00-W_土曜日氏_59

Last-modified: 2009-01-20 (火) 23:00:52
 

「さあて、それじゃとっととそのカツオノエボダイとかを倒して帰るとすっか」
「カツオノエボシだっつーの」
「何でもいいだろ」
「いい加減な奴だな」

 

 プリベンターは極東の某島国の某海岸にいた。
 どうしてなのかその理由については、まぁ遡って読み返していただくとして、問題はこの海岸に現れて夜な夜な風呂場の垢を舐める、じゃない、便所から手を伸ばして尻を触る、でもない、不意に現れては海水浴客を驚かせまくった憎っくき巨大カツオノエボシをどう撃退するかにある。

 

「でもよ、巨大っつーことはそれだけ目立つってことだろ」
「目撃者が多いということは、そういうことだな」
「ならば簡単じゃねーか。海岸で張って待つ。で、現れたところをバズーカでもミサイルでも何でもいいからズドン」
「野蛮極まりないな、おい」

 

 コーラサワーの能天気な作戦にツッコミを入れるデュオだが、正味の話それが一番手っ取り早いやり方である、というのも理解はしている。
 潜水艦を出してエンヤコラと海の中を探って、果たしてどれくらいの確率で遭遇出来るものか。
 いかに相手が巨大クラゲと言っても、海はその何倍も、いや何十倍何百倍何千倍以下略で大きいのだ。
 今の所この海岸以外で巨大カツオノエボシの被害が出ていない以上、ここでピタッと張り付いて次の出現を待つのが、結局のところ最も効率がいいのである。

 

「誘き寄せられたらいいんだがな」
「好物のエサとか好物の超音波とか好物の電磁波とか好物の放射能とか、定番ですね」

 

 もちろんカトルは冗談で言っているのであしからず。
 プリベンターの立場として、大掛かりな仕掛けが必要な作戦はそうそう打てない。
 相手が世界的なテロリストならともかく、所詮は大きくてもクラゲなのだから。

 

「バカヤロ、もうひとつ抜けてるだろ」
「え?」
「好物の美女! キン○コン○の昔から異形の怪物は美女が好きって相場が決まってんだよ」
「群体生物のカツオノエボシに人間の女性の美醜を判断出来るのか?」
「宇宙からやってきた不定形生物だって選り好んで金髪美女を襲ってたぞ」
「いったいいつの時代の恐怖映画の話してんだ!」
「ドラキュラやオオカミ男や、果てはゾンビだって金髪色白むっちんぷりーんな姉ちゃんをだな」
「カツオノエボシはそいつらと同列なのか、お前の頭の中では」
「怪物って点では同じだろーが」
「大雑把過ぎるんだよ!」

 

 とことん軸がぶれた会話のコーラサワーとデュオだが、これでも結構噛みあっている方だから恐ろしい。
 巨大カツオノエボシを退治して海辺に平和を取り戻す、それでいいはずだが、どうして美女が云々という方向に転がっていくのか。
 さすがはコーラサワー、と言っていいやら悪いやら。

 

「美女……」
「美女、ね」

 

 なお、コーラサワー発言に微妙にピクリと眉を揺らしたサリィとヒルデだったが、男性陣はまったく気付かなかった。
 これは男性陣が鈍感だったから……ではない、あまりに小さい声に小さい動作だったから。
 まあね、サリィとヒルデも女性だからね。
 サリィは二十代半ばでヒルデは十代半ばだけど、“美女”という単語には一応反応しとかないと、女として。

 

「……ふぅ。ともかく、ここは少々時間をかけることを覚悟しておいた方がいいわね」

 

 現場の指揮官として、改めておおまかながら方針を皆に言い渡すサリィ。
 最初の溜め息ははてさて、どういう感情の発露なのやら。
 ま、あと数年で三十路に手が届く彼女としては、いろいろと思うところがあるのでしょうな、ふんがくっく。

 

「だけどいいんですか? あまり長期に渡ってプリベンター本部を留守にすることは拙いんじゃ……」
「その辺りはレディ・アンの判断次第ね」
「要するに、結局はタイムリミットがあるってことだな」

 

 デュオは前髪をかきあげつつ呟いた。
 つまりは短期決戦が望ましい、ということなのだ。
 簡単に解決しない、時間がかかる、それは覚悟の上だがやはり速やかに終わらせた方が都合がいい。
 まったく、どんな仕事でも何でも難しいものである。
 合わないギヤを無理矢理はめて回さにゃならんのだ、この世で食っていくためには。

 

「とにかく、巨大クラゲはこの海辺にしか姿を今のとこ現していないのは事実だわ」
「何が理由なんだかねぇ、首輪で繋がれてるわけでもないだろうしさ」
「わかった、アレだな」
「もういいってば、コーラサワー流の解釈は」
「この海岸にはどこかに宝が隠されていてだな、それを守ってるに違いない」
「何が違いない、だ」
「悪い魔法使いに呪いをかけれられてそうなってるんだ。そして呪いが解けたら元の姿に、金髪美女に戻るんだぜ」
「ああそうかい、なら巨大カツオノエボシが出たらお前に任せるよ。熱いキッスでもかまして鈍いを解いてやるんだな!」

 

 真夏の太陽、静かに打ち寄せる波、白い砂浜。
 巨大カツオノエボシは未だプリベンターの前に姿を現さず。
 進展するのはデュオとコーラサワーのアホ漫才のみ。
 ただただ時は過ぎていく。
 じわじわ、じわじわと蝉の鳴き声の如くに。

 

          *          *          *

 

 で、その頃。
 海に突撃していった特別隊(正式な作戦上での分隊ではないのは言うまでもない)はどうなってたかと言うと。

 

「このグラハム=エーカー、礼を言う! 貴方達が近くを通りかかってくれなければ、ジョシュアは溺れていただろう」
「うううううう、ううううううううたたたたいちょちょう、く、く、唇や舌までけけけけいれんれんれんんしていして」
「疲労が全身に及んでいるからそうなる。とりあえずおとなしくしていろ」
「ううううううう」

 

 漁船に拾われていた。
 グラハムはピンピン、ジョシュアはヘロヘロの状態で。

 

「さて、時に船長。この船はもしかして港へ戻るのだろうか?」
「ううう、うううう」
「ぬう、ジョシュアがこの有様では捜索を続けることは出来ないか……仕方ない。すまないが船長、このまま港まで同船させてもらいたい」

 

 後に、この漁船“第二白基地丸”の船長はこう語った。
 まさか陸から数十㎞離れた海のど真ん中で人間を拾うと思わなかった、最初は舟幽霊かそれとも半漁人かと疑った、と。

 
 

 プリベンターとパトリック=コーラサワーの海物語確率変動は続く―――

 

 

【あとがき】
 コンバンハ。
 勢いだけでスタートして勢いだけで続けてきましたが、ただただ運が良かったと思いますサヨウナラ。

 
 

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