその性質上、赤道上に地上との隣接点があるのが望ましい(赤道上しかダメ、ということはないそうな)。

 

「でもよう」
「まだ何かあるのかよ」
「海のど真ん中だぜ、ここ。四方は見渡しがきくから、襲撃なんてやりにくいと思うんだがよ」
「海中と天空があるだろ」
「それぞれ警備隊が配置されてるじゃねーか。俺たちがいる意味ねー」
「……政治的な問題もあんだよ」

 

 この『補助EV』はそもそも、太陽光エネルギーのためというより、欧州側の発着拠点の意味合いが強い。
 大西洋に移動式のメガ・フロートを作り、そこにアース・ポートをこしらえることで、アフリカのラ・トゥールにかかる負担を少しでも減らそうというのが本当の目的だったりする。
 宇宙に行く人、地上に戻ってくる人は多い。
 物資の輸送などは、マスドライバーに頼る部分が大きいのも事実。
 現在、宇宙は人類に残された数少ないフロンティアであり、宇宙開発を進めることで人類の未来が開こうとするのは、これはSFでもなんでもなく、地球上をほぼ押さえつくした人類が取るべき当然の方針なのである。
 なお、プリベンターと調査団がいるのは、かつて海底資源を採掘するための海上ベースだったところ。
 ここを基点としてメガ・フロートが作られることになっている。

 

「あのOZだってそうだっただろ、思いっきり強引に軌道EVの計画を拡張しようとしてたじゃないか」
「……そうだっけ?」
「そうだっけってお前……本当に軍人だったのか」

 

 デュオは溜め息をついた。
 『軍人らしくない軍人コンテスト』があれば、間違いなくコイツは上位に入っただろうな、と思わざるを得ない彼である。

 

「いずれはコロニーともどうにかして繋げるつもりだったらしい」
「出来るのか、んなこと」
「さあね、正直俺は無理だと思うが、そういうことを言うことでコロニーへの牽制になると考えたんだろ」

 

 現在、コロニーも統合政府の傘下。
 過去の諍いなどから未だ地上とコロニーの関係はスムーズではないが、それでも統一した政体の下で、関係者は足並みを揃えようと力を尽くしている最中である。

 

「おい、見ろみつあみおさげ」
「何だ、仕事しろ」
「ちんちくりんの奴、寝てるぞ、立ったまま」
「何ィ!?」

 

 デュオはコーラサワーの指差す方を見た。
 丁度調査団を挟んで向こう側、確かにコーラサワーが言うところのちんちくりんことヒイロ・ユイは目を瞑っている。

 

「……いや、あれは寝てるんじゃないだろ。アイツはあんな感じだ、いつも」
「本当かあ?」
「ヒイロとは俺の方がお前より付き合いが長い」

 

 つまり、お前よりよく知っている、ということを暗に匂わすデュオ。
 実際、ヒイロはそんな感じである。

 

「何か投げつけてやろうか」
「やめとけ、んなことすると後で仕返し喰らうぞ」
「フン、ちんちくりん一人に遅れを取るこのスペシャル様じゃねえ」
「いつだって遅れ取ってるくせに。それに、悶着起こすと多分五飛も関わってくるぞ」
「丁度いいじゃねーか。俺の真の実力を見せてやらぁ」
「そうなると、トロワも参戦だな。ついでに言うと俺もだ」
「フルボッコするつもりかよ!」
「あ、やっぱり四人相手は自信無いか」

 

 ちなみに、今回警備の仕事として来ているのは、コーラサワーとデュオ以外では、現場指揮のサリィ・ポォ、ヒイロ・ユイ、張五飛、トロワ・バートンといった面子。
 コーラサワーだけが異質だが、正味の話、警備の仕事だからといってあんまり彼だけをハブるわけにもいかないのだ。

 

 仕事の機会は均等に、平等に。

 

 いくら問題児だからと言っても、同じ組織にいる以上は、やっぱり同じ仕事をしてもらわなけりゃ困るって話である。

 

「んで、いつまで俺たちは海風に吹かれてりゃいーんだあ?」
「そりゃ調査が終わるまでだろ」
「げっ、まさか一か月とか言うんじゃないだろうな」
「……安心しろ、俺達がここにいるのは今日だけだ」
「何だそりゃ、やっぱり俺らが警備の仕事する必要ないじゃねーか」
「だから、政治的な問題でもあるって言っただろ」

 

 プリベンターはレディ・アンが結構無理をねじ込んで作り上げた組織。
 政府内では、正直快く思わない連中も結構いる。
 そういう人たちの誹謗中傷をかわすためにも、こういった仕事に出なければならないことは多々あるのだ。
 もっとも、「一日だけか、お客さんだな」と結局言われちゃうわけだが。

 

「そろそろ私語は慎もうぜ、サリィに怒られちまう」
「うー、今日の晩飯、何にしようかなあ」
「……おいコラ」

 

 派手な仕事以外ではとことんやる気がないコーラサワー。
 自分が輝ける舞台にしか興味はない、何ともスバラシイ性格な推定34歳童顔中年であることよ。
 自らに正直に生きる、感情のままに生きるヒイロと似て……いや、何か違うな。

 

「ん……?」
「また何か?」
「いや、見知った顔が」
「ハァ? 何処に? 委員会の調査隊にか?」
「一番後ろにいる、あれは……」
「見間違いだろ、お前とは縁も所縁もないカシコイ人たちなんだぞ」
「いや、見間違いじゃねーな……ちょっと声かけてくるわ」
「お、オイコラ! 仕事ほッぽり出すな!」
「何、一声かけるだけだって」

 

 コーラサワーは持ち場を離れた。
 調査隊の一番後方、やや離れた位置に立っている一人の人物を目指して、歩を進める。
 黒い鞄を両手で持ち、学者とは呼べぬ若さの、何より雰囲気が全然周囲と違うその人物とは。

 
 

「よー、久し振りだなー」
「あ……貴方は!?」

 
 

 と、いうところで次回へ続く。
 さて誰でしょうか、と。

 
 

 プリベンターとパトリック・コーラサワーの心の旅は続く―――

 

 

【あとがき】
 ヒント:一年以上出てない人ですコンニチハ。
 しかし自分ずっと何やってんだかサヨウナラ。

 
 

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