「お前ら、【三国志】って知ってるか?」
「何を藪から棒に突然」
モラリアの一件が片付いた後、プリベンターは休息の時に入っていた。
まあ、休息と言っても実情は本部で待機なわけだが。
なんせ隠密同心ドサ回り、いつ何どき出動がかかるかわからないのだ。
「中国後漢末期の歴史書で、魏・呉・蜀の三国の興亡を記したものでしょう。著者は陳寿」
コーラサワーの問いに、博識なカトルが答える。
もっとも、この程度は常識の範疇内ではある。
「それの主人公は誰だ」
「は? 主人公?」
「前半は劉備、後半は孔明だよな」
「歴史書に主人公なんかいねーよ」
「三国志演義と勘違いしてるな、コイツ」
「いるんですよね、時々こういう人」
ツッコミまくるガンダムパイロットたちだが、これはいささか厳しすぎるかもしれない。
確かに歴史書と物語で混同があるとはいえ、“三国志”でも十分物語の方で通じるからだ。
「……まあ、とにかく主人公の話だ」
「それがどーしたってんだよ」
「後半目立ちまくる諸葛孔明は、前半じゃほとんど出てこないだろ?」
「まあな」
「つまりだ、俺が言いたいのはだな、俺も諸葛孔明だってことだよ」
「何言ってるんだこのアホは」
「アホ言うな! 俺は真面目だ!」
「真面目な人間が諸葛孔明と自分自身を重ねるかよ! 小学生かお前は!」
吠えるコーラサワーだが、彼の主張は次のようなものである。
諸葛孔明は前半ではまったく出番がないが、それは今の自分とまったく同じ状況。
後半諸葛孔明がガンガン活躍するが、自分もダブルオー後半で乙女座や傷顔親父を押しのけてバリバリ画面に出まくるはずだ、という……
「今は嵐の前の静けさなんだよ! これからスペシャルな俺の時代がやってくるってことだ!」
「……よくもまあ、大言壮語を」
「と言うか、前半で諸葛孔明が出てこなかったのは単純に年齢と場所の問題のせいですよね」
「七、八十年くらい経過するもんな、作中では。舞台も中国だから広いし」
「ああ、ではこういうことか。コーラサワーが表舞台に出るには物語内時間であと何十年もかかる、と」
「終わってますね、物語」
「バカだ、完全なるバカだ」
「今の時点で文字通りコーラの泡みたいな出番しかないくせに、よく言ったものだぜ」
「今からコードネーム変更だな。《プリベンター・バブル》だ」
ガンダムパイロット、皆一様に憐れむような瞳に。
ただし同情ではない、諦観の憐れみだ。
「おおおおお、お前らああああああ」
「つーかよ、今からそういうこと考えてる時点でお前は負け組なんだよ!」
「お前に用意された結末は二つだけだ、あっさり中盤で真っ二つにされるか、それとも終盤手前で台詞もなく絶望ビームに消されるか」
「台詞もなく、って逆襲の○ャアのギュネイか?」
「いや、キングゲ○ナーのザッキ・ブロンコみたいな展開も考えられますよ」
「ヘタレて退場、生死不明、最終回でチラッと登場というアレか」
「ふん、お似合いだな“コーラの泡”には」
「待て、炭酸は時間とともに抜ける。最後の方はただの黒い砂糖水だ」
「じゃあこのままどんどん出番はしりすぼみに?」
「お前らあああ! 勝手なことぬかしてんじゃねーっ!」
三国志とか諸葛孔明とか、自分の方が余程勝手なことぬかしているわけだが、
その点はまったく認知の外のコーラサワーさん28歳独身。
何度も言うようだが、彼は理解出来ていないのではない。
『わからないの』ではなく、『知らない』のだ。
「吠えるなよ、バブルス君」
「俺はマ○ケル・ジャ○ソンの飼ってたサルか!」
「黙れ、バブルボブル」
「誰がタ○トーのアクションゲームだ!」
「うるさいぞ、田○水泡」
「のらくろの作者だそれは!」
「騒ぐな、ペプシマン」
「シュワーッ、ってやらせんじゃねーっ!」
「何でこの人、全部知ってんですか?」
プリベンターとパトリック・コーラサワーの心の旅は続く――
【あとがき】
今出ないのは後でまとめて出るために違いないですよねコンバンワ。
そうなると出る度に何時あぼん退場するかドキドキなわけですがサヨウナラ。