BRAVE-SEED_勇者戦艦ジェイアスカ_第02話

Last-modified: 2010-11-26 (金) 15:23:46
 

 ────C.E73年、至るはずだった未来。ザフトの最新鋭MSデスティニーと
敵対勢力のMSインフィニットジャスティスは、決戦のさなか月近傍で熾烈な激突を
繰り広げていた。
「間違っている! そんな力で……強制された平和で……
 本当に人は幸せになれるのか!?」
「だったらどうすればいいっていうんだ!? あんたらの理想って奴で、戦争を止められるのか!?」
「戦争の無い世界以上に幸せな世界なんて……あるはずがない!!」
 ザフトの戦士シン・アスカは、眼前の赤いMSを操る裏切り者アスラン・ザラを
デスティニー自慢のスピードで翻弄し、追い詰めてゆく。
「あんたが正しいっていうのなら! 俺に勝ってみせろっ!!」
 幾度かの交差の後、デスティニー掌部に備えられたビーム砲『パルマ・フィオキーナ』が
ジャスティスの右腕を粉砕し、月面へと叩き落した。
 対艦刀アロンダイトを構え、トドメを刺さんとしたその時、アスランは起死回生の一撃を繰り出す。
「まだだ!!」
 射出されたワイヤーアンカーがアロンダイトを弾き飛ばし、勢い良く蹴り上げられた
脚部のビームブレイドがデスティニーの左腕を切り落とす。間髪入れずに急降下した
ジャスティス付属の攻撃ユニット・リフターが前面に発生させたビームブレイドで
右手、右脚を両断し、勝負に決着をつけた。
「アスラン……あんた、やっぱ強いや……」
 善戦むなしく大破し、月面へと引き寄せられてゆくデスティニーのコックピットで、
敗北にどこか納得した顔で重力に身を任せるシン。だが、ここで本来の歴史では
起こりえなかった結末が彼を襲う。
 激戦で予想以上に損傷したデスティニーの動力部、デュートリオン発電システムが暴走し、
漏れ出した粒子線が主機である核分裂エンジンと干渉、爆発を起こしたのだ。
 それに気付く間も無くまばゆい閃光に飲み込まれ、シン・アスカは
愛機デスティニーもろとも月面から消失した。

 
 

勇者戦艦ジェイアスカ No.02『赤い髪の少女』

 
 

 戦場へ飛来し、ゾンダーロボの素体とされていたウナト・エマ・セイランを
浄解してのけたマユ。ソルダートJは彼女から話を聞くべく、ウナトをバスの側へと降ろし、
キングジェイダー頭部のメインブリッジへ招き入れる。
 彼女が搭乗した後、フュージョンアウトしたキングジェイダーはジェイキャリアーと
ジェイバードが一体化した本来の姿、ジェイアーク級超弩級戦艦“ジェイキャリバー”へと姿を変え、
人目を避けてオーブ沖の海中へと没した。
「さて……俺の名前はソルダートJ、さっきのロボット“キングジェイダー”のパイロットだ。
 合体する前の赤いのはジェイダーという」
「あ、はい。わたしはマユ・アスカです、さっきは助けていただいて
 どうもありがとうございます!」
 TVヒーロー然とした命の恩人によって、その居城たるこれまたTVから抜け出てきたような
スーパー戦艦へ招かれるという未知の体験にどうしたらいいか判らず、
ガチガチに緊張するマユにトモロも声を掛ける。
《楽にしているといい、少女よ》
「え!? だれ!?」
 突然掛けられた第三者の声にびっくりして、辺りをきょろきょろと見回すその姿が愛らしく、
Jはついつい笑みをこぼしてしまう。
「彼はこの艦のメインコンピューター、トモロだ。この艦は俺と彼の二人だけで運用されている」
 しゃべるコンピューターなんて本当に漫画みたい。内心巨艦のハイテクさに感心しつつも、
マユは訊きたかったことをおずおずと切り出した。
「あ、あのう……前にどこかで会ったことありますか? わたし、あの怪物や
 ソルダートJさんのこと知ってる気がするんです」
(やはり記憶は戻っていないか、しかしどう話したものか……)
(どの道アルマとして覚醒すれば自覚はするのだ、今ここで全て話してしまったほうが
 手っ取り早いのではないか?)
(馬鹿野郎! いきなりそんなことしたらこの子が悲しむだろうが!!
 自分が両親の実の子供じゃないなんて、いきなり知らされたら……!!)
 トモロとの一秒にも満たない討論の後、Jは真実に口をつぐむことにした。
「……確か、あれは八年くらい前だったかな。初めて地球にやってきたとき、
 その場に居合わせて俺を助けてくれた夫婦と、小さな女の子に会ったことがあるんだ。
 覚えているとは思わなかったけど、そのときの子供が君だったんだろうな」
 Jは自分が他の星からやってきたサイボーグ戦士であること、ゾンダーは生物全てを
機械へ変えてしまう恐ろしい存在であり、力及ばず母星を滅ぼされたJは
それに対抗できる力を持った者を探して宇宙をさまよい、この地球へとたどり着いたことなどを語った。
「ゾンダーが初めて現れたとき、俺の居た星にもゾンダーを感知したり、
 もとの人間に戻したりといった、奴等に対抗できる力を持った子供が何人も
 生まれたことがあるんだ。君の力もきっと同じものなんだろう」
 ゾンダーを人間に戻した力を思い出し、マユは自らの手をまじまじと見る。
「────頼む、君の力を貸してくれ。今ゾンダーにされた人を助けられるのは
 マユちゃんしかいないんだ」
「……いきなりそんなこと言われても、こまっちゃいます。けど……
 わたしにしかできないことなら、マユ──じゃなかったわたし、頑張ります!」
 子供っぽい一人称を直そうと努めていたものの、緊張のあまりつい言い間違えてしまうマユに、
Jは苦笑する。トモロはあえて何も言わなかったが、彼に顔があったなら間違いなく
同じ表情だったに違いない。
「ありがとうマユちゃん。あまり長居すると親御さんも心配するだろうから、
 近所まで送っていくよ」
 嘘は言っていない。事実彼等の生まれた赤の星では、ジェイアーク級やソルダートJと共に
アルマも量産されていたのだから。しかし────マユを欺くような言葉を吐いた自分に、
笑顔の裏で罪悪感を覚えずにはいられなかった。

 

 モルゲンレーテでは、子供を持つ多くの社員たちがTVのニュースに釘付けになっていた。
 子供たちが工場を見学に来た帰りに現れた怪ロボット、巻き込まれたバス。
そして怪ロボットをたちまち粉砕した、途方も無く巨大な白いロボット。
 子供たちを抱えた怪ロボットが情け容赦なく粉砕されたときは、一人の例外もなく
絶望に包まれたものの、子供たちの命に別状が無いことが報道されるや一転、
社員たちに安堵の声が広まった。
 しかし────その場に居たケン・アスカと、妻マユコの表情だけは一向に晴れることは無い。
「アスカ主任、娘さんが……」「襲われたときにバスから落ちたそうだ」「かわいそうに……」
 ほとんどが無事だったというのに、たった二人だけが行方不明という不幸を前にして
夫妻は悲しみに沈む。
 そんななか不意に鳴り響く電話のベル。
「はい……はい! アスカ主任、お電話です。娘さんから!」
「な、なんだって!? ……マユ! 無事だったのか!!」
〈心配させてごめんなさい、おとうさん〉
「マユ! 本当に無事なのね? 怪我はしてない?」
〈大丈夫、バスから落ちたときにロボットの人に助けてもらったの。
 お友だちのコモリさんも一緒だったよ、帰る途中ではぐれちゃったけど……〉
 娘が無事だった。その事実だけでマユコは感極まり、溢れる涙を止めることが出来なくなった。
夫も鼻をすすり上げるに留まっていたが、内心妻と同じ気持ちであった。
 この後、きっと二人は仕事を早めに切り上げて愛娘の下へと飛んで帰るのだろう。

 

□□□□

 

 ────オーブ本島の地下深く、人間の手の及ばぬところにソレは存在した。
 パイプ、ケーブルやコード類などを始めとして、のたうち、蠢き、明滅する
様々な部品を寄せ集めた、どことなく生物めいた機械の絡まりあった地下空洞。
その壁面に絶えず変形を繰り返す奇怪な機械で構成された巨大な人面が浮かび上がり、
誰も居るはずの無い虚空へと号令を掛ける。
『機界四天王、終結せよ!』
 声が響くのと同時に、植物の生育を早回しに上映したが如く床面が盛り上がり、
大小四つの人型を構成した。
「ポリトイーヌ、参上いたしました」
「同じくプライア、御前に」
「ペローニア、もう待ちくたびれましたわ」
「ピルエッタならここにおります」
 現れたのは年齢も髪の色もバラバラな四人の女。だが唯一の共通点として、
そのいずれもがライトやワイパー、タイヤに歯車など、自動車関連の機械部品で身体を飾り立てている。
 美しくしなやかな肢体を彩るそれは、外付けのアクセサリーなどではなく、
彼女らを構成する肉体の一部だった。
 彼女たちは人間ではなかったが、さりとてSFに登場するような精巧なロボットでもない。
衝動のままに暴れるだけのゾンダーとは違い、惑星全土のゾンダー化──機界昇華の尖兵となるべく、
知性を失わずにゾンダーメタルと適合した生機融合体、ゾンダリアンなのだ。
『四天王よ、“アベルの残せし禍”が何故全て生き残っている?』
 自らと四天王の間にキングジェイダーとゾンダー核を浄解するマユの姿を投影しながら、
司令塔である壁の人面“パスダー”は、苛立ちがありありと込められた目で彼女らをねめつけた。
「お許しくださいパスダー様、この度の敗北はまぎれもなく我らの不手際にございます。
 赤の星機界昇華の折、よもやこの惑星に生き残ったアルマが落ち延びていようとは
 夢にも思わなかったのです」
 ラメ入りの赤毛をアップにまとめ、血のように紅い金属の外装と透明なガラスを、
豪奢なドレスのように纏った最年長の貴婦人、ポリトイーヌが恭しく頭を垂れ、
パスダーに許しを請う。
「ジェイアーク級も、トモロのほとんどが失われたあの状況では
 たとえ残存していたとしても満足に稼動できるはずも無いと高をくくっておりました」
 髪とお揃いの紫のボンテージから、大小様々な排気管を生やした女、プライアがポリトイーヌに続く。
「その結果がこの有様。ひとえにわたくしたちの甘さゆえ……」
 ヘッドライトやサイドミラーで飾られた翡翠色のエプロンドレスを身に纏う少女、ペローニアも、
フリルで飾られた人形のような風情の最年少、ピルエッタも、ギアやボルトのあしらわれた
蒼いゴシックドレスを掻き抱いて他に倣った。
「────ですが収穫はありました」
 映像をジェイダーが人質に対し躊躇した場面に切り替える。
「どうやらこのソルダートJは、惰弱にも地球の人間に情けをかけている様子。
 そこを利用すれば……」
「次の作戦はわたくしめにお任せを。既に作戦の立案は済んでおります」
『……よかろう、見事“アベルの創りし破壊マシン”を抹殺してみせよ』
 パスダーに対し汚名を返上せんと、自信ありげにペローニアが名乗り出た。

 

「まったく、何でこんな時間になるまで終わらないの!? いっつもちんたらちんたら……」
「……すいません」
 事務所から上司が退室すると清掃員の青年は持っていた雑巾を床に叩きつけ、
誰に聞かせるでもなく吐き捨てるように愚痴をこぼす。
「俺だってな……出来ないわけじゃないんだよ! けどこんな短時間であんだけの範囲
 綺麗にできるわけないだろうが!! 文句があんなら自分でやってみろっての!!」
「なら、思う存分お掃除してみます?」
 不意に掛けられた声に振り向く青年。そこにはいつのまにか、不思議の国のアリスを
緑色にしたような装いの少女が立っている。
「お嬢ちゃん? どこから入ってきたの、ここは関係者以外立ち入り禁止だよ?」
「嫌なものみいぃんなお掃除して、なにもかもきれいにしてしまいましょう……
 ね、お・に・い・さ・ん」
「だから人の話を……!? うわああああああああああああああああああああああ!!」
 人間に擬態していたペローニアは、外見に見合わぬ蟲惑的な笑みを浮かべながら耳元で囁くと、
ゾンダリアンとしての正体を現し、問答無用とばかりに青年へゾンダーメタルを押し付けた。

 

 夫婦揃って迎えたひさびさの休日に、家族水入らずで大手のショッピングモールへと
買い物に来ていたマユは、昼食時に訪れたモール内のファミリーレストランで再び
“あの感覚”に襲われた。
「────え!?」「どうかしたのマユ? ……ちょっと! なによアレ!!」
 娘の様子をいぶかしむ間も無く、店外の様子から異状を感じ取り驚愕する母。
 モーター音も甲高く店内に乱入してきたのは、バフやポリッシャーなどの清掃機材を
寄せ集めにした怪マシンだった。店外に居た客のほとんどは姿が映りこむほどに
ピカピカになった床で滑り、のたうちまわっている。
『レストランは油汚れの排除が優先んんんんんんんんん!』
 細いアームの先に備えられたノズルから液体が迸り、床といわず店内に満遍なく降りかかってゆく。
床の汚れどころか、食べ残しの料理やテーブルまでも分解するゾンダー洗剤の威力に
客たちから悲鳴が上がる。
「こっちだ! 厨房から逃げよう!!」「助けてー!」「どいたどいたぁ!」
「うわあっ」「ああっ、マユ!!」「マユ────!!」
 入り口は奴に塞がれており、逃げ道はそこしかない。だが、避難路を知った途端
我先に逃げ出そうとする客の波に飲まれ、マユは両親とはぐれてしまった。
「お母さん! お父さ────ん!!」
『最優先清掃箇所、確認』
 それを見計らったかのように足元の床が生物のように口を開き、
マユをその奥の暗闇へと飲み込んだ。
「痛たた……ここ、どこだろ?」
 辺りを見回してみる。初めは暗くて何も見えなかったが、目が慣れてくるにつれて
おぼろげながらも判別がつくようになった。
 木の根のように不規則に隆起した配管の床。壁も、天井も、同じように絡まりあい
不気味に蠢く生物めいたパイプで構成されている。
 例の感覚もビンビンだ。
「やっぱりこれって……ゾンダー? ────きゃあ!」
 マユのつぶやきに答えるように、床から湧き出すように現れる清掃機材ゾンダー。
周囲の様子からも判るとおり、もはやこの店舗は完全にゾンダーの一部となっていた。
 腕のノズルから勢い良く液体洗剤が放たれ、マユに襲い掛かる。
 悲鳴を上げて逃げ回り間一髪直撃は避けたものの、わずかに降り注いだ酸性の飛沫は
衣服を溶かし、刺激臭を漂わせた。
『しつこい汚れもしっかり清掃~~~~~~~~』
 青ざめるマユに追い討ちを掛けるように放たれた別の液体からガスが生じ、
辺りに特徴的な臭いを生じさせる。
「プールの臭い……? !? げほ、げほっ!!」
 酸性と塩素系の洗剤が混じりあったことで有毒な塩素ガスが生じ、マユを苛んだ。
呼吸器の痛みに激しく咳き込む彼女は恐怖とパニックに襲われ、
唯一ゾンダーに対抗できる浄解モードになることも出来ない。
『おそうじぃ~~~~~~~~~~~!』
 鋭い針がびっしりと生えた殺人ブラシが、止めを刺すべく唸りをあげて回転しながら
倒れ伏した彼女へ迫る。
「Jさん……助けて……!」
 もはや命は風前の灯かと思われたその時、消え入りそうなほどにか細い
マユの助けを呼ぶ声とともに、闇の中一筋の閃光が奔った。
「ラディアントリッパァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
 壁が瞬く間に抉られ、陽光とともに命を繋ぐ新鮮な空気が流れ込んでくる。
『ウィィ?』
 外界へと開かれた大穴、差し込む逆光に照らされながらそこに立っていたのは、
光剣を携えたソルダートJだ。彼はプラズマ剣ラディアントリッパーを一閃してブラシを薙ぎ払い、
ゾンダーを蹴り飛ばしつつ即座にマユを抱きかかえると、壁に叩きつけられた敵から
いち早く距離をとり空中へその身を躍らせる。
「トモロ! マユを頼む!! ────ジェイバァァァァァァァァァァァァド!!」
 駆けつけたジェイアークに飛び込むが早いか、そのままジェイダーへと
フュージョンを完了したJはゾンダーの巣食うショッピングモールを見下ろした。
仮面の奥のその瞳には、地獄の業火もかくやという怒りの炎が燃えている。
 戦いの中失われてきた親しい人々の命。その中の誰よりはっきりと彼の心に食い込んでいる家族、
とりわけ最愛の妹の姿がまぶたに浮かんでは消えた。
「よくも……よくも俺の目の前で“マユ”を傷つけたな!!」
 血が繋がっているかなど、姿かたちが違うことなど問題ではない。その名前は彼にとって守るべきもの、
守れなかったものの象徴であった。奇しくもJの戦士が護衛するべきアルマに、
彼にとって重要なその名がつけられたことは運命の数奇さを感じずにはいられない。
 ゾンダーは建物の一区画を取り込み、巨大な戦闘ロボットの形態を取る。
その姿は先程のものをより攻撃的にしたような人型だ。
「惜しいところで邪魔が入ったわ……忌々しいソルダートJ」
 現場から程よく離れたビルの避雷針上に佇むペローニアが、舌打ちをしつつ両者の闘いを観戦する。
「けれど、これを見ても戦えるかしら? ウフフ」
 だがその幼さの残る顔に悪戯っぽい笑みを浮かべると、彼女は肩に乗せたウサギの人形に
懐中時計のスイッチを入れさせた。
 指令を受け、一部を変形させるゾンダーロボ。その左肩には
はぐれた娘を探しに戻ったのだろうマユの両親が捕らえられていた。
 しかし人質など、余程の大人数でもなければジェイダーのスピードに物を言わせて
救出することは可能だ。ペローニアはさらに見せ付けるように一手を推し進める。
 アスカ夫妻の周囲から管が伸び、二人に狙いをつけるようにその顔面を取り囲む。
「な、なにをするつもりだ!」「せ、洗剤……?」
 漂うのは主婦なら嗅ぎなれているトイレ用洗剤の臭い。ペローニアは今まさに
飛び掛らんとするジェイダーへ声を掛けた。
『下手なまねはしないほうがいいわよ? ソルダートJ』
「────!? お前はゾンダリアン! 赤の星を襲ったタイプか!!」
『あら、ご存知でしたの。何人目のソルダートかは知らないけれどごきげんよう、
 わたくしは機界四天王ペローニア。以後お見知りおきを』
 スカートの裾をつまみ、上品に礼をする彼女にJは激昂する。
「あの人達をどうするつもりだ!」
『知れたこと、あなたが抵抗すれば死んでもらう。それだけよ』
『あの人間の周りに生えた管からは、アルマを苦しめたのと同じ塩素ガスが噴き出すわ。
 この惑星の脆弱な生物なら数秒と持たずに死んでしまうでしょうね』
 その言葉に、ジェイダーは凍りついた。そこへ何本もの触手が襲い掛かり、
高圧電流を食らわせる。
「うわあああああああああああああああああああああああああああああ!!」
 絶叫、ジェネレーティングアーマーを展開することも許されはしない。
ジェイキャリアーを操るトモロも、ただ手をこまねいて見ていることしか出来なかった。
「ああっ! 赤いロボットが!」「私たちのせいで……! クソッ!!」
『あはははははははっ、馬鹿みたい! こんなことで躓いていて、
 機界昇華を止められるとでも思っているのかしら?』
 嘲笑が響く。ダイヤモンドすら容易く削り落とす硬度を誇る、ゾンダーロボの殺人ブラシが
ジェイダーに止めを刺すべく回転を始めた。
『ありがたく思いなさい。その機体を叩き潰して引きずり出した後は、トモロともども
 ゾンダリアンとしてわたくしたちの仲間に入れてあげるわ!
 アナタにアルマを始末させるオマケ付でね……オーッホッホッホ……!!』
 身動きもとれず、じわじわとジェイダーの胸部装甲が削り取られてゆく様に、
勝利を確信したペローニアが高笑いする────その時!
〈ジェイクォース、発射!〉
 なすすべなくただただ旋回していたジェイキャリアーが、ゾンダーの背後から
その艦首に備えた必殺の武器、ジェイクォースを人質目掛けて撃ち放ったのだ。
『な、なんですって!?』
 優位に立ったことに慢心し、ジェイダーにばかり気を取られていたペローニアは
すっかり隙を突かれ、人質を奪還されてしまう。
「詰めが甘かったようだな! ゾンダリアン!!」
『おのれぇ~~~~~~~~~~~~~~~~!!』
 プラズマソードで拘束を振り払い自由の身になるジェイダーの姿に、
ペローニアは砕けんばかりに歯噛みした。
『こうなったら、周りの人間どもも道連れにしてやりますわ!』
 ゾンダーロボが手足を格納してガスタンクのように膨れ上がり、避難民のもとへ転がりだす。
放置すれば人々は潰され、かといって破壊すれば、体内に蓄積された高濃度の塩素ガスが撒き散らされて、
周囲の人間の命を奪うという寸法だ。
〈させるものか! 牽引ビーム、照射!!〉
 しかしそうはさせじとジェイキャリアーの艦首から放たれた光条が、
数百トンは下らないだろうゾンダーロボを軽々と持ち上げ、無人の海上へと放り投げる。
「トドメは俺にやらせろ!!」〈了解!〉
「プラズマソォォォォォォォォォォォォォォォドッ!!」
 裂帛の気合と共に光の矢となったジェイダーは、狙い過たず中心核を抉り取り、
そのままゾンダーロボを貫き爆散させた。
「おのれジェイダー、次はこうはいかなくてよ!」
 ペローニアは敗北を見届けるとそう捨て台詞を残し、ビルと同化して消え去った。

 

「もう平気なのか?」「うん、ばっちり。どこも痛くないよ」
 ガスに蝕まれていたマユは、進歩した医療設備による治療の甲斐あって
すっかりもとの元気を取り戻し、浄解に臨んだ。
 取り出された核は放置されるとゾンダーとして再活動を始めてしまうため、
マユが目覚めるまでの間、ジェイアーク内部に備えられたJパワーの拘束力場発生器、
“Jケージ”によって動きを封じられていた。
『……レディーレ!』
 浄解されるのと同時に力場は解除され、核は元の人間の姿を取り戻す。
 そこではペローニアに襲われたツナギ姿の清掃員が、涙を流して感謝していた。

 

 ジェイダーはゾンダーを打ち砕き、その手に勝利を掴み取った。
だがしかし、これからゾンダリアンの策略は、さらにその卑劣さを増してくるだろう。
 戦え、負けるなソルダートJ! メガ・フュージョンせよ、キングジェイダー! 
地球の平和は君たちの肩に掛かっているのだ!!

 

 ────次回予告
 君たちに最新情報を公開しよう。
 機界四天王はジェイダー抹殺のための新たな策を繰り出してきた。
 トモロと引き離されメガ・フュージョンを封じられたソルダートJは、
囚われた子供たちを救い出すことが出来るのか?
 勇者戦艦ジェイアスカNEXT『輝ける両手』次回もこのスレッドにメガ・フュージョン承認!!

 

 これが勝利の鍵だ! 『Vフライヤー』