00-W_土曜日氏_51

Last-modified: 2008-12-15 (月) 19:49:09
 

 プリベンター本部は平和だった。
 ここが平和ということは、すなわち世界が平和であることを意味する。
 騒動があれば即出動の隠密同心プリベンター、ここが暇であればある程世の中は無事平穏なのだ。
 いや、プリベンターが出張るから騒ぎが起こるんじゃないのかという指摘があるのは承知している。
 事件のあるところにコ○ン君ありじゃなくてコナ○君あるから事件が起こるという理屈だが、まぁそこはそれ。
 実際問題を起こすのはパトリック=コーラサワーくらいのもんであるからして。

 

『……現場の絹江=クロスロードです。私は今、使用済み切手数千万枚が放置されていたという竹藪に来ています』

 

 今日は朝から特に式典警護や残留武器廃棄の仕事もなく、
 プリベンターのメンバーは本部応接室でのんべんだらりと過ごしている。

 

『近くに住んでおられる第一発見者の方の話だと、昨日の夜に犬を散歩させに来た時はなかったということで……』

 

 テレビ(特注品。フライパンが百回飛んできて当たっても壊れない)の画面には、先日より続いている謎の連続不法投棄事件の追跡ニュースが映っている。
 この事件、使用済みの切手から封筒、チビたエンピツ、インクのなくなったボールペン、書き損じの領収書、千切れた延長コード、墨で塗りつぶされた住所録、エトセトラエトセトラ。
 こういった物が市内各所に千個単位でいつのまにか捨てられており、市民は恐怖に震えあがっているここ一週間なのである。
 やれ単なる愉快犯の仕業だの、倒産した大手企業の社長が残品処理に困ってやってるだのと噂が絶えないが、目撃を始めとした情報はほとんどなく、警察もただ事後対応に追われるのみで、解決の目算はまったくたっていないと言っていい状況だった。

 

「物騒だか何だかわからない事件だな」
「それにしてもかなりの量ですよ、一人で持ち運ぶのは困難なはずです」
「複数犯の可能性が高いか」

 

 ガンダムパイロットたちもこの事件に興味が無いわけではなかったが、だからと言って出動して警察の捜査に横槍入れるつもりは毛頭ない。
 てか、この手の犯罪にまで動いてたらそれこそいくら身体と時間があっても足りないであろう。
 いつぞやのデパート占拠事件のように、目の前で事件が起こったのならともかくとしても。

 

「しかしよ、こーゆーことする奴の常識を疑うよなあ」
「……」
「……」
「……」
「ん? 何だ? 皆して」

 

 ジョーシキをウタガう。
 この発言をコーラサワー以外の誰かがしたならば、「だよな」と普通に流されていたことであろう。
 しかし、これはれっきとしたコーラサワー本人の口から出た台詞。
 そりゃもう、ガンダムパイロットもサリィも思わずコーラサワーに視線を突きさすてなもんである。
 お前が言うか、と。
 あ、ちなみにグラハムとアラスカ野ことジョシュアは今日は非番で、ヒルデは日雑のお買い物で本部にいませんのでよろしく。

 

「非常識な奴にそんなこと言われちゃ犯人もおしまいだな」
「誰が非常識なんだよ、コラ」

 

 で、こういう時のツッコミ役はもちろんデュオ=マックスウェルが担当することになる。
 火中の栗を拾うのに似た行為だが、性格上及びキャラクターの立ち位置上、どうしてもつっこまなきゃならん彼である。

 

「俺の目の前でソファに寝転がりながら『ね○ねる○るね』を食ってる奴のことだよ」
「何ぃ、お前○るねるね○ねをバカにすんのか! これは業界に革命を起こした駄菓子なんだぞバーロー!」
「反応するところが違う時点でやっぱり非常識人間なんだよ!」

 

 これはどっからどう見てもデュオの方が理屈の骨格がしっかりしているのだが、そんなもんコーラサワーさんにとっては屁でもない。
 彼の感性には常に光子力バリヤーよりも固いガードがかかっている。

 

「だいたいパトリック=コーラサワーのどこが常識人なのか教えてくれよ、本人の口から」
「何だと? んなもん決まってるじゃねーか、俺は常識人だから常識人なんだよ」
トートロジーにもなってないぞ」
「俺が断言してんだ、これ以上の理由はいらん」

 

 滅茶苦茶である。
 であるが、強い。
 傲岸不遜傍若無人、されどその精神は堅牢なり。
 どこまでもポジティブに自分を賛美出来る人間は確かに鼻持ちならないが、他者と相対することによって自分を確立しなくて済むので、簡単に心を折ることがない。
 得てして歴史上の偉人というものは、この類の人物がけっこういたりする。
 ま、コーラサワーがそうだとはとても言えないが。

 

「ほうほう、ならば今から常識度チェックをしてやろうか」
「? 何だかよくわからんがかかってこい、模擬戦二千回不敗のこのスペシャル様、受けてたってやらあ」
「よし」

 

 デュオはササッと五飛、ヒイロ、カトル、トロワに目くばせをした。
 多人数で矢継ぎ早に質問して赤っ恥をかかせてやろうというその意図を、瞬時に理解するガンダムパイロットたち。
 デュオたちもある意味非常識な存在ではあるのだが(十代半ばで元テロリスト紛い、今は世界政府の要職だし)、
 それでもコーラサワーに比べれば知識も感覚もよっぽど社会的である。

 
 

「フェルマーの定理とはどういうものか言ってみろ」
「俺が子供のころ近くに住んでいたパン屋のフェルマーさんが編み出した一日のコッペパンの販売数を図る定理」

 

「メンデルの法則は優性の法則、分離の法則とあと一つ何の法則から成り立っているか」
「ラーメンデルの法則」(正解:独立の法則)

 

「第59代横綱で千代○富士の天敵と言えば誰か」
「隆○里」

 

「『新大陸』の発見者は?」
「シンタ=イリク」(正解:クリストファー=コロンブス)

 

「西暦2008年7月号を持って紙媒体としての27年の歴史を終えた一風変わったPCゲーム誌とは」
「LO○iN」

 

「西暦1805年トラファルガー岬沖の海戦で仏西連合海軍を破ったイギリスの提督とは誰か」
「楽天野村」(正解:ホレーショ=ネルソン)

 

「蕎麦粉100%で作る蕎麦を何と言うか」
「100%蕎麦」(正解:十割蕎麦)

 

「映画『ジョーズ』に出てくるサメは何ザメ?」
「コバンザメ」(正解:ホオジロザメ)

 

「麻雀において、符と翻数ではなく各役ごとの点数を合計する特殊な計算法を何というか」
「東天紅」

 

「世界最大のカブトムシは?」
「セカイイチカブトムシ」(正解:ヘラクレスオオカブトムシ)

 

「硬水と軟水の違いを述べよ」
「硬い水と柔らかい水」(正解:硬度(水に含まれるミネラル量)が高いのが硬水で、低いのが軟水)

 

「初代ガンダムの型式番号は」
「07211919」(正解:RX-78)

 

「シャネルのイメージモデルを通称何という?」
「ミューズ」

 

「ワインを三種類に分けると、白ワイン、赤ワイン、そして何ワイン?」
「ロゼワイン」

 

「世界一流域面積が広い川はアマゾン川、世界一長い川はナイル川、では世界一幅が広い川は?」
「利根川」(正解:ラプラタ川)

 

「じゃあ次……」

 
 

 このヘキ○ゴンも真っ青な常識チェック、というクイズはこの後延々二時間超も続けれた。
 これをファッション雑誌を読みつつ横目で見ていたサリィは、後日ヒルデにこう語った。
 意外なことにコーラサワーの正答率は五割はいっていた、しかし内容に偏りが多かった、と。
 そしてさらに続けた。
 ガンダムパイロットたちが出した問題の答えが全てわかった自分をちょっとだけ嫌になった、と―――

 
 

 プリベンターとパトリック=コーラサワーの心の旅は続く。

 
 

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