657 ◆90qJUtSRVk 氏_無題(仮)_前編

Last-modified: 2011-01-10 (月) 00:01:22
 

荒涼とした砂漠。
その一角に、無数のモビルスーツの残骸が転がっている。
ありとあらゆる技術を盗用して開発された十ダース近い最新鋭量産機とワンオフ機二機を撃破し、
普通ならばトウの昔にジャンクになる程の傷を受けながらも、その称号を否定し拒絶するかのように
その機体は立っていた。

 

耐用度数を大幅に超える数百合にわたる斬撃の結果、ビーム発信部が完全に潰れて
火花を散らす巨大な鉄塊と化した対艦刀を半身で構える赤黒い機体。
VLを搭載したウィングバインダーは損傷し骨の翼のようになり、
最後の敵機を睨み付ける赤いツインアイは保護カバーがひび割れて中身が剥き出しになっている。
庇うように隠す左腕は装甲が全損してオイルと火花を血液のように垂れ流し、
胴体側のアクチュエーターにまで少なくないダメージを与えていた。
その傷を負わせたΩジャスティスとアカツキ改「ニチリン」は引き換えに完膚なきまでに叩き潰されて
背後の残骸の山の一部になっているが。

 

亀裂が入ったコクピットハッチの中で荒い息を吐き出しながら、ノイズが混じり始めたモニターを、
それに映った仇敵を睨み殺そうとばかりに見るパイロット。
焦点がずれたようにも見えるその深紅の瞳は、パイロットがSEEDの発現状態にあることを示していた。
早五時間に渡る発現に心身ともに限界に近づいてなお、パイロットは能力の発動を要求する。
そうでなくては、目の前の敵を斃すことが出来ないからだ。

 

『き、君は、何でそこまで……!』
ドラグーンや腹部のカリドゥス位相砲で散発的に攻撃を加えながらも決して前に出て来ようとせず、
結果的にほぼ無傷のαフリーダムから、珍しく引きつった声がした。
こちらの戦闘に気をとられて放って置いたエターナルと通信が取れないことに苛立っているのか、
それとも親友と元上司が予想以上にあっさりと粉砕されたことに驚いているのか、
その声はひどく震えていた。

 

「……これが、俺の存在意義だからだ」
メサイア戦役の頃に比べて大分低くなった声に静かな怒りを乗せて、シンが答える。
人が安心して床に付くことが出来る「平和」。
それを阻害すると判断されたものを依頼遂行の形で駆逐するワンマンアーミー。
裏を返せば、過去の「守れなかった」という痛みを代償によって満たそうとする矛盾した刃。
その切っ先が、改めて空中にたたずむαフリーダムに向けられる。
対応して迎撃姿勢をとるαフリーダム。

 

不吉そのもののカラーリングに満身創痍の悪魔のような機体。
パステルカラーと原色の青に塗られた無傷の機体。
何から何まで真逆の二機のモビルスーツが、黄昏の中で激突した。

 
 
 

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