アザディスたん。
と、書けばなんぞ萌えキャラのような気も……せんか。
失礼、今回の話の舞台はアザディスタンである。
中東に位置するこの国は、現在「国家」ではなく「特殊自治区」になっている。
残った石油、そして希少金属を細々と商売道具にするしかないが、自治区代表であるマリナ・イスマイールの下、今では結構上手くやっていたりする。
元貧乏姫が意外に商才を持っていたからだが、あの天下のHO○DAだって一時は世界最高峰のフォーミュラレースで天下を取ったものの、看板にもなりゃあせんと撤退してしまったように(しかも撤退→参入→撤退だ、どこのコンビニ用空き店舗だ)、どこで転ぶのかわからんのがお金様でもある。
そりゃスーパー○グリも最初からコケる勝負だったんだな、なんて……ええと、何の話だったっけ。
ま、いいや、アザディスタンである、うん。
◆ ◆ ◆
「人類革新重工企画開発部、アンドレイ・スミルノフであります」
「プリベンターのサリィ・ポォです。よろしく」
テントの中でサリィ・ポィとアンドレイ・スミルノフは握手を交わした。
アンドレイはスーツでサリィは私服だが、そもそもプリベンターに制服はない。
いや、あるんだけど皆着てない。
ガンダムパイロットやヒルデ、サリィはまぁWの放送当時の服だと思ってもらってかまわない。
で、コーラサワーは基本AEU時代のパイスーか軍服である。
アラスカ野ことジョシュア・エドワーズはユニオン軍服、ミスター・ブシドーことグラハム・エーカーに至っては、ブシドー時は陣羽織にお面、グラハム時にはスーツ姿だったりする。
服装規定なんぞあって無きが如し、クールビズとかノーネクタイとか、そんなもんハナからぶっちぎっちゃってるプリベンターなのである。
「スミルノフ……部長の」
「はい、息子です……とりあえず」
「とりあえず……?」
サリィは目の前の青年の表情を観察した。
そこにあるのは、幾ばくかの不満と躊躇いがたゆたっている。
「お父様は今回は?」
「……部長は所用のために来られません」
「……そうですか」
サリィは確信した。
この青年が、父親に対して好意的な感情を抱いていないことを。
これだけの短い会話で、しかも初体面のサリィが察知出来るということは、アンドレイがそれを隠し通せていない証明でもある。
それとも、最初から隠す気がないのか。
「それでは、我々も今回の作戦に同行させてもらうということでよろしいですか?」
「ええ、レディ・アンの許可が出ていますからね」
「ありがとうございます」
「いえ、だけど、あまり快適な旅にはならないと思うわよ?」
「承知しています」
プリベンターの作戦に一般企業の社員が参加する。
その特別性と、それを実現させたセルゲイ・スミルノフの手腕については、
敢えて黙ったままのサリィ・ポォなのだった。
◆ ◆ ◆
「よう、銀髪娘」
「……何だ、お前か」
「ん、どうやら今はキッツイ方らしいな」
「もうマリーはお前に関わらせたくない。何を言われるかわからないから」
「いや、俺は出来ればどっちとも関わりたくねーんだが」
パトリック・コーラサワーとソーマ・ピーリス。
犬猿の仲である二人だが、だからと言ってそれを理由に仕事を放り出すわけにはいかない。
いや、コーラさんならほっぽり出すかもしれんが、まぁここでダダこねても「なら結構、アンタ、歩いて帰りなさい」とサリィ辺りに突き放されてしまうだけだろう。
「熊のおっさんは来てねーのか?」
「……たい、じゃない部長をおっさんと呼ぶなっ!」
「のわっ! い、いきなり回し蹴りかよ!」
「いいか、今度部長に対して無礼な口をきいてみろ、崖の上から叩き落としてやる!」
「さ、殺人予告じゃねーかっ!」
うーん、なんだかんだで会話が成立しているのだから、表面上はともかく、真実はそこまで険悪な仲ではないのかもしれない。
その辺りをセルゲイやマリーは密かに見抜いている……のかなあ、果たして。
「ソーマ・飛びつき式フランケンシュタイナーッ!」
「ぐへはぁ! いや死ぬ! そんなの本気でやったらマジで死ぬ!」
「殺しても死ぬタマか、お前がっ!」
「プ、プロレス技は殺人技なんだぞ! 本気でやるな! 台本が必要なんだって!」
「てやあ! ソーマ・STO!」
「痛ーい! 後頭部が痛ーい!」
まあ、仲が本当に悪けりゃプロレスごっこなんか出来ないであろう。
このまま行くとそのうち阿○羅バスターやマ○スルリベンジャーでも飛びだすかもしれない。
「はあっ! ソーマ・スイート・チン・ミュージック!」
「ぼぐっ、あ、あごがー! あごが割れるー!」
もう誰かリングを用意してやれよ、ほんと。
◆ ◆ ◆
「おーい、五飛」
「何だデュオ、あのバカと一緒にいないのか、珍しく」
「……何だよ、俺があいつの保護者みたいな言い方だな」
「事実そうだろうが」
「んなわけねーだろっ!」
デュオ・マックスウェルを除く四人のガンダムパイロットは、ようやくマリナの歓待攻撃を乗り切った。
明日も早いので、とカトルが強引気味に切り上げなかったら、酔っ払いのカラオケの如く延々と続いたであろう。
「そのために逃げ出したのかと思っていたが」
「ヒイロまで……違うっての」
「だが逃げ出したのは正解だったぞ、正直、俺は結構疲れた」
トロワ・バートンは小さく溜め息をついた。
精神堅牢な彼にしてこの言葉、余程マリナ・イスマイールのもてなしは度が過ぎたものだったらしい。
「い、いえ、いい人なんですよ、マリナさんは」
「カトル、ひきつってるぞ顔が」
「ははは……」
デュオを除く四人の中で、最もマリナにベッタベタされたのは彼、カトル・ラバーバ・ウィナーである。
ウィナー家がアザディスタンに多額の金銭支援をしてきたという背景があるわけだが、それを除いたとしても、どうやら彼が一番マリナのターゲットになっているらしい。
「あの姫の相手をするのか、それともあのバカの相手をするのか、どっちが楽だと思っている、デュオ」
「チャバネゴキブリとワモンゴキブリを比べても仕方ないだろ、五飛」
「……デュオ、それはあまに酷いです」
「ん、悪かった。正直言い過ぎたと思った。あいつはともかく、姫さんまでゴキブリ扱いはさすがにマズかったな」
「コーラサワーがゴキブリなのは否定せんのか」
「別にクロゴキブリでもいいけど」
「種類変えても同じだろうが」
アザディスタンくんだりまで来て例え話にゴキブリ。
こういう会話が出来るのも、ガンダムパイロットの絆が深いから……ということにしちゃえ。
「で、そのバカはどこにいる」
「人革重工の銀髪の姉さんが来たから、そっちに行った」
「ソーマさんですね」
「何だ、仲が悪いんじゃなかったのか」
「アレだろうトロワ、普段は嫌いあっていても、いざいなくなると寂しいという類のものじゃないか」
「巨○と阪○みたいなもんですか」
「カトル、その例えも双方のファン以外にはわかりにくい例えだぞ」
「そもそも異論が多そうな例えだな」
「殴るには相手がいなけりゃ出来ない、ってやつじゃないのか」
「何だか居酒屋中継みたいになってきたぞ」
「ん? 加古川より向こうの人は帰れない、って?」
やけに口の軽いガンダムパイロットたち。
相当にマリナのプレッシャーが強かったのであろう、そこから解放された喜びがあるのかもしれない。
しかし、どんだけやねんあのショタ姫、キャラ的に過去最強やないのか。
あっちの本編じゃとうとうシーリンと溝が出来そうなくらいに醗酵、じゃない薄幸なのに。
とにかく、明日から行動開始である。
さて、その果てにどんな結果が待っているのか。
それは誰にもわからない。
書いてる自分だってわからない。
決めてないもの、先のことなんて。
プリベンターとパトリック・コーラサワーの心のアザディスたんは続く―――
【あとがき】
いやあ、今回はキム司令やら池田特派員やら、懐かしい顔がいっぱいでしたなコンバンハ。
新イノベメンバーも出てきて楽しみですな。しかし天の火って……ベタベタやんサヨウナラ。