08MS-SEED_96_第05話3

Last-modified: 2013-12-23 (月) 19:57:32

「いいか、まずミサイルを離れた所から撃ち込み…」
「おぃアフメド、それじゃコーディネイターの奴らには当たらないんじゃ」
「最後まで話を聞け!
 ミサイルはあくまで囮だ、それに気を取られた隙に奴らの懐に入り込んでロケットランチャーを撃ち込む。
 狙うのは装甲の薄い関節や空気の取り入れ口、モノアイ、そして武器だ。
 連合のMSなんて必要ない事を証明してやれ!」
『おう!』
 事前の打ち合わせはそのような簡素な物ではあったが、野望に燃える彼らにはそれで十分だった。
 打ち合わせ通りアフメドらが乗るハーフトラックとそれに4発のミサイルポッドを積んだ通称ミサイル
トラックはタッシルの直前で分かれ、砂丘に身を隠しながらタッシルを見下ろす2機のMSに近づいた。
 タッシルを威圧するように立つ始めてみる2機のMSを見た時、アフメドは頭に血が上る思い――それが故
郷を威圧するMSに腹が立ったのか連合のパイロットのMSに似たMSに対しての憎しみなのかは判らない――
がしたが、事前に自分の立てた作戦を思い出して自重する事ができた。
 やがて位置について仲間の乗る数台の車両と共にミサイルの攻撃を待ち、それが始まってから
ロケットランチャーを構え2機のMSに文字通り踊りかかるように突撃した。
 砂漠に暮らす彼らはこの程度の砂は障害にはならない、見事なハンドル捌きでまるで平地を疾走するように
車両を操って目の前のMSに肉薄する。
 対して2機のMSは突然の敵の襲撃に焦り、そしてまるで砂漠に慣れてないように砂に脚を取られて右往左
往している…ように見えた。
 アフメドは自らの勝利と悔しがる連合のパイロットと自分を称えるカガリの姿を頭に浮かべ、勝利を確信し
ていた……この時点までは。

「えぇぃ、なんだこいつらは!!」
 突然警告と共に飛来したミサイルをイザークは反射的にシールドで防ごうとしたのだが、それまでも何とか
バランスを保っていた所に急な動作を取った事で砂に脚を取られミサイルの直撃を受けてしまった。
 それらはアサルトシュラウドの無い太腿や腹部に当たったものの、そこはPS装甲だったのでデュエルは無
傷なのであるが…イザークのプライドを機体の振動と共に大きく揺さぶった。
『小さいのが反対側から来るぞ!』
 砂丘の向こう側からミサイルを放ってくる相手を蹴散らすべくデュエルを跳躍させようとしたイザークの耳
にディアッカの警告する声が飛び込んでくる…そのディアッカのバスターはミサイルは全て避したものの、両
側に長い銃身を持った武器を抱えていた為に振り回されて膝を付いた。
「陽動のつもりか!?」
『肉薄されると厄介だ、一時下がろう。
 今タッシルに入った部隊を呼んだから…』
「そんな無様な真似が…できるかぁぁぁっ!」
 気合と共にアサルトシュラウドの右肩上部にある115mmレールガン<シヴァ>が独特の金斬り音を立てながら
火花を砲口から撒き散らして放たれ、周囲の空気を切り裂きミサイルトラックを撃ち抜かんと飛翔する。
 …が、足場が悪く体勢にも少々無理があった為に<シヴァ>は砂丘に突き刺さり穴を掘っただけである。
 これが榴弾等と呼ばれる弾であれば例え比較的柔らかい砂地であろうとも着弾と共に弾が炸裂し周囲のミサ
イルトラックは吹き飛ばされたであろうが、<シヴァ>には対艦・対甲目標用の装甲を貫く事を目的とした徹甲
弾が装填されていた為、砂漠に突き刺さった以上の効果は無い。
 それでも向きになってイザークが数発打ち込んだ為、ミサイルトラックの1台が<シヴァ>が開けた穴に落ち
てひっくり返った。
『止めろイザーク、雑魚にその武器はもったいないぞ!
 それより…小さいのが来たぞ!』
 イザークが思った以上のスピードでアフメド達の車両は接近していたのだ。
「喰らえっ、コーディネイター!」
 アフメドが一発必中の気迫で20mにまで接近して発射したロケットランチャーは一直線に飛翔し、彼に追
従していたレジスタンスの車両から発射された物も合わせて合計6発がデュエルを襲う。
「!!!」
 イザークはそれをサイドステップで回避し、ビームライフルをそのまま過ぎ去ろうとする車両に向けて撃つ……。
 このロケットランチャーは成形炸薬弾(HEAT)である。
 構造を簡単に説明すると、円柱状の炸薬(命中後に爆発する火薬)をじょうご状に凹ませてその内側にライ
ナーと呼ばれる金属板を貼りその後ろ側から爆発させる。
 すると固体でも流体のようになる超高圧(これをユゴニオ弾性限界を超えると表現する)となり、ライナー
が液化して超高速噴流(メタルジェット)が長く起こる。
 この時液化金属の超高速噴流はじょうご状の形状の爆発により圧力が前方に集中して、中心部に底部から先
端まで絞りだされるように長く伸ばされ正面に噴出する。
 このじょうご状の爆発で圧力が集中する事を“モンロー効果”と呼び、これにライナーを貼ってメタル
ジェットにより穿孔力を増した物を“ノイマン効果”と呼ぶ。
 メタルジェットが接触した装甲表面では再びユゴニオ弾性限界を越える超高圧となり、装甲材自体の強度を
無視して穴が開き内部にダメージを与えるのである。
 よく高温のガスジェットやメタルジェットで装甲を溶かして穴を開けるというような表現が見られるがそれ
は誤りで、ライナー後部の炸薬が爆発する速度では爆発の熱が金属材料に伝わる時間が無いので金属が高温に
なることは無く、圧力で金属を液化して超高速でぶつけているのである。
 …もっとも、穴が開いた部分から炸薬の爆発の熱や衝撃も入る込むのでまるで嘘でもない…しかし爆発が正
面に向かうのは炸薬の30%程で残りは周囲に広がり、成形炸薬弾のバズーガやロケットランチャーが着弾す
ると大きな爆発が起こるという表現も嘘ではないのである。
 ライナーを銅としたモデルではメタルジェットが約7~8km/sの速度となるので普通の徹甲弾より当然早く、
また下手をするとビームライフル以上の速度なのでPS装甲にも効果がある…と思われがちだが、
PS(フェイズシフト)とはすなわち相転移の事であり、装甲特性自体も変化しているのでメタルジェットの衝
突の圧力でもユゴニオ弾性限界を越えられないのでやはり他の実弾兵器と同じく効果が無いのである。
 ――ここでは是非そういう事にしておいてください――
 そして成形炸薬弾は通常のライフリングのある砲のように弾を高速回転させて弾道を安定させられない…
高速回転するとメタルジェットの収束が阻害される為だ。
 しかし弾が高速回転しないと弾道が安定しないので弾に安定翼がつく滑空砲や、比較的低速な固形ロケット
――これがロケットランチャー――により目標まで飛翔させる。
 しかもレジスタンスが使うロケットランチャーはバックブラスト(発射時に後ろに上がる炎)を抑えるタイ
プで比較すると弾道速度はさらに遅く、コーディネイターの中でも反射速度が速いイザークと機体の反応度も
高いデュエルの組み合わせではらくらく避けられる……筈であった。
「なにっ!?」
 だがステップする為に地面を蹴った筈のデュエルの右足は砂を抉っただけで思った以上に大地を捉える事ができず、
その反作用をデュエルには与えてくれなかった……デュエルは依然その場にバランスを崩したまま存在したのだ。
 幸いにもデュエルが体勢を崩していたので狙われた膝の関節部に当たる事は無かったが、放たれたロケット
ラャンチャー全てを避わす事もできなかった。
「うぉぉぉぉっ!」
 爆炎に包まれバランスを崩して膝を付くデュエル。 怒りに任せて放たれるビームライフルは爆炎を突き破って直進するが、
元より狙って撃ったのではないので当たる事はない。
『イザーク、クールダウンしろ!
 ビームライフルを無駄に使うな!!』
 自分に飛んでくるロケットランチャーをヨタヨタと避わしつつディアッカはイザークに叫ぶ。
「行けるぞ、反転してもう一回お見舞いしてやれ!」
 アフメドは崩れるデュエルに車両を向けさせると、次のロケットランチャーを取り出して再び一発必中の距
離まで疾走させた。
「終わりだ! 死ね!!」
 膝を付いたままのデュエルに再びアフメドらの6発のロケットランチャーが迫る…!
 爆散するデュエルの姿を想像したアフメド…しかし彼は突然ロケットランチャーが当たってもいないのに
デュエルの方から吹き付けられた熱い突風に荷台に倒れこんだ。
「何が…!?」
「調子に乗るな、この雑魚共ーっ!!」
 熱風が吹き荒れた後にデュエルはいない…ロケットランチャーは元々横風等に弱い武器であり、熱風に煽ら
れてんでバラバラな方向に迷走していた。
 イザークはクールダウンはしていない…逆に怒りを募らせその怒りをぶつけるべく行動を開始したのだ。
 だが、例えどれだけ怒りが頂点に達しようとも人はプルトップを空けずに缶ジュースを飲む事は無く、
扉を開けずに扉を通ろうとするような事はしない。
 ……たまに居るかも知れないが…自分を見失うほどの怒りに身を任せようとも基本的な生活習慣を見失うよ
うな事は無いと言う事だ。
 そしてイザークにとってMSの操縦とは、まさに見失う事の無い生活習慣の一部と言っていい。
 安定しない砂地で立ち上がる事を放棄したイザークは無理やりに足を伸ばして大地を蹴り、崩れるバランス
はスラスターを下向きに全開にする事で垂直を保った…不安定な地面で脚で直立するより、空中でバランスを
取る方が彼にとっては容易かったのである。
 その100tもの機体重量を浮かび上がらせる強力な推力でもって砂埃や爆発炎を突き破りデュエルの身長
よりも高く飛び上がったディアッカは、デュエルの頭部にある<イーゲルシュテルン>と呼ばれる2連装の
75mm対空自動バルカン砲塔システムを真下のハーフトラックに向かって発射した。
 頭部に付いている小口径の砲と馬鹿に出来るものではない、何しろザフトの主力MSであるジンの76mm重
突撃機銃と1mmしか違わないのだ。
 そんな物が2連装で、しかも連射されるのだ……側を通過しただけでも皮膚は裂けて衝撃で殴られたように
吹き飛ばされ、当たったのであれば爆発したようにその場所が飛び散り突き抜ける…例え手足に当たっても衝
撃と出血でショック死だ。
 車両に当たった場合でもハーフトラックは装甲化されていないのだ…<イーゲルシュテルン>は複数の弾種が
装填されており、徹甲弾だった場合は周囲を凹ませながら車体表面どころかシャーシを貫いて貫通し、炸薬弾
だった場合は搭乗者を護る事無く紙屑のように車体を吹き飛ばす。
 アフメドは先頭を走っていた為にデュエルの下を走り抜けて無事であったが、運の悪い2台が爆散し残りの
3台も搭乗員が少なからず被害を受けていた。
「やるナぁイザーク…さすが赤服!」
『…フン! こんな雑魚、クールダウンするまでも無い!
 お前こそ大丈夫なのか!?』
「まぁね…俺だって……赤服だぜ!?」
 ディアッカのバスターは砂漠に片膝をついたままである…否、片膝を付かせたままにしてあった。
「うおぉぉぉぉっ!」
 車両で立ち上がったレジスタンスが次々とロケットランチャーを打ち込んでくる、しかしディアッカは避け
ようとはしない。
 PS装甲にロケットランチャーが聞かないと判っていれば、確かに当たれば衝撃はあるのだが覚悟していれ
ばそれほどでもない、硬い部分をそちらに向けてやるだけで実質的な被害は無いのだ。
「…そこっ!」
 目の前を通ろうとした車両をバスターは立ち上がってそのまま蹴り上げた。
 狙い通り蹴り上げられた車両は乗員を空中で撒き散らしながら狙い通りその後ろを走っていた後続車に当た
り、2台はそのまま爆発して並走していたもう1台の車両も横転する。
「ナイスシュート! それ…と……」
 立ち上がったバスターは前進する…イザークよりは対砂面の調整を長く行っていたディアッカは、普通に歩
く分にはほとんど問題は無い。
 問題があるとするならば…バスターが次に歩を運ぶ場所には投げ出されたレジスタンスが砂面に叩きつけら
れた衝撃で痛みにのたうっている事だろう。
「う…うわぁぁぁぁぁっ!」
 不意に日が陰った事に気がついたレジスタンスが顔を上げるとそこには鉄の塊があった。
 ディアッカは口の端を上げてサブカメラでその光景を見ていて…バスターが通った後には砂に埋まリつつも
踏踏み潰されたレジスタンスが赤い血と肉を周囲に散らばされ絶命していた。
「砂漠に赤いバラが咲く…ってか? メルヒェンだぜ」
 心底楽しそうに邪悪な笑みをこぼしながらそう呟くディアッカ。
 バスターは元々アウトレンジからの支援攻撃を目的としている為にデュエルの<イーゲルシュテルン>のよう
な近接防御兵器は無い。
 その為に近距離にまとわり付く車両は蹴る等の攻撃をするしか無いのだが…ディアッカの行動はそれだけで
はない残忍さを楽しむようなものがあった。
 砂丘を越えようと跳躍するのにスラスターを吹かしたが…足元に横倒しになったハーフトラックとそこから
逃げ出そうとしたレジスタンスが数名居た事も確認済みだ。
 直下に吐き出された炎はその数名を直撃し、レジスタンスの服と、髪と、皮膚を燃え上がらせる。
「今度はキャンドル…地上はファンタスティックだな!」
 通信をOFFにしてあるコクピットの中で、ディアッカは楽しそうに笑い声を上げた。
 仲間の悲惨な最期を見て怖気づいたのか車両の1台が戦場から遁走するのを見つけたディアッカは、左腰
アームに接続された94mm高エネルギー収束火線ライフルをイザーク曰く『キョシヌケ』に向けた。
「仲間を見捨てるのは良くないナぁ…同じ場所で一緒に死んでやらないと…!」
 ディアッカがトリガーを引くと大気を切り裂いて高出力のビームの粒子が放たれた…が。
「…ホワットォ!?」
 周囲をイオン化させて突き進んだエネルギーの放流は、しかしだんだんとブレる用に上方向にズレ、目標の
上方をダメージを与える事無く通り過ぎて大気に拡散してしまった。
「ちっ…空気のせいで照準がズレたかFCSに問題があったか……ビームライフルに焼かれた人間がどうなる
か見てみたかったのにな」
 助かったと一層速度を上げて遁走する車両であったが、ディアッカは興味を無くしたおもちゃを捨てるよう
に片側の220mm径6連装ミサイルポッドを1パレット制射…着弾も見届けずに他の目標へ向かうべく方向を
変えたその後ろで車両は爆散した。

「……目を逸らさずご覧ください…あれは何も考えずに飛び出した貴方の姿です」
「……くっ!」
 カガリとキサカは離れた砂丘の上のハーフトラックでその戦い…否、その虐殺を見ていた。
 ナタルに本部へ電話をかけてやった所、サイーブがキサカとカガリに言って来たのは暴走したアフメド達を
引かせるように説得する事であった。
 が、それは少し遅かったようだ…既にその半数は死んでいるだろうし数分で全滅は避けられないだろう。
 AAから来たナタル達の所に居た兵士が引き上げた所を見ると、街に居た兵士も直に来るであろう…そう
なっなったら小回りを利かせて逃げ去る事も出来ない。
「貴方はMSとの戦いを知らずに跳び出そうとしました…それは彼らも同じ。
 バクゥとは戦ったことはあってもあのMSと戦った事は無い…その結果がアレです。
 何故サイーブが戦いの時地雷原やトラップを駆使しているとお思いですか?」
「その方が楽に勝てるからだろ」
「違います…まともにやり合っては勝てないからです。
 彼らはその事も気が付かず、あるいは前の戦いで圧勝できた事に気を良くして無策で突っ込んで行った…そ
の結果どうなるかを考えもしないで。
 カガリ様、貴方は近い将来人の上に立つお方です、自分の部下や国民を彼らのようにしたくなければ…お考
えを改めください」
「うぐっ……キサカ、彼らを助けられないのか!? このままじゃなぶり殺しだ…!」
「今あの中に飛び込む事は危険過ぎます、貴方を危険な目にあわせるわけには行きません。
 それでも彼らを助け出すチャンスがあるなら…騎兵隊の到着を待ちましょう」
「騎兵隊?」
「ええ…来ました…!」

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