「しっかしムカつくぜ、マジでよお!」
パトリック・コーラサワーは怒っていた。
もちろん、それには理由がある。
「迂闊に表を出歩けねーじゃねーかクソったれが、全部あのガキどものせいだ!」
先日、モラリアにあるOZの軍事施設を解体した帰りのこと。
道中で事故にあった幼稚園バスを発見したプリベンターは、これを救助した。
その際、ガンダムパイロットばかりに懐く幼稚園児たちに、「スペシャルな俺もじっくり拝め」とコーラサワー君は果敢にアタック。
ところがどっこい子供はそんなに甘くない、コーラサワーをアヤしい大人と認識した幼児たちは、揃ってブーイングを浴びせまくった。
で、キレたコーラサワーが上半身裸になって幼児たちを追いかけまわしたわけだが、何とその顛末が幼稚園の先生や幼稚園児を通じて世間に漏れ、本部に帰るや否や「子供をイジめた変態」として物凄い苦情の電話・メールを喰らってしまう事態に発展。
それ以来、街を歩けば小さい子供が寄ってきて「やーい変態変態」とはやし立てるようになってしまったのだ。
「さっきなんぞ、腐った生卵をぶつけられそうになったぞ」
「そりゃ災難だな」
一応慰めの言葉を返すデュオだったが、当然本心ではそんなこと思っていない。
本人はまったく気づいていないが、なんせコーラサワー君、プリベンターの看板に泥を塗ったのだから。
「この前は豚の骨を投げつけられたしよ」
「そりゃ痛かったろうな」
「で、さらにその前はペットボトルの水をかけられた」
「……お前、点が取れなくて国中を失望させたサッカー選手か?」
「何しろ急に飛んでくるから避けられん」
「QBKかよ!」
レディ・アンとサリィ・ポォが政府のお偉いさんやら幼児の家族やらに頭を下げて、取りあえずプリベンターへの攻撃はある程度収まった。
だが、コーラサワー個人に対する当たりの強さはまだまだ波が退きそうにない。
「最近のガキはとにかく性格が悪すぎだ。親のシツケがなってねー証拠だぜ」
「お前が言えたことか」
「何言ってやがる、俺は小さい頃はよく人の話を聞くいい子で学校の成績も良くて、神童と呼ばれてたんだぞ」
「あれか、十で神童十五で才子、二十歳過ぎればただの人ってやつか」
「ただの人でもないような気もしますけどね」
デュオに続いてカトルも毒を吐く。
普段は温厚な彼だが、結構言う時は言う人間である。
「婆ちゃんが厳しい人でよ、バリバリのスパルタだったんだよ。亡くなってかれこれ二十年経つが今でも夢に見る」
「草場の陰で泣いてるぞ、その婆ちゃんは」
「しかし、お前に祖母がいたとはな」
「ああん? そりゃいるに決まってるだろうが」
トロワのツッコミを喰って返すコーラサワー。
確かに、木の股から生まれたのでない限り、誰にだって祖母という存在はある。
「だけど俺とは血が繋がってないんだがな」
「ほう? 祖父の後妻か何かか?」
「あー、俺のお袋の母の父方の従兄の遠縁の親戚の叔母の友人だ」
「赤の他人じゃねーか!」
「で、お袋が死んだ後の俺の親父の後妻でもある。一年で離婚したがな」
「どんな関係だよ!」
「お前、あっちで全然個人設定が語られてないからって、適当なこと言うんもんじゃないぞ」
いやしかし、本当に彼の詳細な設定が明らかになる日が来るのか実際のところかなり心配である。
いっさい触れられずにダブルオーが完結する可能性のほうがはるかに高いわけだが、さて。
「とにかく、俺にとっては婆ちゃんなんだよ」
「もうアホらしくて本気でつ突っ込む気もおきんわ」
「滅茶苦茶厳しくてよお、寝相直すためにベッドの左右に刀を立てられるわ……」
「徳○慶喜かよ」
「高い崖から突き落とされるわ」
「ライオンですか?」
「ちょっとでも反抗しようもんなら、容赦なく修正の鉄拳を喰らったもんだ」
「ブライト・ノアか」
「まぁ、そんなスペシャルな人だったわけだ」
「……コイツの人格が歪んだ理由の一端がわかったな」
生い立ちの不幸という点ではガンダムパイロットもかなりのものがあるが、コーラサワーのそれはかなり特殊と言えた。
その祖母のぶっ飛びぶりに、しばしガンダムパイロットたち唖然呆然とするしかない。
「でも鞭だけじゃなく飴もくれたぜ」
「厳しいだけじゃなく優しいところもあった、と言いたいんだろうが今使った表現は基本的に間違ってるな」
「よく子守歌を聞かせてくれたもんだ」
コーラサワーは立ち上がると、テーブルの上にあったコカコーラの缶をマイクに見立てて歌いだした。
「漕げ漕げ漕げよ~♪ ボートを漕げよ~♪ ランランラララン川下り~♪」
「ちょっと待てお前、その歌は」
「さぁ眠れ♪ さっさと眠らないとお前の父ちゃん母ちゃんを殺しちまうぞ♪」
「それ子守歌じゃねーよ!」
「……連続殺人犯じゃないのか、お前の祖母は」
「ダーティ○リーの“さそり”ですね……」
「な? いい婆ちゃんだろ?」
「どこが!」
プリベンターとパトリック・コーラサワーの心の旅は続く――
【あとがき】
このままだと五話おきにくらいしか登場しそうになくて怖いですコンバンワ。
とにかく一日も早くスポットライトを浴びるのを心待ちにしていますサヨウナラ。