――CE82 ある戦場の最前線
今回の取材の目玉といえる人物に会っている。
後ろにいる十年来の相方はこの人物の名前を挙げたときは猛反対したものだが
「アイツか?ああ、知ってる。話せば長い。古い話しだ。
ところでお前――自分の見た真実のみを報道しているってのが売りのジャーナリストだったな?」
そういってこちらを睨んでくる
…そうだろう…いま彼が戦っているこの戦場は俺をひとつの例として世界に呼びかけを行ったコロニーが始めた戦争だから……
返す言葉に窮している俺を見て
「…別にこの戦争のことを咎めてる訳じゃないさ。ただ、世界には語られないほうがいい真実ってのもあるし、
正義というのは所属する組織、その部署、個人個人それぞれにあり――それぞれに正しい。
お前はそれを忘れていると思っているからな。ちがうか?
何よりもアイツについて誤解されちまうと悔しいからな。…ちょっと脅かしただけだ。
オレはそんなに起用じゃないからな。オレの知っていることはすべて話そう。
――ただ、どれが真実かを判断するのはあんただ。」
そう、ぶっきらぼうにいいきる。――彼なりの忠告だろう。当時の俺は無知で自分の見たもののみ信じるやつだった…。
真実とはそれぞれにあるものということが分からなかった。
「さて、話を戻そう。知ってるか?エースは三種類に分けられる
強さを求める奴、プライドに生きる奴、戦況を読める奴、この三つだ。
奴は…確かにエースだった。」
目の前にいるこの男、かつての二度の戦争に参加し彼の相棒として、そして敵として戦ったという男
"片羽の妖精"の愛称で呼ばれるラリー・フォルク。
彼に対して思ったのはその目はどこか擦り切れてしまったような色を浮かべつつも肝心なものを失っていないという印象だった。
「それにしてもお前は噂どおりの物好きだな…こんな戦場の最前線まで来るなんて…。
なあ?あんた気苦労が知れないな。」
そういって話しの種を十年来、自分の護衛を勤めてもらっている相方に投げかける。
それに対しかなり不機嫌な様子でそっぽを向く相方。
…当然か。十年前あの戦争の後の謎のクーデターの取材に戦場に向かっていた俺たちを
問答無用で叩き落したのは目の前にいる男なのだから……
とりあえず『余計なことをするなよ』と合図しておく。――そんな様子を見ながらおもむろに目の前の傭兵は
「オレと、アイツの二人目の相棒との関係ってのもあんたらと似たようなものだったよ。
理想主義で世間知らずな坊主と現実主義者。
……手を下したオレが言うのもなんだが…そんな奴らはホント早死にしたよ。」
少し何かを思い出すように呟き、遠くを見た後
「あいつと会ったのはあの宙空基地。CE73年の11月だ。
そこからアイツと別れるまでの2ヶ月ほどは危険宙域B7Rの偵察とか基地周りの巡回、艦隊の護衛任務とかもあったかな。
ああ、そういえば1機のデストロイに破壊されたベルリンの後始末には
俺がアイツと別れた後にアイツの2番機になった坊主が参加していたかな…。」
そういって、あの戦場にもし俺たちがそこにいたらもっと手際よく落としただろうさ。
そううそぶく。――ヴァレー基地の猟犬と呼ばれ、ベルリン戦までザフトの部隊をその基地から退けてきた彼らなら、
あの戦場にいた"フリーダム""ミネルバ隊"にひけをとらないだろう。
それほど資料に記された彼らの戦果はすさまじかった。
「それまではお互い凄腕の傭兵ってイメージで周りに認識されていただけだと思う…。
俺たちのそんな戦争が終わって…いわゆる、"あのクーデター"にオレが参加する前――
アイツが"鬼神"と呼ばれるようになったあたりから話すとしようか。」
あの戦争の前後にある謎の数ヶ月が語られ始めた
「あいつの腕?最初の印象は…そうだな 筋はよかったな。だが本当に光り始めたのはあの戦いだ。」