CCA-Seed_427◆ZSVROGNygE氏_外伝16-3

Last-modified: 2012-01-08 (日) 04:12:29
 

「パトリック、信じていいのだな?」
「ああ、私はそれなりの目算があっていっている」

 
 

失いし世界を持つものたち外伝16-3
「ザラの器」

 
 

アイリーン・カナーバが、極秘裏に地上に降りて予備折衝した報告をしてきた。
もちろん私も承認した上での行動だ。
うまくいくとも思えないが国内外的にも、行ったという事実が重要なのだ。

 

「カナーバ、戦争は勝って終えなければ意味がない。もちろん、我々は劣勢である事は認めよう。
 ならば、なおさらこれから来るであろう連合の攻勢に一撃を与え勝利した後に、交渉すべきだ。
 少しでも有利な条件で講和をしなければ、国民が納得しまい」
「一撃講和論か。それが成功した国家は少ない。失敗すれば第二次大戦の日本になる。
 日本はそれに固執したが故の破滅だったのだぞ」

 

カナーバの心配は解るが、我々はあの大日本帝国とは違う。
人事が硬直しているわけでもないし、技術での先進性や補給を軽視しているわけでもない。
もちろん、その歴史的背景もだ。共通点は戦力の格差だろう。
そこが最も重要であるが、それにせよ、戦端を開いたときから解っていたことだ。
対等な条件での戦争などそもそも望む方がおかしい。だからこその戦略であり戦術なのだ。

 

「我々は日本とは違うし、繰り返すが国内世論にしても今の状況では講和できまい」
「それは、国内は現実を知らないからな。
 いずれにせよ、ランズダウンが話に応じると言い始め連合の姿勢も大きく変わった。
 これは我らにとって戦略的な勝利といえないのか?」
「もちろんだ。我らを頑として認めなかったナチュラルが、条件があるにせよ
 独立を認めるとまで折れたのだ。これは勝利と言っていいだろう。だが・・・」

 

果たして信用できるのだろうか。クルーゼの報告では、連合内部の権力関係は微妙なバランスにある。
そもそもEEFが連合に再加入したために、単独講和が出来なくなった。
私としては単独講和をした上で、一撃勝利を狙っていたのであるが、当てが外れた。
こうなると講和の相手は劉慶だ。奴はランズダウンほど話がわかるとも思えない。
大西洋連邦やブルーコスモスに配慮して、余計なことを言い出す可能性は十二分にある。
それに、この状況で講和したら私の政権は潰れるだろう。
シーゲルもいない今、私の他に誰がこのプラントを統治できるというのだ。
カナーバもジュールも、どれも小粒な政治家だ。戦後に大国と渡り合うことなど出来まい。

 

他にも不安要素がある。たとえばロンデニオン共和国だ。
国内の反政府勢力と接触があると言うし、クルーゼの報告だと私への直接行動も狙うような連中だ。
冷静に考えれば、報告はやや矛盾していることも多く、奴にしては信用性が低いものではある。
だが否定するだけの証拠もないし、そもロンデニオンに信用を抱く理由がない。
あの無責任な異邦人どもが、何をやらかすのか想像できない事が恐ろしくすら思う。
当面は連合とともに攻めてくるのだ。対応は考えなければな。
私がいくつかの対応策を考えていると、カナーバが再び問うてきた。

 

「しかし、パトリック。今度の閣議で具体的な対応は聞かせて欲しい。
 外交を預かる身としては、そうしたことも知った上で交渉しないといけない」
「・・・よかろう。私は、連中に核の使用技術が漏れていると想定している。
 ゆえに、万が一、と、言うよりもおそらく連合は核兵器を使用するだろう。
 それに対抗して我々はジェネシスを使おうと思う」
「アレを兵器転用するのか・・・。ボアズでか?」
「いや、ボアズはある程度交戦した段階で放棄する。
 敵をヤキンの防衛ラインに誘い込み、そこで、ジェネシスで叩く。
 これで連合艦隊は壊滅するだろう。そこで講和に持ち込む」

 

カナーバはしばし考え込むと、いくつかの疑問点を提示してきた。

「まず、連合が核兵器を使用しなかった場合、前提が崩れはしないか。
 よしんば、攻撃してきたとして宇宙の軍事施設に対する核攻撃に国際的な規定はない。
 反撃として使うには、やや論拠に乏しいのではないか」
「これは国内向けの宣伝だよ。対外的には単なる反撃に過ぎない。
 それに使用してこなければ、国民には国土防衛上の必要からとスピン・コントロールすればいい。
 バルトフェルドの妨害など黙らせればいい話だ」
「ふむ、ならばボアズの撤退がうまくいかなければどうだ?
 敗走する部隊が追撃され、なし崩しにヤキンに突入されると、
 ジェネシス発射のタイミングがないのではないか?」
「心配性だな君は、連合軍と言ってもナチュラルのにわか混成艦隊だ。練度もたいしたことはない。
 そこを突けば、どうにでもなる。今の連合艦隊なら三割どころか二割で瓦解するだろう」

 

クルーゼ以外にも複数報告は受けている。
カナーバはナチュラルを過大に評価している、いや同等のものという前提で考えているようだ。
我々の方が優れていることは明白なのだ。数にものを言わせても、質で対抗できるほどに能力的な差がある。
兵器の性能もだ。そしてジェネシスもある。
外交官というのは、どうして極端なんだ。
どうやら息子はカナーバと付き合いがあるようだという報告もある。
政治というものを考えるようになったことは喜ばしいが、変な思想には染まらないで欲しいものだ。

 

「ともかく、君には一撃講和をした上で、連合が折れるであろう内容について検討して
 講和可能な案件を提示したまえ。
 もちろん、外務省の方で万が一を用意することも必要だろうが、先に考えるべきはこちらの主張だ。
 君にも色々あることは承知しているが、元首は私だと言うことを忘れないでくれたまえ」

 
 

私は右手を挙げ、カナーバを下がらせた。ふと机の写真が視界に入る。
レノア、おまえを失った世界のなんと空虚なことか。
君を無慈悲に殺すような、愚かなナチュラルが起こした戦争に、なぜこちらが譲歩せねばならないのだ。
我々が正義なのだ。自由を獲得するためにも、失ったもののためにも、必ずこの戦争を勝利に導いてみせる。

 

アスラン、おまえにも解るときが来るだろうか。
問いに答えるものもない、静かな議長室で私はひとり失笑していた。

 
 

「ザラの器」end.

 
 

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