00-W_土曜日氏_65

Last-modified: 2009-01-30 (金) 20:07:20
 

「おほ、来たぁあぁああぁ!」

 
 

 アラームが鳴り響くコクピットにて、コーラサワーは喜色満面で吠えた。
 今、彼の真正面のモニターには映っている。
 海面より飛び出した、巨大カツオノエボシが―――

 

          *          *          *

 

 極東某国の某海辺を騒がせた巨大クラゲ出現事件はついに佳境を迎えていた。
 事の経緯は省略させてもらうが(何か毎回これ言ってるな)、とにもかくにも最終局面に突入という次第である。

 

「来たか! 世間を騒がす極悪クラゲ! このグラハム・エーカーがっ!」

 

 ガション、とグラハムの乗るMS(ミカンスーツ)が半歩前に身を乗り出した。
 そして。

 

「そっ首討ち落としてくれよう! はあっ!」

 

 ガジャラゴン、という派手な音とともに、コーラサワーとグラハムのMS(ミカンスーツ)の目の前に青い海原と空が現れた。
 グラハムが気合い一閃、電磁警棒でハンガーのシャッターを×の字に斬り裂いたのだ。
 刃の無い電磁警棒でどうやってやったんだ、というツッコミはもうこの際まったくの無意味であろう。

 

 グラハム・エーカーに『常識』の二文字は通用しない。
 逆に『非常識』の三文字が大手を振って指先の毛細血管に至るまで流れている男である。

 

「今の私は一○禅師すら凌駕する存在だああっ!」

 

 それ何て吉四六さんですか隊長。
 新衛門さんも多分金閣寺の陰で泣いてますよ。

 

「あっ! 待てナルハム野郎! 一番槍は俺だぞこらあ!」

 

 カタパルト無しで空に舞い上がるMS(ミカンスーツだってヴぁ)・グラハム機。
 その勢いたるや火中に放り込まれた栗の如き爆ぜ具合である。
 さすがは世間の無理を己の道理で押し通すお方だこと。
 まさしく歩くゼノンのパラドックス
 しかし、一番槍という言葉を使う辺りなかなかコーラさんも古風なもんであるな。

 

「巨大バカクラゲを倒すのは俺だああああ!」

 

 グラハムに次いでコーラさんも自身のMS(ミカンスーツ)を大空に飛翔させる。
 グラハムの機体とほぼ同じくらいの勢いで、やはりバカ具合はいい感じにタメなんであろう。
 例えていうならマ○ドーナペ○のツートップ、もしくはシュー○ッハセ○のフロントロー、はたまたゴジラとキングコングの間に熱海城ってなもんかいや違うか。

 

          *          *          *

 

「はーっはっはっは! 簡単に捕まるアリー様じゃねえよ!」

 

 さて、肝心の巨大カツオノエボシである。
 『冬ドナ』の放送時間に間に合わなかった怒りにかられ、とうとうアリー・アル・サーシェスは禁断の赤ボタンを全国二千万人の女子高生にポチッとな。
 かくて偽装潜水艦カツオノエボシ一号は暗き海の底より緊急浮上、大きな水柱を立てて宙に跳び上がり、サリィ・ポォがこいた嘘がホントになってしまった。
 嘘をつく時は計画的にはいはいア○ムアコ○。

 

「オールチェック! とっととしろ!」
「か……各部、異常なし!」
「ほら見ろ、成せば成るだろーが! ナ○ルはアラブの大統領!」

 

 アリー古い。
 お前いくつだよまったく。

 

「偽装カバーのロック解除! ドーム部分解放! バルーンにエアー注入開始!」
「機関室! 三十秒で姿勢を整えろ! スクリュー及び後部コンテナ破棄! サブエンジン点火準備も急げや!」

 

 きびきびとした部下の報告、そしてアリーの指示。
 やはりこの辺りは追い詰められつつも、場慣れした者の強みであろうか。

 

「ボ、ボス!」
「何だ! 戦闘機かヘリでも来やがったか?」
「い……いいえ、こ、これはさっきのプリベンターの!?」
「何だとぅ!?」

 

 アリーは驚愕に瞳を開いて、モニターを見た。
 そこには、こちらに一直線に飛んでくる背中に鋼の翼を背負った二機のMS(ミカンスーツ)が映し出されている。

 

「ほうほほう、空に飛び出ることまで見越してやがったとは、やるじゃねーかあプリベンターよぉ!」

 

 アリー、完全なる誤解。
 サリィはそこまで孔明してません。

 

「イイィィィヤッホォォォォゥ! 来たぜ来たぜ、このスペシャル様の見せ場がよーぅ!」
「空を飛ぶクラゲとは実に奇怪だな! だがこのグラハム・エーカーは恐れはせん!」

 

 コーラさんとグラハム、無駄にアツい二人である。
 正確に言うとグラハムはアツっ苦しくてコーラさんはアツかましい。

 

「手加減なんかしてやらねえぜ、ギッタギッタンだこの野郎!」
「真正面! カラタケワリだ化け物クラゲ!」

 

 ここでカッコよく『UNION』辺りがバックに流れればなかなかにイカスのだろう。
 が、そんなご立派な曲なんざこの二人にはもったいない。
 円○志の夢想花でよかろうて、とんでとんでとんでとんでとんで。

 

「バァカが! まともにやりあうかってんだよぉ! 煙幕かませ!」

 

 そしてそんな二人に対して、アリーは徹底して逃走を選択。
 自分がこしらえただけに、この偽装潜水艦(もはや潜水艦ではなくなってるが)が戦闘用ではないのをよく知っている。
 戦う時はちゃんと戦う準備をしてからやる、そうでないときはプライドもクソも犬に喰わせて身の安全を図る。
 さすがはかつて一流の傭兵としてならしただけのことはある。
 痩せても枯れてもプロはプロ、というやつである。

 

「ぬっ、スモークか! 何と卑怯な!」
「逃げようったってそうはいくかよ、視界不良だろうが何だろうがちゃんと模擬戦で対処済みなんだよ!」

 

 で、元プロ軍人で現プロの平和維持活動従事者のこちら二人はとことんマイペース。
 まぁ無理に解釈すると自分に素直という点では確実にプロ級ではある。

 

「そう誤魔化せねえのも十分承知だ! エンジンに火が点いたら一気に突破するぞ! それまで高度維持しとけ!」
「神眼! 開眼! 一刀両断! 爆砕! 玉砕! 大喝采! グラハム・エーカー参るううぅぅぅうう!」
「スペシャルエースのこの俺から逃げようったってそうはイカねえスルメえアタリメえだバーロー!」

 

 パトリック・コーラサワー、グラハム・エーカー、アリー・アル・サーシェス。
 バカの極北、こちらの世界の全く褒められない“羞恥心”な三人の決着は……

 
 

「ところがぎっちょんなんだよぉおおお!」

 

「今の私は聖○太子すら凌駕する存在だああ!」

 

「イ―――ヤッホ―――――――――――――イ!」

 
 

 勝てば天国負ければ地獄!
 知力体力時の運!
 早く来い来い木曜、じゃない土曜日!
 史上最大アメリカ横断ウルトラクイ、じゃないまた来週のこの時間にお会いしましょう!

 
 

 プリベンターとパトリック・コーラサワーの羞恥心の旅は続く―――

 

 

【あとがき】
 コンバンハ。
 まだ終わら(れ)ないよサヨウナラ。

 
 

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