00-W_土曜日氏_64

Last-modified: 2009-01-30 (金) 19:10:52
 

「全く信じられないぜ、潜水艦が空を飛ぶなんてな」
               ―――海洋警備隊・巡視船『レッド・ズゴック』航海士A

 
 

「水しぶきの向こう側に太陽が見えた。一瞬美しいと思ってしまった自分が許せない」
               ―――海洋警備隊・巡視船『ざんじまる』航海士B

 
 

「ワオ! 気づいたら目の前から追っていた潜水艦が消えたんだ! 思わず叫んじまったぜ!」
               ―――海洋警備隊・潜水艦『G-3』船長C

 
 

「Nice Boat」
               ―――海洋警備隊・潜水艦『ファイアクラッカー』機関士D

 
 

「BoatじゃなくてSubmarineだろボケ」
               ―――海洋警備隊・潜水艦『ファイアクラッカー』機関士E

 
 

「ちょwwwww敵潜水艦テラチートwwwwwwwwアリエナスwwwwwww」
               ―――海洋警備隊・潜水艦『くくるすうどん』操舵士F

 
 

「うそ……だろ……?」
               ―――海洋警備隊・潜水艦『くくるすうどん』通信士G

 
 

「バカな、と思ったね。いや正確には……バカだな、だな」
               ―――プリベンター・某その1

 
 

「呆れて何を言えばいいのかわからないわ」
               ―――プリベンター・某その2

 
 

「イィィィィィィィィィィィヤッフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウ!」
               ―――プリベンター・某その3

 

 

 極東の某島国の某海辺で発生した巨大カツオノエボシ騒動。
 駆り出されたプリベンターも事件解決の糸口を見つけることが出来ず、捜査は難航するかに見えた。
 が、プリベンターの一員であるパトリック・コーラサワーの何気ない一言が事態を打開した。
 コーラサワー曰く、「巨大カツオノエボシを見た者はいても刺された者はいない」 と。
 盲点と言うにはあまりに当たり前過ぎるこの事実を前に、プリベンターの現場指揮官であるサリィ・ポォは決断した。
 海洋警備隊と共同で周辺海域を絨毯爆撃式に捜索、発見次第物量で追いこむやり方に打って出たのだ。
 所謂『ウルフ・バック(群狼戦術)』、それの孫の孫とでも言うべき作戦だが、彼女は正しく報われた。
 そう、僅か二日というスピードで見事『対象』を補足することに成功したのであった。
 べけべんべん。

 

          *          *          *

 

「ぬ、ああああぎっちょん! 冬ドナが始まっちまうううう!」

 

 偽装潜水艦『カツオノエボシ一号』(仮称)の中で、靴下オヤジことアリー・アル・サーシェスは自身のボサボサの頭を掻き毟っていた。
 冬ドナが何であるかは前回説明してしまったのでここで行数稼げない、じゃなくて説明したので今回は割愛する。
 まぁ手短に言うと現在世界中で奥様方の心を捕えている恋愛ドラマである。
 アリーは実はこのドラマの大ファンで、毎回欠かさずチェックしているというわけだ。
 ホントに悪人なのかね、この人。

 

「ボスゥゥ、し、進路が次々塞がれていきます!」
「ワイヤーネットなんぞ無理矢理突き破れ!」
「む、無理っす! 特殊鋼で編まれたネットですよ!? 全力で突っ込んだらタダじゃすみません!」
「バカタレェ! やれると思ったらやれる! 諦めたらそこで終了だろーが!

 

 どこのバスケットボール監督だ。
 ホントーに悪人なのか、コイツは。

 
 

 さて、そんなアリーとその愉快な部下たちを追いかけ回すのは我らがプリベンターである。
 現場リーダーのサリィと現在海中でカツオノエボシを小突きまわしている三人は、ほぼ勝利を確信していた。
 若干手間取っているとは言え、確実に標的を追い詰めていっている。
 MS(ミカンスーツね)による直接捕獲が出来なくとも、いずれ連携している海洋警備隊の巡視艇と潜水艦とで完全に袋小路(海の中で変な表現ではあるが)に追い込めるはずだった。

 

「五飛! どうだ!?」
「うむ、スクリューを狙おうと思ったが、角度が合わず上手くいかなかった」
「デュオ、五飛! 一度上がって来いとサリィさんから通信です」
「よっしゃ、結構イジメてやったからな、それなりにダメージを与えたはずだぜ」
「カトル、海洋警備隊の潜水艦はちゃんと先回りをしているか?」
「ええ、僕たちが時間稼ぎをしている間に」
「時間稼ぎやってるわけじゃないんだけどな。まぁ次で決着をつけてやるさ!」

 

 MS(ミカンスーツ。そろそろこのカッコ外したい)はリーオーのだいたい半分位の『強さ』である。
 パワーアやスピードの他、全てのアビリティがオール50となっている。
 開発者のビリー・カタギリ曰く、ミカンエンジンはまだまだ発展途上とのことなので、MS(ミカンスーツでーす)はいずれより強力なモノに生まれ変わるかもしれない。
 まぁプリベンターの立場もあるので、あんまり『破壊兵器的』な強さになってもマズイだろうが。

 

「こりゃあいつらの出番は無いかな?」
「今頃、コクピットの中で怒ってるかもしれませんね」
「ふん、それでいい。今回ばかりは『人間核弾頭』を使う場面もないだろうからな」

 

 巨大カツオノエボシ、結構ここまで健闘していた。
 アーム(魚や貝を取るための物)を振りまわしたりタコスミ弾(水中煙幕)をばらまいたりして抵抗してMS(ミカンスーツ)を振りはらい、ワイヤーネットも何とかくぐり抜けている。
 だが三人が乗っているのがもしそれぞれのガンダムであったなら、間違いなく今頃は海のモズク、じゃねえや藻屑になっていたであろう。

 
 

「ぬおおおお、また取り逃がしたのか? 何やってんだあの三人はよお!」

 
 

 で、カトルに指摘された通り、パトリック・コーラサワーはMS(ミカンスーツ)のコクピット内でぎゃあぎゃあ吠えていた。
 モニターを通じて外の状況が彼の目と耳に入ってくるのだが、
 ジブンスキーなコーラさんにとってはそりゃもうストレスが溜まるわけで。

 

「俺ならシュパーッとズバーッとゲルググーッと崖の上のポニョーッと倒してるぜ!」

 

 ストレス溜まり過ぎてどうやら少し思考回路がおかしくなっている様子。
 なお、隣で控えているグラハムはさっきから完全沈黙中である。
 どうやら頭の中でイメージバトルしているようで、こちらはこちらで出撃機会があることを全く疑っていないらしい。

 

 バカってやっぱり素敵だね。

 
 

「もういい! 空中仕様でも関係ねえ! 今すぐ出る出る出てやる!」

 

 コーラサワーとグラハムが乗っているMS(ミカンスーツ)はデュオたちのとは違って羽つき、つまり空中仕様になっている。
 もし敵が海から飛び出したら貴方たちがトドメをさしてね、とサリィがそうしちゃったのだ。
 ぶっちゃけ大ウソ、二人に邪魔されたくないからそう言ったわけだが、
 何だか「宝くじの一等が当たったら結婚しようね!」みたいな無茶言い詐欺にもちょっと似ている。
 まぁ現場の指揮官としてはやむを得ない、つーか当然の判断ではあった。
 コーラサワーとグラハムを使って事件を解決出来ないこともないし、二人のバカ力(バカパワーと読む。腕力的な意味ではない)が希に有効なのも確かっちゃ確かではあるものの、二人を使うとたいてい碌でもないオマケがついてくるのだから。
 犯人より二人による被害額が大きいとか、プリベンターの評判を下げるとか。

 

「おいデコねーちゃん! 聞こえてるなら今すぐハッチを開け! 俺を出せー!」

 

 年下に向かってねーちゃん呼ばわりもないが、
 いい加減コーラさんにはそれぞれに名前を呼んでもらいたい。
 今のところ張五飛以外は彼が勝手につけたあだ名で呼んでるので。

 

「俺は! エースで! スペシャルで! 模擬戦で! 二千回なんだよぉぉー!」

 

 ああうるさい。
 スピーカーの壊れた選挙カーみたいにうるさい。
 無論、サリィはハナッからコーラサワーを出撃させるつもりはゼロシステム。
 幸いにもコーラサワーは腹がたったからと言って暴力を振るう人間ではないので、事件が解決したらデュオ辺りに愚痴の相手をさせときゃいいと彼女は思っている。

 

「聞こえてるか、デコねーちゃーん!」
「……聞こえてるわよ」

 

 コーラサワーからの音声は繋いであるが、サリィからコーラサワーへの音声はカットしてある。
 本当ならコーラサワーからの音声もカットしたいのだが、そうすると様子がわかりにくくなってしまうので仕方なしに繋いであるのだ。

 

「出せコラー! バーロー!」
「音量絞っておいて正解だったわね、ふぅ」

 

 コーラサワーの怒鳴り声を聞きつつ、サリィはデュオ、カトル、五飛の三人に指示を出した。
 簡易チェックがすんだらすぐに出撃するように、と。
 鬼ごっこは終幕手前、あと少しで巨大カツオノエボシを捕えて正体を暴くことが出来る。
 もう海の中に逃げ場はない、後は本当に空を飛ばない限り向こうに脱出の手立てはない。

 
 

 そう、空を飛ばなければ。

 

          *          *          *

 

「あ、あ、ああああああっ! ふ、冬ドナの放送時間が始まっちまったあああ!」

 

 巨大カツオノエボシ一号(仮称)の艦長卓に、アリー・アル・サーシェスは額をガンガンと打ちつけた。
 海洋警備隊の巡視艇と潜水艦、そしてプリベンターのMS(ミカンスーツ)から必死に逃げているうちに時が過ぎ、初回からナマで見続けてきた『冬のドナタ』、その放送にとうとう間に合わなかったのだ。

 

「ボ、ボス! も、もう無理です! 進路がありません!」
「……下は、海底方面はどうなんだ」
「ここいらの海底は地形がなだらかではないので、海底スレスレを全力潜航は出来ません!」
「……ならよ」
「え?」
「なら、上だ」
「ええ?」

 

 その場にいたアリーの部下は全員息を飲んだ。
 目が完全に据わっていたからだ。
 このような表情になる時はいったいどのような精神状態であるか、彼らはもちろん熟知していた。

 

「ボ、ボスが」
「キレた……!」

 

 そう、つまりはプッツン。

 

「上へ行け、浮上だ」
「そ、それはもしかして」
「やめて下さいボス! あれは不完全です、船が持ちません!」
「使ったが最後、バラバラになるかもしれないんですよ!」
「うるせえー!」

 

 部下たちの制止を怒声でふっ飛ばすと、アリーは艦長卓の隅にある一つのボタンへと手を伸ばした。
 プラスチック製の防護カバーがかけられているそのボタンは赤色で、
 見るからに「これ、触っちゃなんねえだ」といった雰囲気のものである。

 

「ぼ、ボスウゥゥゥウ!」
「やかましい! こうなったらせめて、放送時間中に突破してやるんだよぉお!」

 

 アリーは右の拳を握りしめた。
 そして、思いっきりそれをカバーの上から赤いボタンに叩きつけた―――

 

          *          *          *

 

「さぁ、行くわよみんな。これでケリをつけましょ」

 

 海の上、サリィは三人の少年に出撃を命じた。
 勝利の二文字はもう手の届くところにあった。
 包囲は万全、最早完全に巨大偽クラゲに逃げ道は無い。

 

「サリィさん!?」
「どうしたの、カトル!」
「探知反応に異常あり! 下からカツオノエボシが……何か、凄い勢いで浮上してきてますよ!」
「何ですって!?」

 

 敵の退路は絶った。
 絶ったはずだった。

 

「このままじゃ、海面を突っ切る!」

 

 嘘から出た真か、彼女は見ることになる。
 空を飛ぶ巨大カツオノエボシを。
 潜水艦を。

 
 

 プリベンターとパトリック・コーラサワーの心のエボシは続く―――

 

 

【あとがき】
 コンバンハ。
 終わらなかったまた次回サヨウナラ。

 
 

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