08MS-SEED_96_第4話4

Last-modified: 2013-12-23 (月) 19:58:24

「キ…ヤマト少尉はそのまま前進、タッシルの西側から敵を攻撃。
 スカイグラスパー隊はタッシルを迂回して東側から進入、挟み撃ちにしてMSをタッシルから引き離そう」
「「「了解!」」」
「ではこのまま前進します…皆さんお気をつけて!」
「ああ、お前も気をつけろよ!」
 ストライクは地面に着地してはスピードを殺さないように走ってジャンプし、エールストライカーの推力と
空力で再び上空に飛翔し…の繰り返しで滑空移動を続ける。
 まるで間隔の長い幅跳びのようだが単独で飛行できない以上まだマシと言えよう。
 純粋な航空機であるスカイグラスパーとは速度が違う為に2機はストライクの上空を追い抜き過ぎないよう
に低速でジグザグに飛行していたが、2手に別れた事で航空機本来の速度を発揮する事ができた。
 その分遠回りになるもののその分速度があるのでストライクの到着と同時ぐらいにはたどり着けるだろう。
 ムゥは左側やや後方を飛ぶ僚機をちらりと見た後、通信機を近距離隊内用の周波数に合わせた。
「調子はどうだ、ミケル?」
「はい、順調でありますフラガ少佐!」
 スカイグラスパーの訓練を共にしていたムゥはミケルの事を名前で呼んでいた…“ニノリッチ伍長”と呼び
難かった事もあるのだが。
 そして2~3の戦闘に関する注意点やフォーメーションに関する打ち合わせの後、言い淀んでいた事を吐き
出すように話し出した。
「……アマダ少尉、ヤマト…いや、キラの事助かったよ、ありがとう。
 本当なら俺がそういう事をしなきゃならなかったのに、憎まれ役まで全部そっちに任せっぱなしで…」
「いえ、フラガ少佐もヤマト少尉の事以外に任務や責任がお有りでしょうから…自分はやるべき事をしたまでです」
「それでもさ…判っちゃ居たけどあえて気がつかないフリをしてた事をしてもらったんだ…礼の一つも言わないとな。
 あのいじけてたり…ちょっと前は妙に躁状態だったキラがあんなに活発になったんだ、本当に助かった」
「自分達の為でもありますよ…我々が生き残る為にはヤマト少尉をあのままにはして置けませんでした。
 それに…今のヤマト少尉の状態も本当はあまり良くありません」
「へ? 十分軍人として前向きに任務についてるし、人間関係もそう悪い状態には見えないけど…」
 前回の反省から、ムゥは多少なりともキラの行動や言動には注目するようにしている。
 あの感動的なゴールとレジスタンス達との殴り合いからキラは、年相応な活発さと軍務や人を守る事に積極
的になって、前のナイフみたいに尖っては触る者皆傷つけそうな危うい感じはなくなっているように見えた。
「いえ、今のヤマト少尉は……良き軍人、良きパイロットになろうと無理をしているような状態です。
 ……そうなるように、我々が極度に過酷な訓練でヤマト少尉の精神を無理やり洗脳したような物ですよ」
「そりゃまぁ、なんだ…前の時よりはよっぽどいいんじゃない?
 前みたいだと精神的にも肉体的にもキツかっただろうし…何よりいつ戦死しても不思議じゃなかった」
「今はある意味洗脳が効いていますが…その内ゆっくりと自分の個性を取り戻して行きます。
 その時にどの状態を選択するか…多分彼はこの先も沢山悩んで選択しなければならないでしょう。
 彼にはまだ見守り助言を与える存在が必要です…そしてそれはフラガ少佐、貴方の役目ですよ」
「え、俺?」
「自分も求められれば助言とかはしますが…彼を真摯に導いていけるのは同じ世界の人だとは思いませんか?
 一番適切な人物は兄貴分でありエースパイロットでも先輩の貴方です、自分は嫌われてますからね」
「いや、あれは嫌われてると言うよりライバル視じゃ…」
「フラガ少佐、隊長、煙や光が見えます……タッシルで戦闘は既に始まってるんじゃ…」
「そうか…アマダ少尉この話はまた後で。 今はともかく…」
「任務を果しましょう、そして何より生き残らないと」
「そーゆー事、んじゃそろそろ高度を下げますか…20m以下、MSより低く飛ぼう。
 ミケル、俺に着いて来い!」
「了解!」

「あれは!?」
 カガリがキサカが見上げた方向を見上げると、砂丘の影から飛び上がって太陽を背に戦場に向かって放たれ
た矢のように突進する鮮やかなトリコロールの機体が目に入った。
 ――戦場で映える兵器ってどうよ?――と思いつつもその鮮やかさと鋭い機動に目を奪われるカガリ。
 ストライクはそのまま銃口からエネルギーの奔流を青い機体…デュエルに向けて解き放った。
「ストライク……キラか!?」
「なにっ!? ストライクかっ!!」
 イザークがまとわり付く車両を<イーゲルシュテルン>で追い払っていた時、デュエルの右側頭上をビームラ
イフルが拡散しつつ通り過ぎた。
 PS装甲とは言えビームライフルにはダメージを受ける。
 NJの影響下でレーダーの能力が低下している中、感知できない長距離だった為に攻撃されるまで気がつか
なかったイザークはハズレたとは言え頬を冷や汗が伝うのを感じていた。
「ハズレた!?」
 距離の離れた砂丘裏側から飛び出して射程距離ギリギリから先制攻撃をかけたキラだったが、その初弾をハ
ズして絶好の機会を逃してしまった。
 それでもすぐに狙いを付け直して放った2射目だったが、当たらないと見切られたのかロクに回避行動すら
取らないデュエルの頭上左側をビームライフルのエネルギーが空しく拡散して行く。
 …実際には上空にジャンプして回避しようと砂を蹴ったデュエルが脚を取られて後ろ側にバランスを崩し、
ジャンプしようと噴射していたスラスターを使って倒れる事だけは回避したのだが距離が遠くキラは気が付かない。
 もっとも、そのままジャンプしていれば当たっていただろう…この時も運命の女神はイザークに微笑んでいたのだ。
「狙いがズレている…そんな筈は……」
 自分の手がけたOSに加えマードック班長の整備に全幅の信頼を寄せている中、ここまで狙いがズレる事は
キラにとって青天の霹靂であった…今までの戦いでこんな事は一度も無い。
 3度目の正直と照準機を覗き、歩行ではなくスラスターでホバー移動するように機体を横滑りさせるデュエ
ルを睨んだ時、キラはそのデュエルの位置が微妙に震えるようにブレている事に気がついた。
「もしかして……!?」
 キラは素早くコンソールを叩き正面モニターに別ウィンドウでデュエルのリアルタイム画像を表示させると、
その中のデュエルは蜃気楼のように揺らめいている。
「やっぱり…高温による上昇気流? いや…砂漠の熱対流か!」
 ストライクに限らずMSのモニターは――UC、CEのMS含めて――実際の映像をリアルタイムで映し出
している訳ではない…実はメインやサブカメラから取り込んだ画像はコンピュータで処理されているのだ。
 明る過ぎたり逆に暗かったり、宇宙空間のようにそれが激しく入れ替わったり、目に悪い直射光や武器のフ
ラッシュ等、実際の画像はパイロットにとって必ずしも見易い物ばかりではない。
 また敵味方の識別もそれまでのIFF(=敵味方識別装置)が主に電波を利用していた為に電波障害の起こ
るM粒子やNJの影響下では使えない為、一度コンピュータにより形状認識をして敵味方の識別を行わなけれ
ばならない事情もある。
 ――その為にUCのジオンではMSの色や形状の違いで識別を困難にさせ敵を混乱させる為エースのカスタ
ムは受け入れられていたし、CEのミラージュコロイドが有効なのもこの為である――
 MSのコクピットの内の画像は邪魔な要素を取り除き有用な情報を付加して、パイロットに現実により近い
画像をCGで提供しているのだ…パイロットはヴァーチャル画像を見ながら戦っていると言えよう。
 このようにCGでMSや地形は描かれるが、この時に邪魔な要素はある程度取り除かれる…今回は熱気で揺
らめく機体をノイズと判断して情報から削除して表示しており、この為キラは砂漠の熱対流を射撃のパラメーター
に入れる事を思い付かなかったのだ。
 この『砂漠の熱対流』が射撃にどのような影響を与えるのか…恐らく濃い大気や大気の揺らぎや密度の差に
よりビーム兵器が直進しなかったり射程が短くなる等の現象が起こると思われる。
 ザフト地上部隊やビーム兵器を持つスカイグラスパーは特に問題にはなってない事から、宇宙から降下して
間もない赤服2人やAAのメンバー以外には常識なのであろう。
 そしてその原因さえ判れば、工業系カレッジ学生だったコーディネイターのキラにとって修正は難しい事では無かった。
「えーっと…対流におけるレィリー数の方程式は“Re=cgΔTd3/νκ”…だったっけ?
 いや地表付近の大気は密度成層だから別の定義が必要になって……。
 温度擾乱は地表をサーモセンサーで計測した温度と現在のストライクの位置と外気温から求めるとして…」
 熱対流に気が付いたキラは着地したストライクを後方へ大きくジャンプさせ、十分な距離を取って砂丘の陰
に隠れてから素早くキーボードを引き出して射撃のパラメーターに変更を入れ始めた…が。
「なにを隠れているストライクーっ!」
 ストライクを追ってジャンプをしたイザークは砂丘の陰にしゃがみこんでいた所を発見、即座にビームライ
フルを先程のキラのように上空から打ち下ろした。
「うわっ!」
 同じように砂漠の熱対流に狙いはが逸れる…が、キラは即座にキーボードからコントロールスティックを握
り直して回避し、砂漠を蹴ってその勢いのまま右側に低空飛行をするとエールの推力で上空に飛び上がった。
「避けたか!」
 実際には避けなくても当たらなかったのだが…ストライクが大きく回避を取ったのでその事に気が付かなかった
イザークは着地し、ストライクを追ってスラスターを吹かしジャンプした。
「イザーク、東側から航空機だ! 気を付けろ!!」
「!!!」
 ディアッカからの警告の瞬間、超低空で発見される事無く接近した2機のスカイグラスパーから<アグニ>と

回転砲塔式ビーム砲>がデュエルに向けて放たれた。
 イザークは機体を捻ってシールドをその方向に向けつつスラスターを下に向ける…ただの回避では間に合わ
ないと判断してとっさに位置エネルギーや重力加速度も加速に利用したのだ。
 <アグニ>はシールドの上端に当たってその部分のビームコーティングを剥いて拡散したが、ミケル機のビー
ムキャノンは回避に成功した……おかげでかなり派手に砂漠に激突して膝を付いてしまったのだがビーム兵器
の直撃を受けるよりはマシだ。
「キラ、なにやってんの!?」
「フラガ少佐! スミマセンがOSを書き換える時間を稼いでください!
 熱対流のパラメータが無くてビームライフルが逸れるんです!」
「おいおい戦場で悠長な…まぁ当たらないんじゃ仕方ないか。
 よし、そのままタッシルから離れるように移動しろ…十分離れたらこっちで足止めするからその間に書き換えちまえ!」
「ECMオン…ECCMオン…AAとのリンケージ……完了! フラガ少佐、AAとの通信及びデータ相互通信可能です!」
 シローは電子戦パックの機能を動作させる。
 スカイグラスパーの両端は増加ウェポンベイになっている…ムゥはランチャーパックを装備しているのでこ
こには何も装備していないが、パックを装備してないミケル機はここに電子戦パックを装備していた。
 本来であれば電波等を使用する電子戦はNJ影響下では効力は低くなるものの、<アグニ>を使用できる程の
スカイグラスパーの発電能力がそれを可能にしたのだ。
 さらにECMやECCMだけでは無く、ESM(電子支援手段:Electronic Support Measures)の一端とし
てミケル機が中継する事で母艦であるAAとのリアルタイムの通信やデータの送受信を可能としたのだ。
 これによりキラとムゥらは情報と言う面でもイザークとディアッカの上を行ったのだ…キラ達は常に
――ミケル機の高度や状態によりリンクが切れる事もある――AAからの後方支援を受けられるのだ。
「キラ、あなたなに逃げ回っているのよ…戦いなさい!!」
 ……その後方支援の中にはキラを罵倒するフレイの声もあったのではあるが……。
「いやフレイこれは作戦で……」
「前線よりデーター受信…間違いありません、デュエルとバスターです!」
「本当~にG兵器ネぇ……まずは二機をタッシルから引き離して距離を取ったら相手のバッテリーを消耗させて!」
「了解! でもストライクもここに来るまでバッテリーを消費し…」
「戦闘しているあっちの方が消耗は激しい筈よ!
 それにスカイグラスパーの方が戦闘時間は長いワ、フラガ少佐、スカイグラスパーでうまくやって!」
「こちら“明けの砂漠”キサカだ、若い連中の説得任務を受けたがタッシルからザフトのAPCが数両向かっている。
 説得に行くには邪魔だ…始末してくれ」
「やれやれ、人気者は辛いな…どっちもりょ~かい!」
 ミリアリアが2機のMSを照合し、その対処法をマリューが前線に伝え、キサカの通信がムゥに伝えられる
…全ては電子戦パックのおかげであり、これを装備させたマードック班長の好判断である。
 逆に通信を邪魔されているザフトのAPCはイザークやディアッカと連絡が取れず、状況がはっきりしない
中独自の判断で前線に向かうしかなかった。
 デュエルが追って来たのを幸いにとタッシルから離れるキラは誘導していると悟られないようにと時々振り
返ってビームライフルを撃つ…ロクに狙っていないので当たる筈が無く、イザークは狙って撃っているのだが
熱対流のパラメータが欠如しているので中距離以上離れている今、当たる筈が無い。
 ディアッカもそれを追っていたが、スラスターを使ってジャンプはせずに早足で2機を追っていた。
 ……それ以上の速度では砂漠に脚を取られるというのもあったが、ストライクの動きに何か不穏な物を感じ
イザークを先行させたのだ…何か言われてもこっちは中長距離支援用MS、これが適正な距離だと言えばいい。
『――まぁそろそろ警告ぐらいは出した方がいいだろうな――』
「ちょこまかと逃げやがって!」
「待てイザーク、ひょっとして奴に誘導されてるんじゃないか!?」
「よ~しもういいだろう…ミケル機はAPCを攻撃、その後バスターを足止めしてくれ…俺はデュエルをやる!
 キラ、今の内に書き換えちまえ!」
「「「了解!」」」
 最初の攻撃以後は3機のMSを遠目に周囲を旋回していたスカイグラスパーは、それぞれの得物に向かって機種を巡らせ突入した。
「うぉりゃぁっ!」
 ムゥはデュエル後ろ側から接近して長距離の時点で<アグニ>を放つが、ディアッカの警告で周囲を見回した
イザークにはその姿が見え、盾を構えつつムゥ機に振り返りつつサイドステップで――今度は脚を取られずに
移動できた――その超高速インパルス砲を避わす事ができた。
 が、ムゥにとって初撃は牽制、サイドステップで足が止まったデュエルに機首の4門の機関銃と羽根の付根
にある大口径機関砲を連続して打ち込みまくった。
 元より実弾であるこれらの攻撃がPS装甲を持つデュエルに効くとは思っていない、だが連続的に打ち込ま
れるこれらの兵器の衝撃と、適度に散った弾がデュエルの足元の砂を巻き上げる砂煙は格好の目眩らましとなる。
「うぐ…っ!」
 ムゥの狙った通りイザークは断続的な衝撃と着弾時に弾が弾ける火花と覆いかぶさる砂煙にムゥ機を見失う…が。
「上かっ!」
 ここは地上、相手はMA(イザークにとって航空機は大気圏内用MA)、このまま通り過ぎるよりは進路を変えて離脱を図るだろう。
 そして大気圏内用MAはセオリーとして速度か高度を保持しておきたい物である…であれば一度通り過ぎる
ようにしてバックを取るように上昇するに違いない…だからこそのこの実弾の牽制攻撃だ!
 イザークはそこまで考えた上で、スラスターで前方に小ジャンプしながら振り返りビームライフルを頭上に構える。
 だがまだ撃たない…最初の射撃や今の行動を見るからにこれだけで終わるパイロットではないだろう。
 振り返って急上昇するムゥ機を確認したイザークは確信した…ここからこのパイロットは更に攻撃をかけてくると!
 奇襲的に背後を取る事ができたがその優位な状況は数秒しかない、攻撃するには今は天を向いている機首を
地へ向けるしかないが、大きくロールしていては時間が掛かり過ぎる…ではどうするか!?
 垂直近くに機種を上げたMAが機首を巡らせ攻撃するには…ここは宇宙(ソラ)ではなくバーニャで方向を変
える事ができない以上、それが出来る機動はイザークの知る限りたった1つかしかない…それは……。

 ――失速反転(ストーリングロール)――

 これは機体を上昇させつつ失速(失速とは水平飛行できる最低限の速度を下回って墜落する事ではなく、
翼の表面を空気が滑らかに流れなくなり抵抗が増す事、またはその仰角を指す)させて素早く機体の向きを変
えるテクニックで、これを戦闘で使うには高度な技量が必要とされる。
 イザークはこのMAのパイロットに心当りがあった…AAにいるクルーゼ隊長と幾度も交戦して生き残って
きた連合のエース“エンデュミオンの鷹”に違いない。
 ならばこの局面でそれぐらいの芸当は難なくしてくるだろう…が、予想できたなら脅威ではない。
 この失速反転は上昇から急に反転に転じる為その瞬間は限りなく速度が0になるのだ…この戦闘でビームラ
イフルはストライクには当たらなかったが、ほぼ停止した状態であれば目標を外すことは無いだろう。
 クルーゼ隊長ですらてこずった連合のエースを撃墜する瞬間が来るのを待って狙いを定めるイザーク。
「なにっ!?」
 だがその瞬間がおとずれる事は無く、勝利を確信し歪んでいた口元は驚愕に変った。
 イザークがエリートであるならムゥはエースである…イザークが考えた事はムゥも当然考える…確かに
イザークが考えた事は正しかっただろう…しかしそれが普通の航空機であれば、であった。
 機体を引き起こして垂直に移るGの中、普通なら失速反転に移る半分程度の時間でムゥはスカイグラスパー
の前方の可変ノズルを動作させ、強引に機首を巡らせたのである。
 スカイグラスパーは垂直離陸機の能力も持っているのでこのような機動が可能であった。
「んご…っ!」
 更なるGがムゥを襲い四肢をGスーツが締め付ける中、それに耐え抜いてスティックを更に握り込む。
 イザークが予測したより早く、まるで何かの曲芸のようにくるりと反転したMAにイザークは反射的にビー
ムライフルを撃つがタイミングを外したビームライフルは当たらない。
 更にイザークは220mm径5連装ミサイルポッドを繰り出すが、ムゥはそれを円筒の内部に沿っうように螺
旋状に回転しながら飛行するバレルロールと言う機動で回避。
 強烈なGの中でも照準の中にデュエルを捕らえ、迫り来る砂漠とその表面にいるデュエルに向けて<アグニ>を放った。
「もらいっ!」
「うをぉぉぉっ!」
 迫り来る<アグニ>にイザークはシールドをかざして機体への直撃を避けるが、ビームコーティングされた
シールドでも打ち下ろされた<アグニ>に耐え切る事は出来そうにない。
 赤熱化したシールドをイザークが切り離して機体をバックステップさせた直後に<アグニ>の高エネルギーの
奔流は貫通し、地面に大穴を明けて周囲に砂塵を撒き散らした。
「フラガ少佐!」
 砂丘から飛び上がったキラは、砂塵の中からムゥ機にビームライフルの狙いを付けるデュエルにビームライ
フルを放つ…この時既に熱対流のパラメータは入力し終わっている。
「ぐはぁっ!」
 小癪なMAに狙いを付けていたイザークには、今度こそストライクの攻撃は奇襲となった。
 キラの放ったビームライフルは砂塵のカーテンを打ち破ってデュエルのアサルトシュラウドの左肩のミサイルポッ
ドの部分に直撃し装甲を突き破って内部の残ったミサイルを誘爆させ、デュエルの左肩に大きな爆発を発生させる。
 アサルトシュラウドを貫いた辺りでその威力のほとんどを失っていたビームライフルはミサイルを誘爆させ
たもののPS装甲を抜くことは出来なかった、故にミサイルの誘爆ではPS装甲は傷付かない。
 だがその爆発の衝撃なではPS装甲では受け止めきれない…デュエルは機体表面で起こった220mm径のミ
サイル数発分の衝撃に吹き飛ばされ、砂漠の上を無様に滑る。
 コーディネイターの体の頑丈さと、砂地で幾分地面に叩きつけられた衝撃が和らげられ無ければイザークは
脳震盪を起していただろう。
「くそぉぅっ!!」
 地面に横たわったままでは危険だ…その本能が叩きつけられたダメージから回復するより先にスラスターを
全開にさせそのGが更にイザークを痛め付けるが、直後にビームライフルと<アグニ>がそれまで倒れていた場
所に突き刺さったのだ…死ぬよりはマシだった。
「ディアッカ、なにしてる、こっちを援護しろ!」
 だがディアッカも、この時戦いを続けていたのである。

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