00-W_土曜日氏_125

Last-modified: 2009-12-19 (土) 00:30:34
 

 音楽は人の感情を動かす。
 楽しませ、喜ばせ、悲しませ、そして和ませる。
 勇壮な行進曲を聞くと自然と心が弾む。
 暗闇でおどろおどろしい曲を聞くと恐怖は倍増される。
 時に、目で見えるもの以上に、耳に聞こえるものは人間に影響を与えるのだ。

 

「和太鼓は外せぬ、あの腹の底を揺らすような勇ましい響き! これに勝るものは無い!」
「相変わらずの東洋カブレ、それしかないんですか隊長」
「バーカ、腹太鼓か何か知らないが、いつだってスペシャルな俺にはスペシャルなテーマ曲だぜ!」

 

 んで。
 今日も今日とてプリベンターは騒がしい。
 そして騒ぎの中心はいつだって、あのパトリック・コーラサワーとあのグラハム・エーカーなのであった。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 今日の騒ぎの内容は、特別たいしたことではない。
 ぶっちゃけて言えば、下らない。
 簡単に言うと、“自分の戦闘のテーマ曲”は何がいいか、である。
 発端もそもそもしょうもない。
 コーラサワーが結婚式の際、会場にはワーグナーの『結婚行進曲』が流れていたのだが、それをコーラサワーが自慢したのだ。
 自分と愛するカティ・マネキンの船出に相応しい曲だ、と。
 ワーグナーの結婚行進曲はメンデルスゾーンの結婚行進曲と並んでウェディングマーチとしては最も有名で、それだけに使われる回数も多く、至極当たり前に過ぎる選曲であり、相応しいも何もないのだが、それをまるでさも自分のために造られた曲であるかのように言っちゃうのが、コーラサワーのコーラサワーたるところだろうか。
 で、そこにミスターお面さんことグラハム・エーカー(今日は素顔の彼である)が、絡んできちゃったからさぁ大変。
 プリベンターの中でも暴走ドリブラーっぷりが際立つ二人が論争を開始したもんだから、そりゃもう止めるも止めないもないわけで、デュオ・マックスウェルが生贄としてアラスカ野ことジョシュア・エドワーズを間に放り込み、部屋に閉じ込めて蓋をしてしまったという次第である。

 

「津軽三味線の速いテンポに乗れば、いかなる敵も一刀両断に出来よう!」
「普通に『ワルキューレの騎行』とか出てこないんですね、隊長……」

 

 そいでまあ、何時の間にやら『自分のテーマ曲』に話の内容がボタン、じゃないスイッチしてしまうのも無理からんことではあった。
 何しろ地平線の果てまでも、自分の道しか敷いてない連中であるからして。
 アニメにおいてはちゃんと00のために作られた曲が戦闘時に流れていたが、それはこの話では取りあえず横に置いておく。

 

「和楽器は良い、良いと言った!」
「なんかそのうちチョンマゲ結いそうだな、このナルハム野郎は」

 

 和楽器系で勇ましい曲、となると薄学の身としてはグレート・○タの入場曲しか思い浮かばないわけだが、ブシドーモードで花道を歩いてくるグラハム・エーカーは何だか様になっているかもしれない。
 その際、○タはム○でも『MUTA』ではなく『愚零闘武多協奏曲』の方が個人的にはよろしいかと。
 和曲系の入場曲でも、Tajiriのエントランステーマではちょっとグラハムのイメージとは違うような気もする。
 特にWWEの初期時の曲だと違和感バリバリ……って、プロレス好きでないとわからん話か。
 脱線失礼。

 

「戦いにマッチした曲ならいくらでもあるでしょうが」
「む、ならば問おうかジョシュア、お前が思い描く曲は何だ?」
「そりゃあ……さっきも言ったけど、『ワルキューレの騎行』とか」

 

 『ワルキューレ(ヴァルキューレ)の騎行』とは、ワーグナーの楽劇『ニーベルングの指輪』の第一夜『ヴァルキューレ』の三幕の冒頭における曲である。
 コッポラ監督の映画『地獄の黙示録』に使われて、“戦闘用の音楽”としてのイメージが強い人もいるだろう。
 ちなみにさっきのプロレスの話を引っ張れば、“組長”こと藤原○明の入場曲でもある。

 

「『新世界より』、とか」

 

 『新世界より』とは、ドヴォルザークの交響曲第九番のことで、特に第四楽章が有名であろう。
 物語の盛り上げにクラシック音楽をふんだんに使った『銀河英雄伝説』のアニメ版では、大艦隊同士がぶつかりあうというアムリッツァの戦いにおいて話の冒頭から第四楽章が流され、同作の中でも際立つ演出となった。

 

「他は、えーとえーと」
「どうしたアラスカ野、それで終わりか?」
「えーと、えーとだな、ほら、アレだ。ナントカとかいう映画で使われていたナントカとかいう行進曲」
「ナントカって何だよ」
「笑止! 薄いぞ、ジョシュア・エドワーズ!」

 

 ここら辺りは、ジョシュア君の悪いところかもしれない。
 仮にもアラスカ基地でエースを張り、パイロットとしての技術も十分に高いはずなのに、強がったりイキがったりと一枚二枚と虚飾の重ね着を試みて、結局失敗してしまう。
 アニメにおける着任早々中傷→戦場で独断専行→自業自得の流れはその典型と言えようか。
 同じ金髪で同じ登場即退場でも、SEEDのハイネと比べるとえらいこと小物感ブリブリである。
 まあ、グラハムやコーラサワーとはまた別の種類で、彼も“子供っぽい”とは言える。
 つまりはヘタレ、簡単に言うとヘタレ。

 

「いや、何かほら、クラシックでカッコイイ奴でひとつ……」
「カッコイイどころか、今のお前はとてもカッコワルイぞ、アラスカ野」
「ぬぐぐぐぐ」

 

 いやはや、コーラサワーに言われたらおしまいな気もする、ジョシュア君。
 ジョシュアの立場にコーラサワーを置いて同じ展開になれば、間違いなく胸を張って堂々と「知らん、しかしそれがどうした」と言っていたであろう。
 それがカッコイイかはともかく、自分に下手に見栄を張らないだけ、まだカッコワルクはない(はず)。
 しかし、先程からの例を挙げるまでもなく、場を盛り上げるためのクラシック音楽は、結構身近にいくらでもあったりする。
 例えばそれはゲームであり、アニメであり、ドラマであり、映画であり……。
 『餓○伝説2』のラスボスのアレとか、『パロディ○スシリーズ』の全編のアレとか、『エヴァンゲリ○ン』のアレとか、『101回目の○ロポーズ』のアレとか、『2001年宇○の旅』のアレとかその他諸々。
 だが、それだけ多く使われるということは、すなわちその曲に魅力があり、また大きな影響力を持っているということに他ならない。
 今の時代のパチンコ屋はさすがに店内曲が軍艦マーチのみというところは少ないだろうが、ガンガンに洋楽やら邦楽やら勢いのある曲をかけているのは、客の金遣いを後押しするためであり、デパートやスーパーの店内曲も、客の購買意欲を起こすためのものである。
 逆に葬送行進曲なんぞを流したら、おそらくだが売上は下がるに違いない。
 『六甲おろし』が暗く、低い調子の曲だったら、甲子園はタイガースが勝ってもほとんどお通夜状態になってしまうだろう。

 

「じゃあお前はどうなんだよ」
「俺か?」

 

 と、ここでジョシュアは改めてコーラサワーに矛先を向けた。
 元はと言えば、ジョシュアはデュオによってこの二人の生贄にされたわけであり、被害者なのだ。
 コテンコテンに言われまくったのでは、可哀想を通り越して哀れというものである。

 

「だから俺は言ってるだろ、スペシャルな俺に合うのはスペシャルな曲だ」
「つまり、それは何だとジョシュアは問うているわけだが」
「まあ極端に言うと、俺には何だって合うんだけどな。何せスペシャルだから」
「説明になってないな」
「俺に似合いの曲があるんじゃあない、曲が俺に似合わせるんだ」

 

 ダサい服でも、着る人が着ればカッコイイ。
 もしくは、カッコイイ者には自然とカッコイイ物が集まる。
 つまりはそういうこと的なコーラサワー理論と言えようか。
 自己賛美もこの男の場合は陰湿なところがなくカラッとしているのが、まあ救いではある(そして時にそれは魅力に成り得る)。

 

「そうだな、強いて言うなら、やはり自分のために自分が作った曲っつーか歌こそが俺のテーマ曲になるだろうな」
「酔っぱらったオッサンが電信柱相手に聞かせる歌みたいなもんだな」

 

 今日はデュオがコーラサワーの側にいないため、自然とジョシュアがその役を負っている。
 ツッコミ適性はそれなりにあるジョシュアだが、何しろヘタレなので、コーラサワーとグラハムに挟まれたらどうしてもイジられ中心になってしまうのが悲しいところである。
 ちなみに、新郎新婦が自作した愛の歌をプロのバンドが演奏して歌うというサービスを行った結婚式場があったそうだが、間違いなく後年それは夫婦にとって黒歴史になると思うのだが、如何。

 

「例えばよ……んー、コーラサワーは凄い♪ コーラサワーはスペシャル♪」
「何だあそりゃあ」
「コーラサワーは天才♪ コーラサワーは不死身♪」
「これはひどい、と言わざるを得んな」
「コーラサワーは奇跡♪ さあ皆でパトリック・コーラサワーを讃えよう♪」

 

 何だか下手な洋画の字幕みたいである。
 だが、歌っている本人は至って真剣、と言うか、その歌に何ら疑問の欠片すら抱いていない。

 

「模擬戦二千回不敗♪ スペシャルエース♪ 生ける伝説コーラサワー♪」
「もうやめろよ、おい」
「ふむ、音程が少し狂っているようだな」
「隊長、問題はそこじゃないから」

 

 以前、入院時にダウナー状態になった際にも歌っていたが、コーラサワー、基本的に音楽の素養ナシ。
 いや、仮に才能が眠っていたとしても、それを生かす術がナシ。

 

「おー♪ パトリック・コーラサワー♪ 世界のエース♪」
「作曲も作詞もてんでダメだな、コイツ……」
「うむ。ある意味己に素直すぎて、飾りが出来ないのであろう」
「ああ隊長、アンタと同じですね」
「おー♪ パトリック・コーラサワー♪ スペシャルエース♪」

 

 コーラサワーのテーマ曲、それは、彼が作った、彼だけしか理解し得ない曲。
 そして、彼の脳内で流れている限り、それはいかなる名曲をも凌駕する名曲なのだ。
 周りに流れれば迷曲であるとしても。

 
 

 プリベンターとパトリック・コーラサワーの心の旅は続く―――

 

 

【あとがき】
 コンバンハ。
 規制情報には解除されたって書いてあるんですが、書き込もうとすると何だかまだ「お前規制中じゃゴルァ」って怒られますサヨウナラ。

 
 

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