00-W_土曜日氏_49

Last-modified: 2008-12-11 (木) 22:00:30
 

~前回のあらすじ~
 パトリック=コーラサワーは近頃タウン情報誌で話題になっているヤキトリ屋に来ていた。
 何の因果かグラハム=エーカーとアラスカ野ことジョシュアもたまたま居合わせており、三人で卓を囲んで(これは彼らではなく店側主導)ヤキトリと酒に舌鼓をうつことになったわけだが、さて。

 

 

「うーい、このハツは絶品だな」
「すまんが店主、もう一本アツカンでサキーを頼む」
「あ、ビール追加ビール追加」

 

 何だこののんべオヤジどもは。
 食っちゃ呑み食っちゃ呑み、まんま仕事帰りのサラリーマンといった感じである。
 普通の会社に勤める者ならともかく、世界の平和を陰から守る隠密同心がこんな感じでいいのやら。

 

「しかしナルハム野郎……お前、なかなか酒がイケる口だな」
「フッ、このグラハム=エーカーを馬鹿にしないでもらいたいものだな」
「隊長、強がってますけど後で下戸の設定とか出てきたらどうすんです」
「敢えて言おう!その時はその時であると!」
「ごもっともで」

 

 アルコールの威力とは恐ろしいもので、普段いがみあっている彼らの間に奇妙な紐帯が生まれつつあった。
 いや本当に酒は怖い。
 今回の人生の教訓その一、酒飲んでる時は軽々しく約束をするな、後で絶対悔やむから。

 
 

「おやじ……席は空いているかね?」

 

 コーラサワーたちのテーブルの串入れがパンパンになる頃、店に新たな来客が参上してきた。
 スカーフェイス、腹の底から響くような渋い声の男性と、そして。

 

「げ、銀髪娘!」
「む、何だお前、何でここにいる」

 

 バケラッタ秘書のソーマ・ピーリスなのだった。

 

          *          *          *

 

 スカーフェイスの男性、それは最近ギョーカイで伸してきている人類革新重工の商品開発部部長のセルゲイ・スミルノフ。
 彼の背後にぴったり付き添っているのは、彼の秘書で銀髪がやけに眩しいソーマ・ピーリス。
 あ、あとさらにその背後に『肩越しに秋風が見える男』ミン係長もオマケ的にいる。
 この三人、特にソーマとコーラサワーは、世紀の天才(嘘じゃないよ本当だよ)ビリー=カタギリの発明したミカンエンジン搭載MS(しつこいようだけどミカンスーツ)の試験披露の折りに、いったいどこの神様がイタズラ心を起こしたものやら、模擬戦を軸にヘンテコな因縁が出来た仲である。
 そもそもコーラサワーがセルゲイに失礼な態度を取ったのが悪いのだが、それに過剰反応して突っかかっていったソーマも問題はあるっちゃあるわけで。
 ま、互いに常人とは外れた感性の持ち主ゆえ、なんぞ磁石の同極のように反発しあっちゃう二人なのだった。

 

「おおこれは、プリベンターの……いや、先日は失礼した」

 

 早くも帯電した視線をぶつけ合うコーラとソーマに比べ、実にセルゲイは大人な態度。
 まぁこうでなけりゃ企業の部長はやっていけないのだろうが。
 ちょっと鷹揚過ぎる点はあるが、取りあえずは人格者と言っていいかもしれない。

 

「まさかおっさんもヤキトリを食いに?」
「うむ、実はこの店は、有名になる前から私の行きつけでな」

 

 オッサンという単語にビビビッと反応して目を吊り上げるソーマさん。
 そいでその横でペコペコ頭を下げながらグラハムと名刺を交換するミン係長。
 これはグラハムとジョシュアとは面識がないからで、先日のミカンエンジン性能披露の時、サリィとコーラサワー以外は出払っており、これが初体面になるのだ。
 自分のだけでなくセルゲイとソーマの分の名刺も差し出している辺り、彼の生真面目な性格と置かれた環境の複雑さを伺い知ることが出来ると言える。

 

「こちらはグラハム=エーカー氏とジョシュア氏かな?」
「何だ、知ってるのか洗い熊のおっさん」
「いや、初めてお目にかかるが、生き馬の目を抜くこの業界では、情報を制する者が勝者となるものだ」
「ふーん、つまり勝手に調べたってことか」

 

 礼儀がちっと欠けているコーラさんと、それを非とも思わず対応するセルゲイ。
 もしかしたらこの二人、案外タイプ的にあってる可能性がある。
 セルゲイがややフランクな口調なのも、プリベンターの現場責任者であるサリィ=ポォが一見してこの場にいないということもあるが、コーラサワーにどこか親しみを覚えているというのもあるかもしれない。

 

「待て、お前」
「な、何だよ」

 

 だが、セルゲイの秘書たるソーマは違う。
 セルゲイを上司として尊敬し、また実の父のように慕う彼女からすれば、コーラサワーの態度は簡単に許せるものではない。

 

「ちゅう……ゴホン、部長にこれ以上失礼な口のきき方をするな」
「へ?」
「その態度を続けるというのなら、私がその身に非礼の報いをくれてやる」
「はぁ?」

 

 やや気圧された感じのコーラサワー。
 傍若無人な彼にしては珍しいが、やはり天敵というか苦手なモノはあるということである。
 身内では五飛、プリベンターの外ではソーマがそれに当たると言えようか。

 

「わかったかバケラッタ」
「報いって何だよ、先日の続きならいつでも受けてやんぜ」

 

 とはいえ、コーラサワーも十も年下の娘に引いてばかりはいられない。
 ミカンエンジン性能披露の時、実に三時間も決着つかず模擬戦を続けたということもあり、いずれギャフンと言わせてやろうと思っているのもある。

 

「やめないかピーリスしょう……ゲフン、ピーリス君」
「はっ、しかし」
「ここは食べ、そして呑むところだ。無粋な真似をしてはいかん」

 

 どこまでもオトナなセルゲイさん。
 いや空気が読めてないだけなんじゃという意見は流しておくのであしからず。
 よくよく考えりゃ、ソーマは未成年なのだからここに連れて来ちゃダメなんでは。

 

「せっかくだ、同席して日頃のプリベンターについてお話を聞きたいのだが、どうかね?」
「……銀髪娘が噛みついてこなけりゃ、別に構わないけどな」

 

 嗚呼、サリィがこの場に入れ歯、じゃない居れば。
 このままではコーラさん、自慢話にとどまらずプリベンターの内情までペラペラ喋ってしまいかねない。
 側にいるのがグラハムとジョシュアでは、ストッパーにもなりはしない。

 

「あ、代金は別々にしてくれよ」
「もちろんだ」

 

 かくして、プリベンターと人類革新重工の即席宴会スタート。
 さてさて、これからどうなるかは神のみぞ知るといったところか。
 そう、イジワルな神様のみが。

 
 

 プリベンターとコーラサワーと人類革新重工の心の飲み会は続く―――

 

 

【あとがき】
 コンバンハ。
 次回はコーラソーマ大爆発サヨウナラ。

 
 

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