00-W_水曜日氏_02

Last-modified: 2008-10-25 (土) 19:39:08
 

「大佐のキッスはいただきだぁ~い」

 
 

 サーカスの舞台裏で、ピエロの衣装を着たパトリック=コーラサワーがはしゃぎまっくていた。

 

「煩い!」
「ぼへぇあっ」

 

 横にいたキャスリン=ブルームの強烈な右ストレートがコーラサワーの頬を直撃。
 コーラサワーに500のダメージ! コーラサワーのほっぺたはヒリヒリだ!!

 

「いてぇな、女!」
「あなたが騒ぐとお客さんに聞こえちゃうでしょ! 全く、こんなのがトロワのお友達なんて信じられない」

 

 言いながらキャスリンはもう一発右ストレートを打ち放った。
 クリティカルヒット! コーラサワーに1000ダメージ!

 

          *          *          *

 

 そもそも何故コーラサワーがサーカスの舞台裏に居るかというと、遡る事3日前の話である。

 

「あーーー暇だ暇だ暇だ!なんかこう、模擬戦以外に俺にふさわしいスペシャルな任務は無いのかよ」

 

 プリベンター内でコーラサワーが騒ぐ事は、最早日常茶飯事になっていたので、誰も何も言わなかった。
 いわゆるシカトというやつだ。
 そもそも平和維持の為に設立されたプリベンターなのだから、平和な事は寧ろ喜ぶべき事なのだが。

 

「くそー!テメエ等皆でシカトしやがって!誰かなんでも良いから俺に任務をよこしやがれー!」

 

「本当になんでも良いのか?」

 

 先日ビリー=カタギリが置き土産に置いていった蜜柑を剥きながらトロワ=バートンが言った。

 

「なんだス○夫?お前なんかあんのかうぎゃっ!イテテ、お前、なにすんだよ!」

 

 トロワの強烈なローキックがコーラサワーの向こう脛(所謂弁慶の泣き所)にヒット。
 コーラサワーに1500のダメージ!

 

「俺は本来名無しだから呼び名にはこだわらないが、その呼び方は止めろ。良く分からんが腹が立った。で、任務の話だが、俺のサーカスに出演して欲しい」
「あぁ?サーカスゥ?」

 

 足を擦りながらコーラサワーは答えた。

 

「ああ、勿論タダとはいわない。特別席のチケットをやるから、お前がいつも言っている『大佐』とかいう人でも呼べば良い」

 

 そう言いながらトロワは蜜柑を口に放り込んだ。
 程よい酸味と甘味が口内に広がる。
 成る程、カタギリ博士の自家製蜜柑はなかなかの味だ。

 

「何!大佐をデートに!?よしよし、やってやろうじゃないか!これで大佐に惚れ直されちゃったりして」

 

 コーラサワー完全に鼻の下が伸びきっている。
 この顔を変態面(ヅラ)と呼ばずになんと呼ぼう。
 それに別にカティ=マネキンさんはコーラサワーに惚れてる訳ではない(と思う)。

 

「では、交渉成立だな。3日後にこの紙に書いてある場所に来てくれ」

 

 コーラサワーの肩にポンと手を置いてトロワはニヤリと笑った。
 例えるなら、罠に掛かった獲物を見つめる狩人のような笑み。
 今までのやり取りを聞いていたデュオ=マクスウェルが、蜜柑を頬張りながらボソリとカトル=ラバーバ=ウィナーに耳打ちする。

 

「アイツさぁ、彼女呼んでも自分が出演するんだから、デートになんねぇの、分かってないよなぁ?」
「いいんじゃないですか?それにトロワが僕達の分もチケットを用意してくれたので、僕達も観に行きません?
楽しみだなぁ。コーラサワーさん、どんなスペシャルな醜態を演じるんでしょう」

 

 ニコニコと笑いながらカトルも蜜柑を頬張る。

 

「カトル……お前たまに黒いよな」
「うふふ。デュオ、口は災いの元だよ」

 

 ニコリと金髪の天使が微笑む。

 

「悪い、俺が悪かった。でもトロワの奴、アイツに何やらせるんだろうなぁ……」

 

 デュオは思わずホールドアップした――

 

          *          *          *

 

 そんなこんなでコーラサワーは今、サーカスにいる。

 

「さぁ、そろそろメインイベント、お前達の番だ。 キャスリン、トロワ気合い入れろよ! 新人、お前、生きろよ……

 

 意味深な言葉をコーラサワーに残して、団長は去っていった。

 

「あたぼーよ!で、そもそも、俺は何をするんだ?」
「あなた何も聞いてないの?もう…… トロワ、この人で大丈夫なの?」
「キャスリン大丈夫だ。コーラサワー、お前は何も喋る必要は無い、俺達にやられる通りにすればいい。お前の身体能力なら何の問題も無い筈だ」

 

 サーカスコスチューム(EW版)に着替えたトロワが答えた。
 今日の彼は猛獣使いの役である。

 

「さぁ、俺達の出番だ。行こう」

 

 トロワ達は舞台に向かって歩きだした。
 慌ててコーラサワーがついて行く。

 

『いよいよ本日のメインイベント! 猛獣使いのトロワとアシスタントのキャスリン、ゾウ君と、そしてピエロのパトリックによる超人ショーです』

 

 団長の声と共にスポットライトが当たる一同。
 客席から拍手が送られる。
 まずキャスリンが動いた。

 

 何処から持ってきたのか、頑丈そうなロープでコーラサワーをぐるぐる巻きにして縛りあげる。
 この時コーラサワーが「イテッ」と声を挙げたが、キャスリンが客席に見えないよう腹にグーパンを入れたので、コーラサワーは気絶し、事なきを得た。
 そしてキャスリンはつっ立ったままのコーラサワーを横に寝かせ(正しくは、倒し)、またまた何処から持ってきたのか、一畳程の木の板を布団をかけるようにコーラサワーの上にのせた(正しくは落とした)。
 準備を完了させたキャスリンは客席に一礼すると舞台裏に去っていった。

 

 そしていよいよトロワとゾウ君の番である。
 トロワは空中七回転半ひねりをしてゾウ君に跨がると(この時観客席で拍手が巻き起こった)、コーラサワーの方に向かって歩くよう指示を出した。
 ゆっくりとコーラサワーに近づくゾウ君。
 小さい子が「危ない!」と叫んだりして、観客達は皆息を飲んで見守る。
 因みに笑顔で「本当に踏み潰されてしまえばいいのに」と思いながら事を見ているガンダムパイロット達は除く。
 そして、ゾウ君がコーラサワーの上にのせた板に右前足を乗せた。
 重さに耐えられないのか板がミシッと軋む。
 誰かが「キャッ」っと悲鳴をあげたその瞬間、トロワが合図を送り、ゾウ君は右前足だけで立ってみせた。
 トロワもゾウ君の上で片手倒立。
 一人と一頭のバランス感覚は抜群だ。
 意識を取り戻したコーラサワーの悲鳴に近い叫び声は、観客達の割れるような拍手でかき消された。
 そんなコーラサワーをよそに、トロワとゾウ君は次々と難解なポーズを決めて、その度に割れんばかりの拍手が送られる。
 暫くして、トロワが最初と同じ合図を送ると、ゾウ君は泡を吹いて倒れているコーラサワーを鼻で掴み挙げ、「パオーン」と一声あげた後、ペコリと一礼して背中のトロワと泡を吹くコーラサワーと共に退場していった――

 

          *          *          *

 

「いやー、死なないとは思ってたけど、マジで無傷とは思わなかったぜ!」
「流石ガンダニュウムより硬い男だけあるな」
「僕、ゾウ君とトロワがバランスを崩さないかとハラハラしちゃいました」
「最早不死身と言っても過言ではないな」

 

 舞台裏でガンダムパイロット達が各々の感想を述べる。
 一昔前にあった筆箱のような男コーラサワー。
 彼の上には100人乗っても大丈夫かもしれない。

 

「お前等、俺がどんな重さに耐えたかっイテテ!」

 

 脇腹を抑えながらコーラサワーはガンダムパイロット達にくってかかる。その元気があれば彼はまだまだ大丈夫だろう。

 

「しかし、結果は大成功だ。良くやってくれたコーラサワー。次があったらまた頼む」
「おっ前髪!俺様を見直したか! はっはっは観客も拍手喝采だもんなぁ! 次でもなんでも俺に任せとけってんだ!」

 

 トロワはまたしてもニヤリと笑った、彼は別にコーラサワーを見直した訳では無い。
 誰にも打ち明けていないが、実は今回のコーラサワーの役目は本来トロワの役目だったのだ。
 天然のトロワの姉キャスリンが役者の安全も全く気にせず提案する、普通の人間ならまず死ぬだろう通称『(サーカス団員達命名)地獄ショーシリーズ』。
 トロワも幾らガンダムパイロットといえど、例外無く普通の人間。
 そんなショーに付き合うのは真っ平御免なのだ(というか過去に何度も死にかけた)。
 しかし、却下すればキャスリンは悲しむし、何より「この弱虫!!」とボクサー顔負けの右ストレートを食らう羽目になる。
 断るに断れず困っていたトロワ。
 そこに現れた餌食もといコーラサワー。
 彼の出現、代役によって自分の姉さんの希望実現と自分の命の保証、そして観客からの拍手喝采。
 正に一石二鳥、いや三鳥も得られた。
 しかも、この次以降も自ら地獄ショーの犠牲になって頂けるというのなら、幾らでも感謝してやるといった展開だったのだ。

 

「あっそうだ!お前等大佐知らねぇか? お前等も大佐と同じ場所で見てたんだろ。 俺の大活躍見てなんか言ってたか?」

 

 そんなトロワの企みに等全く気付いていないコーラサワー。
 思い出したようにマネキン大佐の話を持ち出す。

 

「大佐…ねぇ」

 

 デュオがポリポリと頬を掻きながら言葉を濁す。

 

「はっきりと言おう。カティ=マネキンという人物はこの場に来ていない」

 

 ヒイロがビシッと言い放った。

 

「は?な、何だって?」

 

 コーラサワーは若干うろたえた。

 

「だから、その女は俺達と一緒に見てなどいない」

 

 五飛も横から口を挟む。
 コーラサワーの顔の色がみるみる変わっていく。

 

「皆、事実だけ言ってもコーラサワーさんには伝わらないみたいですよ。コーラサワーさん。今日のニュース見ましたか?」

 

 ニッコリと微笑むカトル。
 コーラサワーは口ポカンと開けたまま首を横に振った。

 

「うふふ。マネキンさん、今日からL-2コロニーで新曲の収録があるそうで、朝一番のシャトルで宇宙に向かったそうです。遅咲きの世界の歌姫は多忙みたいですよ」

 

 そうなのだ。
 元AEUのカティ=マネキン大佐は、最近『JUST COMMUNICATION』という曲で歌手デビューを果し、そのシングルはいきなりミリオンヒット。
 一躍世界の歌姫となったのだった。

 

「な、なんじゃそりゃぁぁぁぁぁあ!

 

 今やコーラサワーの体は白い灰となり、風が吹けばサラサラと飛んでいきそうだ。

 

「ふふ、残念。フラレましたね」
「大佐の…キ…ス」

 

 カトルの一撃でコーラサワーはノックアウト。そのまま気絶した。
 コーラサワー、幾ら本編で活躍しようと君の此処での春はまだまだ先のようだ。

 
 

 今日も地球はバカを除いて平和でありましたとさ。

 

 

【あとがき】
 祝新スレ!祝コーラ大活躍!
 良いこと続きで後が怖いですが、まぁコーラだし大丈夫でしょう。
 ティエリア出して、絶望させたいけどネタが思い浮かばない…
 では。

 
 

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