00-W_土曜日氏_126

Last-modified: 2009-12-19 (土) 00:17:00
 

 今更だが、これは00とWのクロスの物語である。
 基本的にどちらがベースということもなく、コロニーは存在しているし、OZは崩壊したし、ユニオンもAEUもあったことになっている。
 で、暦は取りあえず西暦である。
 作中では2313年で、来年は2314年になる。
 それがどうしたかというと。

 

「おい、賭けをしようぜ、賭けを」
「また急に何を言い出すんだこの新婚ボケは」

 

 リアルの世界では来年は2010年。
 2314-2010=304、304÷4は76。
 つまり。

 

「ワールドカップだよ、ワールドカップ!」
「……来年の話だろうが」

 

 そう、フットボールの祭典はこの時代にもあるのであった。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 サッカーは大人気のスポーツ。
 ワールドカップは、オリンピックと並ぶ世界的な行事である。
 利権絡みや国家統合の影響で、一時は開かれないこともあったが、何とか存続し、今もって権威のある世界的大会なのだ。

 

「前回はユニオン・ブラジルに優勝をかっさらわれたが、今回は俺の国が勝つぜ!」

 

 胸を張るパトリック・コーラサワー。
 俺の国、とかいう表現を使っちゃう辺り、以外に郷土愛が強いのかもしれない。
 いや、単純に表現力の問題なのかもしれないが。

 

「フランスがか」

 

 現在、世界は統一国家。
 国家の壁は一応取りはらわれたが、その概念は残っている。
 というか、統一国家は生まれて間もない、未だよちよち歩きの赤ん坊。
 管理運営の点からみて、フランスだのアメリカだのという“括り”は当面使っていかざるを得ないのだ。
 国ではなく、地区という扱いで。

 

「フランスは今回は凄いぞ、何せエースがジ○ンとマラ○ーナとベッケンバ○アーの血を引く男だからな!」

 

 それではフランス人とは言えないかもしれないが、これもまた時の流れというもの。
 民族や人種という縛りが曖昧になっていると考えれば、国際的ではあるかもしれない。

 

「待て、それならばわがアメリカはペ○とロベル○・バッ○ョとブトラゲー○ョの子孫がキャプテンだ。優勝は我がアメリカに間違いない」

 

 で、負けず嫌いのブシドーさんことグラハム・エーカーが絡んでくるのは最早最近のお約束。
 混ぜるな危険、コーラサワーとグラハム。
 毒性のガスは発生しないが、空気は確実に変わってしまう。

 

「何を言ってやがるこのナルハム野郎、アメリカなんぞ新参じゃねーか」
「今更新参もなかろう、いったい今を何年だと思っている」
「どーでもいいさ、はぁ」

 

 デュオ・マックスウェルは溜め息をついた。
 手にしている湯呑みの茶には茶柱が一本立っているが、どうやら今日の彼は特にツイているということもないようである。
 まあ、コーラサワーとグラハムが側にいる以上、ツイているもツイてないもないのだが。

 

「何だよみつあみおさげ、冷めてんな」
「うーん、別にのめりこむ程サッカーに興味ないからな」

 

 デュオにとっては、サッカーのみならずスポーツそのものと縁が遠い。
 彼自身、身体能力はあるのだが、幼き頃から彼がやってきたのは、まず闘うこと、そして生き残ることの技術の習得だった。
 いくつかのスポーツは噛んだことがあるが、身を入れてやったということはない。
 これは、他のガンダムパイロットも同様である。
 とは言え、デュオも全く関心が無いわけではない。
 こうして世界的なスポーツ大会が開かれるということは、それだけ世界が平和であることの証でもあるのだから。

 

「そーいやナルハム野郎、お前はサッカーの経験があるのか」
「人を見て物を言うのだな。こう見えても私は、サッカー、ベースボール、バスケットボール、アメリカンフットボールと一通りはこなしてきた」

 

 グラハムの言葉を聞いて、デュオの脳に不意に奇妙な映像が流れ込んできた。
 ユニオンの基地において、サッカーやバスケをするMSという……。
 以前コーラサワーから聞かされた、AEUでは訓練としてMSに乗って野球をやっていたという話が未だにデュオの頭にこびり付いているのだ。

 

「スポーツは心身の健康にとって大切だからな」
「ジュードーやケンドーもやってたんだろうな」
「無論」
「やっぱり」

 

 野球やサッカーのユニフォームより、柔道着や剣道着の方が似合いそうな金髪男、グラハム・エーカー。
 イメージというものは恐ろしいものである。

 

「ジョシュアも確かアラスカ基地ではサッカーチームの一員だったな?」
「へ? お、俺?」

 

 急にボールが来たので、じゃない、急に話が振られたので、思いっきり戸惑うアラスカ野ことジョシュア・エドワーズ。
 まあ、ここで不意の事態に弱い男とジョシュアを責めるのは酷かもしれない。
 何せグラハムの発言は、某旅人のキラーパスよりもっと速度もタイミングもいきなりだから。
 正味の話、予測して走り込んで対応出来るレベルではないのだ。

 

「ま、まあ一応」
「へー、お前がなあ。で、ポジションはどこだ? ベンチか?」
「……取りあえず、ウインガーやらサイドアタッカーやら」
「中央のポジションじゃないって辺りが何となくヘタレなお前らしいな」

 

 結構失礼なことを言うコーラサワーだが、サッカーにおけるポジションの重要性というものは、その時代ごとのサッカーのスタイルによって変わってくる。
 戦術やフォーメーションには栄枯盛衰があり、再評価があり、また新発見がある。
 その繰り返しでサッカーは進化してきたのだ。

 

「逆サイドを必ず埋める男、とアラスカでは呼ばれていたんだぞ」
「それってつまり、球の流れとは関係ないってことだよな」
「ちゃうわい!」

 

 サッカーはボールがあるところだけが勝負の場なのではない。
フィールド全体が戦場であるからして、ボールがあるサイドとは逆側のサイドもケアしておかなければならない。
 と言うか、裏のスペースを突くためにはボールばっかり追っかけてられないわけで。

 

「しかしまあ、お前はそんなんばっかりだな」
「ど、どういう意味だ」
「セコいってことだよ」
「失礼なことを言うなあ!」

 

 真正面から勝負しない、という一点で批難されるのもジョシュアにとっては可哀想っちゃ可哀想だが、まあ相手がコーラサワーなので仕方がない。
 コーラサワーをポジションにあてはめると、さて、オレガ星人のクレクレストライカーか、それともボールを持ったら離さないコネコネドリブラーか、多分どちらかであろう。
 生き方そのものがファンタジスタではあるが。

 

「良かろう、ではフォーメーションの特訓だ」
「また脈絡ないな、ナルハム野郎は」
「ワールドカップで賭けをしようとか言い出すお前も相当脈絡ないけどな」

 

 今日はややデュオのツッコミも回数が少ない。
 年末も近づいてきて、正直、ちょっと疲れてきているというのもある。
 プリベンターが忙しくない、それイコール世界が平和であることの証だが、実際のところ、「全く仕事をしていない」部署に金を出す程、政府の財布も紐は緩くはない。
 これこれ活動しています、というところを見せる必要があり、微妙に便利屋扱いされて色々と駆り出されているプリベンターなのだ。
 アザディスタンの一件から続く騒動の捜査は、今のところ大きな進展を見せておらず、これもまた、デュオたちを疲れされている一因でもある。
 始終緊張を強いられているわけではないものの、全くの準備なしでピッチに出ても、思い通りのプレーは出来ない。
 突然の出場があるかもしれず、のんびりと構えているわけにはいかないのだ。

 

「三人で針の陣! まず私が先駆ける! 次に私が斬り払う! 最後に私がトドメをさす!」
「全部お前がやってんじゃねーか! 違うだろ、俺が撃つ! 俺が叩く! 俺が勝つ! これだろうが!」
「あ、じゃー俺は最後尾で奇襲に対するケアをしとくわ」
「またそれかアラスカ野、このヘタレ野郎!」

 

 コーラサワーとグラハムがボールを奪い合いながら敵陣に突入、ジョシュアがカウンターに備えて(間違ってもパスは来ない)後方で待機。
 これで勝てたら戦闘もサッカーも甘いもんである。
 まあ、個人技が無茶苦茶高かったらどうにかなっちゃうかもしれないが。
 一応この三人、軍時代にはエースと呼ばれた存在だったわけ、うん、どうにかなっちゃうかもしれない。

 

「……この三人で組ませるのは危険だなあ、やっぱり」
「そうは言うけどさ、デュオ」

 

 いつの間にか、ヒルデ・シュバイカーがデュオの側に来ていた。
 手にはきゅうすと煎餅を持っているところを見ると、お茶の淹れ替えをしに来たのであろう。

 

「何だよ」
「危険物をひとまとめ、みたいな意味で組ませてるんじゃないの? あの三人」
「別に正式に組ませているわけじゃないと思うけどな、サリィもレディ・アンも」

 

 レディ・アンは直接現場には介入しない。
 メンバーの運用は現場リーダーのサリィ・ポォの権限で決まっている。
 サリィは常識人であるからして、非常識人のコーラサワー、グラハム、ジョシュアを一つに括って隔離状態にしておく傾向があるのは確かではある。

 

「だけど、バラしたらバラしたで、ヒイロや五飛と組ませられないぞ」
「まあ、多分だけど血を見るわね」
「だろ?」

 

 結局のところ、三人をひとまとめにしておくのが無難っちゃ無難なのだ。
 それに一応、この面子でそれなりに結果を残している事実もある。
 しかし、レディは何を思ってこの三人のプリベンター加入を許可したのか。

 

「ところでヒルデ」
「なあに、デュオ」
「背中に隠してあるフライパンにはどういう意味が?」
「決まってるじゃない、あんまり五月蠅くなるようだったら、これを使うのよ」

 

 どうやって、とはわかりきっているのでデュオは聞かない。
 何だか、言葉のツッコミはデュオ、物理的なツッコミは五飛とヒルデと、プリベンターの中でも役割分担がハッキリしてきた昨今である。

 

「結局、賭けの話は有耶無耶になっちまってるな」

 

 このまま本人が忘れてしまうという可能性もあるが、そうなったらなったで、またいきなり思い出すかもしれない。
 そうしたら、やっぱりL2コロニー代表に賭けようかな―――と茶を飲みつつ、思うデュオだった。

 
 

 プリベンターとパトリック・コーラサワーの心のミラクルドリブルは続く―――

 

 

【あとがき】
 スピードスター、球界を去る。
 赤星憲広選手、今までお疲れ様でした。タイガースファンにとって貴方はまさに「星」でした。
 コンバンハ、そして次回までサヨウナラ……。

 
 

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