Ace-Seed_626氏_第17話

Last-modified: 2013-12-25 (水) 21:32:18

――L4はずれ"アヴァロン"

決起集会は終わり、みな作業に戻る。その演説後、組織を抜けると申し出たものは一人もいなかった
士気は上がり各員の作業進行が格段に上がったのは言うまでもない――
上級士官はアヴァロンのブリーフィングルームに向かっているところだった。

「流石だな"ドクター"、さっき言ったことはお前がすでに半年前、俺に知らせたことだったな。
 それをここまで簡潔にまとめて、さらに戦意高揚させるとはな…。その頭脳に陰りなし。といったところか?」

カプチェンコと近い年齢の者が声をかける

「そのニックネーム、今ではミハイル・コーストのほうが有名なはずだが?」
「はっ、あんなまがいもの――俺にとって"ドクター"のニックネームをもつのは、お前しかいないさ。
 地上は俺、空はお前。あの頃の俺たちは敵無しだったな。こうして肩を並べることに柄にもなく心躍っているよ」
「……そうだったな、再構築戦争後の混乱期。よく、戦場を共にしたものだった」

「はっきり言って、まだ根に持っているんだぞ。ユーラシアを抜けてプラント――ザフトに走ったことをな。
 お前の指揮する航空隊と、俺の戦車隊で組めば、ザフトのジンごとき、問題なくかたしたものを…」
「……」
「まあ、こうして再びお前と組めたことをうれしく思っているのは確かだ」
「そういってくれると少しは報われた気になるかな……」

モーガン・シェバリエとアントン・カプチェンコ、この二人は
ユーラシア連邦が、あの範囲の領土確立の功労者という側面も持っている。

「ところで、俺がここで組む部隊はどうなっている?そっちで選ぶと言われたから、部隊から引っ張って来ていないぞ」
「大丈夫だ。その点は問題ない」
「――ほう、一体誰だ?」
「ディアッカ・エルスマンとコートニー・ヒエルモスの二名。二人ともコーディネーターだ。
 むこうにはもう言ってある。"月下の狂犬"と組むと聞いて驚いていたよ」

その言葉にモーガンは苦い顔をしながら言い返す

「――確か、前者はエルスマン議員の二世代だな?後者はどこの馬の骨だ?大丈夫か?」
「差別意識でも持っているとおもったか?"国境なき世界"に来るやつだ、問題ない。
 あと、コートニーは開発局での部下だ。」
「そうか…なら、後でお前の部隊との演習を頼みたい。どんなものか見せてもらいたい」
「分かった――」

そんな話しをしながら、彼らはブリーフィングルームに入っていった。

「コートニー、X-BO"フレスベルク"の完成度は?」
「60%といったところです。あと五ヶ月ほどで90%に…」

立ちながらのミーティング。20世紀後半から旧アメリカ合衆国で採用されたブリーフィング方式である
この利点は立つことにより会議に対する集中力を高め、すばやく終わらせるために書類等は非常に簡潔になるということである。
ただ、そのために要点をまとめておくことが必要なことが難点ではあるが…

「だめだ、14週間で80%。それがタイムリミットだ。三ヶ月~四ヶ月あれば連合軍は息を吹き返す。――我々には時間がない。
 プラント、オーブはさておき、大西洋、ユーラシアの情報網は、その支配者気取りのルキーニより早くつかむぞ!」
「――了解」

「"啄木鳥"、その"フレスベルク"にはどこの部隊をつける?」
「ユーラシア・サピン地方のエース"エスパーダ隊"と他数名をつける。他の部隊だと数や戦術で母艦と釣り合わない」

ウィザード1:ブリストーの質問をあっさりと返す。しかしそれに食らいつく者はいる

「なら、俺の部隊でもいいのではないか?三ヶ月あれば――」
「モーガン、それはムリだ。エルスマンは砲戦型の機体を受領した。X-BOから付かず離れずを維持しつつ戦えるのは
 ここに集った者たちのなかではエスパーダが最も適当だ」
「相変わらず、すべて自分で考え調べた後に行なうか……変わってないな」
「褒め言葉と受け取っておくよ」

そのやり取りの後、これまで話題に上がらないものを上げる

「ブリストー、"片羽"の機体はどうだ?」
「――S・フリーダム以上の実験機だからな、かなり手こずっている……先に言ったX-BOの稼動までには間に合うはずだ」
「そうか……各員他に何かあるか?では――ブリーフィングを終了する。各員、全力で準備に取り掛かれ!」

――数時間後、地球、月、各ラグランジュポイントから見えない位置にある――アヴァロン演習場

MS数では8対3という数の差があるが、コートニーのカオスA型、シェバリエのダガーLのガンバレルの数をいれれば8対9。
互いのチームリーダーが空間認識能力が高く、そのため互いに戦術の先読み勝負になるこの勝負、かなり白熱していた。
――観戦している他のチームが溜息を漏らすほどに

≪右旋回、三秒後 コーナー速度を保て≫
《3番機、射撃――今!》

速度を保てなかったゴルト隊のジャスティスが1機、ディアッカが乗るヴェルデバスターの砲撃によって撃墜判定が下る。
若いパイロットならば、自分の部隊の者が落とされたことで、血の気が上ったり編隊が乱れたりもするだろうが、
戦場に慣れているこのチームにそんなことなどない。

≪フォーメーションを散開型に切り替え――≫
《右方向に射撃集中!行かせるな!》
≪動きを乱した奴から撃ち落される やられたくなければついてこい≫

ゴルト隊の戦術である"ゴルトの巣"はゴルト1を司令塔とするフォーメーション攻撃
――これはユーラシア軍の頃から変わっていない
それを知っているシェバリエはそれを乱すことに重点を置き、乱れたものをディアッカが撃ち落すというパターンをとった。
2撃目の射撃でゴルトのジャスティスがもう1機、落ちる。
だが、この二発でカプチェンコはディアッカのいる位置を見切った。
――数分ほど互いに牽制を撃ち合う膠着状況が続き……

《モーガンのオッサン、こっちからの射線が取れなくなってきた――》

――異常に気付いたのは部隊の外側に位置するディアッカだった。
そこまで気付かなかったのは仕方がない。むしろ、よく気がついたといえるものだ。

ゴルト隊の動きはいきなり射線がなくなるのではなく、普段の戦場のように射線が取れたり取れなかったりを
計算づくで演出していたのだから――ただ、別のことには気付いておくべきだった。
いつの間にかフォーメーションを構成する機体の数が6機から5機になっていることに――

ここでは、それに気付かないディアッカを攻めるのではなく、気付かせなかったゴルト隊に賞賛を送るべきだろう

そういった瞬間にヴェルデバスターは忍び寄ってきたゴルト1によって撃墜
カオスもダガーLも健在ではあったが、トドメと援護を担う射撃手を失った以上、ゴルトの巣に食われるのみだった

≪密集型に移行、ゴルト2 攻撃――いま≫

ヴェルデバスターを片付けたことで、遠距離攻撃を警戒することはなくなり、密集型に移る
その10秒後、カオスが墜ち、そして20秒後モーガンも――演習はゴルト隊の勝利で幕を閉じた

この数年で空間戦を行なうことになったモーガンと、地球にいた頃から空中戦を行なっていた生粋のエースパイロットであるカプチェンコ、この二人の経験の差がでた演習といった結果だった。

ブリーフィングルーム

「さて、それでは反省点を挙げる。まずは――」

ゴルト隊のほうはすぐに終わり、各員それぞれ得意分野の仕事に戻っていった。
だが、それから2時間、新規部隊であるモーガン隊についてのネガを洗い出す――。

結局、戦術の改良点をまとめ終えたのは、演習終了後三時間も経過していた

「これで終わりか……ところで、モーガン。部隊名はどうする?」
「ん?ああ、シェバリエ隊などとは言ってられんな……何かいい案はあるか?」

その質問を向けられた若い二人――

「俺にはない」

と、言うドライなディアッカに対し技術畑のコートニーにはこだわる物があったようだ

「"シュピンネ"(蜘蛛)あるいは"アントリオン"(蟻地獄)というのを、我々の戦術から考え付いた」

「さて、決めるのは――モーガンだな」
「ならば……"アントリオン"でいくことにする。"巣"を張るのはゴルトがふさわしかろう」
「分かった、それで部隊名は登録しておく」

そういって立ち去ろうとするカプチェンコをディアッカが呼び止めた

「カプチェンコさんちょっと待ってくれ、"砂漠の虎"が『"カプチェンコ教官"にヨロシク』といっていたけど
 どうにかしたほうがいいんじゃないか?」
「いや、思い当たる節はある。放って置いてかまわない――」

そういってカプチェンコは部屋を出て行った――ディアッカたちはその雰囲気から何もいえなかった。
彼らはそれから決起までを演習、トレーニングに費やすことになる

――三ヶ月弱、世界はつかの間の平穏を謳歌する

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