CCA-Seed_373 ◆lnWmmDoCR.氏_第23話

Last-modified: 2008-06-17 (火) 23:43:20

泣き叫ぶシンの背後にプロトセイバーから降りたアムロが近寄る。

 

「シン…」

 

その呼びかけにも答える事無くシンは泣き叫ぶ。ステラは安らかな顔のままもう表情を変えることも泣くことも笑うことも無い。
今のシンにかける言葉をアムロは知らなかった。後方からミネルヴァが接近してくるのがわかる。アムロは振り返るとそのままプロトセイバーの方へと歩いていこうとした。
何歩か歩みを進めたとき背後から砂がこすれる音がする。振り返るとシンがステラを抱きかかえたまま立ち上がりインパルスへと向かって歩き出していた。
アムロはシンに声をかけた。

 

「シン…何をする気だ?」

 

シンは力なく答える。

 

「ステラ…このままにしとくとプラントで調査とか解剖とかされるんでしょ…そんなことさせない…ステラはやっとヒトに戻れたって言ったんです。ならせめて最後だけでもヒトらしく…誰の手も届かないところで眠らせてやりたいんです。もうこれ以上傷つかないように…静かなところで…」

 

そう言うとシンはまた歩き始める。

 

「そうか…クルーには適当に言っておく。なるべく早く帰って来るんだぞ…」

 

その言葉を聞くとシンは

 

「はい…ありがとうございます…」

 

と言うとインパルスに乗り山間部へと向かっていった。アムロはプロトセイバーの近くでミネルヴァを待つ。しばらくするとデッキから数人のメカニックとアスランと共にクレーンが降り、
プロトセイバーにワイヤーを掛けるとデッキへと引っ張りあげる準備をする。アスランはアムロへと問う。

 

「シンはどうしたんですか?」
「ああ、山間部の方に地球軍が見えたと言ったんで見に行かせた。確認だけして来いと言ってな。」

 

そう返事をし、プロトセイバーと共にデッキへと登るとヨウランが走って寄ってきて声をかける。

 

「隊長!大丈夫ですか!?」
「ああ、大丈夫だ。少し頭痛がするがな。」
「それにしてもプロトセイバーが落ちたときは驚きましたよ。どうされたんですか?」
「どうもこうも…俺のミスだ。すまない。またメカニックの仕事を増やしてしまった。」
「いえ、それが守ってもらっている俺たちが唯一できることですから。」
「そういってもらえると助かる。俺も修理を手伝うからちょっと着替えてくる。」
「わかりました。お疲れのところ助かります。パーツは出して用意しておきますんで。」
「頼む。」

 

そう言うと更衣室へと向かった。アムロがデッキに再び戻ってきたころにシンが戻ってきた。誰とも会話せず、目を伏せたまま頼りない足取りで更衣室へと
向かっていく。事情を知らないルナマリア、アスランがシンにねぎらいの言葉をかけるがそれに答えることもなくデッキを去っていく。

 

「何?あれ?」

 

ルナマリアの不満が事情を知っているアムロには心無い一言と感じられた。

 

「疲れているんだ。そっとしておいてやれ。」

 

とルナマリアを諭すとすぐ作業に戻った。脚部の交換は思いのほか早く進む。頭部などさまざまなデバイスが密集する場所でないことが幸いし取り付け自体はその日のうちに終わった。あとの配線などの接続はあすへと持ち越し、デッキの照明が数日振りに落とされた。
翌日、アムロは引き続きデッキにて作業を行っている。シンとはまだ会話はしていない。どうするかと考えていたときだった。タリアから艦内放送が入る。
議長が声明を発表するとの事で各員可能な限り聞くようにと。
アムロ達がデッキにあるモニターの前へと集まったところで声明が始まった。

 
 

「皆さん、私はプラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルです…」

 

その言葉から始まる声明と共に流される映像にはミネルヴァが到着する前のベルリンの様子、つまりデストロイと共にフリーダムのみが映る。
が、フリーダムはデストロイを止めようとしているように映っているのではなくデストロイへと向けて撃ったハイマットフルバーストは映像加工により街に向かって撃たれ、陽電子リフレクターで弾かれたはずの砲撃は直接ベルリンの街に当たっているように編集されていた。それを見せた上で議長は声明を続ける。

 

「これは昨日行われたベルリンでの戦闘の様子です。まず皆さんはこの映像を見てどう思われたでしょうか。ある人は非道な行為だと、ある人は蛮行だと思われたことでしょう。その上でどうかご理解していただきたい!
まず、このベルリンの街を破壊した巨大な兵器。何の勧告もなく人々と共に三つの都市を焼き払い侵攻したこの巨大なMAと我々ザフトは防衛目的で交戦状態となりました。結果多くの犠牲を出しながらも何とか撃破することができました。
しかし!このMAは地球軍の兵器です!焼かれたのは地球の都市です!何故彼らは自らの大地を焼くことができるのでしょう!彼らはザフトの支配地域からの開放と理由付けをしました。しかしこれが開放と言えるのでしょうか!
これは虐殺です!このような行為を地球軍が平然とできる理由、それは彼らを裏から牛耳る組織、軍需産業複合体『ロゴス』の存在があるためなのです!」

 

その発表と共にモニターにはロード・ジブリール氏をはじめ、ロゴスと呼ばれる組織の名簿と顔写真が映し出される。更にデュランダルは続ける。

 

「確かに現在続いている戦争は我々コーディネータの一部の人間が起こした愚行が原因です。しかしそれに対し我々プラントはできる限りの対処を致しました。
だがロゴスはそれを好機と見るやプラントに対し核を撃ったのです!この行為をわれわれは許すわけにはいきませんでした。もう血のバレンタインのような悲しい歴史を繰り返すわけにはいかなかったからです。何故彼らは同じ事を繰り返すのか。
何故ナチュラルとコーディネータは共に望んでいるはずの手を取り合うと言うことができないのでしょうか。私はロゴスの身勝手な利己主義こそが繰り返す戦争の根源だと断言し、地球、プラント間が共に手を取るためにはまず彼らの存在をどうにかしなければならないと理解しました。
よって!ここに我々プラントはロゴスを滅ぼさんとする戦いを行うことをここに宣言致します!」

 

その声明は確実に戦争にて疲弊しきった人々の心に響いた。まさにこれ異常ないタイミングでの声明発表だった。各都市から聞こえてくるデュランダルコールはやむことがない。ロゴスさえ消せば戦争は繰り返すことはなくなると。ロゴスが我々が苦しむ原因だと、民間人の心は確実に傾いた。やむことがない声援を止めたのはまだ続くデュランダルの言葉だった。

 

「私はひとつ、皆さんに謝罪しなければならないことがあります。」

 

その言葉と共にモニターに現れるラクス・クライン。

 

「皆さんの中に彼女を知らない人は殆どいないでしょう。そうラクス・クライン。彼女は各地を転々とし、平和を願い歌い続けました。その思いは本物です。
それをどうかご理解いただいた上で聞いていただきたい。彼女の本当の名は…『ミーア・キャンベル』、ラクス・クラインではありません。」

 

その言葉は世界中を驚かせた。プラントから地球までまさに”天地がひっくり返る”様な騒ぎだった。ラクス・クラインことミーア・キャンベルが話し始める。

 

「皆さん。私の名は…ミーア・キャンベルです…。わたしのせいで世界を混乱させたこと、どんなに謝罪したところで許されるものではありません。しかし、私はこれ以上ラクス・クラインを名乗ることに疑問を感じるようになったのです!」

 

この言葉と共にまたフリーダムが映し出される。するとデュランダルが話し始めた。

 

「この街を破壊する白いMS。戦場にいた方は見たことがある方もいるかもしれません。このMSは二年前、最新鋭機としてザフトで開発されたものです。
しかしこれはザフトで使用されることとはなりませんでした。当時評議会議長だったシーゲル・クラインの令嬢、ラクス・クラインの手引きによって強奪されたからです。
この事実は今まで歴史の闇へと葬り去られていました。何故今になってその事実を発表したのか。それは今もこのMSにラクス・クラインが関わっているからなのです!」

 

映し出されるフリーダムの行為は間違いなく破壊行為である。その行為に平和の歌姫として名をはせてきたラクスが関わっているとは誰も思わない。
しかし次に出された映像、二年前フリーダムが強奪された際の監視カメラの映像が確実にラクスを映し出していた。更にこの戦争が始まってからのフリーダムの戦闘記録がさらにモニターへと映し出される。地球軍だけではなく、オーブ、ザフト、全く何の関係もなしに牙を向ける様子が延々と流され、それにはAAも一緒に映っていた。

 

「彼らは我々だけでなく、地球軍、果てにはオーブ軍にもその銃口を向けました。戦場に現れては破壊行動を行い無差別に攻撃を加える様はまさにテロリストです!
私とてテロ行為にあのラクス・クラインが関わっているとは思いたくありません。しかし彼女はここにいるミーア・キャンベルが乗るはずだったシャトルを武力にて強奪した挙句、それを停止させるべく出撃したザフトのMSをこの白いMSを使い阻止したのです!我々はもうこれ以上のテロ行為を黙って見過ごす訳にはいきません。たとえそれがラクス・クラインであろうと断固たる意思の下、テロ行為に屈しないと誓います!そして願わくば…ここにいるミーア・キャンベルを
許していただきたい。私は彼女を”私の代弁者たるラクス”として利用してきました。しかし今、彼女にラクスを名乗らせることが彼女の努力に対する最大の冒涜であると気付いたのです。
私はこの一件が済んだら評議会議長を辞任することとなるでしょう。しかし彼女は表舞台に残させていただきたい。ラクス・クラインとしてではなく、ミーア・キャンベルとして…」

 

この放送後、世界はロゴスと、ラクス一派に対し憎悪、怒りを露にした。アムロはこの放送に対し不快感を感じた。これでは辞任どころか支持率はうなぎ登りだろう。
そうまでして世界の世論を味方に着けたいのかと、デュランダルが言うことが正義だと思わせたいのかと。それが政治の世界と言うものかもしれない。しかしそれでは到底納得できるものではなかった。アムロのデュランダルへの不信感はますます大きくなる。