「ふいいいい……ヒック。おいオヤジ、熱燗もういっちょ!」
「店主、私もサケーを貰おう。冷でな」
「フッ、俺はドンペはぐぶろ」
「バカスカ野、この店にそんなカッコつけたもんねぇよ」
世界の平和を陰から守る隠密組織プリベンターの一員、パトリック=コーラサワーは飲みに来ていた。
提灯と暖簾、軋む出入り戸が何とも言えない風情を醸し出しているヤキトリ屋に。
彼一人ではない、同僚のグラハム=エーカーとアラスカ野ことジョシュアも一緒だ。
「皮をタレで三本、レバーを塩で三本、そしてスナギモも頼むわ」
「では私は一端口休めということで大根サラダを希望する。ドレッシングは梅紫蘇で」
「じゃ、じゃあ俺はソーセージとスモークタへぎばろ」
「お前絶対ワザとやってるだろ、コラ」
三人連れ立ってこの店に来たのは、別に仲が良いからではない。
昼間たまたまデュオが読んでいたタウン情報誌に、『最近評判の店情報コーナー』というものがあって、
そこにこの店のことが載っていたのだ。
となれば、何事にも首を突っ込みたがるのがコーラさん。
定時に仕事をあがると(と言っても一応『待機』なのだが)、デュオと掛け合い漫才もせずにてくてくとやってきた、というわけだ。
女の一人も連れていかなかったのは、さて、カティ=マネキンを想うがためであるかどうかはわからない。
まあ、給料日前なんで懐が寂しいのではないかと推測される。
女性におごらせる、なんてのはコーラサワー的にはちょっと『かっこ悪いこと』なのだろう。
それだけ見れば、まぁご立派な心がけではある。
で、グラハムとジョシュアである。
何のことはない、彼らもコーラサワーと同じ理由でこの店にやってきたのだ。
つまりはたまたまなのだが、ここに至ってじゃあ別々に来たんだから別々の席で、とはいかないのが社会のややこしいところ。
じゃあ哀惜、じゃないや合い席すっか、というのは、これは自然な流れである。
コーラサワーもグラハムもジョシュアも偏屈と言えば偏屈なので、そんな道理なんぞ路傍のペンペン草の如く無視してしまっても構わないのだが、高級料理店ならともかく、小さなヤキトリ屋でそれをやってしまっては、やはりちょっとガキっぽ過ぎるというところか。
あと、お店的にも「あ、お客さん同じ職場の方で? すいませんねぇ、この時間は混むもんで、出来ればテーブル固めて下さいな」となるわけで。
ま、そんな次第である。
* * *
「しかし、噂になるだけあって美味いな」
「うむ、今の私は確実に海原雄○を凌駕した存在だ」
「隊長、ぜんっぜん意味わかんないですが」
こういった店は肩肘張らずに楽しむものだ。
また、店主の人柄も良くて、店も適度に小さいサイズなのが空気を穏やかなものに染めている。
これで値段もそれなりで、味は良く、さらに酒(日本酒と焼酎)のチョイスもセンスが利いているとくれば、成る程、これで評判にならないわけがない。
「ふっふっふ、連中に声をかけないで良かったぜ。あんなガキどもにこの味はわかんねぇだろう」
コーラさん、御満悦の表情でレバーをパクり。
『連中』とは勿論ガンダムパイロットのことだが、ええと、味がわかんねぇもクソも彼らは一応未成年なわけで、この手の店に堂々と連れ立っていったらそっちの方がヤバかろう。
レディ・アンやサリィ=ポォは何かイメージが合わないし、また誘ってもコーラサワーとだけは絶対に行くまい。
「オヤジ! 熱燗さらに追加!」
「私も頼む、ここのサケーは実に口当たりが良い」
「あー、俺はビールで」
コーラサワーはAEUの、ジョシュアはユニオン時代の軍服をそのまま身に付けている。
プリベンターに制服というものがなく、ガンダムパイロットはともかくいい歳こいた大人が私服というのも何なので、一応彼らは出勤時は軍服を着用している(コーラサワーは時々パイスーだが)。
しかし、このヤキトリ屋の雰囲気に妙に軍服がマッチしているのは何ともおかしいと言うか、のほほんとしたところである。
スーツ姿のグラハムが逆に浮いているように思えるくらいで、そういった意味では、この手のお店は日常からちょっと離れた異空間と言えるかもしれなかった。
「ネギマ!」
「ポンジリ!」
「つくねわさび!」
それにしても、高校生並に健啖な三人なのだった―――
プリベンターとパトリック=コーラサワーの旅路は一端お休み。
次回、ヤキトリ屋でコーラサワーの天敵がバトルを繰り広げバケラッタ。