「と、言うわけでだ」
「おいカトル、おたま取ってくれよ」
「いいですよ、はい」
「無視かよ、おい」
プリベンターは今日も暇だった。
昨日も一昨日も暇だった。
一週間前も暇だった。
二週間前も暇だった。
三週間前も暇だった。
四週間前も暇だった。
なに、仕事がないのを嘆くことはない。
プリベンターの暇は世界の平和の証明だから。
アリーも出ちゃったし、ソーマは養子を承諾するし、沙慈は鬱るし、そして物語は続いてくし……。
ねえ、もうゴールしてもいいかな……?
つうかアリー、おいしいとこ取りじゃねーかーっ!
予告のラストのAEU軍服らしき手、そんな針見え見えの餌で釣られるかー!
スメラギさん回想の巻らしいからどうせそん時の映像だろっ!
信じねぇよ、顔見るまで信じないんだからねー!
イヤッホ―――ウ!
一月一日に生を受け
二千勝なら祝い事
もめ事 色事 勝負事
さらに加えてオバカ事
不意打ち喰らって落とされる
笑い果てたらおいでなせえ
出番と活躍の願掛けに
そーっと贈ってさしあげやしょう
◆ ◆ ◆
「しかし、寒くなってくるとやっぱり鍋だな」
「コタツでナベ……まさしく愛だ!」
「……そうか?」
プリベンターは何度も何度も何度も言うようだが暇だった。
いや、ちゃんと通常の業務はある。
政府関係のお仕事には警護係として付いていかねばならないし、前回のようにテスト関係のお仕事もある。
暇というのは、つまりは単純に派手な立ち回りがないというだけの意味なのだが、まぁあれだ、出動してない特車二課みたいなもんだと思ってもられえれば幸いである。
「炬燵に鍋と言っても、正直もう少し先が旬だと思うんだが」
「気にするなヒイロ、ネタの関係だ」
「五飛、ぶっちゃけ過ぎですね」
今日は珍しくプリベンターのメンバーが全員揃っている。
いや失礼、トップのレディ・アンだけが不在で、あとは皆、本部にいる。
あ、別にレディ・アンを直接出さないのは彼女が嫌いだからというわけではないのであしからず。
出ないことがネタになる、と言うか彼女を出すと彼女の鶴の一声で全部が決まっちゃうからです。
ヤ○トの波動砲みたいなもんです、ウ○トラマンのスペシウム光線みたいなもんです。
……ま、いずれ登場する機会もあるでしょう。
「おいみつあみおさげ、湯豆腐取ってくれよ」
「自分で取れよ」
「だって卓の一番向こうじゃねーか、遠いんだよ」
「面倒臭がるなよ」
「ちぇ、このケチめ。じゃあ前髪、お前に頼む」
「自分で取れ」
「ならちんちくりん、お前だ」
「いいが、死ぬ程痛いぞ」
「何でだよ!」
プリベンターの鍋パーティだが、鍋の種類はひとつだけではない。
ちゃんこ、ぼたん、鴨、チゲ、てっちり、もつ、湯豆腐、石狩、うどんすきと多様な鍋が卓の上で踊っている。
バイキングかよ、というツッコミはあるだろうが、何と恐ろしいことにあるんですね、鍋バイキングの料理屋ってのが普通に。
外食産業、何でもアリですわ。
「あ、ついでに七味も」
「何でもかんでも七味をかけるなよ」
「うるせーな、食い方なんぞ人それぞれだろうが」
いやまったく。
まぁご飯にたっぷりソースかけたりマヨネーズをかけたりするのは悪食の範疇内だろうが。
あー、個人的な話ですけどね、知人にタバスコをラーメンに入れて食べる奴がいまして、ハイ。
いやいいんですけどね、でもマイタバスコを持ち歩くのはやめてね、もう君と一緒にラーメン屋行きたくないから。
店主に睨まれるの嫌だから、こっちゃ普通に食べてるんだから。
閑話休題。
しかし、皆器用に箸を使って食べている。
世界に広がった箸文化、うーんグローバル(?)。
「この鴨肉は実に美味い! 美味いと言った!」
「大切なことだから二度言いました、ですか隊長殿」
「てっちり、おいしいですぅ!」
「ほらほら、あんまりがっつかないようにね?」
天井に向かって立ち上っていく湯気。
それぞれの鍋からこぼれる、実に食欲をそそる匂い。
おたま、そして箸と椀が触れる音。
他愛もないおしゃべり。
ああ、鍋って本当にいいもんですね。
「くはー、この湯豆腐うめーなあ」
「うむ、実に心温まる味だ」
湯豆腐はシンプルな鍋だが、それだけに奥が深い。
豆腐や昆布は言わずもがな、水にまでその品質を要求されるのだ。
ここでコーラさんやグラハムが食べているそれは、スーパーで売られている(水は水道水)もので特に高級というわけではないが。
「ちゃんこもイケるな、肉団子がホロホロと口の中で溶けて」
「うむ、これがスモーレスラーのパワーの源なのだな」
『ちゃんこ』は本来、相撲取りの食事の総称であり、鍋だけをさすものではない。
その語源にも諸説あり、また具材も色々だが、水炊きやすき焼きと並んで家庭でも普通に食べられる鍋の代表格と言えようか。
「石狩もいいな」
「うむ、これは隠し味にバターを使っているな?」
石狩鍋とは、って何で鍋の解説してるんでしょうね。
別に行数稼ぐつもりはないですよほんとですよ、この目を見て下さい嘘は言ってません。
ね?
◆ ◆ ◆
「しかし、何か足りねーと思ってるんだがよ」
「ほう?」
「あれだ、酒がねーんだ酒が!」
鍋イコール宴会イコール酒。
素晴らしく短絡的ですが、まぁそれだけに真理ではある。
わいわい寄って鍋をするなら、そこにアルコールは欠かせない。
「ダメよ、未成年者がいるんだから」
サリィ・ポォが常識人らしく待ったをかける。
だが残念、そんな常識を己の道理で押し倒すのがコーラサワーという人です。
「どん! ここは俺の秘蔵の銘酒を太っ腹に提供だあ!」
「何と! これは『大吟醸・風庵錬(ふあんねる)』! そしてこちらは『本格麦焼酎・鉄仮面』とは!」
「さらに……御約束の『米の炎・作』まで! これは背中から狙い撃てない!」
一気に盛り上がる三バカトリオ。
酒は心の友、心の友は酒、お前の酒は俺の酒、俺の酒は俺の酒。
ん、何か違うか。
「プリベンター・ウォーター」
「何よ、わざとらしくコードネームで呼ばないで、五飛」
「年齢的にはあちらに参加した方が良くないか」
「……殴るわよ、本気で」
何時の間にやらコーラさん、グラハム、アラスカ野の三人で別に炬燵を引っ張りだし、鍋をひとつかっさらってミニ飲み会モードに突入。
周囲に無理矢理酒を勧めずにおっさんだけで固まる辺り、妙に微笑ましいっちゃ微笑ましい。
ま、常識の軸がぶれている彼らのことである、未成年に飲ませないのではなく、どうせ自分たちだけで確保しておきたいのであろう。
「よし、では私もカタギリから貰ったミカン酒を! 興が乗ってきた! ワンマン鍋奉行!」
「じゃ、じゃあ俺もアラスカだけにグリーンアラスカを!」
ああ、酒と鍋はいいねえ。
人類の生み出した文化の極みだよ、アッー。
「ヒルデ、万が一のためにフライパン、用意しておいてくれる?」
「はい、もう用意してます」
「私も殴打用にライトノベルを二十冊程紐で纏めて振りまわせるようにしたもの、準備しましたですぅ!」
「おいおい、いいのかそれで」
「ならば俺も青龍刀を」
「五飛まで、そんな物騒な」
宴は続く。
下手すりゃ次回まで。
プリベンターとパトリック・コーラサワーの心の鍋はまさかだようぅ!
【あとがき】
コーラさん出ませんよ出てませんよコンバンハ。
次回の予告辺りでそろそろねぇなんとかねぇ、あとラノベ風味学園物はまたね、 興 が 乗 っ た 時 にでもサヨウナラ。