その夜、シンはこっそりMSデッキを訪れた。
自分があんなにやられているのに納得できないシンはプロトセイバーOSの設定を見に来たのだった。盗み見ることで対策を考えたいとかではなく、なぜ自分があんなにコテンパンにされたかを知りたいと言う純粋な好奇心からだった。
「こっちの弾はぜんぜん当たんないし、あっちが撃つ分は正確に当たるって絶対なんかあるんだ…」
とつぶやきながらコックピットに入りOSを立ち上げた。しばらくキーボードの”カチカチ”と言う音が聞こえていた。
「…げっ」
シンはつい変な驚き方をしてしまったが無理は無い。射撃および回避運動がマニュアルに設定されていたからである。
「純粋に腕の差って事かよ…」
と言うと頭を掻きながらデッキから去っていった。
数日後ミネルヴァの修理が終わり、ジブラルタルへの発進準備が整った。
相変わらずシンは進んでアムロと喋ろうとはしなかったが、訓練のときに関しては素直に言うことを聞くようになっていた。
といっても反抗しないというレベルであったがそれでもかなり関係は良好になっていたと言える。
ミネルヴァのMSはアムロ監修の元、全面的にOSの見直しがされていた。
訓練時間はそれに伴い長くなったが、ミネルヴァ隊のパイロットは数日で見違えるほど腕を上げる事に繋がった。
ミネルヴァがカーペンタリアを発進する。護衛に潜水艦、ニーラゴンゴが付く事となる。
シュミレーターで地上戦の練習中だったシン、ルナマリア、レイの三人組をアムロは後ろから指導していた。
急に鳴り響くサイレン。すぐさまメイリンのアナウンスが流れる。
「コンディションレッド発令、コンディションレッド発令、パイロットは搭乗機にて待機せよ。」
シン達はカーペンタリアから目と鼻の先であるこんな場所で攻撃を受けるとは思ってもいなかった。
急いでパイロットスーツに着替え自分の機体に乗り込み戦闘準備をする。そこにアスランも駆けつけそれぞれの機体に乗り込んだ。
「敵は地球軍、熱紋照合、ウィンダムです!数は少なくとも30!あと更にカオス、水中にアビス!」
メイリンのアナウンスが各機体に繋がる。直後にプロトセイバーにタリアから通信が入る。
「アムロ、敵は地球軍です。カーペンタリアからこんなに近くで攻撃を受けるとは正直思ってませんでした。
更に相手は先日プラントから強奪された機体を使用しています。厳しい戦いになると思いますがあの子達を頼みます。」
「了解だ、グラディス艦長。あいつらを落とさせはしない。」
と言うと通信を切り今度はMS隊に通信を切り替える。
「敵は飛行タイプが30以上、水中から一機迫っている。そこで飛行タイプに対しインパルスを中心に両脇にセイバー、プロトセイバーで防衛網をはる。もらした敵機をザクファントム、ザクウォーリアで叩いてくれ。また、水中から来る敵もザク二機に任せる。水中戦を覚悟しておけ。
潜るタイミングは判断に任せる。ミネルヴァとニーラゴンゴをやらせるなよ。以上。」
と言うとカタパルトデッキに向かった。
「プロトセイバー、アムロ行きます!」
プロトセイバーは大空へと飛び立った。
飛行できる三機は中央にインパルス、少し下がって両脇にプロトセイバー、セイバーの布陣で敵を待ち受ける。
レーダーの有効範囲にウィンダムが差し掛かった瞬間アムロはシンに指示を出す。
「シン、突っ込め!援護は俺たちでやる。上がった腕を見せてみろ!」
「了解!よーく見といてくださいよ!」
と返事するとシンはウィンダムの群れに突っ込んだ。アムロ、アスランの援護射撃もあり着実に数が減っていく。
これも訓練とOSの改修の賜物だ。たまに何機か防衛ラインを突破するがミネルヴァのデッキ上部に陣取ったザク二機が確実にこれを落としていた。
これを見ていた赤紫のウィンダム、ネオ・ロアノークは
「こいつらこの間と比べ見違えるようになってるな…逃げたいんだが…こちらも仕事でね!!」
と言うと先陣を切って突っ込んでいるインパルスに機体を向けた。同時にカオスもセイバーに向かう。
「おんなじ顔が二つも…そぉらああ!!見せてみろ力を!!この新顔ども!!」
カオスのパイロット、スティング・オークレーが叫びながらビームライフルを発射する。
空間戦闘に特化した機体同士ビームの回避と発射を高い次元で行う。お互いに一発も当たらない。
一方ネオとシンは激しいドッグファイトを繰り広げる。あがった腕でも五分五分の戦いである。
そこに大多数のウィンダムを相手にしているアムロはシンに注意を促す。
「シン、乗せられすぎだ!あまり母艦から離れすぎるんじゃない!」
互角の相手にいっぱいいっぱいの対応をしているシンにその言葉は届かなかった。
しかしネオの方も余裕ではいられず、つい対カーペンタリアに建造された基地に近づきすぎてしまい、基地をインパルスに発見されてしまった。
だが幸運なこともあった。いてもたってもいられなくなり基地を飛び出してきたガイアのパイロット、ステラ・ルーシェはネオに攻撃をしているインパルスに噛み付くように飛び掛った。
くしくも2対1になる。シンは突っ込みすぎたことに今気が付いた。
水中を猛進するアビスのパイロット、アウル・ニーダはニーラゴンゴから発進したグーンを射的の的のように楽々落としながらミネルヴァへと急速に近づいている。
だいたいウィンダムを片付けたレイとルナマリアはMSデッキに戻り各ウィザードをはずした後、バズーカを装備し水中へと飛び込んだ。
水中戦でアビスに挑むのはどのMSでも確実に不利であった。しかし母艦をやらせるわけにはいかない。
アビスに対しバズーカを発射するルナマリア。止まっているものを避けるかのように楽にアビスは回避する。
逆にスーパーキャビテーティング魚雷を肩部に打ち込まれる。勝ち目が無いと言う絶望的な状況下に置かれていることを嫌でも実感する。しかしアビスはルナマリアにとどめをさすことは無かった。
「スティング、アウル、ステラ、撤退だ!」
とネオのウィンダムから通信が入る。
「はあ?何でさ?」
とアウルは聞き返す。
「借りてきた奴らが全滅した。基地も発見されたしこれ以上ここにいるのは危険だ。」
答えるネオに対しアウルは
「な~にやってんだよ!ボケ!」
上官に対する口の聞き方とは思えない言葉を飛ばす。ネオはそんなアウルに対しても怒る事無く言い返した。
「そんなに言うなよ。おまえだってでかい獲物は落とせてないだろ?」
その言葉に過剰に反応したアウルは
「なら落としてやるよ!!」
と言いニーラゴンゴへと接近し連装砲と魚雷を打ち込んだ。しばらくの間の後、ニーラゴンゴは水しぶきをあげ海の藻屑と消えた。
シンはというと基地の建設で強制労働を強いられていた現地民を発見すると基地を破壊しつつ現地民を開放して歩いた。
一方的に行われる破壊活動と虐殺とも取れるシンの行動。しかしシンは怒りを覚えずにはいられなかった。力ないものを力あるものが虐げ、利用することに。かつて自分の家族が力ある者の犠牲になったことをシンは思いだし、彼らを助けたい、守りたいと言う衝動に強くかられていた。