数十分後、カーペンタリアから少し離れた荒野でインパルスとプロトセイバーの模擬戦が始まろうとしていた。
ビームライフルの代わりにペイント弾を発射するライフルを装備した両機。ライフル以外の装備はセーフティロックがかけられ、使用できなくなっている。シンはインパルスにフォースシルエットを装備させていた。
「これで機動性は五分のはず…いや、機動力なんて見せる前に速攻で終わらせてやる!」
と意気込むシンに対しアムロは冷静に開始の合図を待っていた。
信号弾があがり模擬戦の開始を告げる。インパルスとプロトセイバーは一旦少し距離を取った。
いきなり突っ込んでくるインパルスに対し、この世界のMSの動きを確かめるようにプロトセイバーを動かすアムロ。
確かめているといってもペイント弾はしっかりかわしている。
しかしアムロは
「なんだこのMSの回避運動プログラムは…回避運動が大きすぎる!しかもランダム回避と言いながら法則性が感じられるじゃないか!」
と不満をあらわにする。
だが模擬戦中にプログラムを変えると言うことが出来るはずも無く、マニュアル回避に切り替えた。突っ込んでくるシンに対し距離を取りたいアムロ、乗機への慣れが大きく現れていた。
アムロはプロトセイバーを少しあお向けの状態にし、スラスターを地表に向けると一気に砂煙をあげながら後方に下がった。
砂煙に突っ込んだシンはうまい具合にめくらましに遭いプロトセイバーを見失う。
「めくらまし?どこだっ!」
きょろきょろするシン、こういうときは後方を取られるとそのまま負けを意味する。シンは一旦上空に逃げプロトセイバーの姿を確認しようとするがプロトセイバーの姿は無い。
「かかった…」
と通信が入り上を見ると太陽を背にしたプロトセイバーがライフルを放つ。すんでのところでシールドで受けるシン。
プロトセイバーは変形するとインパルスとすれ違うと地表近くを飛行する。
「わざと背中を見せている?ちくしょう、余裕のつもりかよ!」
シンはプロトセイバーより少し高度で追いかけつつライフルを撃った。が、弾は一発も当たる事無く地面に吸い込まれる。
シンは当たらないことにかなり苛立っていた。
「なんだよ、なんで当たんないんだよ!!調整甘いんじゃないか?これ!」
とインパルスに八つ当たりをする。するとプロトセイバーがMSに戻りこちらを向いてペイント弾を放つ。
しかし直撃コースではない。
「当たるかよ!」
とシンは言った。シンは少し思い違いをしていた。当たらないのではない。最初から当てるつもりではなかったのだ。
「ちっ…射撃制御プログラムもろくなもんじゃない!」
アムロは射撃制御プログラムの出来を確認していたのである。
制御プログラムは射撃する際に回避行動中で無い限り、命中率を上げるため、不確定要素=他の運動を一瞬だが干渉して止めてしまう。そのため射撃の際に”ポージング”とも取れる行動が発生していた。
しかも対象からロックオンをはずすたびオートロックオンが働き集中力を乱す元となっている。アムロはその制御ソフトにも見切りをつけ、自分でねらいをつければ良いだけだ、と割り切り射撃もマニュアルに切り替えた。
何の作戦もなしにただ突っ込むだけのシンに対しアムロは確実に問題点を発見し徐々に追い詰めていく。
押されている実感からか、または打つ手がなくなってきたことへのあせりからかシンは全く周りが見えなくなっていた。
いつのまにか立場が入れ替わり追いかけられる側になっていたシンは、さっき自分がしていたように少し高い高度から打ち下ろすようにペイント弾を打ってくるプロトセイバーに対してあお向けの状態で応戦していた。
「くそっ!あたれ!あたれよっ!!」
と叫んだときだった。フォースシルエットの翼が岩に引っかかり大きくバランスを崩す。シンがまずいと思ったときにはペイント弾がインパルスの
胸部に命中した。シンはコンソールをたたくとインパルスの推力を落とし着陸しようとする。がそこにアムロから通信が入った。
「なんだ、もう終わりか?でかい口たたく割には案外負けを簡単に認めるんだな。」
シンは激昂しプロトセイバーを睨み付けると
「まだまだだ!!まだ負けてないっ!!」
と叫び再びインパルスのスラスターを吹かした。
結局30分近い模擬を終えミネルヴァに帰投する両機。MSデッキで待っていたヴィーノとヨウランが出迎える。
二機が着陸すると二人は両機に付着したペイントの数を数え始めようとする。
「ヴィーノ、おまえインパルスの数えろ。」
「数えるまでも無いよ。シンの完敗だね…」
「賭けは俺の勝ちだな…あとでジュースおごれよ」
というヨウランに対しため息をしながらヴィーノは手を上げた。
プロトセイバーにはシールドにひとつ、ほかは可動翼に少しかすったようにひとつ付着しているだけであるがインパルスは逆に着いていないところを見つけるのが難しかった。特に胸部は何重にもペイントが重なっていた。
機体から降りてくる二人。アムロはシンに
「これで納得したか?」
と聞くと返事を待たずにデッキを去った。
恐る恐るヴィーノはシンに
「何発食らったの?」
と聞くとシンは体を震わしながらかろうじて声を搾り出すように
「12発…」
と言うとヘルメットを床にたたきつけデッキを去った。