08MS-SEED-イグルー-02

Last-modified: 2013-12-23 (月) 20:34:12

砂漠の虎と呼ばれた男が居た。見た印象は屈強な体とは裏腹なおっとりとした雰囲気を出す男であり、この砂漠地域一体のザフト軍最高責任者である。
今日も日課であるコーヒー豆のブレンド研究を進めている中、部下からの報告書がより一層コーヒーの味の苦味を助長させていった。
出された報告書にはにわかに信じられない言葉が数点記載されている中、残された通信記録は貴重な機体と人材の喪失を意味していた。
静寂が包む中、音を立てて置かれるマグカップと机の接触音が部屋を支配した後に部下は頃合を見計らって口を開く。

「追撃に出ていたバクゥ二機大破。一名はコックピット内で無事でしたが一名は死亡。何者かに撃破されました」
「ん~?深追いはするなって昔の人は良い事いったねぇ。
 ……って、おいおい、何者かってのは何だい?ゲリラにやられたんじゃないのか?」

声は普段と同じ冷静さと思慮深さを滲ませる声色だったが、顔つきは文字通り苦みばしらせながらも真剣な目つきのまま書類を眺めている。
書類半分で顔が隠れる中、その目付きだけを向けられれば部下は一瞬威圧感に背筋を硬直させながらも言葉をそのまま続けていく。
その顔つきは続く言葉に対しても崩れる事が無くより一層深刻な顔色へと変化を遂げていった。
彼が此処に赴任してからはずっとこんな調子であった。ゲリラ相手のいたちごっこ。
連合軍はなりを潜めているのかそれとも、此方が疲弊するのを待っているのかは知らないが、本格的な戦闘と言うのは殆ど無かったと言える。
しかし、被害はゲリラであれ出てしまうものがあり、それで責任が取らされるのは結果自分であるのがたちが悪い。そう、砂漠の虎は感じていた。

「は、何でもパイロットは一つ目のボロいMSと言っています。鹵獲された機体の可能性もありますが、ゲリラにMSが扱えるとはとても」
「そうだな。ここいらの連中は皆ナチュラルだ。……コーディネイターの協力者って線もあるな。全くなんで此処はこんな苦労することばかりかねぇ」
「そもそも、弾痕からザフトの規格の銃器、また『連合』の今までの兵器とも一致せず。新型機かもしくは……」
「考えたくも無いね……ってそういって無能っぷりをコレ以上晒せる余裕も無いか」

虎はカップを傾けて注がれる黒色の潤いと熱を喉に感じながらも、その苦味で一瞬抜けきっていた空気と考えを締め直す。
考えられるのは数点。言った通り、コーディネイター側の技術の流出や鹵獲された機体の運用。
連合軍のMS開発が成功し、その機体が此処で実用されて自分の部隊が撃破された可能性。
もう一つは「連合」でも「ザフト」でもない技術。ジャンク屋……もしくはそれ以外の何か?である。
一見最後の考えは非常にオカルト染みたものであり本来なら5%以下の考慮を考える程度の眉唾物の話である。
しかし、彼には根拠が実在した。一瞬そのことが頭の中に過ぎれば、その根拠への懸念が広がっていく。

「ああ、そういえば例の奴等は如何した?何か解ったか?」
「いえ、まだ何も……ただ、名前は解りました。シロー・アマダ、アイナ・サハリンなどと名乗っています」
「はぁ?まぁ報告書から見た目の国籍は混ぜこぜなのは解っていたが統一感もへったくれもないな。作業の方は?」
「は。牽引装置の取り付けはほぼ終わりつつあります。後、一週間もあればこちらに人もモノも届けられるかと」
「早く作業を進めてやれ。何処の誰だか解らんがあんなところで置き去りでは此方も胸が痛むよ」

名前を挙げた人物達への憂いを感じる顔を見せたまま、部下に言葉と視線で尻に鞭を入れていく。
部下はそのまま敬礼を返して部屋を後にした。一人残された中、冴え渡る頭の中で情報を整理しながらも砂漠の虎は
転がっている多くの事例を頭の中で一つ一つピースをつなげていく。
此処最近の異常なレーダーなどの機器の乱れ。コレはニュートロンジャマーから推察される乱れを大幅に超えている。
そして、見付かった例のモノ。謎のMSに撃破されてしまった部下達。
糸を繋ぐには情報がまだ足りないかと結論付けながらも彼の頭の中にはそれが離れようとする時が無かった。

機動戦士ガンダムSEEDイグルー 鉄と血の戦乙女「受け入れざる否定の理」

「なんだい?姐さん方も『じおんこうこく』かい?」
「ん?そうだが。何か不都合でも?」
「い、いやぁ。……まぁ、一寸うちの方に来てくれ。お仲間が居るぜ?」

一つ目の巨体、MS-05ザクⅠ.そう名乗る未知のモビルスーツを駆る女、トップの言葉にゲリラ達の反応はとても微妙なものだった。
彼等は正直分別が付かない。もとい諦めた顔をしている。トップはこの顔がどんな意味をするか大よその予想はついていた。
面倒が増えた時の顔だ。東アジアの現地住民達は殆どこんな顔をして自分達を出迎えていたのは経験済みだった。
誰も、軍人などを好きで呼び込むのは戦争以上に酷い状況になっている場所だけ。
大抵は貧しさの中、自分達の生活を確保するので手一杯な事位は彼女も理解していた。
しかし、続く言葉は彼女が驚愕に値するものだった。お仲間が居る。即ちジオンの軍人が居るという言葉。
勢力圏的にアフリカはジオンが制圧していた事は確かにあったがそれでもゲリラに匿われるほど好かれているとは思えなかった。

「ほぉ。随分ジオンに好意的なんだな。そんなゲリラがあるとは」
「まぁ俺たちからすりゃほんまものの宇宙の化け物を相手にしてるのとあんたらは文字通り、正に未知の宇宙人みたいなもんだからな」
「宇宙人?」
「おいおい、まぁそりゃ俺達はスペースノイドだが……ん?あれ?」
「宇宙の化け物と戦っていると言ったな、彼は。では、俺達が宇宙人だとすると化け物ってのは誰のことだ?」

ザクの足でジープと併走しながらも先ほど助け出されたデルは不調気味の足を引き摺る様に、アスはそれを引っ張る様に支えながらも
MS-06JザクⅡを駆ってそのジープの後についていく。彼等の疑問はこの小隊であるトップも気付いていた。
そう、今このゲリラは二つの敵を揶揄した。一つは「未知の宇宙人」である自分達ジオン。
そして自分達とは別に「宇宙の化け物」と言うのと彼等は戦っているらしい。通信の中ではぁ?っと首を傾げるアスに考え込むデル。
じとりっとトップだけは嫌な予感がしていた。とてもオカルト染みていて信じられないが、嫌な証拠が一つずつ重ねられていく。
そんな中、彼等が言うアジトへと着く事が出来た。岩場の影、僅かな隙間に人の気配がしている。
高射砲を構えながらも自分達に照準を合わせているのは百も承知しており、あちこち単純な要塞化の後が見られた。
中々の規模のゲリラ組織だと言う事は推察される中、少し広い広場の様なところで
ザクを跪かせる様に足を崩せばコックピットが開いて中からパイロット達は降りていった。

「ふぅっ、良かった。ちゃんと中身は人間だったな」
「悪い冗談と受け取っておく。此方もこんなデカ物で押し掛けてすまないね。何せ」
「たいちょーー。何でもいいからぁ飯食わせてくださいよぉ」
「……と言う訳だ」
「へへっ、解ってますよ。俺たちもゲリラとは言っても肉を切れば、赤い血が流れ、腹も減って、女を犯りたくもなる」

デルも降りてくる中、駆け足でトップへと近付き耳元で口を開いてく。
アスがまっすぐ降りてきて飯をねだるのは予想はついたがトップまで無防備に降りていくのは想像できなかった。
幾ら平静的な態度を取っているとはいえ相手はゲリラ。何処の誰の政治に反抗をしているのか解ったものではない。
その割にトップの行動は迂闊すぎる。デルはその行動が理解できるほど柔軟ではない脳のつくりをしていた。

「隊長、少し迂闊では?」
「……いや、今は間抜けな方が良い。どうせ、失う者は命と機体程度だし、まさかゲリラが逆立ちしてもザクは扱えない」
「しかし」
「今は気を利かせずぼんやりしてたほうが良い。幸いあたし達はこいつらの敵とは認知されてないらしいしね。何よりわからんことだらけだ」
「は、解りました」
「ほら、こうした方が話が早い。昔の戦争で一番生き残り易いのはこの手の事をするのに慣れてる連中って習わなかったかい?」

弾かれる金属音。掲げられるのは自動小銃…しまいにはRPGまで持ち込んで自分達が取り囲まれているのは解る。
完全な包囲、アスはへへっと薄ら笑いを浮かべながらも両手を挙げる。
トップは腰に下げている小銃を持ちながらも鋭い目を向けながらも視線だけで頭を出せという事を告げる。
それが通じたのかリーダー格と思われる体格の良い髭の男が列を割って現れた。
それと同時に抜かれるトップの銃はFN P90の流れを組むらしい小型サブマシンガン。
攻撃したらただでは済まない。純粋な人を殺める能力よりも取り回しと傷を残す銃。

「抵抗して悪いね。すまんが、安心出来るまで銃は下ろせない。
 これを食らったら死人よりやっかいな怪我人続出なのは解るだろ?
 あたしも家に帰れば夫と息子が居てね。戦争から帰ったらサボってた分の飯を作んないといけない。
 ほら、デル、お前もそうだろ?」
「はっ、そうですが……隊長におこ―」
「あー俺も帰ったら逃げられてるか確かめなきゃなんねぇ女が居るんで俺も穏便に頼むわ」
「…・・・ふっ。中々、どうして変わってるな。面白い連中だ。あーあー、『じおんこうこく』の連中だったか?
 俺はサイーブ。此処の連中を纏めている」

緊迫した空気の中、三人のセリフに僅かに口元を緩ませて噴出すゲリラが数人居た。
独特の訛りなのかそれとも何か別の原因か。
ゲリラ達はジオンと言う言葉を非常に言い辛そうな……まるで知らない国の言葉の様に語っていた。
アスもデルもこの言葉に違和感を感じていた。そして、トップは違和感と共にその中の可能性に言及していた。
何故、自分達は亜熱帯の地域に居た筈なのにふと気付けば砂漠のど真ん中に放り出されているか。
あの犬の様な兵器はジオンのモノアイには見えるがあんな兵器をジオンな開発してるなどと言う噂は無い。
そもそも、まだザクやそれにちなんだ改修機や地上特化の新型機が
下ろされているばかりだというのにあんなビームや四足型の機構が実用できる訳が無い。
それらの符合から一つのとてもオカルト染みた過程へと至ろうとしていた。

「私の名前はトップ。こっちの頼りになる子持ちはデルで、こっちの奴はアス。
 私達はサイド3に住むコロニーにする人間。地球にコロニーを落としたスペースノイド。
 だが、此処にいる連中はジオンもサイド3なんてコロニーも知らない」
「ふ、ねえさんは随分と勘と物分りが良いんだな。あの堅物女とは大違いだ。
 ああ。確かにそんな国もコロニーも見たもない。コロニーがこの星に落とされた事もねぇ」
「な!? マジかよ。まさか、こんな砂漠の辺境だからってブリティッシュ作戦の被害位伝わってるだろうが?!」

アスは驚愕を隠す……気は更々無くむしろ知らない方が異常と言わんばかりの顔をしている。
その表情を見たリーダー格の男はむっとしながらもどすっとアスのみぞおちにトップの放つ肘鉄が抉りこまれる。
態勢をやや屈めて蹲りながらもアスはコレ以上の打撃を食らう前にそそくさと後ろに下がった。
アスは先ほどの様に咄嗟の処世術に関しては一人前だが流石に実際自分の眼でブリティッシュ作戦の『戦果』を
まざまざと地球で見ていた自身の目を否定する事は出来なかったのか
自分達が命がけでやったことを『無かったこと』になると理解出来る筈も無かった。

「正直、あんたらがプラントに潰されたコロニーの一国かそれともただの頭のイカレタ奴かと思わなければなからなかったからな」
「かった……過去形なんだな?」
「今でも思って無いと言ったら嘘になるが如何せんそうも言ってられなくなってな。……例の奴等を連れてきな」

数分後、ジオンの士官服に身を包む二人の男女が奥から出てきた。
一人は、ややぼさついた髪の毛を見せる痩せた男。ほほぅっと三人の顔を見ればやれやれっと呟き肩をすくめている。
もう一人の女は砂漠には明らかに浮いている真っ赤な女性用の仕官礼服を着ていた。
女は三人に目をくれる事もなく聳え立っている三体のMSに見上げて拳を握り締めて歓喜を抑えていた。

「またジオン残党のお仲間か。何処の部隊とも知らんが因果なもんだ」
「ザクⅡ二機にザクⅠまであるのか! これでようやくあの機体が動かせる様になるな!」

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