CCA-Seed_427◆ZSVROGNygE氏_外伝03

Last-modified: 2010-04-28 (水) 09:45:24

全くいくら情報をリークされていても、あの化け物どもの思考が読めないのでは意味がない。ロンド・ベルにあれだけ損害を受けてなお、アラスカ攻撃を繰り上げてまで実施するなど理解できない。
いずれにせよ好都合ではある。今回の戦いで、もはやプラント政府とロンド・ベルに関係の修復はないだろう。全く新しい人類が聞いてあきれる。目の前の現実に対応できなくて何が進化した種だ。最も、いま僕の目の前にいる連中も大して変わらないか。僕はそう考える。

 
 

『ムルタ・アズラエルは考える』

 
 

地球連合政府戦争主導会議で議論している馬鹿どもに目を向ける。オルバーニの能なしめ、今更あんな和平案で話が付くと思うのか。だいたい、連合外務大臣を通さず、あんな新興宗教家に外交特権を与えるなどばかげている。

 

目の前では連合外務大臣ロバート・ペティ・フィッツモーリスがイギリス人らしい洗練されたアイロニーを投げかけている。
彼はこの会議室で最も家柄がいい。かのランズダウン侯爵家当主だ。イギリス貴族院議員で、侯爵位継承前に英国閣僚を経験している。その識見を請われて連合外相に就任したが、肝心の事務総長がこれではだめだ。皮肉で処理しきれず、彼の怒りは収まらない。

 

「だいたい、その特使を送って数日もしないうちにアラスカが攻撃されている。貴方のやったことは公費を使った新興宗教の布教活動支援かね!今度のことで欧州の宗教界から総スカンだ!!我が陛下も失望している。我が国が国教会であることを知らぬとはいわせないぞ!」
「戦争勃発して1年が経過している。状況は打開しなければならない。」
「わざわざ台風が来ている時に、けんかしている相手の家に行き、改めてけんかをふっかけてくることが状況の打開とおっしゃるのか!
外務省は何もしていないわけではないのだぞ!構成国にも内諾を得ずに!これまでの交渉を全てつぶす気なのか!」

 

元々は我々ブルーコスモスにも批判的な男だ。けれども今時大戦のエイプリルフール・クライシス以後は対プラント穏健派から、強硬派とまではいかないが、プラントに対して批判的な立場になり、表だって我々に文句は付けてこない。
そのこともあり、これまで彼とはうまくやってくることができた。欧州にも強固な人脈がある立場の彼だからこそ、大西洋連邦とユーラシアや関係諸国をうまくまとめていた。彼は外交調整能力に自負がある。プライドの高いイギリス人らしい。だからこそ、だろうな。彼の怒りの矛先は軍部へも向かう。

 

「それだけではない!軍部はどういうつもりだ!わざわざユーラシア連邦所属部隊を中心にアラスカに残留させ、敵を中心部に誘い込んでおいて自爆させるとは!」
「自爆は機密保持上の問題だ。そもそもあの戦力で、ザフトの侵攻部隊を80%も撃破できたのは、彼らがあそこまで奮戦して、敵を引き込んでくれたからだ。
無駄死にではない。それにロフトツェフ少将は戦線が維持できなくなった段階で離脱の指示を出している。」

 

ハワード・ジェファソン連合軍参謀本部総長が淡々と答える。

 

「そのロストツェフ少将の指示などなければ、もっと悲劇を演出できたのではないかね?おまけに君たちの素晴らしい自爆計画の全容は、すべて生き残ったアンリ・ブリアン中佐が暴露してしまったではないか。貴様らの下らない対立感情で連合をつぶす気かね!!今回の件でユーラシアは連合を離脱するかもしれないのだぞ!」
「くだらない対立感情とおっしゃるが、先日のアルテミスと旧ヘリオポリス周辺ではびこる海賊掃討作戦は宇宙軍で対立なく処理できたではないか。」

 

国防相のヴァン・トソンだ。なんと意味のない意見を言う。反撃されるのは目に見えている。我々からリベートを取ることしか能がない男だが、都合のいいコマであることは確かだ。
しかも未だに出身国である大西洋連邦と連合を同一視しているため、軍内部でも連邦以外の構成国出身の軍人にも評判が悪い。馬鹿なことを言い過ぎて失脚されても困るな。いや、これは次を考えた方がいいかもしれないな。アジテーターとしては悪くない男なのだけど。

 

「2ヶ月前とは状況が違う!だいたいそのときに、大西洋連邦がアルテミス周辺平定に戦力を出すことに渋っていたことを説得すらしなかったくせに何を言うか。それを説き伏せ、ヘリオポリスの復旧を援助すると言ってオーブとも協調して治安を回復させたのは、外務省の調整であることを忘れてもらっては困る。」

 

言わん事じゃない。

 

「ふん、遊撃戦力として貴重なビラードの第7艦隊をそうそう簡単に投入できるか。」
「出し渋りでコロニー周辺が無法地帯になったことを忘れたのかね。おかげでどれだけ工業力が低下し、難民問題がそこらで起きたと思っているのだ!!なんのための宇宙艦隊だ!!」
「侯爵、落ち着いて欲しい。ユーラシアの意見調整については、貴方次第だ。頑張って欲しい。」

 

オルバーニが仲裁する。バカめ、おまえの無能でこの会議をまとめられないから紛糾しているのだ。

 

「現に昨日の連合国首脳会議に、ユーラシアのデスタン首相並びにゴイセン外相は欠席しているのです!!これを調整するのは並大抵の問題ではない!スカンジナヴィアと同調されたらどうする。また我が祖国でも不満の声は大きい。カウボーイにデカい顔をされすぎているとね。もちろん私はいま連合政府の閣僚であるから、某氏のように出身地域に肩入れなどしませんが。」

 

あからさまなイヤミを投げかける。場合によっては、この男を事務総長にしてもいい。けれども彼では我々のコントロールを無視するだろう。御しやすいとはいえない。僕はそう考える。

 

目の前で行われる論争から視線を外して時計に目をやる。それにしても頭が痛い。ロンド・ベルを取り込むことに、より手間がかかることになってしまった。連中は警戒しているだろう。ブライト司令は誠実な人間だ。ああいった男は今回の作戦に良い顔はしない。情報をリークしたから、僕個人に対しては一定の信頼を置いてくれるだろう。
けれども元々からして好意的でないブルーコスモスを、さらに警戒する事は疑いない。なにせあのハルバートンが生き残り、オーブへ戻るのだ。死に損ないと空想家のアスハが馬鹿なことを吹き込むだろう。鵜呑みにすることはないだろうが、すべからく慎重になるだろうから、やりにくくなる。

 

本当ならすぐにもオーブへ向かいたいところだが、今回の騒ぎで連合構成国への工作に時間がかかるだろう。
宗教界にも工作しないといけない。明日には教皇庁と国際ウラマー連盟に特使を出して、こちらに引きずり込まなければならない。特に現教皇ウルバヌス9世はカトリックでもかなりの保守派だ。味方にしておきたい。
政治的にはランズダウン侯が何とかするだろうが、それとは別に我らブルーコスモスに対して友好的であってもらう必要がある。カトリックの影響度は無視できるものではない。それにジブリールら足下の過激派を押さえなければならない。
馬鹿どもが、化け物を殺すのは異存ないが、そのために戦後に我々が余計な苦労を背負い込むわけにはいかない。ビジネスは損失と利益も考えなければならないことを理解できていない。気違いどもめ。化け物退治をした後で自分たちの世界を失わせる気か。

 

だいたい今ジェノサイドすれば、気持ちは晴れるが、その後で深刻な経済不況が来ることは目に見えている。
我々は当面のところ連中を奴隷にでもすればいいのだ。そして種としての存続を許さなければいい。どのみち出産率は少ないのだ。
連中は婚姻統制しているそうだから、関係資料を押さえて、絶対に生まれる要素をなくせばいい。徐々に始末していけばいいのだ。あれを生体部品か何かと考えれば気分もいい。部品だとすれば腹もたたないだろう。重要なことはあいつらが人類にとって『新種』でないということをわからせることだ。僕はそう考える。

 

目の前では侯爵は冷静さを取り戻しつつある。

 

「ともかく、事務総長には外交問題については我々外務省と緊密に相談して頂きたい。明日からの議会も乗り切れませんぞ。」
「わかった。」
「国防相も軍部をしっかり監督して頂きたい。
戦時とはいえ軍部をコントロールできないのであれば、なんのためにわざわざ各国政府軍を制服や兵器を統一化して、統括する役所を連合政府に創設したのか。
またシビリアンコントロールの観点からも、軍部の意向が強くなることは望ましいことではない。」
「当然だ。」

 

会議は収束へ向かっている。もっともあまり明確な方針など決まらないだろう。事務総長がそういったことができる男なら、戦局はここまで泥沼になどならなかった。ジャンク屋組合を容認させるなど、海賊の横行を許したようなものだ。武器の民間への流出は、僕の商売にも影響がひどい。
やはりこいつは排除すべきかもしれない。どうにもこの事務総長は有害になりつつある。こんな無能者が政権を維持できたのは、エイプリルフール・クライシスのおかげで世論が主戦論を支持しているからだ。全く奴らも馬鹿なことをしたものだ。モンスターの思考は理解できない。

 

侯爵閣下がこうも吠えるのは、戦争拡大によって外務省の立場をしっかりとしておきたいのだろう。だいたい仮に連合が分裂すると一番間抜けのうえに、非難の的になるのが外務省だ。

 

再び時計を見やる。僕にとって最も重要な案件である、ロンド・ベルについて考える。アークエンジェルクルーの証言によれば、例のMSは核融合エンジンだという。真実であれば、それを手に入れることは今時大戦の勝利に繋がる。なにしろエネルギー問題は解決するのだ。それに連中のMS技術は単なる技術ではない。ナチュラルが作ったという事実は、我々にとっておおきな希望となる。

 

彼らをどのように取り込むべきだろうか。やはり住むべき土地を与えて味方に付ければいい。連中は根無し草なのだ。だから永遠に彷徨うことはできないだろう。コロニー1基与える事を条件に連合構成国にでもすればいい。理想としてはノウハウを持つ人員も含めて取り込みたいが、まずは核融合関連技術だ。軍事技術は次でいい。技術を学んだとしても優先順位はまず電力だ。

 

それに彼らを連合に参加させることは、政治的にも大きな意味を持つ。コーディネーターが万能でも、絶対でもないと言うことを彼らは証明してくれる。そのことが僕らにとって希望なのだ。彼らこそ異世界よりわれらの世界に降り立ったメシアであり、新しい種だといえよう。僕が彼らを武力で取り込まないのは、そのためなのだ。ジブリールの愚か者はその辺りが理解できないらしい。教条主義者は嫌いだ。後先を考えないから。
人類が今後も生き続けるのだから、今後も生じる旨みや痛みを整理し対応する準備をしなければならない。あの愚か者にはわからないだろう。このさき場合によっては子飼いの連中以外の連中を味方に付けなければならないかもしれないな。声の大きい奴の意見は、困ったことに支持が集まりやすい。それにタイミングを誤るわけにはいかない。

 

「幸い、主力部隊はパナマにいる。連合政府の方針としては、パナマの戦力を基点にヴィクトリアとカオシュンの奪回を行うことでよかろう。」

 

会議の後で侯爵と話す必要があるな。僕はそう考える。話はそれからだ。ところが、僕の計画は、この会議の12時間後にパナマが陥落したことで、再び検討し直さなければいけなくなった。
正直砂時計に住む連中の考えが理解できない。化け物どもめ。ともかくランズダウン侯へ電話を繋ぐことにした。なんとしても、ロンド・ベルを取り込まなければならない。

 
 

『ムルタ・アズラエルは考える』end.