「楽しい、楽しい話をしよう」
「何だよ隊長いきなり」
グラハムの顔のかぶれもすっかり治り、むしろきちんとした手入れのおかげで以前より肌がつややかになったんじゃないかと思えなくも なくなってきたある日の昼下がり。
休憩室で並んで壁にもたれ掛かっていたコーラサワー・グラハム・ジョシュアの三人だったが、唐突に口を開いたグラハムにジョシュアは豆乳を啜りながら胡乱な眼を向けた。
「私は知ったのだ。人間その気になれば何でも実現できるのだと!」
「いやまあ、あんたが根性論大好きなのは前から知ってるけどな」
「ふっふっふ。とはいえこれまでは、根性論はあくまで己を奮起させるためだけのものだと思っていた。だが実際は違う! 人は己の力を知り、意識し、鍛えれば、必ずや限界を超えることができるのだと!」
「ああうん、よかったですね」
ジョシュアはぞんざいに相槌を打った。彼には端からグラハムとまともに会話をする気力もつもりもないのである。
が、グラハムの方はそれで終わらせる気はないようだった。
「具体的に聞きたいかね?」
「興味ない」
「聞きたいだろう?」
「だから別にいいって!」
「そんなに言うなら教えてやろう。人間はな、イメージトレーニングを重ねればワイヤーなしでもハリウッド映画ばりのアクションが実現可能なのだ!」
「いやそれ常識的に考えて無理だから!」
聞き流すつもりだったのに、思わずツッコミを入れてしまうのが悲しい性である。
「他にもな、『阿修羅細胞』というものを移植すれば人は簡単に強靭な肉体を手に入れられるそうだぞ」
「改造人間かよ!」
「知っているか、世界には本物の魔術師が七人存在することを。かのノブナガ・オダも魔術師であったことを」
「知らんつーか、んなわけないだろう!」
「古代より伝わるある言語で旋律を紡ぐとな、望んだものを召喚できるらしい」
「ワープ理論もまだ確立してないのに歌うだけで物質転送だと!?」
ジョシュアは眩暈がしてきた。
背を壁につけていなかったら崩れ落ちていたところだ。
先程からグラハムが何を喋っているのか理解できない。
グラハムの得体の知れない迫力に圧され、ジョシュアは彼から離れるようにじりじりと横移動する。
それに気づかず、グラハムは一人で「いずれ私も魔法を会得してみせる!」と勝手に息巻いている。
助けを求めるように反対側にいるコーラサワーを見ると、先程から妙に大人しいと思ったら携帯端末で女性とのメールのやりとりに精を出していた。
「お、おい、隊長をなんとかしてくれよ」
「ん?」
話半分に聞いていたコーラサワーは、自信に満ち満ちた笑顔で胸を張ってこう言う。
「まあ俺は恋の魔法が使えるけどな!」
「マジボケなんざ期待してねえんだよこのド天然がアアアアアッ!」
ジョシュアとコーラサワーが取っ組み合いの喧嘩を始める中、グラハムは変わらぬ調子で熱弁を振るっていた。
◆ ◆ ◆
「あら、重そうね。運ぶの手伝おうか?」
「ありがとうですぅ! 感謝ですぅ!」
ミレイナが両手に提げる紙袋の一つをヒルデが受け取る。
場を繋げる意味で、ヒルデは何となく質問を投げかけた。
「この本……ライトノベルだっけ、どこに運ぶの?」
「グラハムさんのところですぅ!」
「グラ……」
「この前何冊か貸したら、凄く感銘を受けてたんですよ! 面白いから続きを貸して欲しいって言ってましたですぅ!」
「……そ、そう……」
確かにアイツならハマリそうね、と日頃の言動から妙に納得して、しみじみ頷いたのだった。
【あとがき】
某作家が新刊を出してくれないので2006年から抜け出せない模倣の人です皆様ご機嫌麗しゅう。
ライトノベルはいいものです。土曜日さんの多彩な文才にマジ嫉妬。けど悔しいっ、憧れちゃうっビクビク
素でお友達になりたいですというか土曜日さんは俺の嫁。拒否されたら潔く引き下がりますが。それでは。