CCA-Seed_427◆ZSVROGNygE氏_外伝10

Last-modified: 2010-07-19 (月) 15:51:29
 

「閣下は私がこの件を父に話すことを想定されないのですか?」
「君を成人男性として見ている。件の一件での行動は単なる人形ではないように感じたのだけれど、
 私の買いかぶりかな。このままでいい訳があるまい」

 

俺は、プラントを守りたいと思ってこの戦争に参加した。それなのに何故こんな事になったのだろう。
父は、もう戻れない道を突き進んではいないだろうか。
拡大ユーラシア連邦からの交渉提案を事実上黙殺し、ロンド・ベル、いやロンデニオン共和国との交渉が
あのような結末を迎えながら、具体的な対策が取れずにいる。
かといってラクスを支持する気にはなれない。彼女の思いはよくわかる。けれども、周りの大人に利用されてはいないだろうか。いや、俺も大して変わらない。今まさに担がれようとしているのだから。

 
 

失いし世界を持つものたち外伝・10
「アスランと父と呪われし歌姫」

 
 

この数日、父親に対して言い様のない気持ちに駆られていたので、しばらく戻れなかった母の墓前に向かった。父は国内的に先の件に関する情報統制を試みた。
けれどもアンドリュー・バルトフェルド隊長の人脈だろうか。そのもくろみは失敗し、マスコミを敵に回したために批判の矢面に立っている。
見事とも言うべきはラクス・クラインの国外逃亡の件等、法律上怪しい部分を有耶無耶にしたことだろう。疑うものがいないわけではないが、真相は不明なので追求しようがないと言うところだ。
所詮ネットで多少騒がれたところで、黙殺すればたいした問題ではないだろう。真偽不明の問題など、ネットに流したところで感情的な人間が過剰に反応するだけに過ぎない。

 

俺は母の墓前で、父のことや、キラのこと、そしてロンド・ベルとのわずかな交流に思いを馳せる。父親がますます視野狭窄になっていく様を目の当たりにして、俺自身はどうすべきか。
諫めたところで変わる父ではない。母が亡くなってからは、特に親子として向き合うことなどない。だが、俺の父はまだ生きている。生きている相手であればけんかは出来る。
奇妙な一夜を共有した、あのおてんば娘、カガリ・ユラの言葉が胸に響く。彼女とロンデニオンで別れるときに言われたのだ。

 

「なぁ、おまえの親父さん、説得出来ないのか?」
「・・・今の父が、俺の意見を受け入れてくれるとは思えないな。
 父は、何かにとりつかれているように行動している」
「でも、まだ生きているんだろ?」

 

いつもの彼女とは違う儚げさがそこにはあった。俺は少し驚いた。

 

「カガリ・・・」
「生きているなら話せるさ」

 

俺は、父親を失ったばかりなのに、気丈に振る舞う彼女を見て胸の鼓動が高まるのを感じた。
不謹慎だけど、ラクスと初めてキスしたときに感じたような、そんな気持ちが湧き起こった。
例え意見が違っても、ぶつけることで対話が出来るだけ良いと。目の前で父親を失った人間の言葉は重い。
いずれ父と話してみようと思う。いや、話すべきなのだ。
母さん、父上が母さんを失ってからはじめて、父なりに母さんを大切に思っていたという事を知ったよ。
だけど、今の父は危うさを感じるんだ、だから話してみるよ。穏やかな風は母の後押しだろうか。

 

そしてキラのことを思う。そしてあいつに大きな影響を与えた足つきとロンド・ベルに対しても、思いを巡らす。
あの内気なキラが、自分の意志で戦争と関わっていこうとしている。キラとは、多くの時間を共有することが出来た。
俺が所在ないという事もあったけれども、決して無駄な時間ではなかったと思う。

 

「アスラン、僕は人を殺してしまったんだ。たくさんね。しかも顔も合わせたような人でさえ・・・。
 だから、責任があると思うんだ」
「キラ・・・」
「僕はここまでこの戦争に関わってしまった。
 ラクスの言うようにじゃないけど、戦争を終わらせるために些細なことでも、何かしたいと思う。
 でも僕ひとりが自分勝手に行動しても意味がないんだ。
 だから、具体的に何をすべきかを、アムロさんやムウさん、マリューさん、
 そしてブライト司令達と歩いていきたいと思うんだ。
 僕は、あの人たちからもっと学びたい」

 

しっかりと俺を見据えて言う。全くこういうところは変わっていない。

 

「決めたんだな・・・」
「うん」
「おまえは強情だからな。わかったよ、
 そういうところも含めて変わっていないと言うことがわかって嬉しかったよ。
 忘れないで欲しい、俺とおまえは立場こそ違うけど、戦う理由はない。 
 だから、おまえとまた戦うことがないことを願っている」
「僕もだよ、アスラン」

 
 

本当にあいつとはもう戦いたくない。だけど、このままでは再びロンド・ベルト戦うことになるだろう。どうすればいいのだろうか。
ブライト司令やアムロ中佐たちは、積極的にプラントと事を構える気がなかった。これは半月ほどの付き合いでしかないが、そう信頼をさせる何かが彼らにはあった。
ブライト司令やアムロ中佐とたまたまコーヒーを飲んだときにかわした会話が印象深い。

 

「我々はこの世界に積極的に関わるつもりはなかった。だが現実はこんなものさ」
「そうだな、何もかもうまくいくとは限らないさ。君もそうだろう?アスラン・ザラ」
「それは、そうですね」

 

思わず苦笑いする。それこそ足つきこと、アークエンジェルとの戦いで最もうまくいかなかった原因とこうしてコーヒーを飲むことになるとは思わなかった。

 

「それにしても、君とはこう話す機会もなかったな」
「そうですね、ですがおふたりはお忙しいでしょう」

 

ブライト司令は自嘲気味に肩をすくめる。不本意さと哀愁がにじみ出ている。どうしたらこんな雰囲気を出せるのだろう。
キラに言わせると俺もひたすら重たい雰囲気を醸し出していると言うが、この人には勝てないと思う。アムロ中佐がコーヒーカップを揺らしながら答える。

 

「そうだな、だがキラとはじっくり話せたんだろう?」
「ええ、時間はありましたから。それにあいつの今の友達とも」
「そうか、こういう機会は逃すと一生後悔するからな」

 

ブライト司令が、コーヒーに口を付けながらアムロ中佐の話を聞いている。

 

「それにキラの話を聞く限りだが、プラントは一応、むやみに戦火を拡大する気もないんだろ?」
「それはそうです。地球側が独立さえ認めてくれれば、そして血のヴァレンタインのようなことを
 してこないというのであれば、戦う理由はありません」
「君はそうだろう。だがプラントの人々はどうかな?
 戦場を知らずに結果だけしか見ていない大衆は、時に見誤る。
 ニコルにも聞いたが、プラント国内は血のヴァレンタイン以後ほとんど被害がないのだろう?
 大衆は時として、血気盛んな戦争狂の軍人よりもたちが悪いさ」

 

それには共感を覚えた。ラクスを救出した後、戦場から戻って実感したのは、本国と前線の温度差である。
オーブでも感じたけれども、穏やかすぎる日常に違和感を覚えたのだ。
出口の見えない戦争、そして親友と殺しあうことになった現実が、プラントの日常をあまりにも偽物のように感じさせた。

 

ただ、カガリとの会話を経ると、そうした行為が迫り来る危機の中で、日常であろうとする姿勢であるという事を知り、そういうことが決して悪いことではないと思うようにはなったが。
けれども、アムロ中佐の言うような連中がいたことも事実だ。日常の中で一部は抗戦論や主戦論を大声で叫んでいる。
ニコルのような世代を前線に送っておいて、何を偉そうに叫んでいるのだと、反発さえ覚えた。
父でさえ、コーディネイター優位を唱えながらも戦争自体は早期終結を模索していたというのに。
もっとも、俺に何が出来るというわけでもない。
そして、その会話をした当時はクライン前議長がそうした風潮に異論を唱えていたから、バランスが取れていると思っていた。そう、あの方が暗殺されるまでは。
でも俺には何が出来るのだろうか。その時には明確に答えることが出来なかった。

 

「アムロさんの言うことはわかりますが、自分にはどうにか出来る話ではないです。
 実際にクライン議長がそうした風潮に対して行動されています。プラントは独裁国家じゃないですから」
「戦時中の国家なんて、独裁じゃないといっても苛烈になるものさ」

 

アムロ中佐が皮肉な笑みを浮かべて肩をすくめる。それをブライト司令がたしなめる。

 

「アムロ、あんまりいじめるな。だいたい、おまえは終戦工作でもしたいのか?そいつは立派な介入だぞ」
「茶化すなよ。俺はこれでもアスランとは何度か戦った相手だ。
 だから興味があったのさ、色々考えている事とかを、な」

 

アムロさんの言いように、俺は彼に対する信頼感を抱いた。この人は正しい見方でものを理解しようとしている。
そう思わせる雰囲気があったのだ。もっと話してみたいと思い、キラとの会話を要点をまとめて話した。そこには自分の思いもあったからだ。

 

「そうか、キラがな・・・」

 

アムロ中佐は、少し感慨深げだ。俺の意見そのものにも頷いていたが、キラの考えを間接的に聞いたことに思うところがあったようだ。

 

「彼もいつまでも少年ではないという事かもしれないな、だが・・・」

 

ブライト司令も同様だったが苦笑して付け加えた。

 

「勘違いしてもらいたくないが、基本的に我々は生存権の確保のためにしか動かないつもりだ。
 今後はさらにそういう活動が苦しくなることも理解している。
 そのなかでキラが何かしたいといと思うのは自由だ。
この世界の人間だからな。だが、我々は事情が異なる。そこは信頼して欲しいな」
「ブライト、いくら何でも心配性に過ぎる。そういうところがジャパニーズ・オトッチャンなんだよ」
「フン」

 

あの人達は、自分たちの世界へと帰る算段を立てたいだけなのだ。にもかかわらず、クルーゼ隊長はあのようなことをしてしまった。
俺はあの一件以来、あの人が信用出来なくなっている。もちろん、そんな素振りは見せていない、はずだ。
こんどの問題は、今後の外交にも大きな影響を及ぼすだろう。実際にロンデニオン共和国は拡大ユーラシアと同盟を締結した。
これはとりもなおさず、ロンデニオンのオーバーテクノロジーが地球に流れることを意味している。
もし、あのときクルーゼ隊長があんな事をしなければ、同盟締結にまでは至らなかったのではないだろうか。

 

ともかく、まずは父と話してみよう。食事はこれまでもしてきたじゃないか。開戦してからは、あまり気持ちのよい会話をしてきていないけれど。
それでも、俺にも出来ることはあるはずだ。まずは今の父の考えが知りたい。国内向けのプロパガンダではなく、その意図を知らなければならない。
もし、父が戻れない道へと進もうとしているのであれば、息子として止めなければいけないと思う。
この戦争はあくまでコーディネイターが迫害されない世界の確保、つまりプラント独立のために行わなければならないはずだ。
2度とユニウス・セブンのような、母のような悲劇を起こしてはならない。父もそう考えてきたはずなのだ。だから#br、この戦いを見誤ろうとしているのであれば、止めなければならない。

俺はその決意をここで、母さんの前でしたかった。俺たち親子は、母さんの死が大きく変えたと思うから。少なくとも、俺は間違いなくそうだった。

 

俺はそう決意して、母の墓前を後にした。

 

※※※

 

出口には、予想もしない人物が立っていた。外交委員長のアイリーン・カナーバ女史が待ち構えていたのだ。

 

「やぁ、アスラン・ザラくん」
「外務委員長閣下!それに、ハーネンフース前大使?」

 

車の運転席から、前大使は無言で頷く。彼はオーブ大使解職後、外務委員会の無任所参事官だったはず。いったいどうしたというのだ。外相が口を開く。

 

「私とドライブをしないか、夕食もごちそうしよう。年上とのデートは不満かな?」
「いや、あの・・・」

 

同世代の女性にはできない魅力的なウインクと笑顔に、俺は思わずしどろもどろになる。

 

「ともかく乗るといい」
「わかりました」

 

ちなみに自分のエレカは、自動操縦で中央劇場の駐車場に向かうように指示させた。
置き去りにするわけにも行かないし、無人で寮に帰宅させても訝しまれる。
会食後は、中央劇場へ送ってもらえるようにお願いした。
中央劇場では、絶えずなにがしかの公演が行われている。送迎用の車か何かとごまかせるだろう。こうして俺は、半ば促されるままに車に乗ることになった。

 

取り立てて目立ちもしない乗用車に乗り、墓地を後にする。夕日がプラント内を紅く照らす。
父などはコーディネイターを新しい人類というが、こうした風景を見ると僕らは大地にいた頃の意識から抜け出せていないと思う。

 

「あの・・・」
「議長は焦っている」

 

カナーバ外相は前を見つめながら話す。

 

「ロンデニオン共和国が拡大ユーラシアと組むことは想定していなかったようだ。
 私は指摘していたのだがな。もちろんそれだけではない。
 EEFと連合が同士討ちをしてくれると期待していたのさ。
 ところが、冷戦状態で組織的に衝突したという話はない。当てが外れたという事だ」

 

彼女は苦笑する。

 

「しかもクルーゼの愚か者が、事態を最悪にしてしまった。
 事の真相が明るみに出れば、どの政府との交渉も不可能になるかもしれない。
 いや、そうなるだろう。地球側は異世界人とコーディネイターでは、異世界人を信用するようになる。
 笑えない話さ」

 

苦笑を越えてシニカルな表情へと変える。

 

「EEFの成立は、本当なら停戦のチャンスだった。
 ロンデニオン共和国が、今のところ何も言っていないことも好条件だしね。
 だが、議長はまずラクス一党の処理に躍起のようでね。
 まずは国内問題の処理なのだろう、支持率が急降下しているしね。
 くわえて現状最も早く成果を挙げられそうな問題ではある。
 そんな悠長なことをしている状況ではないと思うが」

 

全く同感だ。だが、どうして俺にそういうことを話すのか。率直に聞くことにした。

 

「閣下は私がこの件を父に話すことを想定されないのですか?」
「君を成人男性として見ている。件の一件での行動は単なる人形ではないように感じたのだけれど、
 私の買いかぶりかな。このままでいい訳があるまい」

 

外相は初めて俺の目を見据えて話した。このままでいいと思うのは俺だけじゃない。
ラクスのように性急なことをしなくても、こうして行動しようとする人がいるという事に、心が励まされた。
促されるままではあったが、自分の意志で彼女ともっと話したいと思うようになっていた。

 

※※※

 

さすがに良いセンスをしている方だ。軍隊の食事が原因で何を食べてもうまいと感じるが、それでも群を抜いている料理だったと思う。
ひとつひとつが料理として完成されていた。もっとも、個室であることがいよいよ謀議の様相を呈してきたけれど。

 

「ここのサラダはお気に入りでね」

 

車での会話が嘘のように、料理の話に耽る。こういう時、自分がどうしようもなく子どもであると感じさせられる。
父との料理でも感じている、恥ずかしさが心に芽生える。会話のペースがつかめないのだ。俺はサラダを口に運ぶ。
うまい、ドレッシングがよく絡まっている。どこか深刻に眉毛をしかめていた自分が、穏やかな気持ちにさせられる気がした。

 

「繰り返すが、君もこのままでいいとは思ってはいないだろう」
「はい」
「ならば我々は状況を共有出来る」

 

彼女はにこやかに話す。車での彼女とは別人だ。オードブルでは、現状の認識について語り合う。どうにも回りくどさは感じたけれども。
詳細は教えてくれなかったが、父はまだ戦争の落としどころを考えているという。最も外相に言わせると、現実的ではないそうだ。
さらに具体名は言わないが、穏健派だけでなく中立派の閣僚からも公然と批判されているらしい。

 

それでも解任動議が提出されないのは、彼に対する強力な対抗馬がいないことだ。
つまり、パトリック・ザラは、シーゲル・クラインと共に建国の元勲である。
そのような人物を引きずり下ろすためには、未だに材料が不足しているのだ。

 

市民レヴェルではいくつかの疑問が出されてはいる、けれども軍部の支持が根強い。なんといっても、ザフトを育てたのは父なのである。
前線の兵士には不満が蔓延しようとも、コーディネイター優位思想とあいまって、指揮官クラスにはまだ彼のシンパは少なくない。
ここで内紛まがいの解任等起こせば、一部が跳ね上がりのような行動することが想定されよう。特に強硬派にはクルーゼ隊のような精鋭部隊が多いことも厄介であるという。
仮に国内的では一時の混乱で済むとしても、前線はそういうことにはならないだろう。
ただでさえ劣勢気味の戦線は、混乱を引き金に崩壊する。内紛などしている場合ではないのだ。父がラクス一党を早急に鎮圧したいのはそのためでもある。
けれども、戦力低下と先のロンド・ベルとの交戦でそれどころではない。結局のところ現状では、司法を動かし国内に残る支援活動者を摘発させている事に集中している。

 

俺も、今のザフトでは即時停戦を受け入れにくいことや、前線の疲弊を実体験も交えて話した。
カナーバ外相は、軍事的な問題についても造詣が深い。状況が楽観出来ないことを理解したようだ。

 

「もともと戦力的には絶対的に不足している。第2次世界大戦の日本とアメリカよりもたちが悪い戦力差だ。
 向こうが混乱しているから全面攻勢に出てこないだけさ。
 それを考慮して持ってあと10ヶ月強だな。それまでに何とかしてEEFとだけでも
 停戦交渉に入らなければならない。連合とも交渉は続けるがね。
 けれどもおそらくタイムリミットは、10ヶ月だ。
 EEF建国の混乱はこちらにはせいぜい戦力再編の時間しか与えられないだろう。
 だが、向こうの戦力再編とこちらの戦力再編は意味が違う。
 回復力も絶対的に不足しているしね。
 おそらく大規模な戦闘が3回もあれば、ザフトの戦力では組織だった防衛戦闘は不可能になる。
 そうなる前に交渉のテーブルに着かせなければならない。
 こちらが戦える状況でなければ、和平工作など本来不可能なのだ。
 私自ら降下したいところだが、国内状況が不安定すぎる。交渉中に解任されかねない」

 

俺や軍部の穏健派と同様の見解を抱いていることにますます彼女への信頼を深める。他にも教えてくれた事がいくつかある。
彼女は、シーゲル・クラインが生きていれば対抗馬にしようと模索していたらしい。もちろん連合との交渉で揉める可能性が残る。
独立のためには、そこで辞職に加えた責任を課すこと、地球側への保証をすることと引き替えに和平を取り付ける事は出来たかもしれないと、口惜しく語っていた。
では今は何を模索しているのか、料理がメインへと変わる。

 

「この鱸のムニエルは白身だというのに、こうも味の濃いソースと完全に調和している。素晴らしいね」

 

政治家は直球が嫌いだから、話し方に困る。料理が出る度にいちいち会話をリセットとされ調子が狂う。

 

「そうですね、本当においしいです」
「前線では食べられないだろう?」
「カーペンタリアやジブラルタルではそうでもないですよ。
 天然素材を駆使した料理店が周辺都市にありました。
 自分はジブラルタルの市内しか行く機会はありませんでしたが」
「そうか、情熱の国の料理は興味が湧く。
 偏見とわかっていても太陽の下で育った料理は違うと思わせるからね」
「自分には、細かいところまではわかりません」

 

会食が始まり30分ほどが過ぎ、彼女ペースで話が進んでいたために、焦りとも苛つきにも受け取られそうな感情が言葉に乗る。彼女は特に不快は見せずに、穏やかに諭してきた。

 

「こうした食事の会話は君も学んだ方がいい、議長の後継と目されているのだろう?」
「それは父の意向です。もちろん、自分もこのプラントのために尽くしたいと思っています。
 けれども、今は軍人であろうと思っています」
「軍人でも政治力は必要さ。旧世紀のフランス革命期にタレイランという人物がいた」
「はぁ・・・」
「彼は自身の趣味である美食を政治に取り込み、外交交渉の技術にまで昇華させた。
 ヒラメの逸話は知っているかな?」
「いえ・・・」

 

彼女は、簡潔にその逸話を話してくれた。タレイランは随分と芝居がかった人なのだな。

 

「つまり、こういう場の料理にはそれぞれ意図があるという事だ」

 

ハッとして目の前の料理とこれまでのメニューを想起する。
そうか、最初のサラダで未だ訝しんでいた俺の気持ちを極上のサラダで和らげ、オードブルは多少個性を押さえたものを出す。そうすることで対話に集中させた訳か。
するとメインは主張ということか。ここにあるメッセージは何だ。白身の魚と赤黒いソース、相反する要素の融合がされた料理に込められた意味、つまり国内調和を訴えさせたいというのか。

 

「ふふ、論理的な男と話すのは嫌いじゃない」

 

はぐらかされた。意味は自分で考えろという事か。俺の役割はなにか。
いや、彼女は俺が軍人でありたいことなどとっくに見通しだろう。ならば、何をさせたいのかはわかる。

 

「つまり、自分に軍部内で議長と対抗出来る勢力を作れという事ですか」
「物分かりがよくて助かる。君には今、実力以上の虚像が備わっている」

 

不本意な言われようだ。

 

「不満そうな顔だね。だが、市民には分かり易い英雄だよ。
 最高評議会議長の息子で、アカデミーをトップで卒業し、エリート部隊に配属される。
 そこで、戦果を重ね最年少でネビュラ勲章を獲得し、そのまま特務隊フェイスに転任だ。
 議長の息子でありながら最前線を体験していることも高評価だ。
 そうした人物が、父親を諫めるために動く。前線の不満を吸収しながらね。分かり易い物語だろう?」

 

しかし、肝心の前線で俺は支持を得られるのだろうか。

 

「もちろん、補佐を付けるさ。いくら何でも若者に丸投げなどさせない」

 

その目には強い意志が宿る。胸に抱いた不安を取り除くには十分な言葉だ。

 

「穏健派や中道派をまとめて君を中心とした勢力を軍部に形成させる。特に実戦部隊は中道派が圧倒的だ。
 味方に付ければ大きな力となろう。それをもって議長に対する圧力のひとつとする」

 

うまくいくかどうかは別にして、やってみる価値はある、か。父だって目的はあくまでプラントが独立することが目的のはずだ。俺は頷く。

 

「もうひとつは、あの歌姫だ」
「ラクス・クラインですか」

 

思わず心が揺さぶられる。

 

「私としては、彼女にあのような行動を行って欲しくはなかった。
 全く、誰が考えたのかはわからないが、彼女を御輿にしたいと思うくせに、
 どうにもうまいやり方ではない。
 あれでは彼女は父親の偶像から呪いを掛けられているようなものさ」
「呪い、ですか」

 

意外な言い方に思わず聞き返す。

 

「ラクス・クラインの意見をシーゲル・クラインとイコールに見立てようとしている連中がいると言う事さ。
 君も身近にいたからわかるだろう。ラクスはシーゲルと意見が一致していたわけではない」

 

確かに、ラクスは事を性急に構えていたように感じた。俺との対話でも前議長にたしなめられている。
それはある意味で理想主義的ではあるが、一方で何かを求めているようにも感じた。そのことを言っているのか。俺は無言で頷き続きを促す。

 

「危険な兆候だよ。彼女自身が、具体的な思想や政策、そういった構想を抱いているのかが、
 現時点で全く不透明だ。
 シーゲル自身が彼女を後継者として育てようと考えていたかどうか怪しいものさ。
 教育をしていた節もなければ、公職経験も禄にさせていない。
 彼女の政治活動はせいぜい反戦発言程度で、具体性を伴うものではなかった。
 一連の発言は公職にないものが発する人間の意見としてはいいだろう。
 ひとりのミュージシャンが反戦を主張するようなものさ。だが、彼女は具体的な行動を起こしてしまった。
 今後は言いっ放しでは許されない。
 ところが、彼女にはこれからシーゲル的な意見を期待される」

 

俺が彼女に対して抱いていた違和感もこの辺にあったのかもしれない。外相の言葉は、驚くほど自分の胸にパズルのピースにはまってくる。

 

「そうさせているのが周りの連中だと?」
「そう思う。だがそれはシーゲルの意志と別個のものだと思う。
 つまり周囲の偶像をラクスに投射して行動していこうというのだ。
 鏡と仮定してくれたらわかりやすいだろう。だが、問題は鏡そのものの精度がこの場合あまり高くない。
 磨かれていないという方がいいかもしれない。シーゲル的な思想の光を正しく反射出来ないだろう。
 にもかかわらず、周囲はラクスに反射することを求める。
 これは悲劇だよ。だが覆水盆に返らず、ね。いまさら連中の暴発を嘆いても仕方がない。
 問題はこれからの話だ」
「彼女をどう使うつもりですか?」
「鏡を磨く。磨いた上で、シーゲル的な思想の反射とは別の光を当て、
 彼女を市民層からの圧力の旗手とする」

 

俺は、ワイングラスに残る紅い液体を喉に注ぎ、一息入れたから思うところを述べる。彼女が今更穏健路線で行くのだろうか。

 

「・・・今更彼女が、こちらの意図で変わってくれるのでしょうか。
 ガンディーのような行動に切り替えてくれますか?」
「無理、だろうね。だから、彼女には徹底的に扇動家になってもらう」
「扇動家、ですか?」
「放送局で流れている話を知らないわけでもないでしょう。
 彼女が反戦を訴え、そしてその取り巻きが現政権への批判を述べている。
 ある意味で市民に社会不安を醸造させているようなもの。愚かしいことだと思う」

 

彼女はどこか皮肉気だ。ラクス・クラインと言うより、その取り巻きにあきれているのだろう。

 

「だが、この際それを利用する。彼女には今後も市民感情を厭戦へと傾かせる。
 まだ、和平工作が可能なうちに、そうした気運を作り上げさせる。
 そこで問題となるのは、取り巻き連中に好き勝手にやられたら困ると言うことだ」
「つまり、こちらの手のひらで踊らせると?」
「そう、暴発されても困る。こちらの管理の下で政権に揺さぶりを掛けさせる。
 そのためには、ラクス・クラインを押さえる必要がある。彼女の取り巻きを影響力から排除したい」
「出来るのですか?そんなことが」
「そこで、こちらから協力者という風を装い。工作員を潜入させる。目的はラクス・クラインの説得だ」
「説得、ですか?」

 

にわかに理解出来ずに聞き返す。

 

「そう。彼女は多感な時期に世界の行く末という重い問題に直面して立ち向かおうとしている。
 その情熱は買うけれど、彼女の知識や経験では周囲の意見に流されよう。
 鏡と言ったが、今の彼女は言うなれば白い綿のようなものでもある。
 シーゲルのことを理解しようとするだろうが、既に当人がいない以上は
 バイアスのかかった情報しか周囲にない。
 おかしな光を照射させるわけにはいかない。
 もちろん、私たちがやろうとしていることは彼女の取り巻き以上にたちの悪い同じ事だけどね。
 だけど、やらなければならない。このままではプラントそのものが存続の危機に陥る。
 協力してくれるわね?」

 

俺はもう迷いはない。彼女の目を見据えて頷く。すると外相は、満足げな笑みを見せたのち、呼び出し用の鈴を鳴らす。
しばらくするとデザートが出てきた。驚いたのは、それを運んできたのが、かつての教官で今の上司、レイ・ユウキ隊長だったことだ。

 

「ユウキ隊長!!!」
「アスラン・ザラ、よく決心してくれた!」

 

ユウキ隊長は俺の肩を力強く叩いた。昔よく良いことがあったときには学生にしていた仕草だ。
なるほど、ユウキ隊長も協力者か。さしずめ彼が俺の補佐及び監視だな。ユウキ隊長を交えて、やるべき事を確認する。

 

「クルーゼ隊が、再編成され数ヶ月のうちにラクス一党の討伐を行うそうだ。
 司法局の情報では、ラクス一党の艦隊は何故かロンデニオンには滞在せずに、
 コロニー群へと向かったらしい」

 

おそらくブライト司令とクライン派の間で意見が一致しなかったのだろう。ちなみに外相は意図的にクライン派という言葉を避けているようだが。
ともあれブライト司令達の姿勢を知っていれば、予想は付く。どうせ協力して平和のために戦おうとか言ったのだろう。

 

「そこで、討伐作戦が発動する前に、君には使者と共にラクス一党と接触して用件を伝えて欲しい。
 特に君ならラクスと個人的な会話も可能だろう。我々の本意はラクス・クラインにのみ伝えて欲しい。
 加えてハーネンフース大使をロンデニオン共和国に派遣してもらいたい」

 

これは無理難題だな。外相は俺とラクスの間をどこまで正確に知っているのだろうか。この俺に彼女を説得することが出来るだろうか。
それにロンデニオン共和国に使者を出すのはいいが、下手したら問答無用で打ち落とされはしないか。もっとも、そのために俺とハーネンフース氏を用いるのだろうが。俺は抱いている不安を素直に伝える。

 

「はっきりいえば、君のキャパシティを越える事であってもやってもらうしかない。
 我々はこのまま事態が推移すれば、一年も持たないだろう。なりふり構っていられない。
 後者の件だが、ロンデニオン共和国に使者を出すのは、EEFと交渉のチャンネルを開く
 可能性のひとつに過ぎない。他にもいくつか使者を出す予定だ。あまり気負わなくていい」
「・・・わかりました。最善は尽くします」

 

当てにされてないと言われたようで釈然としないものも感じる。けど、連合とこれまで外交交渉という場で戦い抜いた女傑には俺などまだ小僧なのだろう。
外相は、俺の応答に頷くとユウキ隊長に今後のプランを提示する。

 

「君には一週間以内に出撃してもらう。公式的にはラクス一党の根拠地の特定のために出撃という形だ。
 クルーゼは不信を覚えるかもしれないが、既に君の指揮下にはないからどうにも出来ない。
 加えて先日の件もあるからあまり無茶なことも出来ない。
 あれで軍部の中道派をかなり敵に回したからな。
 エザリア・ジュール国防相代行も、クルーゼを特別扱いしないだろう。その隙を突く」

 

父にはそれなりの証拠を提示したらしいが、父ですら1週間ほどの謹慎を指示したくらいである。軍部の中道派はクルーゼ隊長に相当な不信感を与えた。
元々反感を抱かれている土壌があったからかもしれない。最も、それ以上に外務省の怒りは収まるところを知らないが。外相は俺がコーヒーを飲み干すのを見て立ち上がる。密談は終了という事か。

 

「ともかくラクス・クラインを用いた市民からの圧力、そしてアスラン・ザラ、君を軍部からの圧力として
 議長に圧力をかける。これで議長を説得出来れば最高だが、不可能な場合は引きずり下ろす」

 

全く、いよいよ俺は御輿にされているな。決意したとは言え、徒労にも似た感覚がおそってくる。キラ辺りが知ったら、苦笑いするだろう。苦労を背負い込みすぎとか言うだろうな。
キラが出来ることを探すと言ったけれども、俺にはこうして明確にやれることが出来た。突き進むだけだ。

 
 

※※※

 
 

寮に帰宅すると、ディアッカとイザークがドアの前に立っていた。

 

「ディアッカ、イザーク・・・」
「よう、少し良いか?」
「ああ、かまわないが、どうしたんだ?」

 

俺はふたりを部屋に促す。ふたりに椅子を勧めて、冷蔵庫から冷たい飲み物を出す。
イザークにはサイダーを、ディアッカにはネーポンを出す。

 

「うう、やはりネーポンはグゥレイトだぜ!」

 

まずは一息入れるディアッカと違い、イザークは一口飲むと早速話し出す。

 

「おいアスラン、ディアッカに転属命令が出たぞ。新編成されるおまえの隊の副官だとさ。
 この時期にわざわざ名指しで人事が動くのは何かあると思うが、貴様何か知っているのか?」

 

相変わらずせっかちな奴だ。
それにしてもディアッカを回してくるとは、ユウキ隊長も外相も俺の部隊を対ロンデニオンシフトにするつもりだな。
それに、エルスマン議員も味方という事か。

 

「直接的に聞くけど、聞いてどうするんだ?」
「へぇ」
「なにぃ?」

 

こういう言い方をすればイザークが怒ることはわかっている。けれども、イザークは今クルーゼ隊に所属している。
こいつの性格ならクルーゼ隊長に密告などするとは思えないが、警戒はすべきだ。

 

「だいたい、その軍令はいつ来たんだよ。俺は今日墓参りに言っていてまだ聞いていない」
「何だと!!全く貴様という奴は、いついかなる時も軍令を最優先に確認しろ!!」
「はいはい、イザーク、どうどう。まぁレモネードでも飲めや」

 

ディアッカのフォローと言うよりも火に油を注ぐ言いように、うるさいと怒るイザークを見ると、やはり何も知らないのだろう。
俺はまず、基本的な状況認識から尋ねることにした。

 

「イザーク、こないだのロンデニオン使節団の一件をどう思う?」
「ああ?」

 

眉毛を思い切りつり上げたが、俺の真面目な視線に質問に意図があることには気付いたようだ。
思い切り鼻息を出し、椅子の上であぐらを組み、次いで腕を組んで考え込む。ディアッカが茶化して言う。

 

「ちょっと無理があったよな。俺もあれはないと思うぜ。ニコルなんて巻き添えじゃないか」

 

そう、俺がクルーゼ隊長に対して決定的に不信を抱いたのは、ニコルに対する処置の冷酷さだ。
隊長は何故ロンド・ベルを性急に処断しようとしたのか。これまで見てきた隊長の行動からはまったく理解が出来ない。
ディアッカの言葉で半ば思索に耽っていると、イザークが顔を上げ素直な感想を口にした。

 

「あの事件は、報道と現場に居合わせた奴の話しか知らない。
 つまり、自分の目で見た訳じゃないから何とも言えない。判断する材料が不足している」

 

学者気質がこういうところで出る奴だな。口に出すと怒り出すから絶対に言わないけど。

 

「だが、隊長の行動がどうにもきな臭いことは確かだ。
 アラスカでも連合軍の女性兵を拾ってきて、どうやら部屋でメイドまがいのことさせている。
 今はそんな事をしている場合じゃないのだがな」

 

イザークの言葉に俺はたたみ掛ける。

 

「そんなことをしている場合じゃないとはどういうことだ?」
「わからないとは言わせないぞ!
 帰国して驚いたのは、ここまで前線の被害を過小に見積もっているとは信じられん!!
 これじゃナチュラルとやっていることが変わらないじゃないか!!」
「イザーク、イザーク」

 

ディアッカは、それをしているのが俺の父親と言う事を気にしているのだろう。それにしてもディアッカも捕虜を経て人間がまるくなったような気がする。

 

「正しい現状認識と分析がなければ、プラントを守ることなど出来ない!!
 おまえは俺より早く本国に帰って何も感じなかったのか!?」
「そんなわけないだろう!!」

 

思わず語気が強まる。ついさっきまで大人のやりとりの中で、うまくできなかったフラストレーションが溜まっていたのだろう。
いつもなら受け流す怒りを真正面にはじき返してしまう。理性では止めろと警鐘を鳴らすが、感情を抑えられなかった。

 

「俺だってプラントの独立を達成したいさ!!
 けど、父上とクルーゼ隊長がその可能性を摘み取ったかもしれないんだぞ!!!」
「なに?」
「ロンデニオン共和国のブライト司令は、ブルーコスモスとは全くかけ離れた考え方の持った人だった!!!
 いや、異世界から来たあのロンデニオンの人々は、俺たちを何の隔たりもなく人間として扱ってくれた!!
 ハーネンフース大使らオーブの大使館員を救ってくれた!!
 そういう考え方を持っている人たちが、ひとつの国になり俺たちと対等な協定を
 結んでくれるかもしれなかったんだ!!!
 彼らは地球のまともな連中と友好的な状況になっている!!
 それを通じて和平交渉は出来たかもしれないんだぞ!!
 それをクルーゼ隊長はメチャクチャにしてしまった!!!
 それだけじゃない!EEFのランズダウン侯は、条件付とはいえ和平のテーブルについても良いと
 言っている!!その意見を父は黙殺している!!我慢出来ると思うのか!!!
 父はこの戦局で視野狭窄になっているかもしれないんだ!!!
 このままではずるずる消耗戦だ!どうにかなると思えるわけないじゃないか!!」

 

俺は感情的に言葉を走らす。イザークは、俺が言い返したことに驚いたのか、それとも感情的になった俺を見て驚いているのか、目を丸くしている。

 

「このままで良いわけがないさ!!そんなの当たり前だ!!
 じゃあイザークは具体的にどうする気なんだ!!!」

 

しばらく、部屋の中は静寂に包まれた。俺は自分の迂闊さにうんざりして、右手で頭をかきむしる。まともだった頃の父やクルーゼ隊長は俺にとっては失いたくない存在だったのだ。
かつて尊敬した人々を自分の手で引きずり下ろそうとしている。悔しかった。イザークは、しばらくすると立ち上がって口を開く。

 

「・・・アスラン、良い機会だから言っておく。
 俺だって最近の母上の様子を見れば、国内が妙な方向へ向かっていることくらいわかる。
 だが、俺はプラントを守ることしか考えないようにする。
 俺はザフトの軍人だ。今はプラントを守る事に全力を挙げたい。
 それに母上が言うには次の作戦に従事すれば、俺も独立した部隊を任せると言ってくれている。
 今は無理して政治に介入しようと思わん。けど今後もくだらない事は起きるだろう。
 だから、国内のことはおまえがやれ」
「イザーク・・・」
「どうせディアッカの事はそれが絡んでいるんだろ?」

 

俺は無言でイザークの目を見つめる。

 

「勘違いするなよ!!別におまえに、味方しようなんて思っているわけじゃないぞ!
 俺は国内のことなど、たいしたことないと思うからおまえに任せるんだ!
 今は対外的な脅威からプラントを守ることの方が重要だ!そっちは俺がやる!
 それに俺も早く自分の部隊を持ちたいからな!!」
「・・・わかった」
「フン!本当にわかっているのか!せいぜいうまくやれ!
 その間に俺はおまえ以上の功績を挙げてやるからな!」

 

イザークは怒りながら部屋から出て行った。

 
 

「素直じゃねーな、あいつ。男のツンデレは鬱陶しいだけだっての」
「でも、イザークらしいよ。おまえは良いのか?ディアッカ」
「俺はロンド・ベルの連中との生活が楽しかったからな。
 あいつらとまた馬鹿やるためには、戦争を終わらせた方がいいなら、そうするさ。
 それに、あいつらと過ごしていると、ナチュラルとかコーディネイターとか考えることが
 馬鹿らしくなるぜ?」

 

ディアッカはかなりの期間を彼らと行動したのだ。思うところはあるだろう。だがディアッカの言い様が俗物的に感じてしまい、俺は苦笑いで応じた。

 

「そうかもしれないな」

 

そして俺は、ディアッカに今後の計画の一端を話す。今度はディアッカが苦笑いで応じた。

 

「面倒くさい話になりそうだな。まぁ、俺はロンド・ベルの奴らにまた会えるのは歓迎かな。
 ニコルにも会えるしな」
「そうだな、よろしく頼む。ディアッカ」
「任されて」

 

ディアッカも部屋を去る。俺は片付けもそこそこに、窓の外に目をやる。
ラクス・・・。彼女はどうしようとしているのだろうか。
ともかく俺は再び会う必要がある。あの時に問われた答えを伝えるためにも。

 
 

 ――「アスランと父と呪われし歌姫」end.――