CCA-Seed_427◆ZSVROGNygE氏_外伝04

Last-modified: 2010-04-28 (水) 09:46:01
 

ウズミ前首長、いやまもなく代表首長に再任されるが、あの方の行動には困ったものだ。コロニーを供与するだと。
いくら首長の権限が強大であろうが、国家の財で建造したコロニーをまるまる譲渡するなど、ばかげている。
ようやっと修復が完了しつつあるヘリオポリスを与えるなどという言葉を、ほとんど一存で発するなど正気とは思えないな。もっともこの国はそれができる国家なのだ。

 
 

『ユウナの野望―政治風雲録―』

 
 

僕はいまロンド・ベル旗艦ラー・カイラムのMSデッキでパーティーに参加している。艦隊の修復祝いとロンド・ベルに残留した面々の歓迎会だ。またゲストとして司令の友人アスカ家の面々も来ている。アラスカから戻ってからこの3週間というもの、ロンド・ベル側も部隊の再編成におわれていた。そのためにコロニー割譲案件は両国で正式な結論には至っていない。

 

僕は静かに飲みたいと語る艦隊法務官のコンラッド・モリス中佐と別の艦、ラー・キェムで機動部隊を指揮するエリアルド・ハンター大尉と隅で静かに酒を飲んでいる。この2人は約20年という長い付き合いの友人らしい。何でもハンター大尉が無実の罪を着せられた裁判で、中佐が果敢に弁護して無罪を勝ち取ったそうだ。但しその一件が昇進をだいぶ遅らせたうえに左遷されたと自嘲している。ハンター大尉はモリス中佐の実戦部隊赴任を聞き、再び前線勤務に戻ってくることを希望したそうだ。

 

もちろん中佐はハンター大尉を弁護したことに全く後悔はなく、むしろ自分の生涯で最も誇らしいことだったと自負している。と、だんだん裁判の話を聞いてもないのに話し始めたので、どうしたかと思ったら、中佐は既にウィスキーボトル3本を1人で開けていた。確か昨日も艦長会議が紛糾したと聞く。そのストレスだろう。ブライト司令には負けるが、彼も苦労人だ。ストレスも多いだろうな。

 

僕から見ても、この部隊は良くも悪くも風紀を遵守する人少ないもの。正直あまり興味ない話に、このまま付き合うのは勘弁して欲しい。逃げだそうと思った。どうやらハンター大尉も同じ気持ちのようだ。酒ではないことが原因で、顔が青い。また始まったという顔をしている。

 

「初めて飲む人には最近大抵この話をしているんです。」

 

と、ハンター大尉の弁だ。困ったなぁ。向こうに目をやると、我が婚約者のカガリがMSに乗り込もうとしていたので、その話題に参加しようとして僕とハンター大尉は慌ててそこへと向かった。
中佐はハンター大尉の部下アンリ・ド・シール中尉を引き留めて、絡んでいる。たちが悪いな。ちなみに中尉は士官学校でハンター大尉の指導を受けていたそうだ。彼は捨てられた子犬のような表情をしていたが無視することにした。だってそんな目をしても男だもん。助ける気など起きるものか。

 

歩きながら、艦長会議で話し合われたであろう話題を想像してみる。間違いなくコロニー譲渡の件だろう。
確かにばかげている提案である。最も、ヘリオポリスの再建事業自体がアスハ家の私的な国費流用と批判もされている。

 

それというのも、コロニーの喪失でオーブの宇宙拠点は、アメノミシハラのみとなったのであるが、そこはサハク家の影響力が非常に強い場所なのだ。
そのため前代表は宇宙関連の軍事技術にアスハ家の影響力を確保したいがために、コロニーを再建させたのではないかと首長間や議会ではささやかれている。

 

もちろん建前は崩壊によって難民化した1000万人も臣民を早急に元の状態に戻すというものではある。何せ本国にそれほど居住スペースはないのだ。そのために我が政府は、連合と共同で海賊が跋扈したアルテミス周辺宙域を平定すべく艦隊まで派遣したのだ。

 

そのうえでこの数ヶ月の間、急ピッチで再建、事実上は新造させてきたコロニーである。そのコロニーを譲渡してまで、前代表閣下はそうまでしても彼らをオーブの影響下に取り込もうというのか。その気持ちはわかる。裏は取れていないし、本人たちには未確認だが、連合ルートからロンド・ベルのMS動力は核融合炉が使われている可能性があるという情報がある。

 

おそらく連合の軍部やブルーコスモスにパイプの少ないウズミ閣下は知らないだろう。だが薄々知っているのかもしれない、武官のソガはアスハ寄りだ、僕に知らせず何かつかんでいるのかもしれない。またアズラエルとパイプを持つサハク兄妹も知っていそうだ。僕はその話を聞いてむしろ納得している。少なくとも数度に渡って彼らの戦いぶりを間近で見た僕にだって、オーバーテクロノジーが用いられているだろうことは容易に想像が付くというものだ。仮にウズミ前代表の狙いが、全技術の吸収だけでなく、ロンド・ベルに土地を与えた上で彼らに主体性を求めるのであれば、とんだ空想家だ。本来は全技術を吸収した上で取り込むべきなのである。

 

もちろん僕にとっても、ロンド・ベルの取り込みはオーブが生き残るために不可欠な事柄であると思う。というのも、パナマ陥落からしばらくして、残りのマスドライバー欲しさに連合のお歴々は圧力をかけ始めてきた。

 

ロンド・ベルはそうした圧力をはねのける材料になり得ると思う。そもそも、すぐさま圧力がなかったのは、ひとえに連合内部での混乱が原因だ。僕の見るところ、事務総長のオルバーニはそう遠くない未来に辞任させられるだろう。

 

だいたい連合政府の危うさは戦争開始直後から内外に危惧されていた。連合の国防相ポストを一年置きに各国家の国防相に持ち回りにさせるなど、どうかしている。大西洋連邦とユーラシア連邦の対立感情と他の国の警戒から執られた措置だが、前年はユーラシア連邦の国防相が兼務して、今年は大西洋連邦の国防相が兼務しているので、本来懸念された問題の解決に何ら寄与していない。むしろ両国の罵り合いに貢献している。僕のパパである宰相ウナト・ロマ・セイランはそれを知っているからこそ、前代表の現状の中立策を支持してきた。ところが先日のロンド・ベルとの会見で前代表閣下は主体的に動きたいなどと言い出した。だからパパはウズミ前代表の新方針に反発してかなりやり合っている。

 

確かに調停と言うが、ぼくの見たところ、パトリック・ザラ氏がプラント最高評議会議長に在任している間は中々難しいと思う。アラスカで戦力を喪失してすぐに、プラント政府はいわゆる大本営発表をしている。大西洋連邦の発表は出鱈目で、サイクロプスの自爆には1割程度しか巻き込まれていないと述べている。
コロニーのような閉鎖社会だと情報操作も易しかろう。けれどもコーディネーターたちは疑問に思わないのだろうか。思わないのであれば、新しい人類を名乗るのはおこがましいと、ブルーコスモスでなくとも感じるな。

 

そのブルーコスモスの動向も注意すべき状況だ。どうやらコーディネーター排除の方法を巡り、急進派と漸進派で対立が生じているらしい。複数の情報筋からのネタだから間違いない。簡単にいえば、今時大戦を使い自分たちが損してでもジェノサイドを行えというロード・ジブリールの一派と、忌々しい奴らのために損してまで排除することはない、戦争の勝利を持ってコーディネーターを隷属化させよという、ムルタ・アズラエルの一派で揉めているらしい。裏は取っていないが、アズラエル氏のこの方針はロンド・ベルの存在が影響を与えているらしい。連合がオーブへ圧力を直接的に掛けてきていないのは、連合外相のランズダウン侯とアズラエル氏が工作した結果だ。

 

一方で軍部のジェファソン元帥とジブリール氏が巻き返しを図っているらしいから、楽観はできない。そのような状況で如何にしてオーブは主体性を発揮して行動できるのだろうか。
僕は怪しいと思う。両国がもう少し国力が低下しないと難しいだろう。マスドライバーによる地球からの支援が途絶えたとはいえ、補給の方法は別途あるし、連合宇宙艦隊は再編された7個艦隊が健在なのだ。

 

カガリのところに着くと、アムロ・レイ中佐とレーン・エイム中尉などのパイロット連中やアークエンジェルの少年少女がいた。ジェガンのコクピットからカガリが出てくる。

 

「面白いぞ、ユウナ!!戦闘の結果からシミュレーションを作成出来るんだ!!2機撃墜したぞ!!」

 

全く呑気なものだ。この純粋さは魅力的だとは思う。もう少し髪は長い方がいいけどね。
なるほど参加前に身体検査を受けたのはこういうことか。こういう形で情報を小出しにするのだろうか。
少し考えすぎかもしれない。カガリに対しては、だが。ロンド兄妹はうらやましがるだろう。今回の会食には所用があったために参加できなかったそうだ。

 

「おまえもやってみるか?」

 

僕は遠慮した。戦場で戦うことは僕の役割ではない。そりゃあ王族として軍の経験も踏んだが指揮官としてであって、兵卒がやるようなことではない。

 

「よし、次はシン君だ。容赦しないぜ。」
「はい!!」

 

レーン・エイム中尉が、期待で目を輝かせているシン・アスカという少年をジェガンのコクピットに乗り込ませ、シミュレーションを体験させている。MSはすごいと思うが僕の趣味ではない。ぼんやり眺める僕にアムロ・レイ中佐が声を掛けてきた。

 

「せっかくですから、体験されてもいいのではないですか?」
「いや、好意はありがたいけど、好きな女の子の前で恥をかきたくない。」

 

シン君とトール・ケーニヒと盛り上がるカガリを見やる。

 

「ああ、そういう感情はわかります。」

 

アムロ中佐は納得してくれた。

 

「そうでしょう。どうせ乗るのであれば、女性に乗りたいと思う。」
「MSも同じですよ。優しく扱うことが重要です。」
「アムロ中佐はプレイボーイでいらっしゃる。」
「あなたも、若いのに女性を喜ばせようとする話術はあるようですね。」

 

中佐もお酒のせいか、多少言葉が軽い。もしかしたら元々女性に優しいのかもしれない。僕は中佐と別れて料理を取りにいくことにした。
カガリはMSにお熱で、僕が離れていくことに気付いてくれなかった。政略結婚ではあるが、可愛い女の子であるから僕には異存ない。
性格の不一致など後でどうにでもなるさ。

 

歩きながら再び思考を巡らす。近況で気になるのは、ユーラシア連邦と大西洋連邦の英国の動きだ。先のアラスカで大西洋連邦、つまるところ旧合衆国の動きに距離を置きたがっている。元々英国は潜在的に反新大陸なのだ。それを再構築戦争で、すったもんだのあげくに連邦を構成することになった地域だ。当時の指導者は歴史的な連合と喧伝していたが、当時から独立戦争の仕返しとか、逆占領と揶揄されていた。

 

ついでに言えばカナダ地区とて、どう動くかわからない。元々アメリカと独立を共にしたくなかった連中が残ったような地域にとって、旧合衆国がでかい面をするのを面白く思うわけがない。南米合衆国も同様だ。しかも南米は最近武力併合されているため、不満は爆発寸前だろう。

 

そしてユーラシアだ。元来、旧EU圏はロシア以東をタタールと馬鹿にする傾向があり、旧ロシアと仲が悪い。そうした対立を乗り越え成立しているのは、実のところ大西洋連邦と対等な勢力を欧州とロシアが求めたところにある。潜在的には反大西洋連邦なのだ。

 

それがアラスカの一件で大西洋連邦に対する不満を爆発させようとしている。場合によっては、連合を離脱する可能性が出てきているのだ。ここまで分裂を回避できたのは、ブルーコスモスの欧州出身者やランズダウン侯やユーラシアのゴイセン外相の努力に他ならない。

 

今回の件がさらに批判される結果になったのは、ユーラシアを身代わりにしてザフト戦力を削っておきながら、パナマが陥落したからである。さらにはユーラシア内部でもアラスカ駐留軍が地理的な事情から旧ロシア出身者が多いことに、ロシアではEU圏への疑心暗鬼が生じている。この辺りは連合の参謀本部が狙って行ったのかもしれない。いずれにせよ、地球連合は足並みを乱している。その隙を突きオーブ政府は反大西洋連邦勢力を援助することで、自国への圧力をそらさねばならないのだ。

 

料理を取りに来たら、機動部隊大隊長のアーネスト・ソートン中佐がピンクのエプロンを着けていた。料理が趣味なのだろう。だがその体格にそのエプロンは似合わない。炊飯長のマサカズ・タムラ大尉と並んで料理をその場で作っている。この炊飯長は、父親もブライト司令の船に乗艦していたそうだ。またその名前と料理に対する情熱から料理狂四郎というあだ名があるが、僕にはその由来がさっぱりわからない。

 

その脇でマユ・アスカというアスカ家の少女が料理を学んでいる。お兄ちゃんに食べさせたいそうだ。うらやましい奴だ。僕はシン君にイラッと来た。さらに隣では、ディアッカ・エルスマンというザフト兵が炒飯を作っている。なんでザフト兵がいるのかと思ったが、捕虜扱いというわけでもないし、ロンド・ベルの判断だからしょうがない。おそらくザフトとのパイプを想定して厚遇しているのだろう。しかし、食べてみたらやたらうまいから困る。

 

僕は司令を捜して見渡す。整備員たちが合唱していたり、乗員同士の交流が楽しげに行われたりしている。
その中でアラスカから参加した艦長たちと談笑しているブライト司令を見つけた。
早速そこへと向かおうとしたが、後ろから声を掛けられたので、振り向くとハルバートン提督が立っていた。

 

「弁務官閣下は楽しんでおられますか。」

 

彼は再編されたロンド・ベルで准将の扱いになり、水上艦隊を統括する副司令という立場になった。彼の処遇には頭を悩ませただろう。

 

「ええ、料理と酒がおいしい会を不満に思ったことはありませんよ。」
「なるほど、で弁務官殿は司令に御用かな?」
「もちろんですよ。会食は相互理解の場ですからね。」
「若さに似合わず野心的だな。弁務官殿は。」
「野心と言うからよろしくない。大志といっていただきたいな。僕のような年代で政治に携われば情熱的になります。」
「なるほど、それでその情熱はどこへ向かいますかな?」
「当然、自国の繁栄ですよ。では失礼。」

 

さて、これからが大変だ。僕は宰相セイラン家の嫡男なんだ。やってやるさ。今時大戦でうまく立ち回れば、オーブはより大国にのし上がれる。そしてその中でロンド・ベルをうまく取り扱えば、僕の国内での評価は上がる。それは僕が国を動かす地位に就くうえでおおきな政治的な基盤となるのだ。アスハでもサハクでもない。カガリに政治的経験はないし、ロンド兄妹は軍事力に傾倒しすぎだ。文民や臣民の支持は得られまい。

 

アスハ家と婚姻を結び、政治のなんたるかを学びつつある僕こそが、現実にオーブを導いていけるのだ。そのため手段として、ロンド・ベルは今後もオーブに居候させた方が我が国には都合いい。この点はサハク家と同じ意見だ。ブライト司令と話して、コロニー譲渡案を拒絶させるように持って行かなければならない。彼は手強い相手だ。僕はお酒を飲み、緊張を落ち着かせて司令の下へと向かう。

 
 

『ユウナの野望―政治風雲録―』end.